言葉よりも口づけで

結城鹿島

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2・愛にむせる花

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覆いかぶさってきたオレークが、ソフィヤの口を塞いだ。柔らかな口内の粘膜を刺激されるのが気持ちよくて、ソフィヤも必死に応える。口の端から涎が垂れるのにも構わず、呼吸もできないくらい舌を絡ませあう。いやらしい音を立てて唾液を吸われ、
「んんぅ――」
ソフィヤは軽く達してしまった。
もう愛液がシーツまでぐっしょりと濡らしてしまっている。

「……何度でも気をやってください。乱れた貴女は美しい」

こくりとソフィヤは頷いた。オレークがいいというなら、欲望を我慢しなくたっていい。キスだけで達するなんて、と僅かに湧いた羞恥心も、呼吸一つですぐにさらなる快楽への期待に塗りつぶされる。
頭の中は既に匂いで一杯だから、身体への刺激も同じようにしてほしかった。自然と下肢が開き、オレークを誘う。
「触りますよ。女性が一番感じるところを刺激するのはやめておきますが、嫌なら言って下さい」
囁いて、オレークの指が蜜壺のふちを撫でた。

「ひぅ……!」
(これ以上気持ちのいいところ……?)
そんなの想像できない。これ以上気持ちよくなったら、自分が自分でなくなってしまう。
濡れ切った秘部を撫でる指が、ぬぐ、と押し込まれる。
「あ、……んっ……!」
ゆっくりとした動きで内壁を刺激され、つま先まで快感で震える。
鋭敏になった感覚が、ソフィヤを快感の波にのみこんでいく。

「――ひあぁっ!」

苦しくて、息を求めて喘ぐと、より一層オレークの匂いが鼻につく。部屋中に漂う淫らな匂いに、無限に愉悦が湧き上がってくる。
背中を仰け反らせ、ソフィヤは甘ったるいを嬌声を上げた。

「あ、あ、あぁっ……」 

びくびくと体が跳ねる。

「ソフィヤ殿……やはり耐えられそうにないなら――」
「や、ぁ」

ソフィヤは首を振った。壊れ物のように大事に扱われて嬉しい。
でも、もう我慢できない。だって、さっきからオレークの先走りの匂いがずっと、ソフィヤの嗅覚に強く訴えかけているから。オレークもソフィヤが堪らなく欲しいのだと。

「……おねがい、もう、……ほしい、の」
甘ったるい声で懇願すると、静かに指が抜かれた。代わりに、熱い塊が秘部にあてがわれる。

「わかりました。なるべく辛くないようにしますから、力を抜いて下さい」

ソフィヤが見上げると、オレークの切羽詰まったような顔があった。余裕がなさそうなのに、自分の欲望よりソフィヤの体を気遣ってくれる、その気持ちが嬉しい。 
「……っあ、ぅう」
ずぶずぶと先端がソフィヤの隘路を押し広げていく。感覚全てが鋭敏になっているから、進んでくるオレークの雄の形が鮮明にわかって、そのことにまた興奮してしまう。自分に向けられる欲情が嬉しい。

「そう、しめつけないで……」
「わ、からな……あ……」

根元まで完全にオレークの欲望を飲みこむと、それだけで腰骨が解けそうなほど気持ちよくて、ソフィヤは快感に泣いた。

「……っぁあ、あ!」
繋がっただけなのに、また軽い極みに達してしまった。はあはあと喘いで波をやり過ごす。

「……っ、ソフィヤ殿、息をしてください……」
「ん、はぁ、は……い」

息をしなければ苦しいのに、息をしても匂いが濃くて苦しい。
オレークがゆるゆると腰を動かす。内壁を擦られる度に湧き上がる快感が、異能のせいでどんどん重なっていく。

「……っは、あ、……あん、あっ、はぁ……」

中を掻きまわすように可愛がられると、甘い痺れが背筋を走る。
溺れる人間が助けを求めるように、ソフィヤは宙へ手を伸ばした。空をかいた手はオレークの背中へ落ちる。
「そのまま……捕まっていてください」
そう言われたから、ソフィヤは必死にオレークにしがみついた。けれど密着していると、互いの体温のせいで匂いがますます強くなっていく。
部屋の中に満ちる濃いオレークの匂いに包まれていると、まるで食べられてしまったような気がする。
食べられ、オレークの体の一部になってしまったかのような気分に。匂いが完全に交じり合って、どこからどこまでが自分なのかわからない。

「は……、っは、……は」
オレークに腰を揺さぶられる度に、ぐちゅぐちゅと粘着質な水音がたつ。もう、接合部は泡立つほどに、濡れている。
過ぎる快楽に頭の中は白く塗りつぶされていく。
むせかえるほど愛する人の匂いで満ちていて、まるで海の底だ。官能の喜びの海底。

「……おぼれ、ちゃう……っ」
「溺れて、くださ…い……。自分のことだけ、感じて……」

そんなのずっと前からそうだ。
(おかしく、なっちゃう……)
快感が強すぎて眩暈がする。苦しくてもう無理だと思うのに、秘部はぎゅぎゅうとオレークの剛直を強く締め付ける。
その瞬間、蜜壺の最奥に熱い飛沫が注がれた。

「ン……ァあああ――」

もう何度目かわからない絶頂に、ソフィヤは大きな嬌声を上げた。背中をのけ逸らせ、全身がガクガクと痙攣する。全身を駆け抜ける悦楽に、嗅覚が焼き切れる。匂いが途切れると、なにもかもわからなくて、ソフィヤはそのまま意識を手放した。

