代償〜髪裁人のしごと

S.H.L

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第4章

直美

第一章:裏切りの記憶

東京の夜。冷たい風が路地裏を吹き抜け、どこか孤独を感じさせる暗闇が広がっていた。静寂に包まれた夜の街を、ひとりの女性が足早に歩いていた。彼女の名は直美。40代前半で、落ち着いた佇まいと冷静な瞳を持つ女性だった。しかし、その瞳の奥には抑えきれない怒りと、深い悲しみが渦巻いていた。

直美は目的地である「月影」という名の喫茶店にたどり着くと、店の入口で一瞬、息を飲んだ。そこは彼女が噂で聞いていた、どこか異質で謎めいた場所だった。「月影」は夜になるとひっそりとその姿を現し、裏社会で「復讐を請け負う場所」として知られている。

彼女は扉を押し開け、静かに店内へと足を踏み入れた。店内は薄暗く、どこか神秘的な空気が漂っている。古びた家具やアンティークのランプが置かれ、まるで時間が止まっているような異世界に迷い込んだかのようだ。

奥の席には黒い着物を纏った女性が一人、静かに待っていた。彼女が「髪裁人」と呼ばれる女性、遥香だと直美は悟った。遥香は直美の姿をじっと見つめ、その瞳には冷たい光が宿っていた。

「どうぞ、お掛けください」と遥香が静かに促す。声は低く、落ち着いていて、まるで一切の感情を排除したような冷静さを持っている。

直美は一瞬の躊躇を見せながらも、遥香の前に座り、口を開いた。「…あなたが髪裁人ですね」

遥香は微笑みもせず、ただ小さく頷いた。「はい、私が髪裁人です。あなたの望みをお聞かせください」

直美は小さく息を吐き、緊張でかすかな震えが体を包むのを感じたが、意を決して自分の過去を語り始めた。

「私には、高校時代からの友人がいました。由美という名前で、長い付き合いでした。私たちは…ずっと親友だと思っていたし、信頼し合える関係だと思っていました。彼女には、何でも話せる…そう信じていたのです」

直美の言葉には、かすかな怒りと悲しみが滲んでいた。その声を遥香は黙って聞き、わずかに目を細めた。

「私が大学生だった頃…私は、ある男性と交際していました。彼は私の初めての恋人で、将来を真剣に考えていました。その彼との関係を、私は由美にだけ相談していたんです。結婚のことも、彼に対する不安も…全て」

直美は深く息をつき、一瞬言葉を詰まらせた。過去の痛みが、再び胸の奥からこみ上げてくる。

「でも…気が付いたときには、その彼が由美と一緒にいました。彼と由美が密かに関係を持っていたことを知ったときのショックは、言葉にできませんでした。二人を同時に失う痛みが、どれほど残酷か…」

彼女の声はかすかに震えていたが、遙香の前で涙を見せることはなく、ただ冷たい視線で前を見据え続けていた。

「それから私は、彼と別れ、由美とは疎遠になりました。でも、あの裏切りの記憶が消えることはなかった。年を重ねるごとに、あの時の傷がさらに深く私を縛り続けてきたのです。私が築き上げてきたはずの幸せを、彼女は平然と奪っていった」

遥香は微かに頷き、直美の言葉を受け止めた。その瞳には冷ややかな光が宿り、直美の心の奥底を見透かしているようだった。

「あなたが望むのは、その友人への制裁、復讐ということですね」と、遥香が静かに確認する。

直美は冷たい目で遥香を見つめ、強い決意を込めて言葉を続けた。「そうです。彼女に私が味わった屈辱と苦しみを理解させたい。彼女が自分の美しさを誇り、周囲に愛されているその姿を、すべて剥ぎ取りたいのです」

遥香は一瞬だけ目を細め、冷静な口調で告げた。「私はその望みを叶えましょう。ただし、私の掟を忘れてはなりません。依頼を受けるにあたり、あなたもまた同じ代償を払う覚悟が必要です」

その言葉に、直美の表情が一瞬強張る。しかし、心の中では計画が動き始めていた。もしもターゲットが坊主にされた後、自分が姿を消せば、自らが同じ運命を辿ることを避けられるのではないかと。

