1 / 7
1
しおりを挟む
今日もあの子が僕の元にやってくる。
いつもどおり制服の折り目は正しく、少し重そうな鞄を左手に持って、律動的な足取りで僕の元へやってくる。
「今日は寒いですね」
呼びかけても返事はない。
――ええ、そうですね。雨になりそうですね。
僕は彼女の返事を夢想する。
もうしばらく声を聞いてないから、ぼんやりとしか想像することができない。
彼女は黙って僕の隣にそっと並んだ。昨日とおなじように。
その視線は常に低い。ただでさえ長い睫毛が強調されている。滑らかな黒髪が横からの突風に吹かれ、僕にほんの少し毛先があたった。
それだけで僕は全身が痺れた。
けれど、彼女は僕をちらりとも見ようとしない。
そして今日も、彼女は僅かな時間で僕の元を離れていく。
僕はそれをただ見送った。昨日と同じように。
だって、――そうすることしかできない。
なぜなら僕は――バス停だから。
時刻表とバス停名の書かれた丸いアルミ複合板、それを支えるアルミパイプと土台が僕の身体だ。バス停名は白谷町。
しかし、この辺りの人間はただ『バス停』とだけ僕を呼ぶ。
いつもどおり制服の折り目は正しく、少し重そうな鞄を左手に持って、律動的な足取りで僕の元へやってくる。
「今日は寒いですね」
呼びかけても返事はない。
――ええ、そうですね。雨になりそうですね。
僕は彼女の返事を夢想する。
もうしばらく声を聞いてないから、ぼんやりとしか想像することができない。
彼女は黙って僕の隣にそっと並んだ。昨日とおなじように。
その視線は常に低い。ただでさえ長い睫毛が強調されている。滑らかな黒髪が横からの突風に吹かれ、僕にほんの少し毛先があたった。
それだけで僕は全身が痺れた。
けれど、彼女は僕をちらりとも見ようとしない。
そして今日も、彼女は僅かな時間で僕の元を離れていく。
僕はそれをただ見送った。昨日と同じように。
だって、――そうすることしかできない。
なぜなら僕は――バス停だから。
時刻表とバス停名の書かれた丸いアルミ複合板、それを支えるアルミパイプと土台が僕の身体だ。バス停名は白谷町。
しかし、この辺りの人間はただ『バス停』とだけ僕を呼ぶ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる