私とあなたの相乗効果

るー

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こんな状態にしておいてこの人は本気で『少し』だと思っているのだろうか?私は既にトロトロになった顔を裕君に向けると上ずった声で答えた。

「こんな、されたら誰だって……」
「こんな可愛い顔みれるんなら、もっと早く手を出せばよかったな」

いつもの和やかな笑顔でそう言うと、裕君は私の耳を甘噛みし始めた。脳までダイレクトに伝わるピチャピチャという音が身体中をゾクゾクとさせ私を変な気分へといざなった。

「あっ、ひゃっ……やあっ」
「俺、フラれたくないから、ほのかが俺になびいてくれてからしか言いたくない。いま、気持ちはどの辺にある?」

言いたくないって……。言ったも同然のそんなセリフを抱き締められながら耳元で言われたら、もうアウトじゃないですか?

裕君の事を異性として見ていない以前に、今の時期は私が恋愛に関して受け皿を作っていなかった。
こんな事されるまでは、だけど。
もし今、恋愛モードに自分がいたならば、一番近くにいた裕君にベクトルは向いていたような気はする。高校時代には苦手な存在だったが、再会してからは裕君の色々な面を知って親しみが湧いたのは確かだ。

「裕君……と同じ方向は向いてると、思うけど……」
「……わかった、攻めるのは今日はここまでにしておく。場に流されてくっついて、後でやっぱり違ってたなんて言われたらたまんないからね」

耳への甘噛みはやめてくれたけどいつの間にか裕君の膝の上に横向きに乗せられていて、そこからは解放してくれそうになかった。顔は近いし、身体は密着して相変わらず心臓は煩いままだった。

「ほのかの誕生日っていつ?」
「誕生日?12月24日だけど」
「クリスマス!?マジか……」

裕君は難しい顔で前髪をかきあげ何か考え出した。しかしすぐに、その難しい顔のまま尋ねてきた。

「予定空けといてくんない?」
「クリスマスだよ?裕君お店が忙しいんじゃないの?それにもう、予定が入っちゃった」
「え?まさかあの大学の友達?」
「違うよ。ここだよ。さっき店長さんに会った時、かなり先だけどクリスマスはバイトに入って欲しいって頼まれた。そんな長期で雇って貰えると思ってなかったから驚いたよ。その頃にはもっと使えるバイトに成長してるといいんだけど」

裕君はホッとしたように笑うと、自分と私の額を合わせた。またキスされるかと感違いして一瞬身構えてしまった。

「一緒にいれるんならバイトでもいいや。それまでにはほのかを完全にオトしておきたいんだけどな」
「たぶん、そんなにかかんないと思うけど……」
「ん?何?」
「いえ!何でもない!」


その日、いつものように裕君にマンションまで送ってもらったが、途中から手を繋がれてまるで恋人のように隣をあるかれた。普段通りを装ったつもりだったけど、おそらく私の顔はずっと赤かったと思う。

私からすると裕君は同級生というよりお店の人っていう関係がしっくりきてて、向こうも同じだと思っていたのにどうして私なんかにその気になったかがわからない。


***


「えっ、お母さんもうすぐで退院するの?良かったね!」
「んー、でもまだリハビリは必要だし、ウチにいても思うように動けないからなぁ」
「そっか、しばらくは大変だよね」

