クッカサーリ騒動記

結城鹿島

文字の大きさ
20 / 21
5女王、憤る

6

しおりを挟む
「陛下、お土産」

昼の食卓でしなびた雑草を渡され、ティルダは半眼でヨニを睨んだ。

「ヨニ、帰ってきたと思ったら、なんなのこれは」

その辺の茂みで咲いているような花がお土産とは、嫌がらせでもしたいのだろうか。

「いや、俺の後輩の――多分、精一杯のお礼、なんじゃねーかな」

半日追っ手を誤魔化して、うんざりするほど迂回してから予定の場所に向かったら、首に合図の布を結ばれたフラーに出迎えられたのだ。布にはこの花が挟まれていた。布は人の手で結ばれていたから、偶然ということはない。ヨニの解釈にティルダは態度を翻す。

「なんだ、それならありがたく頂くわよ。押し花にするわ」

エルマを匿ったりすることはできないけれど、どこかで人生をやりなおして欲しい。
例えば、どこかの侍従みたいに。
空いている椅子に腰を下ろしたヨニの顔を何気なく眺めていたら、なんだか見つめ合っている状況に気がついた。

「な、なによ」
「陛下、俺がいなくて寂しかったか?」
「帰国の挨拶もせずにいきなりなんなのかしら。牢屋に入れるわよ」

言っただけで、ティルダは別に仰々しい報告は欲していない。いつも通りのヨニが帰ってきてくれただけで十分だ。
侍従が側にあるのは当然のことなので、いちいち口にしたりしないけれど。

「なんの罪でだよ」
「国王への無礼で充分でしょ。もしくは顔がゆるすぎる罪」
「強権反対!」

二人でふざけていると、ニコ・メリカントがヨニの分の昼食を運んできた。

「お、おっさんありがとな。急いで帰ってきたから、昼まだだったんだよ」

ヨニはクッカサーリの外では食堂にも入れない。人の集まるところに近づくのは危険だから。

「さあ、今日も味は良いですよ。ヨニ殿もたくさん召し上がってください」

ティルダの好物ばかりのメニューにヨニは首を傾げた。

「なんだこれ。そういや、おっさんが王宮に居るって、料理長どうかしたのか? 風邪でも引いたのかよ」

何気ないヨニの問いにティルダがぎくりと反応した。
気付かず、ニコが口を開く。

「いえ、それがですな。その――」
「特に何もないわ」

慌てるティルダの制止を捨て置いて、ヨニは重ねて尋ねる。

「何がどうしたんだよ?」
「どなたかがいない間に、陛下がお食事を残すことがあったので、料理長一人の手に余るから助っ人に呼ばれたんですって」
「ちょっと、キーラ!」

食堂にやって来たキーラに暴露され、ティルダは狼狽えた。

「胃が痛かったからよ!胃が!」
「あらそうなんですか、じゃあ、侍医を呼びませんとね」

人の悪い笑みを浮かべるキーラにティルダは吠える。

「もうすっかりよくなっているから、結構よ!」

ヨニがクッカサーリを離れたのは、たった三日。それだけだ。
心配は確かにした。しなかったといったら嘘だ。
しかし、食事が喉を通らなかったというのは大げさだ。別にヨニのせいじゃない。

「もうなんの用なの? 約束はしてなかった筈だけど」

咎めるようにキーラを睨む。と、真面目な顔でキーラが言った。

「サクルさんから連絡があったので、一応報告を。しばらくはクイ。ヴェント全体でラズワルディアの軍の動きを注視してくれるそうです」

軍が動けば物流もそれに合わせて動きを変える。荷や手紙を運ぶことを生業にしているクイ・ヴェントたちの目は、何かあれば異常事態を見つけてくれるだろう。

「ありがたいわね……」
「でも、なんでキーラさんの所に連絡が?」
「あらヨニ殿、野暮ですね。勿論良い仲だから、ですわ。私信のついでです」

ごほっとティルダは紅茶を吹いた。いつか聞き出してやろうと思った謎があっさり解明されてしまった……。

「いつの間にそんなことに……」
「あら、陛下、のろけを聞いて下さるんですか?」

きらきらした眼差しで迫られ、ティルダは慄いた。聞きたいような気もするが、なんだか長くなりそうだ。目を逸らすと、にやにや笑うヨニと視線が合った。

「うんうん、平和でいいな!このくらい緩くないとな!」
やけに嬉しそうなヨニになんだか腹が立ったので、ティルダはテーブルの下でヨニの足を踏んだ。
「いて」
(人に心配させておいて……!)
八つ当たりのような気もするが、ヨニが踏みやすい足をしているのが悪い。

「ヨニ殿どうかしました?」

キーラが小首を傾げている。

「いや、別になんでもないんだ」
「そうね、別になにもないわよね?」
「ないよ。ないない。まったく今日も平和そのものだな!」


空は青く鮮やかで、笑っていてほしい相手は元気で、揉め事もない。
だから、

――本日もクッカサーリは平和なり。



【おわり】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...