35 / 49
その35
しおりを挟む「ええっ、受けるって言っちゃったの?」
仕事が終わり、アネットと部屋で寛いでいる中、エティは花嫁役の事を話題に出した。アネットは案の定、渋い顔をした。
「その場で了承したのは私の分だけよ。アネットの返事は明日の夜までに聞かせてくれればいいけど、どうする?」
「エティがやるなら私もやるに決まってるでしょう!」
「……だよね。相談もなく決めてごめんね」
「どうするのよ!これでまたライバルが増えちゃうわ」
「アネット、落ち着いて。私は確かに髪色のせいで目立つけど、色っぽくないしそんな心配するほどモテないわ」
宥めたつもりが、何故かアネットはさらに眉を釣り上げた。
「本気でそう思ってるの?鏡見てる?女性は色っぽいだけでモテるんじゃないのよ。だいたいご主人様はエティになんて言って口説いてるのよ!」
「は、肌……?」
突然クリフォードの話題に移り、エティはドギマギして咄嗟に肌たと答えてしまった。だが、それはきっかけであって、クリフォードがエティを好きなほんの一部分にすぎないのをエティは知らなかった。
「肌って何よ!エティ、あの人と寝たの!?」
「ちっ、違う!ほ、頬の肌の事よ!」
エティは自ら墓穴を掘って慌てる事になった。
「キスする!」
「ちょっ……アネット!……っ!」
じわじわと壁に追い詰められたエティは、アネットに唇を塞がれた。先日庭先でされたのと同じように、キスと呼ぶには程遠い小さな 子供のような口づけだ。
クリフォードとはまた違った柔らかさに、エティは気づかされてしまった。自分が欲しいのはクリフォードの唇だけだと。
エティは無抵抗でアネットのキスを受けた。ただ合わせるだけのキスで、深いキスではない。アネットはきっとそれ以上の知識がないのだとエティは感じた。こんなに攻めといて、今後はどうするつもりだったのだろう。
アネットは唇を剥がすようにゆっくり外すとエティを見た。
「どうして笑っているのよ?」
「アネットって可愛いなって」
「もう!大人ぶっちゃって!」
「……ちょっとだけ行ってきてもいい?」
「…………ちょっとだけだからね!」
そんな顔で言われたら断れないでしょう、とアネットはちょっと拗ねたように呟いた。必殺おねだりポーズが効いたようだ。
エティはアネットとの相部屋を出るとクリフォードの部屋に向かった。夜ではあるが深夜に差し掛かってはいない。疲れていれば寝てしまっているかもしれない。
途中ハンクの部屋の前を通った。エティは一度通り過ぎた後、戻って扉をノックした。
「……御機嫌よう、エティ殿。どうしました?」
「あの、寝てました?こんな時間にごめんなさい」
「いいえ。構わないです」
部屋から出てきたハンクはまだビシッとスーツのままだった。確かに寝てはいなかったようだ。いつもの無表情にエティはひるむ事なく続けた。
「あー、えっと……部屋を訪ねても構いませんか?」
名前を出すのが恥ずかしくて、エティは指でクリフォードの部屋を指した。ハンクはああ、とすぐに理解すると顔が厳しさを解いたように見えた。
「相手が私とはいえ、男の部屋に寄り道したと知られると怒られますよ。次からは許可を取りに来なくていいです」
「ありがとうございます……。あと、私が言うのもアレですが、大丈夫ですか?」
「何がです?」
「……アネットの」
名前を聞いたとたんハンクは眉をピクリとさせた。自分では隠していたつもりだろうし、ましてやエティが気づいているなどと思ってもみなかっただろう。
「言ってる意味がわかりませんね。ああ、エティ殿、クリフォード様の部屋をノックして返事がない時は、寝室にいるか浴室です。鍵はまだ開いてますので構わず入って下さい。では失礼します」
矢継ぎ早にそう言うと、ハンクは自室に戻ってしまった。怒ってはなさそうだったのを考えると照れているのだろう。
エティはクリフォードの部屋の前に立つと大きくノックした。二度繰り返したが返事がなかったため、エティはハンクに言われた通りリビングへ入った。
明かりを落として静まり返ったリビングは仄暗く、エティが初めて訪れた時の事を思い出させた。あの時とはガラリと変わった彼への気持ちに、自分は一体いつから、どの部分に惹かれたのだろうと考えてみた。
今思うと、クリフォードは刺々しい態度の中にも優しさは見え隠れしていた。ナイフで怯えたエティに水をくれたり、初めて抱かれて紫銀の女が来た時は、逞しい腕がエティを守るように包んでいた。クリフォードは元々優しさは持っている人だったのだ。
寝室の扉をノックしたが、またしても返事はない。寝ているかもしれないので起こさないようにと、エティはそっと中に入った。
寝室は明るかったが、クリフォードの姿はなかった。きっと浴室だろう。エティは右手奥にあるカウチソファーに座った。
この部屋、クリフォードの匂いがする……。
クリフォードの部屋なので当たり前なのだが、エティはクリフォードと一緒にいる気分になり、妙に安心した。
「……んん、もう、くすぐったい」
「いつ来たんだ?驚いたぞ」
「へっ?あっ!フォード!ごめん、勝手に入っちゃった」
しかもうたた寝していた。
エティはいつの間にか寝室に戻ったガウン姿のクリフォードに、顔中キスされているところだった。よく見るとベッドの上で、どうやらクリフォードがカウチソファーから移動させたようだった。
「エティ、会いたかった」
「朝、馬小屋で会ったでしょう。フォード、髪がまだ濡れてるわ。ちゃんと拭かないと」
クリフォードは浴室で温まった身体をエティに覆い被せると、多くのキスを降らせた。
「先にお前が欲しい」
「……フォード!」
クリフォードはお預けをくらった犬のようになると、大人しくエティに髪を拭かれた。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。
黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、
妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。
ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。
だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。
新たに当主となった継子は言う。
外へ出れば君は利用され奪われる、と。
それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、
私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。
短いお話です。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる