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その36
しおりを挟むベッドの上で向かい合わせに座り、クリフォードの髪を拭きながらエティは、目を瞑ったクリフォードの整った顔をじいっと見た。
本当、綺麗な顔してるのね。睫毛も長いし、肌も女性と変わらないくらいだわ。そういえば唇も凄く柔らかい……。
エティはクリフォードの唇を指でなぞった。エティと同じ青い瞳が覗き、視線が絡んだ。
「クリフォードってモテた……現在形か、モテるでしょ?」
「まぁ、よく声はかけられるが」
それが?とクリフォードは表情を特に変えることなく答えた。クリフォードは26歳で爵位もある。さらにこの容姿では独身の女性は放っておかないだろう。
エティは自分に執着を見せるクリフォードが不思議で仕方なかった。最初にクリフォードに会ったエティの姿は子供のようで、女性らしい仕草も雰囲気も持ち合わせていなかった。肌が気に入ったのなら、屋敷でベッドの相手として囲えばいい。それなのにクリフォードはエティ自身を大切にし、好きだと言った。
今こそクリフォードの隣に並んでもおかしくないが、彼は本気であの幼い姿のエティを恋人にするつもりだったのだろうか?
「フォードって、もしかして思いっきり幼い女性が好きなの?」
「はあっ!?そんなわけないだろう。何を言いだすんだ」
「いや、ずっと特定の女性を作ってなかったみたいだから、そういう趣向の人だと」
「やめてくれ。今までは恋愛に興味がなかっただけだ。もしかして他に女いるか疑っているのか?」
「別にそんなんじゃないけど……」
気になっただけ、という言葉はクリフォードの唇で止められた。ふやけてしまいそうな甘いキスに、エティは他の感情は全て置き去りにした。ただ心が求めるままに、身体が求めるままにクリフォードにしがみついた。
「俺の気持ちをしっかりわからせてやる。今夜は寝れると思うなよ」
「えっ、うそっ……!?ンンッ!」
***
翌日、クリフォードが騎士の同僚達と街の巡回に出ようとしていると、上官から呼び止められた。彼は人から頼まれるのか、時々クリフォードに見合い話を持ってくる。他に呼び止められる理由が思いつかない事から、今回もその類だろうとクリフォードは気づかれないように小さくため息を吐いた。
「女遊びをやめたそうじゃないか。いい相手でも見つかったか?」
「ええ、恋人ができました」
「へぇ!お前を射止めたのはどこの令嬢だ?誰の紹介だ?」
上官は、できれば俺がとりもちたかったと、残念そうに肩をすくめて笑った。立場上、彼が色々な繋がりを作りたがるのは目に見えていたが、性格はそんなに悪くない。部下の面倒見もいいし、人付き合いも好きなようだ。見合い話は好きでやっているに違いない。
「名前は?俺の知ってる令嬢か?」
「彼女が隠したがっているので許可が出るまで内緒です。いずれきちんと紹介しますよ」
「そうか、楽しみにしておくよ。そうだ、聞いたか?今年の “ 花嫁 ” 達は凄く綺麗な女性らしいぞ」
「そうですか。俺は興味ないので今年も内勤でいいですよ」
「そんな事言うのお前くらいだよ。わかった。じゃあ当日はそう配置させてもらうよ」
春にある花祭りの “ 花嫁 ” はその名の通り、花嫁姿の白いドレス姿で馬車に乗り、街中を回り子供にお菓子を配っていく。問題なく馬車が進めるように、街中に騎士が配置される。 “ 花嫁 ” 見たさに騎士達は、こぞって街の警備につきたがるのだ。
配属争奪戦から真っ先に抜けるクリフォードは、毎回城内で城の警備についていた。
少し離れた所で話を聞いていた同僚の一人が、ウズウズしながらクリフォードに近寄ってきた。すでに顔がにやけている。からかう気満々だ。
