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1章 炎の瞳のウルリカ
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「ウルリカ、此処にいたのかい?」
静かな声で過去から呼び戻される。もっとも足音で、こちらへ向かっている事自体にはずいぶん前から気づいてはいた。
目隠しをしている時間が長いため、ウルリカはすっかり音には敏感になった。今では一切視覚に頼らずとも暮らしていけるほどだ。
足音の主に相対する前に、外していた目隠しを手早く付け直し、声の聴こえた方へ振り向く。
「イジュア様、どうされました?」
柔らかくウルリカの名を呼んだ彼、イジュアが今回の仕事の標的だ。
ただ、まだその時ではないと『男たち』に言われている。効果的なタイミングで燃やすことが重要らしい。
「銀湖琴を見つけてもらったんだ。弾いてくれるね?ウルリカ」
「はい、イジュア様」
歌と楽器は男たちに引き取られてから覚えたものだ。ウルリカは標的の前に出るまでは、目隠しをして盲目を演じなければならない。何も出来ない盲目の女では、標的の気を引くことができない。ここでも盲目の楽人を演じている。会話をするよりも、楽器を奏でている方がよっぽど易しいので楽人の真似事は苦ではない。
イジュアの後について中庭の東屋へ向かう。
中庭の東屋は他愛ない時間を過ごすお決まりの場所だ。
貴族とお抱えの楽人、それが現在のイジュアとの関係。
『男たち』からの指示を待つ間は、標的であるイジュアの要求に答え、距離を縮めることがウルリカの仕事だ。だからどんな楽器でも弾いてみせるつもりだが、銀湖琴とはまた珍しいものを持ってきたものだと感心した。
「さて、君にどのくらい銀湖琴が弾きこなせるかな」
銀湖琴は弾きこなすのが難しい楽器だ。その辺の楽師には弾きこなすことはできないだろう。
だが、ウルリカの好きな楽器でもある。
遥か北の国クルーガにある、一年を通して決して溶けぬ銀湖の氷が割れる音が再現されているという琴だ。矛盾を孕んだ音は澄み、決して熱を感じさせない。硬すぎるという人間も多いが、ウルリカの耳には心地良く響く。
選んだのは迎春の歌。どこまでも矛盾する響き。
ウルリカは一心に腕を動かした。長い難曲だが、一気に弾ききる。
最後の一音が静かに消えるのを待って、一礼した。
「……見事だ。本当に見事だよ、ウルリカ」
普段より上気した声でイジュアが言った。
イジュアは、音楽のことになると、まるで子供のように熱中する。
「ありがとうございます」
「銀湖琴は弾くのがとても難しいのに、素晴らしい。本当に王宮の楽師も顔負けだと思うよ。知っているかい? 銀湖の底には琴が沈んでいるから、氷の割れる音が琴の響きなんだって言い伝えがあるのを」
「……私は氷の割れる音を模していると教えられました――」
「うん、それが一般的な説だけど。それだと音階が揃わないだろう? 氷の割れる音なんて。琴が沈んだ伝説が先なんだよ」
けれど
「――そう、銀湖は氷の溶けない湖だ。そもそも琴を沈めることが出来ないよね。不思議な話だよ」
何気ない話をしていても、イジュアの正確な発音には生まれの良さが滲む。きっと身分の高い生まれなのだろう。いや、王宮の楽師の音を聴いたことがあるということは、『きっと』どころではなく、高い身分の人間だ。
イジュアを殺せと言われたものの、あらかじめ聞かされたのは名前だけで、他のことは何も知らない。音楽が好きなことだって、この屋敷にきてから知った。