閉店後、裕君と一緒に店内の清掃していたら、あと3日で裕君のお母さんが退院すると教えてもらった。話は時々聞いていて、とても明るい人らしく早く会ってみたくなった。

「ほのか。明日の弁当唐揚げ入れて欲しいな」
「うん、わかった……。あの、そんな近くで話さなくても聞こえるよ……?」

客席のテーブルを拭いていたところ、後ろからピタッと身体を寄せられ、肩口に顔を埋められた。裕君の息が首にかかって途端に身体が強張った。

「ゆ、裕君……?」
「いい匂いがする」
「そんなとこで喋らないで、くすぐったい…ひゃっ!」

く、首すじ舐められた……。
舐められた箇所を手で押さえて、真っ赤な顔で振り向くと頬が触れる位置に裕君の顔があって思わず息が止まった。

「うん、そうやってどんどん俺を意識して」

裕君は少し意地悪そうに笑うと「後は任せるよ」と厨房へ入っていった。

昨日からもう十分意識しまくりだよ。

今朝も顔を合わせるまでドキドキしっぱなしだったし、実は仕事中も落ち着かなかった。こんなんで仕事がちゃんとできるのか心配したけど、忙しい時間帯に入ってしまえば、いつも通りに作業できて安心したけど。

まだまだスピードは遅いものの、以前に比べて作業の手つきは良くなったと自分では思う。しかしせっかく作業に慣れてきて自信がついてきたところなのに今度は裕君に振り回されそうだ。


***


「おはよう……ございます」

その日、お店に行くと開店前の客席で悠々とコーヒーを飲んでる女性がいた。振り返ったその顔はパッと明るく笑うと嬉しそうに私を手招きした。
裕君のお母さんだ。
昨夜遅くに退院したと裕君がメールをくれていた。今日会えるとは思っていたけど、まさか朝イチで会うとは思わなかった。私は少し緊張しながら歩み寄った。

「ほのちゃんね!おはよ!ここ座って!」
「初めまして、佐藤です。バイトでお世話になってます。でも、これから仕事……」
「いいの、少しだけ!ね!」

言われるがままお母さんの正面の席に座った。
裕君のお母さんは裕君と同じで身体の線が細い。その細い右腕と右足をギブスしていて見てて痛々しい様子だった。薄化粧の顔を常にニコニコしながら私を眺め始めた。

「裕の高校ん時の同級生クラスメイトだって?」
「はい」
「私の事は和恵かずえちゃんって呼んで!」
「和恵さん、ですか?」
「さん、じゃなくて和恵ちゃんがいいな!」

……ウインクされた。想像以上の明るさとフレンドリーさに驚いた。見た目は私の母と同じ位の年齢だろうけど、中身は全然違う。明るくて、うん、裕君のお母さんって感じだ。
ここのお家はみんな明るくていい家族だなとしみじみ思った。


「この前ほのちゃんが作ってくれたお弁当半分食べたわよ。美味しかったわぁ。若いのにおかずのチョイスが渋いわよね~」
「……よく言われます」

定休日に店長さんが病院行く時に欲しいって言ったから渡したお弁当を食べたのね。

その後、開店まで和恵さんは客席で寛いでいたので、開店準備をしている間緊張しっぱなしだった。

「悪かったな。母さん仕事できないし、暇らしくって……」

昼休憩中、自分の弁当を食べていたら、裕君がやって来て申し訳なさそうに謝った。和恵さんは病院からお家に帰ってきただけだから、居ても当然だし別に謝る必要はないんだけどな。ただ心なしかずっと和恵さんに見られていた気はするけど。

「私が勝手に緊張しただけよ。それよりお弁当だけど、和恵さん戻ってきたのにまだ裕君の分だけ私が作るって変じゃない?」
「だめ?俺、ほのかの料理が食べたいんだけど」

休憩室で2人きり。隣に座る裕君はエプロンしたままだから多分店を抜けて来たんだろうけど、話しているうちにどんどん裕君の顔が近くなって来た。

「べ、別にいいけど……あの、戻らなくていいの?」
「ん、もうちょっとだけ」

そう言って私の耳元に唇を寄せると、裕君は耳たぶをペロリと舐めた。

「……ちょっ!」

ひと舐めした後、口に含み、軽く吸って歯で甘噛みされた。ゾクゾクと身体中を駆け巡る何かに囚われないように必死に堪えた。

「真っ赤になって、かわいい」

和やかに笑う裕君に、私はもう既に胸が高鳴るようになってしまった。
毎日恒例になってしまった、裕君からの攻撃に私の心と身体はいつまでもつんだろう。

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