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5女王、憤る
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「陛下、お土産」
昼の食卓でしなびた雑草を渡され、ティルダは半眼でヨニを睨んだ。
「ヨニ、帰ってきたと思ったら、なんなのこれは」
その辺の茂みで咲いているような花がお土産とは、嫌がらせでもしたいのだろうか。
「いや、俺の後輩の――多分、精一杯のお礼、なんじゃねーかな」
半日追っ手を誤魔化して、うんざりするほど迂回してから予定の場所に向かったら、首に合図の布を結ばれたフラーに出迎えられたのだ。布にはこの花が挟まれていた。布は人の手で結ばれていたから、偶然ということはない。ヨニの解釈にティルダは態度を翻す。
「なんだ、それならありがたく頂くわよ。押し花にするわ」
エルマを匿ったりすることはできないけれど、どこかで人生をやりなおして欲しい。
例えば、どこかの侍従みたいに。
空いている椅子に腰を下ろしたヨニの顔を何気なく眺めていたら、なんだか見つめ合っている状況に気がついた。
「な、なによ」
「陛下、俺がいなくて寂しかったか?」
「帰国の挨拶もせずにいきなりなんなのかしら。牢屋に入れるわよ」
言っただけで、ティルダは別に仰々しい報告は欲していない。いつも通りのヨニが帰ってきてくれただけで十分だ。
侍従が側にあるのは当然のことなので、いちいち口にしたりしないけれど。
「なんの罪でだよ」
「国王への無礼で充分でしょ。もしくは顔がゆるすぎる罪」
「強権反対!」
二人でふざけていると、ニコ・メリカントがヨニの分の昼食を運んできた。
「お、おっさんありがとな。急いで帰ってきたから、昼まだだったんだよ」
ヨニはクッカサーリの外では食堂にも入れない。人の集まるところに近づくのは危険だから。
「さあ、今日も味は良いですよ。ヨニ殿もたくさん召し上がってください」
ティルダの好物ばかりのメニューにヨニは首を傾げた。
「なんだこれ。そういや、おっさんが王宮に居るって、料理長どうかしたのか? 風邪でも引いたのかよ」
何気ないヨニの問いにティルダがぎくりと反応した。
気付かず、ニコが口を開く。
「いえ、それがですな。その――」
「特に何もないわ」
慌てるティルダの制止を捨て置いて、ヨニは重ねて尋ねる。
「何がどうしたんだよ?」
「どなたかがいない間に、陛下がお食事を残すことがあったので、料理長一人の手に余るから助っ人に呼ばれたんですって」
「ちょっと、キーラ!」
食堂にやって来たキーラに暴露され、ティルダは狼狽えた。
「胃が痛かったからよ!胃が!」
「あらそうなんですか、じゃあ、侍医を呼びませんとね」
人の悪い笑みを浮かべるキーラにティルダは吠える。
「もうすっかりよくなっているから、結構よ!」
ヨニがクッカサーリを離れたのは、たった三日。それだけだ。
心配は確かにした。しなかったといったら嘘だ。
しかし、食事が喉を通らなかったというのは大げさだ。別にヨニのせいじゃない。
「もうなんの用なの? 約束はしてなかった筈だけど」
咎めるようにキーラを睨む。と、真面目な顔でキーラが言った。
「サクルさんから連絡があったので、一応報告を。しばらくはクイ。ヴェント全体でラズワルディアの軍の動きを注視してくれるそうです」
軍が動けば物流もそれに合わせて動きを変える。荷や手紙を運ぶことを生業にしているクイ・ヴェントたちの目は、何かあれば異常事態を見つけてくれるだろう。
「ありがたいわね……」
「でも、なんでキーラさんの所に連絡が?」
「あらヨニ殿、野暮ですね。勿論良い仲だから、ですわ。私信のついでです」
ごほっとティルダは紅茶を吹いた。いつか聞き出してやろうと思った謎があっさり解明されてしまった……。
「いつの間にそんなことに……」
「あら、陛下、のろけを聞いて下さるんですか?」
きらきらした眼差しで迫られ、ティルダは慄いた。聞きたいような気もするが、なんだか長くなりそうだ。目を逸らすと、にやにや笑うヨニと視線が合った。
「うんうん、平和でいいな!このくらい緩くないとな!」
やけに嬉しそうなヨニになんだか腹が立ったので、ティルダはテーブルの下でヨニの足を踏んだ。
「いて」
(人に心配させておいて……!)
