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その44
しおりを挟む「エティ!やめろ!!」
クリフォードの表情が強張った。彼が必死に止めるのは当たり前だ。クリフォードが女性と繋がると紫銀の女が来てしまう。前回現れた紫銀の女の距離感から、クリフォードは身の危険を感じてエティに一切挿れてこなかった。
「……っつう!」
エティの蜜口はクリフォードによってトロトロにされ、きちんと濡れていたが先が少し入っただけでも痛みを感じた。初めての時から間が空いているせいもあるが、慣れていないエティが自分で挿れたせいもある。
肌を何度も重ね、クリフォードの指で何度も絶頂へ追いやられてはいるが、感度を高めるための挿入で、クリフォード自身を受け入れるため解しているわけではなかった。二度目の挿入が痛いのは当然だった。
「エティ!頼むからやめてくれ!」
寝室にクリフォードの声が響いた。
エティは構わず一気に体重をかけた。
「っう、ああっっ!!」
「……っ!」
「ぜんぶ、入った……?」
クリフォードは眉間に深いシワを寄せ、何かに堪えるように目を閉じ、歯を食いしばっていた。
エティはクリフォードの身体を魔力で動けないようにしたが、感度はそのままにしていた。クリフォードはエティの中に入って久しぶりの感覚に襲われていた。
痛かったものの、クリフォードと一つになれて、エティは嬉しくて堪らなかった。エティは自身に癒しの魔力を使う事で、挿入の痛みをなくす事もできた。しかしクリフォードと繋がる感覚を、どんなに痛くても消したくなかった。本来ならこんな形で繋がりたくはなかったけど……と苦笑いした。
エティはクリフォードの顔にそっと手を添えると唇に触れるだけの優しいキスをした。クリフォードは複雑な、混乱した瞳でエティを見返した。
「フォード、ごめんなさい。痛みはないようにしておくから」
「エティ?何を……」
エティはクリフォードの横に置いたナイフを両手で強く握ると思い切り振り上げた。
クリフォードは何をされるか悟ると一瞬目を見開いたが、すぐに穏やかに笑った。
「お前になら殺されてもいい」
「……っ!はあっ、フォードっ……」
ーーあなたを刺した時、同時に自分も殺している気分だったわ。
ジェシカがそう言った言葉が頭をよぎって確かに、とエティは思った。
エティが振り下ろしたナイフは見事にクリフォードの心臓に突き立てられた。クリフォードは意識を失う最後までエティから目を離さなかった。
エティは涙目で後ろを確認するとちょうど寝室の扉がゆっくりと開いたところだった。
……来た!!急がないと!!
エティは慌ててクリフォードに突き立てたナイフをグイッと引き抜いた。するとそこから大量の赤い液体が流れ出した。エティは先ほど切ったクリフォードの髪を血が溢れる傷口に乗せた。美しい金の髪はみるみるうちに赤黒く染まっていった。
それを待っていたかのように、エティは髪に手を当て短い呪文を唱えた。
エティの視界に紫銀の女の夜着が入り、一気に緊張が走った。冷や汗が背中を伝い、首を絞められたように息をするのも苦しく感じた。
クリフォードの近くのベッド脇に立った紫銀の女は、エティに見向きもしないで、生気のない瞳で息のない青白い顔のクリフォードを見下ろすとおもむろに手を伸ばした。クリフォードの心臓部に引き寄せられるように伸びたその手に、エティは息を止めて見守った。
…………お願い!!
ーー形代《かたしろ》?
ーーそう、形代。つまり身代わりよ。紫銀の女はクリフォードさんを殺すというより魂を取りに来るのよ。だから彼の髪と血で身代わりの、偽物の魂を作るの。ただ問題なのが、本物のクリフォードさんを仮死状態にしないと形代の意味がないのよ
ーー母さんもやった事あるの?私にもできる?
ーー私はそんな状況になった事ないから知識だけよ。エティはその魔力があればできるはずだわ。呪文も教えるから。
エティが固唾を飲んで見守る中、白い手が掴んだのはエティが用意したクリフォードの髪だった。
紫銀の女は手にしたクリフォードの髪をゆっくりと自分の胸にあてるとふわりと満足そうに笑った。そして景色に溶け込むようにその場で消えていった。
「……消えた」
一瞬、エティは呆けそうになったが我に返った。
「フォード!!」
クリフォードの身体に手を当てると、彼の心臓は完全に止まっていた。
「うそ!!さっきまでは僅かに動いてたのに……!」
エティの癒しの魔力は死んだ人間には効かない。つまり、死んだ人を生き返らせることはできない。
クリフォードの大きな身体をいくら揺すってもピクリとも動かなかった。顔は白く、あんなにエティの名を呼んだ唇は紫色に変化していた。
「お願い!私の所へ戻って来て!……フォード!!」
***
ーーフォード!!
「…………っは!!」
「クリフォード様!気づかれましたか!?」
「……ハンク?」
クリフォードはエティに呼ばれた気がして、大きく息を吸い飛び起きた。自分のベッドでいつものガウンでも裸でもなく、肌触りのよいシャツを着ていた。ベッドの傍らには立ち上がったハンクと椅子があり、直前までそこに座っていたのが伺えた。
見た事ない程心配そうな青い顔のハンクと、そのいつもと違う光景に、クリフォードは嫌な予感を覚えた。
あれは……夢だよな?
