知ってるけど言いたくない!

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その31

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「…………ん?」

顔に何かがそわそわ触り、くすぐったさでエティはまぶたを開けた。視点が合わずに目を細めると、閉じた瞼と長い睫毛が見えた。



これは……。近すぎないか?



エティは寝起きのせいでボーッとしながらも冷静に突っ込んだ。
柔らかく日差しが差し込むベッドで、エティとクリフォードは向かい合って額を合わせていた。相変わらずエティの腰の辺りに重い腕がのしかかっている。どれだけそうしていたのかわからないが、どうやらこの状態で寝ていたようだ。


クリフォードの髪がまだ、くすぐったくエティの頬にかかっている。


クリフォードは深く眠っているようで、エティがクリフォードの髪を触っても閉じた瞼はピクリともしない。
エティは金の髪に指を差し込みそのまま撫でた。女性でも滅多にこんなに手触りのよい髪質は持っていない。いつも自分がされているような優しい手つきで何度か撫でた。


一瞬眉がピク、と動いたがすぐに穏やかな寝息が続いた。エティは完全に目が覚めていなかったのも手伝って、再び瞼を閉じた。



なんて、暖かい場所だろう。



エティが微睡みの中、その暖かさに浸っていると、身動きしたクリフォードがエティの頬に擦り寄ってきた。まるで甘えるレオのようでエティはふふ、と笑いを溢した。


「くすぐったいです。ご主人様」

「何故そんな口調なんだ?」

「今からもう直しておかないと、癖でタメ口がでちゃいそうです。ご主人様」


クリフォードもクスクスと笑い出した。お互いまだ視線を絡ませていないのに、どちらともなく近づけた唇が僅かに触れた。一瞬相手を伺うような間があり、唇が息を感じ取った。


エティは目先の感情に負けた。


彼の唇の柔らかさを、優しさを、熱を感じたかった。
深く重ねられた唇からは、熱い吐息と舌がエティの身体の熱を作り、息継ぎの時に合わさる視線から流れ込んでくるクリフォードの気持ちが、エティの心臓をこれでもかと締め付けた。


こんな事ならあの夜、酔ったふりなどせず素直になればよかった。


エティは今更ながら自分の行動を思い出し、恥ずかしくなった。でもあの時は仕方がなかった。まだ自分の気持ちが、あちこち彷徨っている状態だったのだ。屋敷に戻る前にそれをはっきりさせたかったのと、思いっきり甘えてみたかった。


あの夜と同じ柔らかさの唇は、遠慮なくエティの唇を貪った。クリフォードはエティに重みをかけないようにその大きな身体を重ね、エティの耳に舌を這わした。


「ンッ……、フォード。お願いが……」

「何だ?内容によっては聞かなかったことにする」

「絶対に、挿れないで」


懇願するようなエティの声に、クリフォードは動きを止め、腕の間にいるエティを見下ろした。驚いていた表情はすぐに険しいものになった。


「それは……、俺がお前を一度傷つけているからか?それとも紫銀の女を気にしての事か?」

「……初めての時の事は、もう何とも思ってない。でも、もし同じように無理矢理挿れたら……私はあなたを殺すわ」


クリフォードは眉を寄せ、更に険しい顔つきになった。「殺す」そんな物騒な言葉がエティから出たのだ。エティは冗談などではなく本気でクリフォードに言った。

恐らくクリフォードは、エティの肌を味わっても前回同様、挿入は避けただろう。だが人間、魔がさす事もある。


先程までの甘い雰囲気は消え、エティの青い瞳は揺るがない想いとともに、強くクリフォードに向けられていた。
淀みのない青さに、クリフォードが動揺しているのが手に取るようにエティに伝わった。エティが何を考えているのかわからない、そう表情が語っていた。


「これは私の我儘よ。挿れられたくないけど、続けたいわ」


エティは今の気持ちをはっきり伝えた。
何も隠さず、欲情と恋心が入り混じった表情でクリフォードをただ見つめた。その双眸をしっかり受け止めたクリフォードは、眉を下げて微笑んだ。動揺していたのを微塵も感じさせないほど、穏やかさを纏ってエティに顔を近づけた。



「我儘は好きだ」



エティは自分に引き寄せるように、クリフォードの首に手を回した。もう何度も重ねた唇はとても甘く、熱く感じた。



「……フォード…っ」



自分を追い立てていくクリフォードの男らしい手と、触れる汗ばんだ肌がとても心地よかった。途中、自分だけ夢中になっているんじゃないかと、クリフォードを気にすると「とても気持ちいい」と目を細めて笑った。


それも嘘ではないようで、クリフォードはエティの肌と絡むと、眉根を寄せながら熱い息を吐いた。


以前から、エティに触れると格別に気持ちいいとクリフォードは言っていた。
きっとエティの癒しの魔力によるものだろう。呪いを少し中和して、本来の感度に近い状態にさせている。憶測だがそれなら説明がつく。



***



「……っああ」


今までになく甘い嬌声がエティから漏れ、クリフォードは身体が燃えてしまうんじゃないかと思うほど、熱くなった。大人っぽくなったエティの身体は、以前よりも滑らかに曲線を描いてクリフォードを誘った。

本人はサイズを気にしていたが、クリフォードが胸先を口に含むと、エティはより一層甘く鳴いた。感度が前よりいいかもしれない。十分触りがいがあった。

クリフォードはエティの身体に唇を這わせながら華を何個もつけていった。白い肌は軽く吸っただけで綺麗に華が咲いた。

エティから溢れ落ちる蜜を指に絡めて、少し膨らんだ花芽を撫でてやる。思ったより敏感になっていたようでピクピクと身体は震え、息を飲むような呼吸になった。そんなに強く触っていないが、エティは驚いたような戸惑った様子で俺を見た。


「もしかして、イきそうか?」


少し恥ずかしそうに頷いた。


「指も挿れたらダメなのか?」


えっ、と顔を真っ赤にして首を横に振った。指は挿れていいみたいだ。

一本だけゆっくり差し込むと、膣内はとても柔らかいのに指をキュッと包んだ。


「……あっ、……は、あっ」


指の動きに合わせて、エティの呼吸は激しく乱れ、身体を捩らせた。


「……フォードっ……!」


あろうことか俺の名前を呼びながら達した。まだビクビクと震えて、呼吸もままならないエティに深く口づけた。

身体は繋がってなくても気持ちが、心が繋がった気がした。達した余韻のせいか、弱々しく応える彼女は何度も俺の名前を口にした。



「エティ、愛してる」



“ だいっきらい ” から昇格された言葉が聞けるのだろうかと、エティの耳元で誘うように気持ちを告げたが、彼女からは俺の名前しか返ってこなかった。
だが切なく、甘えるようなエティの声に、言わないのではなく言えないのだろうかという考えが浮かんだ。

エティの青い瞳にはどう見ても自分に向けられた気持ちが滲み出ている。なのに「挿れたら殺す」とまで言うほど最後の繋がりは拒否した。

紫銀の女への恐怖から出た、大袈裟な言葉なのかもしれないと思った。もしくは彼女の中で俺に対する何かの葛藤があるのだろうか。


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