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その29
しおりを挟む「……フォード、クリフォード、起きて!!」
「……ん」
ここ数日ずっとエティに合わせて動いていたためか、クリフォードには疲れの色が見えた。
もう少し、休ませた方がいいのかな……。
エティは二度寝し始めたクリフォードの枕元に座ると、どこか難しい顔をしたまま寝息を立てている額に掌をあてた。
“ 癒しの魔力 ”
本当に自分にそんな力があるのだろうか?
感覚を研ぎ澄ませても何も分からなかった。
エティは昨夜、宿に入って身体を洗わずにそのまま寝てしまった。クリフォードが寝ているうちに浴槽に浸かろうと、ベッドを離れた。
「髪も伸びた気がする……。邪魔だしもう少し短くしたいな」
クリフォードが小型のナイフを持っていたのを思い出し、脱ぎっぱなしのクリフォードの服を探ってみた。
ナイフはすぐに見つかりエティは、ちょっと借りるね、とクリフォードに視線で言うと浴室に入った。
「わ、よく切れそうね……」
手入れが行き届いたくもりのないナイフを、腰まである紫銀の髪の先にかけるといとも簡単に切れた。
「おお……!切れ味ばっつぐん!」
ふと、リリアンがキッチンで見せてくれた光景が頭をよぎった。
目に見えたら魔力が効いてるのかわかるよね……?
そんな単純な考えで、エティは自分の指先にナイフを滑らせた。
「…………っつ!!」
思ったより痛かった。持っていたナイフは床に落ちて音を立て、後を追うように赤い液体が床を染めた。
「…………うっ、」
「エティ?そこにいるか?」
低い声が先に届き、続けて足音が近づいてきた。エティは「来ないで!」と叫んだが間に合わずにクリフォードと目が合った。そして指先から肘まで伝う血に気づくとクリフォードは血相を変えた。
「エティ!!」
「こ、来ないで。裸だし……」
「そんなの気にしている場合か!どうしたんだ!?」
クリフォードはエティの指を止血すると床に目をやった。
「俺のナイフ……?何してた?」
地を這うような声にエティは青ざめた。クリフォードはエティに初めて怒りを見せた。エティは恐怖で言葉が出ずに、ただ首を横に振った。
浴室をそのままに、クリフォードはエティを抱き上げるとベッドまで連れて行った。
「すぐ薬をもらってくる。ここを押さえていろ。……できるな?」
強い眼差しで問われ、エティは青い顔のまま頷いた。クリフォードはエティにシーツを纏わせると早足で部屋を出て行った。
こ、怖かった……!!
初めてナイフを向けられた時よりも数倍怖く感じた。エティが指先を見るとまた僅かに傷口から血が滲み出した。
「……勝手にナイフを使ってごめんなさい。よ、よく切れるナイフだね。髪を切ろうとしたら指まで切れちゃった」
「…………。」
クリフォードは怖い顔のまま、黙ってエティの怪我の手当てをした。沈黙に耐え切れずエティが明るく話しても、クリフォードは目も合わせてくれなかった。
「…………ごめんなさい」
泣き出しそうなエティの声に、クリフォードはやっとエティを見た。そしてエティを胸に抱き寄せると、苦しいくらいに腕に力を込めた。
「怒ってるんじゃない。……心配した」
「指を切っただけよ」
「お前、少し前から様子が変だ。何があった?俺じゃあ何もしてやれないのか?」
「何もないわ、気のせいよ」
「そう言うなら、今はそういう事にしておく。だが、助けが必要な時はちゃんと言ってくれ」
その言葉に対しては返事をしなかった。腕の中から逃げようとしないエティを、クリフォードは暫く抱き締めていだが、大きく息を吸うと自分からエティを引っぺがし、肩からかかっていたシーツを外した。そしてまじまじとエティの裸を見た後、ニヤリと笑ってひとこと言った。
「胸は少し大きくなったな」
「なっ!!」
エティは片手で前を隠すと、もう片方の手でクリフォードの頬を叩こうとした。その腕を余裕で捕まえると、顔が真っ赤になったエティの腰を引き寄せた。
「馬小屋で叩いた時はハンクにアドバイス貰っただろう」
動揺して泳がせたエティの視線が肯定を意味してしまった。
「あれは効いた。これはその仕返しだ」
クリフォードはエティの耳元で囁くように言うと、そのまま耳朶に歯を立てた。
行きと違って帰りは別々の馬に跨る事になり、クリフォードとエティの密着時間は大幅に減った。エティは正直ホッとしていたのに、休憩を取っている時や食事時など、馬を降りると必要以上にクリフォードはベタベタしてきていた。
山を越え、自分達の住む国に入った2人は夕食をとるため飲食店に入ろうとしていた。やはり当然という顔で指を絡めてくるクリフォードに、エティは面と向かってハッキリ告げた。
「クリフォード、もう自分の国に入ったんだから目に余る行動は控えてもらえる?あと、恥ずかしいからレオとシロの前でくっつかないで」
繋がれた手を解こうとエティはブンブン振ったが、強く掴まれた手は解放されなかった。
「レオとシロの前でっていうのは理由がわかったが、国に入ったから自制するのは意味がわからない」
「目立つのよ、その顔。見て、店にいる人達皆んなあなたを気にしてるわ」
エティの言う通り店に入った途端、中にいた客ら男女問わず周りにいる人達から視線を集めた。
「今の言葉、全てお前に返す。次に鏡を見た時は自分の価値をしっかり確認しろ」
クリフォードは何も気に留めることなく、空いていた席にエティを座らせ自分は向かい合わせに腰を下ろした。
エティは言われた意味がわからず、頭に疑問符を浮かべた。
注文した料理が手元に届き、食べ進めながらエティはずっと気にかけていた事を口にした。
「私の家族には説明が必要なかったけど、屋敷に戻ったら皆んなに何て言おう……」
エティの身体の変化を、クリフォードはすんなり受け入れていた。それは紫銀の女という不思議な現象を体験していたからこそだ。数日間で変わり果てたエティの姿を、アネットはじめ、自分を知っている人達にどう納得させればいいのか、エティはずっと悩んでいた。
明日には屋敷に着くというのに、いい案が浮かばず、エティは藁にもすがる思いでクリフォードに相談を持ちかけた。期待していた訳ではないが、クリフォードからは的はずれな答えが返ってきて、エティはがっくり項垂れた。
「俺たちは恋人だと正直に話せばいい」
「違う!!私の容姿の話よ!それに恋人じゃないでしょ!」
「俺は気持ちを伝えたし、お前と身体の関係もあるのに恋人じゃないのか?」
「ちょっ……、あれは事故みたいなものでしょう。カウントしないでよ……」
急激に顔を赤らめ挙動不振になったエティを、クリフォードは目を細めて微笑み、眺めた。愛おしい、そう顔が語っているのがエティにも手に取るようにわかった。
「……あれ?」
「どうした?」
「ううん、何でもない……」
「皆んなには急に成長したとしか説明するしかないだろうな」
「やっぱりそうよね……」
その状況を想像してエティは大きく溜息を吐いた。
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