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しおりを挟む「お風呂入る?」
「こんな時間にお風呂なんか使ったら変に思われない?」
暫く二人でごろごろしていたが夕方6時を回ってやっとベッドから出た。脱ぎ散らかしてあった服を着ていると裕君が上半身裸のデニム姿でくっついてきた。私も上半身はブラだけなので裕君の肌とぴたっと触れ合うとさっきまでの熱を思い出してしまう。
「あの二人帰ってくるの9時頃って言ってたから先に風呂入ったって言えばいいんじゃないか?二人でゆっくり入る?」
「そんな事してて万が一早く帰ってきたご両親に見つかったらヤダよ。それに一人で入りたい」
「残念、じゃあほのか先に入っておいでよ」
そう言って裕君は名残惜しそうに笑って私の唇にチュッとキスをした。つられて私も顔が緩んでしまった。残りの衣類を身につけ裕君の部屋から出ようとしたら後ろから腕を掴まれた。
「わっ、何?」
「ほのか、指輪もないのにプロポーズしてごめん。でも俺本気だから」
さっきまでの優しい笑顔と違って切ない表情を滲ませて私を見下ろしながら裕君は掴んでいた手に力を込めた。
裕君に抱かれてふわふわしていた私の恋心は確実なものとなり迷子になっていた私の未来は目の前の彼と融合しているように思えた。
「うん。でも裕君、自分の結婚式のケーキ自分で作る事になるけどいいの?」
「あ、そうなるね。頑張らせて頂きます」
お互い合わせた顔で微笑んだ。
いつも私を見守るように和やかに笑うこの人をやはり私は好きになった。色仕掛けを受けなくてもきっと好きになってた。
その後別々でシャワーを浴びて簡単に汗を流してから着ていた服をまた身につけて、二人で近くのコンビニへ行った。お腹が空いて晩御飯を作ろうとしたら裕君からコンビニで何か買おうと言われたからだ。多分ベッドで私がグッタリしてたのを見て気を遣ってくれたんだと思う。
二人でお弁当の棚の前にいると後ろから「あら、裕君じゃないの?」と声がした。
振り向くと和恵さんと同じ歳くらいの女性がいて裕君が親しそうに話し始めた。会話の内容からこの女性はどうやらご近所の奥さんらしい。暫くして目が合ったのでぺこりと頭を下げた。
「もしかして和恵ちゃんが言ってたお嫁さんになる予定の子!?裕君ったら可愛い子捕まえたのね~!」
「ちょっ、おばさん!!」
裕君がご近所さんの言葉を遮るように声を上げたがご近所さんの声のボリュームが大きかったのもあって最後までしっかり私の耳に届いた。
よ、嫁……?うん、確かにさっきプロポーズされたけど……。あれ?
ん?と眉を寄せて裕君を見ると見た事ないくらい慌ててご近所さんに何やらコソコソ話しかけている。ご近所さんは急にハッと顔をさせると「じゃあまたね~」と明らかな作り笑いで去って行った。
「えっと……裕君?嫁って?」
あちゃーと顔を歪ませて頭をポリポリ掻きながら裕君は気まずそうに目線を泳がせた。
「ごめん、なんか母さんがほのかの事凄い気に入ってて、このまま息子の嫁にしたいって近所に話し回ったみたいで……俺もつい最近それを知ったんだけど……」
何だこの浮気がバレてそれを問い詰めてるような状況は……。
しどろもどろで説明をされて、ふとある事を思い出した。
和恵さんとお茶をしているといつもやたら変な質問をされていたのだ。
『いい人はいるの?』
『就職先は家から通える距離で考えてるの?』
『好きなタイプは?』
『結婚は何歳くらいにしたい?』
他にも関係ない質問も受けていたので全く気づかなかったが今考えると……なるほど、リサーチされていたわけだ。
親しくしてくれてるとは感じていたが和恵さんにまさかそこまで気に入られてるとは思わなかった。ご近所に言って回るくらいだから私達の微妙な関係に気づいていたのかな。女の人って勘が鋭いっていうし。
裕君の家に戻り、買ってきたお弁当をダイニングで向かい合って食べながら裕君が色々話してくれた。
「最初にほのかに目をつけたのは父さんだよ。『若いのに落ち着いてて凄いしっかりした娘だ』って。彼女じゃないのかって何度も確認されたよ」
