知ってるけど言いたくない!

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その28

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エティはシロに、クリフォードはレオに跨りエティの家を出た。


「答えは全てエティの中に揃ってるから」


別れ際、そう言葉を投げかけてきた母親、リリアンにエティは複雑な表情で頷いた。


国境の山に入る手前の宿に着く頃には、既に深夜に近い時間帯だった。


「一気に移動して疲れたでしょ?ゆっくり休んでね」


エティが宿屋の裏でレオとシロに挨拶のキスをしていると、相変わらずべったり付いて回るクリフォードが質問してきた。


「リリアンさんが言ってた答えとか、何の事だ?」

「ちょっと難しいクイズをもらっちゃって」

「クイズ?へぇ、どんなのだ?」

「内緒。人に教えて答えがわかっちゃうとご褒美がもらえないから」

「そうか、褒美がもらえたら是非見せてくれ」

クリフォードはエティの手を取ると指を絡めて繋ぎ、宿屋の中へ足を進めた。
エティがいくら「大嫌い」と言ってもその自然な流れは全く変わらなかった。

最初のうち振り払っていたエティの手も、いつの間にか当たり前のようにクリフォードの大きな暖かい手の中に収まっているようになった。


いやいや!何度払ってもクリフォードが執拗に繋いでくるから、仕方なくよ!


エティはそんな風に自分に言い訳をしてクリフォードの隣を歩いた。


「小腹が空いたな。時間が遅いが宿屋のオヤジさんに何かないか聞いてくる」


客部屋に戻る途中、クリフォードがそう言って宿屋の奥へ向かおうとしたのを、エティは自分が行くと申し出た。


「相手が男性の場合、お願い事をする時は女性の方がいいと思わない?」


そう言って笑いながら首を傾けると、先日の野菜を買った経緯を思い出したクリフォードは「なるほどな」とつられて笑った。

クリフォードを先に部屋へ行かせたエティはふぅ、と息を吐くと宿屋の奥にいるオヤジさんに声をかけた。




「おまたせ」


エティがトレーを片手に部屋に入るとクリフォードはすぐにそばに寄り、エティの手からトレーを受け取った。


「こんなに?重かっただろう、悪かった。一緒に行けばよかったな」

「子供じゃないんだからこれくらい平気よ。でも、ちょっともらいすぎたかな……」


部屋にはテーブルと椅子がなかったため、ベッドにトレーを置いて2人で並んで座って食べた。食べながらクリフォードは隣にいるエティに不満を漏らした。


「どこが普通の人だよ。お前の父親、騎士の中でもトップクラスの人じゃないか」

「階級とかよくわからないけど、そうなの?」

「少し前まで現国王の専属騎士をしていたって言ってたぞ。お前、いいとこの娘なのにどうしてウチで働いてるんだ」


生粋のお嬢様のアネットと違い、自由奔放に育てられたエティには、その背景を想像させる雰囲気などなかった。


「シロと一緒に、初めて旅をした場所なの」


当時の記憶が蘇って、エティは今まで見せたことのない優しい笑顔になった。クリフォードはその笑顔に引き込まれるように、食べていた手が止まった。


「育った土地ももちろん素敵な所だったけど、それ以上に惹かれるものがあったわ。具体的に何かって上手に言えないけど、人とか、景色もそうだし」


遠くを眺めるように語っていたエティは、クリフォードを見上げると優しい笑顔のまま言った。


「クリフォードはいい場所で育ったのね」


息を飲んで切ない表情で見つめてくるクリフォードに、エティはしまった、と立ち上がった。


「甘い飲み物が飲みたいから、貰ってくる!」


大きく扉の音を立てて部屋から出ると、エティは逃げるように駆け出した。

やばかった……!
なに仲良くお話しちゃってんの、私!

エティの家に向かうため、屋敷を出た時とは大きく違う互いの空気に、エティは動揺を隠せなかった。
先程料理をたっぷりくれた宿屋のオヤジさんの元へ再び行くと、大きな声でこう言った。


「オヤジさん!一杯ちょうだい!」



扉をノックする音でクリフォードは我に返った。エティ同様、複雑な心境に頭を使いすぎて、エティが部屋を出て行ってからそのまま動けないでいた。

条件反射のように扉を開けると宿屋のオヤジさんが困った顔で立っていた。


「この娘、あんたの連れだろ?こんなに酔いやすいならひとりで飲ませたらいかんよ」


ため息混じりにそう言うオヤジさんの横には、ほんのり色づいたエティがふらふらと立っていた。


「えっ?酒を飲んだんですか!?」

「ああ、欲しいっていうから出してやったよ。そんなに強いやつじゃないが、二杯飲んだら急に酔い出してね」


人の良さそうなオヤジさんは「おやすみ」と声をかけると部屋を去って行った。


「おいおい、マジか……。エティ、俺がわかるか?」

「あ、大丈夫です!連れがいますので部屋までちゃんと帰れます!」

「……連れは俺で、部屋はここだ。ダメだ、完全に酔ってる」


エティはパッと見は普通に見えるのに、発言がおかしい。クリフォードは、やれやれとエティをベッドに座らせると、前に屈んでエティの靴を脱がせた。


「もう、俺がいない時に絶対飲むな。わかったか?……酔ってる時に言っても無駄か」

「え?水?飲みたい、飲む」

「会話になってないな。水を飲んだら寝たほうがいい」


クリフォードは水が半分ほど入ったコップをエティの手に握らせると、子供をあやすように頭をポンポンとした。
エティはすぐに飲まずに、コップの中をジッと眺めた後、目の前に立つクリフォードを見上げた。


「飲ませてくれないの?」

「は?飲ませるって……」


クリフォードは以前エティが酔った際に、口移しで水を飲ませたのを思い出した。

酒のせいで白い肌は火照っていい色に染まり、青い瞳も潤んで揺れている。あの時とは違って可愛さより色気が増し、男を誘うような半開きのピンク色の唇からは自分の名前が溢れた。


「フォード……?」


強請るように首を僅かに傾げられ、クリフォードは小さく息を吐いた。


「次は酒が入ってない時にそれをやってくれ」


苦笑いしながらそう言うと、エティの横に座り口移しで水を飲ませた。


「もっと」 

「ハイハイ」


子供みたいに甘えるエティに再び口移しで水を送ると、途中からエティはクリフォードの首に腕を絡めてきた。「ハイ、父さんただいま!」とアルフォンスに抱きついた時のように自分に縋り付いてくるエティを、クリフォードは素直に抱き締めた。


「あんまり煽るな。これでもかなり我慢してるんだ」


何が?と首を傾げながらエティは「もっと」と繰り返し唇を重ねた。エティからの初めてのキスに、最初クリフォードは固まった。

明らかに水ではなくクリフォードの唇を求めた「もっと」だった。酒のせいとはいえ大胆なエティの行動にクリフォードはちゃんと応えた。

ゆっくりと味わうような、溶け合うような深いキスにクリフォードは夢中になっていた。時折、唇を離すとトロンとした表情のエティが自分の唇を追いかけて重ねてくる。

徐々に力が抜けて、急にパタリと倒れ込んできたエティは気持ち良さそうに寝息を立てていた。

エティをベッドに寝かせると、クリフォードは愛おしそうに髪を撫で、額にそっとキスをした。


「おやすみ」


クリフォードは一言残すと浴室へ向かった。





「…………バカね。お酒が入ってなかったら私はこんな事しないわよ」

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