知ってるけど言いたくない!

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その43

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「お帰りなさいエティ殿」

見計らったように外に出てきたハンクに、エティはニヤリと笑うと近くに立って小さな声で囁いた。

「ハンクさんへアドバイスです。アネットは押しに弱いタイプです。あと知ってるかもしれないけど優柔不断で、世間知らずです」


急に何を言い出すのかとハンクは黒い瞳を見開いた。


「あと、ひとつお願いがあります」




エティに言われるまま馬車の中で大人しく待っていたアネットは、先ほどエティと交わした会話が気になっていた。
今まで同室のエティばかりを可愛がっていて、男性同士を比べたことなど一度もなかった。確かに周りにいる男性を消去法で選択すると残るのはハンクになる。
アネットはエティが口にしていない、他の知っている男性全てを混ぜて、再びふるいにかけてみた。


ガチャっと金属製の扉が開き、アネットは飛び上がるほど驚いた。考え事をしている時は誰でもそうなるだろうが、アネットはそこに見えた顔にさらに驚き動きを止めた。

今、頭の中にあった顔と同じだったからだ。

いつも無表情のハンクはアネットの顔を見るたび目を細める。そうだ、今日こそは眼鏡を作ったほうがいいと教えてあげようとアネットが思っていると、その無表情が初めて変化を見せた。

ハンクは馬車の中に座るアネットを眺めて、目を見開いた後、僅かに微笑んだ。

「よくお似合いです。アネット殿。お手をどうぞ」

「え、あ、ありがとうございます」

なにやら自然とエスコートされ、アネットはドレスをふわりと舞わせながら馬車から降りた。ハンクはとっていたアネットの手を少し強引に引き寄せると、もう片方の手をアネットの腰に回した。

「とても綺麗です」

今まで一番近くでみたハンクの顔は、眩しいものを見るように目が細められ、顔が緩んで見えた。

「あ、あの……、そうだ、エティは?」

「ああ、エティ殿はあの姿が一番映える場所へ向かいましたよ」

私に物騒なお願いを一つ残して、と王宮のある方角に視線を送りながらハンクは呟いた。



***




そろそろ花祭りもひと段落ついただろう時間帯に、クリフォードの上官が休憩しようと声をかけてきた。休憩も何も、花祭りの影響で王宮内の動きも特になく、暇すぎてクリフォードは変な疲れが出ていた。上官と休憩なんかしたらもっと疲れそうだ。そう心では思っても態度には出さず、クリフォードは休憩室で上官と同じテーブルに着いた。


「今日一日心ここにあらずだな、どうした?」

「……仕事に身が入っていなくて申し訳ありません」

「いや、責めてるんじゃない。心配事でも?」

「ええ、まぁ……」

上官が含み笑いをしてクリフォードを見た。これは根掘り葉掘り聞かれそうだと、クリフォードが思った途端、休憩室の扉が慌ただしくノックされた。

「あ、クリフォードさん!外見てください!門の所!」

「外?どうかしたのか?」

クリフォードと一緒に王宮で留守番していた同僚が駆け込んできた。彼は王宮の門の当番だったのに中まで走ってきたようで、とても息が上がっていた。

クリフォードは休憩室の窓から外を覗いた。その窓からは遠目に門が見える。上官もクリフォードと同じタイミングで外に視線を向けた。

あの白いのは……。


「エティ!?」

門の前には “ 花嫁 ” 姿のままシロに跨ったエティがいた。信じられない光景にクリフォードは思わず窓に張り付いた。

「今年の “ 花嫁 ” か?何だ、クリフォードの恋人だったのか?それは心配でため息も出るよな」

「あ、あの!すぐ戻りますので行ってきても構いませんか?」

「今日は暇だ。せっかくあんな勇ましく迎えにきたんだ。もうそのまま帰っていいぞ」

「ありがとうございます!」

クリフォードは今日一番の早い動きを見せると部屋を出て行った。

「すっごい美人でしたよ!」

「へぇ、かなり騒がれてたからな。俺も近くで見たかったな」




クリフォードの姿が見えるとエティは大きく手を振り、ふわりとシロから降りた。レースの多いドレスだったので際どい状態ではなかったが、それでも膝から下はしっかり見えていたのをクリフォードはしっかり確認してしまった。


「エティ!!」

「えへへ、来ちゃった」


クリフォードは息を切らしたまま、エティの美しいドレス姿に暫く見惚れた。想像していたよりずっと綺麗で、大人っぽく、笑うと途端に可愛かった。


「とでも、綺麗だ。他の奴が先に見たと思うとやはり妬けるな」

「フォード、このまま私をもらってくれる?」


予想外のエティの言葉に、クリフォードは口を開けて固まった。


「フォード?えっと、私とはそんなつもりはなかった?」


頭の中で事実確認しているうちにエティが次の言葉を投げかけた。クリフォードはまだ驚きを隠せないままエティを抱き締めた。心臓が大きく脈打ち、きっと腕の中のエティにも伝わっているだろうが、そんなのどうでもよかった。

本当は旅から戻ってすぐにでも求婚したかった。だがエティが屋敷の皆んなに隠したがっていたのと、ジェシカの事やエティが秘密にしている紫銀の女の事など、すっきりしない事が目先にあって求婚するのを先延ばしにしていた。


