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その24
しおりを挟む久々にひとりでの目覚めになったエティは、両腕を上にのばして大きく伸びをした。
「んー、今日は晴れそうね!」
エティが身支度を済ませ、隣の部屋を訪れるとクリフォードはまだベッドにいた。珍しく身体を小さく丸めて寝ているクリフォードの顔は難しい表情だった。きっとエティのベッドが狭いから寝苦しかったのだろう。エティはクリフォードを起こすため、肩を揺らして声をかけた。
「クリフォード、朝よ。起きて」
「……ん」
「遠乗り行くんでしょ、だったらもう起きないと……っ!もう、離してっ!」
エティはクリフォードに引き寄せられ、大きな身体の上に重なるように乗っかってしまった。その状態でしっかり腕で捉えられ、いくら足掻いても抜け出せない。
「もう!クリフォード起きて!」
「……名前」
「フォード、朝よ。起きてくれるよね?」
甘さを含んだエティの声と口調にクリフォードの目は面白いくらいバッチリ開いた。エティと目が合うと、やられた、と口元を緩めた。
***
「最近、俺の扱いが上手くなったよな」
「……そう?」
シロに鞍を付けながらクスクス笑うエティに、クリフォードは胸が締め付けられた。見惚れて手元が止まるとか、少年か!と自分に突っ込みたくなった。手際良く用意するエティにおいてきぼりを喰らわないように、クリフォードは慌てて準備を進めた。
白馬のシロに跨るエティは神秘的な雰囲気を醸し出して、見る者の心をきっと捉えてしまうだろう。
「レオ、疲れは残ってない?本当に?じゃあ出発しましょ!」
青空の晴れやかさと同じように、エティは満面の笑みでシロに声をかけた。
思い切り駆けるのが楽しいのか、レオは活き活きとして見えた。そういえば最近こういう時間を作ってやってなかったとクリフォードは反省した。
前方で揺れる紫銀の長い髪を、追いかけるようについて行くと森の奥にある小さな泉が見えた。エティはシロの手綱を引くと「ここで休憩しよう」と地に降り立った。
「結構奥まで来たんじゃないか?」
「そうね、上り道だったから心配したけど、この子達大丈夫そうね。さすがレオ」
泉で水を飲ませた後、近くの木にレオを繋ごうとしたらエティに止められた。
「絶対逃げないし、何かあって離れても必ず戻ってくるから大丈夫」
エティが自信満々で言うので、クリフォードは初めてレオを繋がずに放牧した。レオはシロがよっぽど気に入ったのか、べったりつきまとっていた。
飼い主に似るもんだな……。
背の高い木々の葉が屋根のように広がり、所々から日の光が細く差し込んでいた。クリフォードが泉を覗き込むと透明度が高く、深そうな底が見えた。
「泳げそうだな」
「暑い季節は入ったりしてたわよ。中央は見た目よりかなり深いの」
「……へぇ」
以前のエティの姿だと、子供が水遊びしているようにしか見えないが、今の大人っぽいエティが水に入ったら聖女と間違われそうだ。
「城の方向に来たと思ったが、ここから近いのか?」
「城の真裏よ。戻る時に少し見て行く?」
森を抜けるとすぐ城の建物が目に入った。クリフォードのいるシンプルな王宮より複雑なデザインの飾りが多く、見た目を重視した感じだった。建物の中もきっと同じだろう。外壁に沿って進んでいると正門に差し掛かった。大きな門の内側には門番の騎士がひとり立っていた。
「あれ?その髪の色はリリアンとこのお嬢さんだろ?」
「あっ……と、こんにちは」
エティは何故かしまった、という顔をした。シロに乗ったまますぐ立ち去ろうとした所を、その中年の騎士に引き止められた。
「久しぶりじゃないか、みんなも顔を見たがっていたし入っていきなよ」
「あの、いえ、連れがいるのでまた今度にします」
「連れ?ああ、一緒に入っていいよ」
半ば強引に門の中へ誘導された。
「俺はここで待ってるから行ってこいよ」
「え、でも……」
「気にするな」
じゃあ少しだけ、とエティはシロをクリフォードに預けて、歩いて城の建物へ入って行った。
父親が騎士をしていると言っていたし、門番が母親の名前をすぐ口にしたという事はエティにとって慣れ親しんだ場所なのだろう。
流石に城内では繋いだ方がいいだろうと、クリフォードはレオとシロを目に入った頼りないくらいの低い木に繋いだ。門番の騎士から近い位置にいたのもあって、気軽に話しかけられ暫く会話を続けていると、クリフォードは後ろから誰かに声をかけられた。
「あれは君の馬か?」
クリフォードと同じ程の背がある、目つきの鋭い騎士だった。
「あ、はい。移動させた方がいいですか?」
「いや、別に構わない。いい馬だと思って」
黒髪に琥珀色の瞳の騎士はただ立っているだけでも迫力があった。目元に少し皺があって恐らく40代後半だろうが、身体はしっかり鍛えられているのが騎士服の上からでもわかった。
無愛想な語り口にニコリともしないが、不思議と物腰は柔らかそうに感じた。
「見ない顔だな」
「エティちゃんの連れですよ」
門番の騎士がそう言うと、黒髪の騎士はへぇ、とクリフォードの全身を眺めた。
エティの知り合いなんだな。こんな物騒な人とも交流があるとは、一体どんな人脈があるんだ。
「いい身体をしているな」
「隣の国で騎士をしています」
「騎士か、剣が強そうだな。手合わせするか?」
「いえ、またにします」
「断って正解ですね。アルフォンスさんはこの城で一番剣が強いから」
何故か門番の騎士が自慢気に言った。この騎士はきっと人望の厚い人物なのだろう。
「アルフォンスだ」
「クリフォードです」
握手を交わすとアルフォンスは「少し話せるか」と人気のない庭の方へクリフォードを連れて行った。
若干不安を抱えながらも、クリフォードは言われるがまま庭にあったベンチに腰を下ろした。
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