イジュアは人と会話する事に慣れている。自分を見せる事にも慣れている。穏やかに微笑んでいるだろう様が想像できた。どんな人なのか、姿形を想像することすら出来ないが、ウルリカとは住んでいる世界が違うことだけは間違いない。
「どうしたの、ウルリカ。気分が悪いかい?」
「……いえ。――はい、少し眩暈が…」
「そうか、人を呼ぼうか?」
「いえ、大丈夫です。今日はこれで失礼します」
重ねて人を呼ぼうとするイジュアに断り、一人で部屋に戻った。
◇
与えられた部屋に戻り、目隠しを外す。明かりに慣れるように、目隠しを取ってもすぐには瞼を開けない。ウルリカは目隠しを手にしたまま呟いた。
「ばかばかしい……」
そう、声に出すことも馬鹿馬鹿しい。だって、
――殺す標的と自分を比べるなんて。
益体もないことを考えてしまうのは、『男たち』から連絡がなかなか来ないからだ。
ウルリカは意識して瞬きを繰り返した。
目が慣れぬ内は、辺りの輪郭がぼやけて見える。そのうえ、夕闇が部屋のディティールを隠した。ウルリカに与えられたこの部屋は、イジュアが言いつけたのか、目の利かぬ人間に使いやすい家具の配置になっている。倒してしまいそうな高さのある花瓶などは無い。ただし、良い香りの鉢植えがさりげなく部屋の隅に配されてはいる。
気を使われているのが隅々から分かった。盲目の人間には不要なはずの色合いへの気遣いも、なぜだかウルリカを苛立たせた。
薄暗い部屋の中、ウルリカは立ち尽くし、再び目を閉じた。瞑目した方が感覚が冴えるような気がしてしまう。瞼を閉じ、訪れた暗闇の中、ふと違和感を覚えた。まるで人の気配のような、何かが――
「……だれ?」
「おや、耳だけでなく鼻も効くとみえる」
とっさに目を開く。
声に遅れて、一瞬で床から影が湧き上がった。ウルリカの目前、影は人の形を作る。
異常な事態に警戒を抱き、ウルリカは迷うことなく真正面からその影を睨んだ。
誰であれウルリカの瞳に映った瞬間死ぬ筈――だが、影は揺らぎもしない。
「アタシは影だからね。そんな目では燃えやしないさ」
声は確かにするのに、どうやら影から聞こえているわけではない。影からは、生き物ならば発する一切の音は勿論、臭いも何も伝わってこない。
ウルリカは眉を顰めた。
「――お前は……、人間じゃないの?」
「アタシは森の魔女。願いに見合う代償を差し出すならば、どんな望みをも叶える魔女。お前の父親の願いを届けにきたのさ」
「父親……?」
そんな存在があったことをウルリカは久々に思い出した。
「私の父は生きているの?」
そんな質問が浮かぶことに嫌気がさす。なぜか、とっくに死んでいたような気がしていた。
「今はもう生きていないね。病を得て、最後の余力でアタシのところへ来たらしい。望みを口にすることは出来たが、命はそこまで。代償を貰ったからには天秤を傾ける訳にはいかない。答えはお前のところへ持ってくるのが願いの内だと思ってね」
もう生きていないと聞いて、ウルリカは父親への興味をほとんど失った。だが、一つだけ
「父は…何を聞いたの?」
魔女に尋ねた。残りの寿命を使ってまで、何を問うたのか。答えをウルリカに届けるのが願いの内とは、一体どんな質問だったのか。それは知りたいと思った。
「お前を滅ぼす方法さ。直接手にかけ、呪いが伝播するのを恐れたんだ。だから、お前が瞳の呪いと共に、滅びる方法をお尋ねだったよ」
真っ黒な影そのものの魔女がにたりと笑ったのが、なぜだかわかった。
「瞳の呪いと共に滅びる方法……?」
ウルリカは茫然と呟いた。そんなものがあるのか。
「答えは『鏡を見れば死ぬ』だ」
言うやいなや、現れた時と同じく、影の魔女は煙のようにかき消えた。
(鏡を見れば死ぬ……?)