                 ◇

「……ん……」

目覚めと共に、自分以外のにおいが鼻につく違和感にソフィヤは慌てて飛び起きた。

「……っ」
じくじくと脚の間からする違和感に、昨夜のことを思い出す。

「目覚めましたか。体の方は平気ですか?」

声のする方に顔を向けると、開いたままのドアからオレークが入ってきた。その手には新鮮な一輪の雪草。
ソフィヤは慌てて布団を引き上げ、自分の裸を隠した。

「これがあった方がいいと思ったので」
と、オレークに差し出された雪草を受け取る手が震えそうになるのを、ソフィヤは必死に抑えた。すっかり覚えたオレークの匂いに、昨夜の自分の痴態を思い出してしまい、顔から火が出るほど恥ずかしい。
後半はもうどんな風だったか覚えていない。快感の嵐に翻弄されただけだ。初めてだったのに、あんなにも自分が淫奔だとは思わなかった。
それでも雪草に顔を寄せれば、すっと嗅覚が遮断され頭が冷える。

(あれ……?)

冷静になってみると、もっと濃い匂いがしてもおかしくない筈なのに、思ったよりも鼻に届く匂いが薄い。

「貴女が寝てる間に体を拭いておいたんですが、どうですか」

オレークに告げられ、ソフィヤは赤面した。
寝てる間になんてことをと、思うと同時に、そうでなければ自分がこれほど冷静にいられはしなかっただろう、とも思う。情事の名残がそのままだったなら、どうなっていたことか。

「ついでに着替えもそこに」
確かに枕元に着替えが用意してあった。いつもの亜麻の野良着が。他にロクな服はないし、昨日の服を着る訳にはいかないから、有難いのだけれど――

(恥ずかしい……っ)
箪笥の中を見られたことと、これから身に着ける服からオレークの匂いがすること両方が。

「――ソフィヤ殿、お怒りですか?」
憂いを含んだ声に、恥ずかしさの余り伏せていた顔を上げ、首を横に振る。
「いえ、ありがとうございます……」
オレークもほっとして微笑んだ。
異能のあることに怯えたりせずに気を使ってくれることは、信じられないくらい嬉しいことだ。

「……オレークさん……わたし、変じゃなかったですか……?」
「――いえ、とても素敵でした」

蕩けるような笑みを浮かべるオレークが眩しくて、またソフィヤは俯いた。
嫌われなくて良かったけれど、どうしても昨日のことを思い出して気恥ずかしい。

「いま、出ていきますから身だしなみを――」
言葉の途中で、ソフィヤは思わずオレークの腕を掴んだ。
「や、です」

オレークは目を丸くしてソフィヤを見下ろしている。

「いえ、勿論、隣の部屋にはいます」
「ここに居ていいですから」

雪草が手元にあってもこの距離ならば、どうしたって強く嗅覚を刺激する。でも、
(もう、オレークさんの匂いが遠ざかるのが寂しいんだもの)
腕を掴む指にぎゅっと力を籠めたら、オレークはにこりと満面の笑みを浮かべ頷いた。

「ではここにいます」

椅子はないので、狭いベッドの半分を空けると、オレークは背を向けるようにして腰を下ろした。
裸を見ないようにしてくれていることに感謝しながら、急いで服を身に着けていく。肌が隠れたことで多少の落ち着きを取り戻すことができた。――案の定、服からオレークの匂いがして、そわそわするけれど。

「もう大丈夫です」
横に並ぶようにベッドに座りなおす。と、オレークが顔を覗き込んできた

「な、なんですか」
「いえ、今は落ち着いているな、と……。ソフィヤ殿は、異能が強く働いている時は瞳に金の色が浮かぶようですから」
「え?」
「一人暮らしが長いから、やっぱり気づいていなかったんですね。異能を持つ人間の中には、力を使う時や強く力がはたらく時に、身体に変化が現れる者が一定数いるそうです。髪が光ったり、瞳が光ったり」
「そうなんですか……」

両親にそんなことを言われたことはない。けれど、両親と暮らしている時は、目を逸らす様にして過ごしていたから、気づかれなかったのかもしれない。

「最初に異能があるのだと気づいた時にも金の色が差してましたが、昨夜も――時折」
「……そ、う、でしたか……」

身の置き場がなく、ソフィヤは泣きたくなった。俯いて雪草に鼻を寄せる。

「強まったり弱まったりの波があるなら、訓練で幾らかは異能を制御できるようになるかもしれませんね」
「! そうでしょうか?」

コントロール出来ないと思い込んでいたけれど、僅かでも抑えることができたら、どれだけいいだろう。オレークを困らせることのないように、自分の異能とちゃんと向き合いたい。

「まずは、自分に慣れて下さいね。少しずつで構いませんから。貴女には笑っていてほしい」
「……っ」

羞恥心を堪えて、ソフィヤは雪草を膝に置いた。どきどきしながらオレークの顔を窺うと、優しい眼差しがそこにはあった。
ソフィヤだって同じだ。オレークにはこうして笑っていてほしい。だから、勇気を出して口を言う。

「……あの、慣れたら、もう少し我を忘れることもないと……思います」
「それは、また貴女を抱いてもいいということですね」
「そういうことじゃ――」と、咄嗟に抗議しようとして、ソフィヤは口を閉ざす。
(……ううん。そういうことだわ)

耳まで真っ赤にしながら、こくりと首を縦に振った。

「きっとすぐ慣れますよ」

耳元で囁かれ、かっと体が熱くなる。
そんな日がくるだろうか。
今だって、部屋を漂う空気の甘さにむせかえりそうなのに。

その甘さに名前を付けるなら、それは――愛。

                  ◇

雪草の畑の中に二人に似た子供の姿が増えるのは、まだ少し先のこと。


【終】

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