八つ当たりのような気もするが、ヨニが踏みやすい足をしているのが悪い。
「ヨニ殿どうかしました?」
キーラが小首を傾げている。
「いや、別になんでもないんだ」
「そうね、別になにもないわよね?」
「ないよ。ないない。まったく今日も平和そのものだな!」
空は青く鮮やかで、笑っていてほしい相手は元気で、揉め事もない。
だから、
――本日もクッカサーリは平和なり。
【おわり】
昼の食卓でしなびた雑草を渡され、ティルダは半眼でヨニを睨んだ。
「ヨニ、帰ってきたと思ったら、なんなのこれは」
その辺の茂みで咲いているような花がお土産とは、嫌がらせでもしたいのだろうか。
「いや、俺の後輩の――多分、精一杯のお礼、なんじゃねーかな」
半日追っ手を誤魔化して、うんざりするほど迂回してから予定の場所に向かったら、首に合図の布を結ばれたフラーに出迎えられたのだ。布にはこの花が挟まれていた。布は人の手で結ばれていたから、偶然ということはない。ヨニの解釈にティルダは態度を翻す。
「なんだ、それならありがたく頂くわよ。押し花にするわ」
エルマを匿ったりすることはできないけれど、どこかで人生をやりなおして欲しい。
例えば、どこかの侍従みたいに。
空いている椅子に腰を下ろしたヨニの顔を何気なく眺めていたら、なんだか見つめ合っている状況に気がついた。
「な、なによ」
「陛下、俺がいなくて寂しかったか?」
「帰国の挨拶もせずにいきなりなんなのかしら。牢屋に入れるわよ」
言っただけで、ティルダは別に仰々しい報告は欲していない。いつも通りのヨニが帰ってきてくれただけで十分だ。
侍従が側にあるのは当然のことなので、いちいち口にしたりしないけれど。
「なんの罪でだよ」
「国王への無礼で充分でしょ。もしくは顔がゆるすぎる罪」
「強権反対!」
二人でふざけていると、ニコ・メリカントがヨニの分の昼食を運んできた。
「お、おっさんありがとな。急いで帰ってきたから、昼まだだったんだよ」
ヨニはクッカサーリの外では食堂にも入れない。人の集まるところに近づくのは危険だから。
「さあ、今日も味は良いですよ。ヨニ殿もたくさん召し上がってください」
ティルダの好物ばかりのメニューにヨニは首を傾げた。
「なんだこれ。そういや、おっさんが王宮に居るって、料理長どうかしたのか? 風邪でも引いたのかよ」
何気ないヨニの問いにティルダがぎくりと反応した。
気付かず、ニコが口を開く。
「いえ、それがですな。その――」
「特に何もないわ」
慌てるティルダの制止を捨て置いて、ヨニは重ねて尋ねる。
「何がどうしたんだよ?」
「どなたかがいない間に、陛下がお食事を残すことがあったので、料理長一人の手に余るから助っ人に呼ばれたんですって」
「ちょっと、キーラ!」
食堂にやって来たキーラに暴露され、ティルダは狼狽えた。
「胃が痛かったからよ!胃が!」
「あらそうなんですか、じゃあ、侍医を呼びませんとね」
人の悪い笑みを浮かべるキーラにティルダは吠える。
「もうすっかりよくなっているから、結構よ!」
ヨニがクッカサーリを離れたのは、たった三日。それだけだ。
心配は確かにした。しなかったといったら嘘だ。
しかし、食事が喉を通らなかったというのは大げさだ。別にヨニのせいじゃない。
「もうなんの用なの? 約束はしてなかった筈だけど」
咎めるようにキーラを睨む。と、真面目な顔でキーラが言った。
「サクルさんから連絡があったので、一応報告を。しばらくはクイ。ヴェント全体でラズワルディアの軍の動きを注視してくれるそうです」
軍が動けば物流もそれに合わせて動きを変える。荷や手紙を運ぶことを生業にしているクイ・ヴェントたちの目は、何かあれば異常事態を見つけてくれるだろう。
「ありがたいわね……」
「でも、なんでキーラさんの所に連絡が?」
「あらヨニ殿、野暮ですね。勿論良い仲だから、ですわ。私信のついでです」
ごほっとティルダは紅茶を吹いた。いつか聞き出してやろうと思った謎があっさり解明されてしまった……。
「いつの間にそんなことに……」
「あら、陛下、のろけを聞いて下さるんですか?」
きらきらした眼差しで迫られ、ティルダは慄いた。聞きたいような気もするが、なんだか長くなりそうだ。目を逸らすと、にやにや笑うヨニと視線が合った。
「うんうん、平和でいいな!このくらい緩くないとな!」
やけに嬉しそうなヨニになんだか腹が立ったので、ティルダはテーブルの下でヨニの足を踏んだ。
「いて」
(人に心配させておいて……!)
八つ当たりのような気もするが、ヨニが踏みやすい足をしているのが悪い。
「ヨニ殿どうかしました?」
キーラが小首を傾げている。
「いや、別になんでもないんだ」
「そうね、別になにもないわよね?」
「ないよ。ないない。まったく今日も平和そのものだな!」
空は青く鮮やかで、笑っていてほしい相手は元気で、揉め事もない。
だから、
――本日もクッカサーリは平和なり。
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