彼女はすぐに微笑を浮かべ、「もちろん、覚悟はできています」と静かに応えたが、その言葉の裏には密かな計算があった。

遥香は一瞬表情を変えたが、すぐに冷静さを取り戻し、目を伏せた。「わかりました。では、彼女がその代償を払う時が訪れたら、あなたにも伝えましょう」

直美はわずかに口元を歪めながら、心の中でほくそ笑んでいた。彼女の計画は順調に進んでいる。由美に痛みを与えると同時に、自分だけが代償を逃れ、復讐の達成感を得られるかもしれないという思いが、心に確かな自信を与えていた。

静かな夜の闇の中で、二人の冷たい視線が交錯した。

第二章:屈辱の夜

冷たい雨が降りしきる東京の夜、人気のない貸別荘の一室で、由美は突然、拘束されて椅子に縛り付けられていた。戸惑いと恐怖が彼女の心を支配していた。手足はしっかりと固定され、身動きひとつ取れない状態で、彼女は必死にもがいていた。

「直美!何をするつもりなの?放してよ!」

叫び声が部屋中に響き渡るが、直美の姿はそこにはない。由美が混乱の中で必死に周囲を見渡していると、部屋の隅からゆっくりと黒い影が現れた。黒い着物に身を包み、冷たい瞳で由美を見つめるその影――髪裁人・遥香が、静かに彼女の前に立っていた。

「誰…あなたは誰なの?直美はどこ?」

由美は震えながら問いかけるが、遥香は答えず、ただ冷ややかに由美の顔を見つめる。その視線には一切の感情がなく、まるで冷たい刃のような鋭さを感じさせた。

「私は髪裁人。あなたが払うべき代償を、この場で執行します」

その言葉に、由美は一瞬で顔が青ざめた。何が起きようとしているのか理解しきれないまま、恐怖が一気に押し寄せ、心臓が早鐘のように鳴り響く。

「代償?何のこと?私は何もしていない!直美がお願い、直美を呼んで!」

由美の声は震え、涙が頬を伝い落ちていく。しかし、遥香は一切の反応を見せず、静かに着物の袖から鋏を取り出した。鋏が淡い光を反射し、その冷たく光る刃が由美の髪に向けられる。

「やめて!お願いだからやめて!何をするつもりなの!?」

由美は必死に体を捩じらせて抵抗しようとするが、手足をしっかりと縛り付けられているため、ほとんど動くことができない。彼女の抵抗をものともせず、遥香は冷静なまま鋏を彼女の髪にあてがい、ゆっくりと手を動かし始めた。

「シャリッ…」

鋏の刃が髪を切り裂く音が、静かな部屋の中に響いた。由美の長い黒髪が一束ずつ、鋏の冷たい刃に無慈悲に切り落とされ、床に落ちていく。

「いや…いや!お願い、やめて…」

由美は涙ながらに叫び続けるが、遥香はその声に一切耳を貸さず、ただ淡々と髪を切り落としていく。由美の髪は次第に短くなり、かつての美しさを失い、ただの切り株のように不揃いな短髪に変わっていった。

鋏でできる限りの長さを切り落とした後、遥香は一度鋏を置き、手元から電動バリカンを取り出した。低く唸るような音が鳴り始め、その音を耳にした瞬間、由美の体は恐怖に震え上がった。

「やめて、お願い!やめて!こんなこと、どうして…」

由美の叫びも虚しく、遥香はバリカンを由美の頭に当て、一切のためらいもなく動かし始めた。バリカンが頭皮に触れると、短くなっていた髪がさらに根元から削ぎ落とされ、次々に頭皮が露わになっていく。

バリカンの刃が頭皮を滑り、まるで由美の誇りそのものを剥ぎ取るかのように、黒髪の残りが削り落とされていく。床には、無残にも切り落とされた髪が散らばり、由美はその音と感覚に耐えきれず、声を振り絞って泣き叫んだ。

「助けて!誰か!お願いだからやめて!」

しかし、その叫びが届くはずもなく、遥香の冷静な手は止まることなく作業を続けていた。バリカンが次々と髪を削り落とし、由美の頭全体が滑らかな頭皮を露わにしていく。

やがて、ほとんどの髪がなくなり、残されたのは無防備で青白い頭皮だけとなった。遥香はバリカンを止め、今度は剃刀を手に取った。剃刀の刃が微かに光を反射し、由美の頭に静かに当てられる。

「いや…お願いだからやめて…もうやめて…」

由美は最後の抵抗を試みるが、遥香はその声に一切の反応を見せず、冷徹な手つきで剃刀を滑らせ始めた。剃刀が頭皮を撫でるたびに、細かい髪が剃り落とされ、完全に滑らかな頭皮が露わになっていく。