「えっ?そうなの?私、落ち着いてるんじゃなくてのんびり屋なんだけどなぁ」
「大して違わなくない?んで入院している母さんにほのかの話を父さんが嬉しそうにしたもんだから今度は母さんがほのかに興味津々でさ。まぁ二人がほのかの事を気に入ったのはすぐにわかったけど、まさか住み込みさせるとは思わなかった」
「……なんか、ごめん。住み込みの事裕君に事前に相談すればよかったね」
「いや、俺的にはめっちゃ嬉しい環境だけど、ほのかは仕事増えて大変じゃないのか?」
「ううん、全然」
そこへ元気な声が飛び込んできた。
「あら!もう戻ってたの?もっとゆっくり遊んでこればよかったのに~」
予告より早く8時頃にご両親は帰ってきた。お風呂でまったりしなくてよかった……。
今日は離れた場所で親戚の法事があったらしく二人共黒の礼服を着ていた。
和恵さんが私達を見ながらニコニコと上機嫌で同じテーブルについた。続いて茂さんもただいま、とにこやかに笑いながら腰を下ろした。
嫁に欲しいと思ってる人が息子とデートしてたらそりゃ喜ぶよね……。気づいてしまえば和恵さんはわかりやすい態度をしている。
みんなが揃ったので私がお茶を入れてそれぞれの前に並べると裕君はコホン、と咳払いして私をチラッと見た。その意味深な目線の意味は直後にわかった。
目を見開いた和恵さんと茂さんの目線が私の胸元にロックオンされていた。まさか、と自分で見下ろすとかがんだ拍子にTシャツの首元が弛《たる》んで胸元にあったつけられたばかりのいくつものキスマークがばっちり見えていた。
「……っ!!」
咄嗟に手で隠したが既に手遅れなのは瞬時に把握した。いつもエプロンがあってこんなに服がはだけないから油断してた。
つけた張本人を私が真っ赤な顔で睨らんだ事で二人は、ああ、と理解したように軽く頷いた。
「えっと、まあ……そういうことだから……」
みんなの目線を集めた裕君は私と同じくらい赤い顔でそう言った。
「もう!すっごい恥ずかしかった!」
「ごめんって、俺も十分恥ずかしかったら許して?」
「別に怒ってるわけじゃ……」
あれから気を遣ってか、ご両親はすぐに2階の自分達の部屋へ行ってしまった。裕君と私は1階の私が借りている部屋で一緒にいる。折りたたみ式の机に顔を突っ伏している私の真横で裕君は困ったようにため息をして机に肘をついている。
そりゃ身内に性事情知られた裕君よりはいいかもしれないけど、私だって毎日顔を合わせているし今後の事を考えたらそれこそ本当に顔から火が出そうだった。
「ほのかサン、こっち向かない?せっかく一緒にいるから顔を見てたいんだけど」
まだ羞恥で熱を持った顔を隣に向けると頬に手が伸びてきた。眉を下げて僅かに笑う裕君は私を引き寄せてすっぽりと腕の中に収めた。その広い胸板に頬をあてると心地よい心臓の音が伝わってきた。おかげで気持ちも少し落ち着いた。
「……裕君は私のどこがいいの?」
落ち着いたら降って湧いた疑問が気になった。周りに比べてノロいし人付き合いも得意じゃない。誇れるものは何も持ち合わせていないのに、ご両親もだけど裕君は私の何に惹かれたんだろう。
「ほのかはさ、自分の事を卑下しすぎだよ。自分で言うのもなんだけど俺は友達も多いし接客でいろんな人に会って人を見る目はあると思う。ほのかはしっかり芯があってそれをちゃんとこなしていくし同年代の子にしては礼儀作法もきちんとしてる。いいとこいっぱい持ってるよ。料理も上手いしね」
「あ、ありがと……そんな風に言われるとちょっと照れる……」
「ウチの親が気に入ったのはそのあたりだと思うけど俺はちょっと違うかな」
「え?」
裕君の身体から少し離れてすぐ近くにある顔を見上げた。優しく見下ろす瞳をじっと見つめると裕君は何かを思い出したように微笑んだ。
「顔についた小麦粉をさ、取ってくれてたろ?あん時の距離感にヤられた」
え?そんな事で?と私が驚くと裕君は、『寝癖を直すのもエプロンの紐を結ぶのも、あんな無防備に近寄られたら意識するだろ』って。
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