「もしかして先日の長い休みは、その恋人と?」
「ああ。急に休みを入れて悪かったな。お陰でいい時間を過ごせた」
記憶が蘇り、思わず口元を緩めると周りにいた何人かが「うわぁ、マジか」とクリフォードの珍しい表情に声を漏らした。
「前に傷つけたとか言ってた女性か?仲直りして、恋人にまでなったのか?どうやったんだ?」
目をキラキラさせ身を乗り出してくる彼らに、クリフォードは怯みながらもきちんと答えた。
「宝石も受け取らないし、何もいらないと言われたから付いて回っただけだ」
「宝石をいらない?変わった娘だな。どんな娘なんだ?」
「くすぐったいって笑う顔が、可愛い……」
クリフォードが照れたように他所を見ながら言うと、貴重な姿だと皆んなは目を見開いた。
元々屋敷では使用人と顔を合わせることがなかったので、エティに会うには早朝の馬小屋に行くしかなかった。
僅かな時間ではあるが、一緒に馬の世話をするのはとても貴重な楽しみな時間になっていた。お陰で苦手だった早起きが自然と身についた。
数日後、エティと休みが重なりそうだったので遠乗りに誘った。その時の嬉しそうな顔はしばらく頭から離れなかった。
「どこまで行くの?」
当日、身軽な動きやすい服装で、彼女が眩しく笑った。その服装は旅の途中で急遽買い揃えた物だ。あつらえたようにぴったりとしたその服は、身体のラインとエティの細い手足がよく目立った。
「お昼も持ったから、どこでも行けるよ!」
「エティの手作りか?前に家で食べた料理も美味かった」
「あれは母さんがほとんど作ったから……」
ちょっと照れたように下を向く顔を覗き込んで、触れるだけの軽いキスをした。
「今日は俺が先を行くから後をついて来い」
「わかったわ。レオ、シロ、よろしくね!」
春が近づき日差しが暖かい。遠乗りにはもってこいの天候だ。ちゃんと後ろにいるか時々振り返りながらレオを走らせ、屋敷から少し離れた森に入った。森を抜け、視界が明るくなると広い丘に出る。遠くが見渡せる広い景色に、エティは顔をより一層輝かせた。
「緑も多いし、街が遠くに見えるわ!凄く素敵。レオとよく来るの?」
「ああ、遠乗りはあちこち行くが、ここが俺のお気に入りの場所だ。多分レオもそうじゃないかな」
「ええ、そうね。レオもそう言ってる。シロも気に入ったって!」
エティはまるで自分の子供のように、レオやシロを可愛がる。俺のせいで、この先エティとの間に子供は望めないだろう。レオやシロの存在はとても有難く感じる。
「この辺りは狩人はいる?レオとシロを放しても大丈夫かな?」
「この辺りは禁猟区だ。密猟も聞かないし大丈夫だろう。もしかしたら狼がいるかもしれないから、森は避けた方がいいだろうな」
「ですって、レオ。あまり遠くにシロを連れて行かないでね」
いつものようにエティはレオとシロにキスをして、鞍と手綱を外した。二匹は少し離れた場所で寄り添って草を食べ始めた。
「シロも満更じゃなさそうだな。あいつらお似合いだ」
「シロは割とおっとりしてるけど、レオはしっかりしてるから安心だわ。シロは父さんの黒馬の子供なのよ」
「へぇ、その黒馬の名前がクロとかだったら笑えるな」
「当たり!クロよ!」
「お前の家族面白すぎるだろ」
大きく広げた敷物に二人並んで寝転がり、顔を合わせてクスクス笑った。なんて穏やかな、幸せな時間だろう。自分が今、とても幸せだと、どうすれば相手に伝わるものなのか。
すぐ近くにあった額に想いを込めてキスをした。エティは甘えるように擦り寄って手を伸ばしてきた。
「幸せだわ」
独り言のような小さな声が腕の中から聞こえた。
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