私とあなたの相乗効果

るー

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*その後

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「いらっしゃいませ」

カランカランと来客を知らせる鈴が鳴り私は控えめながら声をかけた。
入ってきたお客様は男女二人組で二人とも見覚えのある顔だった。
男性はくせ毛の茶色い短髪で眼鏡をかけている。裕君と同じくらい背がたかいが体格はガッチリしていた。隣にいる女性は後頭部の高い位置でひとつまとめにお団子が結ってあって目がクリッとした美人というより可愛らしい印象だった。

この二人、高校の時の同級生なのはわかるけど名前が思い出せない……。

男性の方が店の奥にいる裕君を呼んで欲しいと何気なしに私に言った事から考えると、相手は私を認識してなさそうだった。お互いわからないなら失礼じゃないよね?とちょっと安心して裕君を連れてくると男性同士楽しそうに店内で話し始めた。

一方、ケーキを物色していた連れの女性が私を見て急に動きが止まった。顔の表情からどうやら私に見覚えがあると気づいたらしい。

「……もしかして、佐藤…ほのかちゃん?」
「……はい、そうです」
「わぁ、久しぶり!ここで働いてたの?」
「う、うん……」

申し訳ないけど私は二人の名前が思い出せない……。
私の存在に気づいた男性も加わって話が広がり始め、私が笑顔の裏で冷や汗が出始めた頃、裕君が助け船?を出した。

「ほのかは俺の奥さんだから」
「えっ!結婚したの!?そっか、お互い同級生コンビね!」
「佐藤と佐藤、同じ名字なんて笑えるな!結婚しても離婚してもわかんねーじゃん」
「オイ武田、変な事言うなよ。でもそうなんだよな。名字変わんないから牽制になりゃしない」

溜息をつきながら裕君が隣にいる私を見下ろした。
裕君が口にしたのでやっと誰かわかった、武田君も私を見ると納得とばかりに頷いている。

変な心配しなくても私はモテないです……。

「で?式は日にち決まった?場所と時間教えてくれ。あと、イメージは前に聞いたままでいい?」
「日時と場所はここに書いてあるよ。ケーキに関しては特に変更ないからよろしくな」
「ちょっと待て、これ招待状じゃねーか」

式?ケーキ……?
もしかして……。

「裕君、もしかしてウエディングケーキ?」
「そ、ガーデンパーティー式でやるからって相談受けてさ」

受け取ったばかりの結婚式の招待状をヒラヒラさせながら裕君は嬉しそうに笑った。
前に聞かせてくれた裕君の将来の夢が今まさにそこにあって、私の気持ちも裕君の夢に寄り添っていたのと、裕君の嬉しそうな笑顔で、私は場所もわきまえずはしゃいでしまった。

「本当に!?凄い!!」

物珍しそうに私を見る武田君とその彼女。そして裕君が目を丸くして驚いている表情で我に返って赤くなった後、青ざめた。
営業中の店内にはチラホラお客様が座っている。慌ててお客様の方を確認すると特に私の声に反応する様子もなくすぐにホッとした。
顔色をコロコロ変えた私に裕君と武田君は声に出さず笑うと少し離れた場所で何やら話し始めた。


招待状それ、裕の名前しかないけどお前さえよければ奥さんも一緒に連れて来かいよ。言っとくけど周りの男は独身ばっかりだからな」
「連れて行くかはほのかに聞いて決めるよ。まぁ、連れて行っても横にずっと俺が居れば大丈夫だろ」
「先に結婚したなら何で教えてくれなかったんだよ。もしかしてできちゃったとか?」
「できてないよ。籍は入ってるけど、式はほのかが大学出てからだからまだ誰にも言ってないんだ。皆んなに教えると絶対に見に来るだろ?ウチの奥さん人見知りだからさ」
「そんな事言って他の男の目に晒したくないだけだろ。さっきの喜ぶ様子可愛かったもんな」
「う……。それもある……」


という会話を男性陣がしているとも知らずにほのかは目の前の同級生の名前を思い出すのに必死だった。確か同じクラスだったような気もするがどうしても思い出せないのでほのかは諦めて本人に聞く事にした。