この目は自分自身にも有効だということだろうか。
ウルリカは今まで鏡を見たことはない。そのために死んでないのか、確認することはできないし、これからも鏡を見るつもりはない。
だって見たくなんてない。自分の顔なんて。この瞳がどんな色をしているかなんて知りたくない。自嘲がこぼれる。
いっそ死んでしまおうかと、これまで何度も思ったのに。ただ、自分自身を見るだけで、簡単に死ねると分かったら、ウルリカは死にたいとは思わなかった。生きる目的などなくても。幼い頃と同じだ。
最後に自分の目に映るのはなんだろうか――ウルリカ自身かもしれないし、名も知れぬ誰かかもしれない。ただ、きっと下らない相手だろう。そう思った。
数日後、ウルリカにあてがわれた部屋の扉の下に手紙が挟まれていた。
『男たち』からの指示だった。
日取りは七日後の聖カニアの祭りの席で。
(ようやく…)
イジュアを殺す時が来たのだ。
漸くここを離れることができる。ウルリカは安堵した。
なのに、部屋の温度が急に下がったように感じた。
静かな声で過去から呼び戻される。もっとも足音で、こちらへ向かっている事自体にはずいぶん前から気づいてはいた。
目隠しをしている時間が長いため、ウルリカはすっかり音には敏感になった。今では一切視覚に頼らずとも暮らしていけるほどだ。
足音の主に相対する前に、外していた目隠しを手早く付け直し、声の聴こえた方へ振り向く。
「イジュア様、どうされました?」
柔らかくウルリカの名を呼んだ彼、イジュアが今回の仕事の標的だ。
ただ、まだその時ではないと『男たち』に言われている。効果的なタイミングで燃やすことが重要らしい。
「銀湖琴を見つけてもらったんだ。弾いてくれるね?ウルリカ」
「はい、イジュア様」
歌と楽器は男たちに引き取られてから覚えたものだ。ウルリカは標的の前に出るまでは、目隠しをして盲目を演じなければならない。何も出来ない盲目の女では、標的の気を引くことができない。ここでも盲目の楽人を演じている。会話をするよりも、楽器を奏でている方がよっぽど易しいので楽人の真似事は苦ではない。
イジュアの後について中庭の東屋へ向かう。
中庭の東屋は他愛ない時間を過ごすお決まりの場所だ。
貴族とお抱えの楽人、それが現在のイジュアとの関係。
『男たち』からの指示を待つ間は、標的であるイジュアの要求に答え、距離を縮めることがウルリカの仕事だ。だからどんな楽器でも弾いてみせるつもりだが、銀湖琴とはまた珍しいものを持ってきたものだと感心した。
「さて、君にどのくらい銀湖琴が弾きこなせるかな」
銀湖琴は弾きこなすのが難しい楽器だ。その辺の楽師には弾きこなすことはできないだろう。
だが、ウルリカの好きな楽器でもある。
遥か北の国クルーガにある、一年を通して決して溶けぬ銀湖の氷が割れる音が再現されているという琴だ。矛盾を孕んだ音は澄み、決して熱を感じさせない。硬すぎるという人間も多いが、ウルリカの耳には心地良く響く。
選んだのは迎春の歌。どこまでも矛盾する響き。
ウルリカは一心に腕を動かした。長い難曲だが、一気に弾ききる。
最後の一音が静かに消えるのを待って、一礼した。
「……見事だ。本当に見事だよ、ウルリカ」
普段より上気した声でイジュアが言った。
イジュアは、音楽のことになると、まるで子供のように熱中する。
「ありがとうございます」
「銀湖琴は弾くのがとても難しいのに、素晴らしい。本当に王宮の楽師も顔負けだと思うよ。知っているかい? 銀湖の底には琴が沈んでいるから、氷の割れる音が琴の響きなんだって言い伝えがあるのを」
「……私は氷の割れる音を模していると教えられました――」
「うん、それが一般的な説だけど。それだと音階が揃わないだろう? 氷の割れる音なんて。琴が沈んだ伝説が先なんだよ」
けれど
「――そう、銀湖は氷の溶けない湖だ。そもそも琴を沈めることが出来ないよね。不思議な話だよ」
何気ない話をしていても、イジュアの正確な発音には生まれの良さが滲む。きっと身分の高い生まれなのだろう。いや、王宮の楽師の音を聴いたことがあるということは、『きっと』どころではなく、高い身分の人間だ。
イジュアを殺せと言われたものの、あらかじめ聞かされたのは名前だけで、他のことは何も知らない。音楽が好きなことだって、この屋敷にきてから知った。
イジュアは人と会話する事に慣れている。自分を見せる事にも慣れている。穏やかに微笑んでいるだろう様が想像できた。どんな人なのか、姿形を想像することすら出来ないが、ウルリカとは住んでいる世界が違うことだけは間違いない。
「どうしたの、ウルリカ。気分が悪いかい?」