左胸を抑え、そう自分に言い聞かせながら、恐る恐るハンクに問いかけた。
「ハンク、……エティは?」
「エティ殿はここにはいません。クリフォード様、一体何があったのです?」
「エティはどこだ!ここにはいないとはどういう意味だ!?」
「クリフォード様、落ち着いて下さい!」
ベッドから降りようとしたクリフォードをハンクが肩を押さえて制した。叱るように大声を上げたハンクに、クリフォードは仕方なく広いベッドの真ん中に座る形で収まった。
「エティ殿はお姉様のローズ様が連れて行かれました」
「姉?」
「クリフォード様、今から言う事を最後までちゃんと聞いて下さい。二日前、私はエティ殿に頼まれて屋敷を無人にしました。最初の約束を実行するからと」
「最初の約束?」
「紫銀の女を捕まえる、ですよ。覚えていませんか?」
クリフォードはハッとした。
確かに最初そんな流れでエティを部屋に置いた。
「エティ殿は私に頼み事をしました。夜、屋敷に戻る時は口の固い医師を一人連れて来てくれと」
「医師?何故だ」
「あなたを診るためですよ、クリフォード様。私がこの部屋に入った時、クリフォード様とエティ殿は血まみれで重なって倒れていました」
「血まみれ……!?」
クリフォードは青ざめた。やはりあれは夢ではなかった。エティはクリフォードにナイフを突き立てたのだ。
しかし、いくら自分を見下ろしても傷一つなかった。
「私も医師も、その光景を一目見て二人とも息がないと思いました。しかしあなたはご自分でわかる通り怪我一つありません」
クリフォードはハンクと視線を合わせたままゴクリと唾を飲んで、次の言葉を待った。
「エティ殿は…瀕死だと、ローズ様が……」
「そんな……!!何故だ!?」
「わかりません。お二人を見つけて少し経った頃、寝室にローズ様が急にふらっと現れて、姉のローズだと名乗るとエティは瀕死だから連れ帰るとエティ殿を抱き上げて出ていかれました。呆気にとられて、黙って見送ってしまいました。申し訳ありません」
頭に手をあて、クリフォードはうな垂れた。
夢であってほしい、そう強く願っても、白いシーツを強く握った自分の握り拳はそのままだった。
ーーフォード
まだ耳の奥に残るエティの声に、クリフォードは歯を食いしばって心を落ち着かせた。
瀕死、その言葉に気が狂いそうになったが、逆に言えばまだ彼女は生きているという事だ。
今思えばあの日、エティはいつもより甘えてきた。その時はお互い気分が盛り上がっているからだと思っていたが、引っかかる事はいくつかあった。
紫銀の女を一人でなんとかしようと自ら俺に跨ったと?何故俺は動けなかった?あの切られた髪は?胸に突き刺さったナイフは?
ーー欲しいものができたの
あのセリフの後、ナイフを握ったエティを見て、欲しいのは俺の命かと思った。ああ、いいぞ、くれてやる。エティが望むなら俺は死んでもいいと思った。
鮮明に蘇ってくる記憶が、意識を失う直前のエティの顔を思い出させた。必死に泣くのを堪えてる、強がってる時のエティの顔だ。最後には彼女の笑う顔が見たかったのに、とその時思った。
「クリフォード様、大丈夫ですか?」
「……ああ、少し落ち着いた。取り乱して悪かった。さっき二日前と言ったな。王宮には何て言ってあるんだ?」
「倒れて目が覚めないとだけ」
「では暫くの間俺は意識不明という事にしておいてくれ」
「クリフォード様!?」
ベッドから降り、テキパキと着替え出したクリフォードにハンクは黙って側に立った。
「すまない。いつも俺の尻拭いばかりだな」
「何があったのです?これから何をしようとしているのですか!?」
ハンクが動揺を見せ声を荒げた。先程のハンクといい、こんな感情を露わにしたのを初めて見たとクリフォードは軽く驚いた。今は何が起こってもその衝撃は小さく感じる。
「俺にもよくわからない。ただ、紫銀の女にケリをつけようとエティが何かしたのは確かだ。俺はこれからエティを迎えに行く。ハンク、留守の間ここを頼む」
クリフォードはハンクに向かって立つと頭を下げた。
ハンクは信じられないとクリフォードの肩に手を置き身体を起こした。
「エティ殿に頼まれた時、お止めしておけばこんな事には…頭を下げるのは私の方です」
「いや、ハンクが止めてもエティは実行しただろうな。あいつはその辺の女と違うぞ」
色々な意味で、とドレス姿でレオに跨るエティを思い出し、クリフォードは寂しそうに少しだけ笑った。
クリフォードが身支度を済ませ馬小屋に行くと鼻息の荒いレオとシロがいた。ラズは何故か隅っこに頭を寄せてジッとしていた。
どうやら馬達もエティに何かあったと感づいているようだった。
「シロ、悪いがお前は留守番だ。レオ、休まず駆けてもらうがいいか?」
レオはクリフォードに向かって強く嘶いた。
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