「あの……ごめんなさい。私の事を覚えてもらってたのに私の方は名前が思い出せなくて……」
「ああ、いいのよ。1年の時にだけ一緒のクラスになっただけだし殆ど喋ったことなかったもんね。佐々木凛子だよ。もうすぐ武田になるけどね」
「佐々木さん……?あ、りんりんって呼ばれてた、佐々木さん?」
「そうよ。ねぇ、せっかく再会して旦那同士が親しいみたいだから私達も仲良くしない?よかったら結婚式に来てよ」
「えっ、いいの?本当に?私、結婚式出た事ないから嬉しいです」

自分の結婚式がまだなのでどんなものか関心が強くなってしまう。それに綺麗な花嫁さんを生で見たい。

凛子さんから仲良くしよう、と言われて友達の少ない私は更に嬉しかった。


***


武田と凛子の帰路での会話。

「裕の奥さんの事よく覚えてたな。俺どうやら3年の時同じクラスだったみたいだけど記憶にないや」
「ほのかちゃんは大人しかったからね。滅多に見せない笑顔が可愛いから私は覚えてたのよ。さっきも見た?あの笑顔!結婚したからかな、更に可愛くなったっていうか、綺麗になったよ」

こういう時、男性は返事に困ると武田は思考した。
凛子に同意して「可愛かった」なんて人の奥さんを褒めたら凛子の機嫌を損ねるかもしれない。だが実際、一般的な男からしたら確かにあれは可愛いとは思う。
否定も肯定も難しい。ここはもう無難に相槌で終わらせようと決めた。

「へえ、そうなんだ」
「ほのかちゃんも結婚式誘っちゃった。佐藤君も来るから一緒に来て貰えばいいでしょ?」
「別にいいけど……」

裕は自分が一緒に居れば大丈夫と言っていたが、逆効果じゃないか?裕と居る事でその可愛いと言われた笑顔になるんだぞ?
まぁ、いずれは周りにお披露目するんだし、自分の奥さんは自分で守るだろ。

「ケーキ楽しみだね!」

武田の隣を歩く凛子が嬉しそうに笑った。

大切な人が自分の側で幸せそうに、そして可愛く笑うなんて男にとってこれ以上の価値はないよな。

武田は凛子に「そうだな」と微笑みながらそう思った。

***

そして武田と凛子の結婚式。

裕は綺麗に着飾ったほのかを連れて参列したが、早くも後悔していた。
それはほのかを連れて来た事ではなく武田に頼んでほのかの席を自分の隣に指定した事だ。同じテーブルにはほのか以外全員同級生の男だった。

ガーデンパーティーの為、堅苦しい雰囲気ではなくテーブルも横長で、 まるで同窓会のような場になっていて、たくさんの会話が飛び交う中、ほのかは少し怯えたように俺の横にぴったりくっついていた。

こんな事なら女性ばかりのテーブルに混ぜて貰っておけば、ほのかがもう少し楽に式に参加できただろうし周りにいる男どもから目くらましにもなったのに。

その怯えた姿がより一層男心を掻き立てる事を微塵にも思っていなはいほのかは不安そうな表情で俺をチラチラ見て来る。

「コース料理が終われば席を移動してもいいみたいだからあっちの女の子のテーブルに行く?」
「ううん、裕君の側がいい。ごめんね、私の事は気にしないでほかの人と話をしてね」 
「大丈夫だよ、皆んなともちゃんと会話してるよ」

会話をしながらさりげなくほのかは俺の妻だとアピールしているけどな。

コース料理が終わってウエディングケーキが運ばれてくるとほのかの顔が一変した。今朝、作業台の上にあったあのケーキをほのかは見ているはずなのにまるで初めて見るようにキラキラとした笑顔でケーキに視線を送っている。その横顔を見て、早くほのかのためにウエディングケーキを作って、そして彼女の喜ぶ顔を見たいと思った。