剃刀が何度も往復し、仕上げが進むにつれて、由美の頭はさらに無防備でつるりとした肌を晒していく。剃刀の刃が彼女の頭皮をなぞるたび、由美の目には絶望と屈辱の涙が溢れ、声を失ったまま震えていた。

完了後の静寂
すべてが終わった後、遥香は剃刀を置き、無言で椅子から一歩下がった。目の前には、かつての美しい黒髪をすべて失い、丸裸の頭を無防備に晒した由美がいた。その頭皮は青白く、かつての誇りや自信がすべて剥ぎ取られたように見える。床には彼女の長かった髪が無惨に散らばり、光を失っていた。

由美は椅子に縛られたまま、ぼろぼろと涙を流し、ただ無力感と屈辱感に苛まれていた。かつての自分が完全に崩壊したことを、心の奥底で痛感している。

「これが、あなたが払うべき代償です」と、遥香が冷静に告げた。その声には一切の感情がなく、ただ冷たく響くだけだった。

由美は言葉を失い、ただ涙を流すことしかできなかった。その悲痛な姿は、彼女がかつて誇っていたすべてが無に帰したことを物語っていた。

第三章:復讐の果てと逃亡

由美の絶望の声が静まった貸別荘の一室は、冷たい静寂に包まれていた。床には由美の長く美しい黒髪が無残にも散らばり、かつての彼女の誇りと自信を示していたその髪が、今はただ色を失い、冷たい光に晒されていた。

その場に現れた直美は、冷ややかな目で、椅子に縛りつけられたままの由美を見つめていた。涙に濡れ、かつての美しさも何もかもを奪われた彼女の無防備な坊主頭は、直美の心にかすかな達成感を与えていた。復讐を果たしたという実感が、彼女の中にじわじわと染み込んでいく。

「これで…あなたも少しは私の苦しみがわかったでしょう」

直美は小さな声でつぶやき、由美に冷たい視線を送った。由美は、顔中を涙で濡らし、無言で震えていた。直美の言葉を理解しているのかどうかも分からない。ただ、彼女の目には屈辱と絶望が映し出され、深く傷ついた心が露わになっていた。

「どうして…どうしてこんなことを…」

かすれた声で由美がつぶやいた。彼女は完全に打ちのめされ、魂を抜かれたように虚ろな目で直美を見つめていた。その視線には、後悔と恐怖が渦巻いている。直美はその目を見返すと、満足そうに小さく笑みを浮かべた。

「私がどれだけ苦しんだか、あなたには想像もつかないでしょう。でも、これで少しは分かったはずよ」

そう言い放つと、直美は冷静にその場を後にしようとした。しかし、その一瞬、彼女の心の中で何かが軋んだように感じられた。由美が無残な姿で涙を流す姿が目に焼き付いて離れない。自分がここまでの復讐を果たしたことで、本当に心が満たされているのか…自問自答する間もなく、心の奥で罪悪感が芽生えかけていた。

(…違う、今はそれを考えるべきじゃない。私はこれを望んでいたはず)

直美はその考えを振り払うと、急いで身支度を整えた。計画通り、これで目的は達成した。だが、彼女は心の中で別の計画も進めていた。髪裁人が自身にも坊主の代償を求めることは知っていたが、逃げればその掟からも逃れられるかもしれない。直美の心には、何があっても髪を失いたくないという執着があった。由美の屈辱を目にした今、同じ運命を辿ることに恐れを感じていた。

直美はその場を離れ、すぐに帰路に就いた。夜道を走り抜けながら、彼女の心臓は激しく鼓動していた。冷たい夜風が肌を撫で、心の中の焦りが次第に強まっていく。

(逃げ切れば大丈夫…髪裁人も私を見つけることはできないはず)

直美は自分に言い聞かせるように、その言葉を心の中で繰り返した。彼女はすぐに荷物をまとめ、都市の喧騒に身を隠すことにした。数日間、親しい知人にも連絡を取らず、ホテルを転々としながら身を潜める計画を練った。

