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その23
しおりを挟むリリアンとエティが作った夕食をクリフォードと3人でテーブルを囲い、雑談しながら楽しく済ませた。
食後、リリアンはキッチンで食器を片づける傍らエティに話を始めた。
「エティの魔力は動物との会話と、まだあるの自分でわかってる?」
「ちょっと母さん、隣の部屋にいるクリフォードに聞こえちゃう」
「防音シールドを張ってあるからこの部屋から外には聞こえないわ」
「そんな事もできるの?」
羨ましいと声を漏らしながら片づけを手伝うエティに、リリアンは優しく話を続けた。
「エティは癒しの魔力が強いわよ」
「癒し?それってどんな?」
自分では全くわからないその魔力にエティは興味津々になった。
「簡単に言えば傷を治すんだけど、まぁ見てて」
そう言うとリリアンはキッチンにあったナイフで自分の左手人差し指の腹をスッと切りつけた。傷は見た目より深いのか、あっという間に真っ赤な血が滴った。
リリアンが右手で軽く触れると血が止まったように見えた。水で洗い流した指先を見せてもらうと全く傷は残っていなかった。
「どうやったの?」
「感覚としか言いようがないんだけど、神経の奥を使う感じ?慣れてくれば考えなくても触れるだけで治るわ。でも逆に注意が必要よ。無意識に治しちゃう時があるから」
「どんな状況よ、それ」
「冗談抜きで使い方には気をつけて」
リリアンの真剣な眼差しに、きっと母も過去に辛い経験をしたんだろうと察し、エティは力強く頷いた。
「話が変わってクリフォードさんの呪いだけど、本当に何もしてあげないの?」
「逆に私に何ができるのよ?見えるだけで触っても変化はないし、そもそも原因を辿らないと意味ないわ」
「何だ、少しは考えてあげてたんじゃない。じゃあ、呪いをかけた人物を知ってるって言ったらどうする?」
「ここにいたの?部屋にいないから探したわ」
「すまない、レオの様子を見に行ってた」
雲が少しかかった丸い月がほんのり視界を作る中、エティは裏庭から戻ってきたクリフォードを庭先で見つけた。
「ひとりにしてごめん。レオはどうだった?」
「シロと仲よさそうにしてた」
「え、本当に?じゃあさ、明日の朝遠乗りとまではいかないけど少し駆けない?」
「いいな、是非」
暗闇の中、クリフォードはエティの頬を捉え、指先でなぞった。
「母親似か?明るい所もよく似てる」
「ふふっ、そう?」
「動物に話しかける部分なんか特に」
えーっと、それは似てるんじゃなくて単に会話ができるからだけどね。
「父親はいつもこんなに帰りが遅いのか?」
「父さんは今夜は夜勤みたいなの。あそこの城で騎士をしてる」
エティがその場から見える城を指差すとクリフォードは「うわ、マジか……」と髪をクシャとかき上げた。
「え?何?その反応」
「同じ職種って妙に緊張する。俺がエティの隣にいるのを見ていきなり剣を抜いたりしないよな?」
「しないと思うよ。どんな凶暴な人物を想像してるのよ。ウチの父さんは普通の人よ」
大きく溜息を吐くクリフォードの姿に、エティは少し笑ってしまった。
目を凝らしても相手の表情ははっきりとは見えない。こんな薄暗さなら心は警戒を解くかもしれない。
エティが勇気を振り絞って出した声は緊張を孕んでいたのがバレバレだった。
「あの、あの事……聞いてもいい?」
「……ああ、何でも答える」
用件がわかったようでクリフォードの声のトーンが下がった。不快とかではなく真剣にエティに向き合う姿勢をとったように感じた。
「正確にはいつからなの?」
「はっきり覚えてないが、20歳くらいだったと思う」
「その前は?」
「普通だった」
「その、普通だった頃に女性とトラブルとかなかった?」
「……トラブル?」
クリフォードは黙って暫く考え込んだ。エティはそれを辛抱強く待った。
緊張を吐き出すようにクリフォードは息を吐くと、エティの後ろにまわり、優しく抱き締めた。
「何でも答えると言ったが 、過去の女性関係の事を話してお前に嫌わたらと思うと、正直こたえる」
「安心して、既にだいっきらいだから」
エティが軽やかな声で言うと「そうだったな」とクリフォードは肩の力が抜けたように呟いた。そしてポツリポツリと思い出したように話し始めた。
「それがトラブルというのかはわからないが、別れるのに手を焼いた相手はいた」
クリフォードが騎士の同僚達に誘われて、初めて娼館を訪れた時に相手をした女性、名前は覚えてないらしいがその歳上の女性がクリフォードにかなり入れ込んだらしい。女性の強い要望でクリフォードは付き合いを始めたが、あまりにも自分を束縛するので嫌になり、クリフォードから別れを告げたらしい。
しかし女性はなかなか首を縦に振ってくれず、終いにはクリフォードの同僚達が総出で女性を説得してあきらめさせた。それ以降は一度も会っていないらしい。
「エティが初めて俺の部屋に来た時の事とか、思い出して欲しくない。幻滅してるだろう?」
「幻滅っていうのは期待していた場合に起こる結果であって、私はこんな最低な人がレオに乗るのかって思った」
「そうか……」
クリフォードはエティの意見で、腹を抉《えぐ》られたような気分になったようで息を吐きながらエティの肩に頭を乗せた。
「お前が俺に興味を持った上での質問か?それとも、ただの興味本位なのかどっちだ?」
「どっちでもないけど、敢えて選ぶなら後者だわ」
エティの肩口で、声も出せない程項垂れるクリフォードに、可哀想とは思いながらも、エティはとどめを刺した。
「今夜は私の部屋のベッドで休んで。私は隣の部屋を使うけど、昨夜みたいにベッドに入って来ないでよ」
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