ウエディングケーキは新郎新婦のリクエストでスクエア型二段で花をモチーフにしてある。色々なフルーツを花をかたどってカットして飾ってある。ウエディングケーキらしくサイズも大きく見栄えもあるがもちろん味も重視して作ってある。

想像以上の仕上がりだと武田と凛子さんは喜んでくれて安心したと同時にこの仕事にやりがいを感じた。
そしてそれを一緒に喜んでくれる存在がいるという幸せは、目の前の新郎新婦に負けないくらいあっただろう。

ケーキ入刀した後、切り分けられ会場の全員に食後のデザートとして配られた。
その時、武田がケーキを製作したのが俺だと紹介してくれたおかげで結婚式が終わった後、何人かが注文について問い合わせをしてきた。

よく考えたら会場には若い男女が多く、それは今後結婚を考えている人もいるわけで、今回の事がいい宣伝になったと後でわかった。


***


武田君と凛子さんの結婚式が終わり、敷地内の駐車場へ向かう途中「疲れただろ?」と裕君がいつもと変わらない和やかな笑顔で私を気遣ってきた。

あんなでっかいケーキを一人で作った裕君の方が絶対に疲れている筈なのに全くそんな様子もなく車の運転席に座った。
ウエディングケーキを運ぶ為に今日はお店の車で来ている。私が運転免許を持っていれば帰りぐらいは運転したのに、残念ながら今は助手席に大人しく座るしかない。

以前裕君は体力はあると自慢気に笑った事は覚えているけどさすがに徹夜は身体に辛いと思う。せめてこういう時には役に立ちたいから時間に余裕ができたら運転免許を取りに行こうと決めた。

「私なんかより裕君、ケーキお疲れ様でした。喜んで貰えて良かったね!」
「ああ、そうだな。あの笑顔が次の仕事への活力になるんだよな」

それより、と裕君はチラッと私を見た。

「もう今は二人きりだよ。いつもみたいに呼んでよ」

結婚式場に使ったガーデンレストランの裏手の屋外の駐車場でまだエンジンをかけてない車の中、窓は開いてないし車は他にも停まっているけど人影はない。別に気にする事ないのになぜか小声になってしまった。

「……裕」

まだ、くすぐったく感じるその呼び方に思わず顔を赤らめると満足気に笑った裕君が顔を近づけていつものように誘惑をしかけてきた。

「イチャイチャできるとこ行かない?」
「え?疲れてるのに大丈夫なの?」
「ほのかを可愛がる体力はちゃんとあるよ」
「ちょっ……!」

至近距離にあった裕君の顔が更に寄った。チュッと軽く唇にキスした後、顔を離したもののまだすぐに触れ合えそうな距離で裕君が低音を効かせて囁いた。

「今日のほのか綺麗だね」
「あ、ありがとう……」
「メイクしてくれたの凛子さんの友達だっけ?」
「うん。中学の時の同級生って言ってた」

朝、会場に着いてケーキを運んだ時に凛子さんに捕まり時間があるからと言ってヘアメイクを担当していた女性に私はグレードアップしてもらった。ストレートの髪はコテでふんわりカールして、いつもよりは時間をかけたメイクも上から少し足されただけで雰囲気かグッと大人っぽく変わった。
塗りたくっていないのに凄い!とプロのヘアメイクさんの仕事ぶりを実感した。

大人っぽいといえば裕君の滅多に見られないスーツ姿に、今日は何度もチラチラと見てしまった。髪もワックスで軽く後ろに流してあって大人の色気が漏れまくっている。

「裕も今日素敵……」

こんなカッコいい人が旦那様なんて、本当は自慢して歩きたい気分だけど実際は隣に並ぶと気が引けちゃう。
何人かいた同級生の女の子達に裕君と結婚したのを驚かれたけど、お似合いだよって言われて顔が綻んでしまった。



武田君と凛子さんの結婚式をきっかけにポツポツとケーキの注文が入るようになった。それはウエディングケーキもあるしバースデーケーキなどお客様の希望に合わせて裕君が作るというオーダーケーキ。それを利用した人からまたクチコミで広がって仕事は増えていった。
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