「……いえ。――はい、少し眩暈が…」
「そうか、人を呼ぼうか?」
「いえ、大丈夫です。今日はこれで失礼します」
重ねて人を呼ぼうとするイジュアに断り、一人で部屋に戻った。
◇
与えられた部屋に戻り、目隠しを外す。明かりに慣れるように、目隠しを取ってもすぐには瞼を開けない。ウルリカは目隠しを手にしたまま呟いた。
「ばかばかしい……」
そう、声に出すことも馬鹿馬鹿しい。だって、
――殺す標的と自分を比べるなんて。
益体もないことを考えてしまうのは、『男たち』から連絡がなかなか来ないからだ。
ウルリカは意識して瞬きを繰り返した。
目が慣れぬ内は、辺りの輪郭がぼやけて見える。そのうえ、夕闇が部屋のディティールを隠した。ウルリカに与えられたこの部屋は、イジュアが言いつけたのか、目の利かぬ人間に使いやすい家具の配置になっている。倒してしまいそうな高さのある花瓶などは無い。ただし、良い香りの鉢植えがさりげなく部屋の隅に配されてはいる。
気を使われているのが隅々から分かった。盲目の人間には不要なはずの色合いへの気遣いも、なぜだかウルリカを苛立たせた。
薄暗い部屋の中、ウルリカは立ち尽くし、再び目を閉じた。瞑目した方が感覚が冴えるような気がしてしまう。瞼を閉じ、訪れた暗闇の中、ふと違和感を覚えた。まるで人の気配のような、何かが――
「……だれ?」
「おや、耳だけでなく鼻も効くとみえる」
とっさに目を開く。
声に遅れて、一瞬で床から影が湧き上がった。ウルリカの目前、影は人の形を作る。
異常な事態に警戒を抱き、ウルリカは迷うことなく真正面からその影を睨んだ。
誰であれウルリカの瞳に映った瞬間死ぬ筈――だが、影は揺らぎもしない。
「アタシは影だからね。そんな目では燃えやしないさ」
声は確かにするのに、どうやら影から聞こえているわけではない。影からは、生き物ならば発する一切の音は勿論、臭いも何も伝わってこない。
ウルリカは眉を顰めた。
「――お前は……、人間じゃないの?」
「アタシは森の魔女。願いに見合う代償を差し出すならば、どんな望みをも叶える魔女。お前の父親の願いを届けにきたのさ」
「父親……?」
そんな存在があったことをウルリカは久々に思い出した。
「私の父は生きているの?」
そんな質問が浮かぶことに嫌気がさす。なぜか、とっくに死んでいたような気がしていた。
「今はもう生きていないね。病を得て、最後の余力でアタシのところへ来たらしい。望みを口にすることは出来たが、命はそこまで。代償を貰ったからには天秤を傾ける訳にはいかない。答えはお前のところへ持ってくるのが願いの内だと思ってね」
もう生きていないと聞いて、ウルリカは父親への興味をほとんど失った。だが、一つだけ
「父は…何を聞いたの?」
魔女に尋ねた。残りの寿命を使ってまで、何を問うたのか。答えをウルリカに届けるのが願いの内とは、一体どんな質問だったのか。それは知りたいと思った。
「お前を滅ぼす方法さ。直接手にかけ、呪いが伝播するのを恐れたんだ。だから、お前が瞳の呪いと共に、滅びる方法をお尋ねだったよ」
真っ黒な影そのものの魔女がにたりと笑ったのが、なぜだかわかった。
「瞳の呪いと共に滅びる方法……?」
ウルリカは茫然と呟いた。そんなものがあるのか。
「答えは『鏡を見れば死ぬ』だ」
言うやいなや、現れた時と同じく、影の魔女は煙のようにかき消えた。
(鏡を見れば死ぬ……?)
この目は自分自身にも有効だということだろうか。
ウルリカは今まで鏡を見たことはない。そのために死んでないのか、確認することはできないし、これからも鏡を見るつもりはない。
だって見たくなんてない。自分の顔なんて。この瞳がどんな色をしているかなんて知りたくない。自嘲がこぼれる。
いっそ死んでしまおうかと、これまで何度も思ったのに。ただ、自分自身を見るだけで、簡単に死ねると分かったら、ウルリカは死にたいとは思わなかった。生きる目的などなくても。幼い頃と同じだ。
最後に自分の目に映るのはなんだろうか――ウルリカ自身かもしれないし、名も知れぬ誰かかもしれない。ただ、きっと下らない相手だろう。そう思った。
数日後、ウルリカにあてがわれた部屋の扉の下に手紙が挟まれていた。
『男たち』からの指示だった。
日取りは七日後の聖カニアの祭りの席で。
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漸くここを離れることができる。ウルリカは安堵した。
なのに、部屋の温度が急に下がったように感じた。
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