「お前は俺の唯一の女性だ。タイミングや送る言葉など考えていたのに、なんて事だ。これ以上の演出で求婚する手段が思いつかん」

クリフォードはエティの身体を僅かに放し、切なげな表情で見下ろした。


「大切にする」

「もうしてもらってる」


クリフォードはそこが王宮の門のど真ん中だというのも忘れて、エティに激しいキスをした。先に我に返ったのはエティで、クリフォードはエティに叱られ渋々エティを腕から解放した。


屋敷に戻るとクリフォードはそのままエティを寝室へ連れ込んだ。本当はすぐさまベッドに組み敷きたかったが、せっかく着飾った美しいエティをもう一度眺めて堪能した。自分はベッドに腰掛け、目の前にエティを立たせた。

「思ったより露出が多くて驚いたぞ。背中なんてほとんど出ている」

クリフォードはそう言ってエティの背中に唇をそっとあてた。チュッ、チュッと音を立て肌の滑らかさを味わうと腰の窪んだ所をペロリと舐めた。

「……んっ、一日中外にいたから舐めたら汚いよ。その、浴室使ってもいい?」

「俺はそのままでも構わないが、入りたいなら俺が洗ってやる」

ドレスもその下もクリフォードに全て肌から外された。クリフォードも裸になるとエティを抱き上げ、寝室から浴室へ向かった。

「浴室で脱げはいいのに。裸でウロウロするの恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいも何も、今は屋敷に俺達だけだろ?皆んなはどこ行ったんだ?」


王宮から二人が戻ると屋敷にはハンクをはじめ、誰一人いなかった。


「私がハンクさんに人払いを頼んだの。フォードと二人になりたかったから……」

「……では遠慮なく可愛がらせてもらうぞ」


クリフォードは一瞬何かが引っかかった。

寝室から隣のリビングへは確かに声は漏れてしまうが、屋敷の二階には指示がない限りハンク以外上がって来ない。そのハンクもエティがクリフォードの元へ訪れている時は、気を利かせて部屋に来たりしない。今更屋敷全体を人払いして何が変わるのか?

エティの意図はわからなかったが、クリフォードはきっとエティは本当に気兼ねなく二人になりたかったのだろうととらえた。



「ふあっ……、ああっ、フォードっ」

浴室でエティを少し、いや、かなり乱れさせた後ベッドに運びさらに追い立てた。
エティは回数を重ねる毎に敏感になり、よく鳴くようになってクリフォードを満足させていた。挿入しなくても、エティがこれだけクリフォードに身を預けて快感に浸ってくれるのなら、それで構わないとクリフォードは思った。

エティの初めてを奪ったあの一度だけの繋がりが、繋がったという事実がクリフォードの心を支えていた。

「自分ばかりあなたを求めてごめんなさい」

エティは何度目か達した後、恥ずかしそうにそう言うと、真っ赤になりながら自分からクリフォードの上に乗り、キスをしてきた。いつもクリフォードがエティにするように額や瞼、頬をかすめて唇に辿り着く。大切なものに触れるように柔らかくそっと繰り返す。

クリフォードはエティのキスを大人しく受けていた。いつもエティにキスを降らせる時、愛していると、好きだと気持ちを込めて触れる。まるでエティからも同じように気持ちを貰えているようで、クリフォードは幸せな気持ちになった。

やがて唇は首筋に降りてきて胸元に向かうと、さすがにクリフォードもストップをかけた。エティに触れられるのはとても気持ちいい。しかし身体が昂ぶり過ぎるとその熱を解放できずに逆に辛い。

「エティ、もういい。俺も十分気持ちいいから」

「お願い、今日はもう少しさせて」

「その顔は反則だぞ」

必殺おねだりポーズを使われた。
その必殺技が出なくてもエティに「お願い」と言われた時点でもう負けている。


「……っ、おい、そこは触るな」

「これくらい硬かったら中に入るの?」


エティはクリフォードの下半身に手を伸ばし、今まで触れたことのない、硬く反り返ったクリフォードの雄を手で包んだ。

「……っ?!」

エティの行動を止めようとしたクリフォードは自分の身体がピクリとも動かないのに気づいた。

「な、何だ……?」

ひとまず口は動く。顔以外はベッドに縫い付けられたように手の指一本も動かせない。
クリフォードは自分は一体どうしてしまったのかと混乱した。

「フォード。私ね、欲しいものができたの」

ゆっくりと喋りながらエティはベッドの足元の方から何かを取り出した。エティが手にしているものを見て、クリフォードは息を飲んだ。

「俺の……ナイフ」

旅の途中、エティが指を切ったあのナイフだった。いつの間にクリフォードの服から抜き取って、ベッドに忍ばせておいたのだろうか。
エティは切なげな表情を浮かべるとクリフォードの顔にナイフを近づけた。そのナイフの切れ味はクリフォード自身よく知っている。

「少し貰うね」

耳元でザク、と音がした後、エティはクリフォードの腹の上に座った。切られたのはクリフォードの金の髪だった。音がした割にはそんなに多い量ではなく見ると指一本分ほどの束だった。

エティはその切った髪に、まるでレオやシロにするようにキスをすると、クリフォードの頭の横にそっと置いた。

意味がわからない。エティは一体何をしているんだ!?

クリフォードは頭がおかしくなりそうだった。夢でも見ているのかと思うほど、エティの動きはゆっくりに見えた。


「……エティ?」

ナイフをクリフォードの身体の横に置くと、エティはクリフォードの雄に手を添え自分の蜜口にあてた。




「や……やめろ!!」


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