「これで…私は逃げ切れる」

冷たい笑みを浮かべながら、直美は密かにほくそ笑んでいた。彼女にとってこの逃亡は、髪を守り、屈辱の代償から逃れるための唯一の道だった。

その後、直美は周囲に気づかれないよう、知人たちに知らせずに静かに身を隠した。電話も使わず、連絡先も変更し、都市の雑踏に紛れながら移動を続けた。ホテルを転々としながら、髪裁人の目を逃れることに成功しているという確信が少しずつ強まっていった。

「これで、私は自由だわ」

ホテルの一室に座り込み、満足げに呟いた直美。自分の計画が完璧に運び、坊主にならずに済むという安堵が、彼女の中に広がり始めていた。由美への復讐も果たし、自分だけは代償を逃れられたという達成感が、彼女を少しだけ微笑ませた。

だが、その安堵も束の間だった。彼女の心には、かすかな不安が残り続けていた。夜になり、静かな部屋の中で眠りにつこうとした直美は、何かが部屋の中にいるような、ぞっとする気配を感じた。

第四章:代償の夜

隠れるようにホテルの一室で過ごしていた直美は、静寂に包まれた部屋でようやく安堵を感じ始めていた。彼女は復讐を果たし、髪裁人の掟からも逃れることに成功したと思い込んでいた。静かな部屋の中、どこか満足げに髪を整え、鏡に映る自分を見つめる。

「これで、私も髪を失わずに済む。これで終わり…」

直美は微かに笑みを浮かべ、心の中で密かに勝利感を味わっていた。だが、その油断が彼女の最後の平穏を奪うことになるとは、まだ気づいていなかった。

夜も更け、部屋の明かりを落として眠りにつこうとしたその時、背後に冷たい気配を感じた。暗がりの中でふと息を呑み、振り返ると、そこには黒い着物に身を包んだ影が立っていた。髪裁人・遥香の冷ややかな瞳が、まるで闇そのもののように直美を見つめていた。

「…あ、あなた…」

直美の声は震え、背中に冷たい汗が流れた。まさか、こんな場所で髪裁人が現れるとは思ってもいなかった。遥香は静かに一歩を踏み出し、直美に冷たい視線を向けた。

「逃げることで、私の掟から逃れられると思いましたか?」

その言葉に直美は愕然とし、すぐに後ずさりしようとするが、遥香の鋭い目がそれを許さなかった。無言の圧力が彼女の動きを封じ、直美はただ怯えたまま震えた。

「お願い…私は…ただ、怖かっただけで…許してください」

直美は必死に懇願するが、遥香の表情は冷たく、微動だにしない。彼女は着物の袖から鋏を取り出し、その冷たい刃が淡い光を反射した。

「あなたは私に代償を払うと約束した。それを破った上で逃げた。その罰もまた、支払わなければならない」

遥香の声は静かで冷たく、彼女の決意を微塵も揺るがすものではなかった。その瞬間、直美は運命を受け入れるしかないと悟り、恐怖に体をこわばらせたまま、震えた声で呟いた。

「…お願い…」

遥香は何も応えず、無表情で直美を椅子に押し付け、手足をしっかりと固定した。抵抗する力さえ湧かず、直美はただ震えながら、目の前で冷たく光る鋏を見つめていた。

髪を剃り落とす過程
「シャリッ…」

鋏が髪を切り落とす音が、静かな部屋に響いた。直美の長く大切にしてきた髪が、一束ずつ無情に落とされていく。髪を失いたくなかった、ただその一心で逃げた彼女にとって、その音は屈辱そのものだった。

「やめて…お願い…」

涙が頬を伝い落ちるが、遥香は冷淡に手を動かし続けた。直美の髪は次第に短くなり、床には艶やかだった髪の毛が無惨にも散らばっていく。

「あなたは他人に屈辱を与え、自分だけは逃げようとした。その代償は、逃げることで消えるものではありません」

遥香の声が冷たく響くたび、直美は自分が犯した過ちを思い知らされる。彼女の目には、絶望と後悔が浮かんでいた。

全ての髪を鋏で切り落とされた後、遥香はバリカンを手に取り、無言で直美の頭に当てた。低く唸るバリカンの音が静寂を破り、残った髪が次々と剃り落とされていく。冷たい刃が頭皮に触れるたび、直美は屈辱と恐怖に身を震わせた。

「やめて…もう十分…」

泣きながら懇願する直美の声は、遥香の耳には届かない。バリカンが頭を滑り、残された髪の全てを根元から剃り落としていく。次第に青白い頭皮が露わになり、直美の姿は徐々に無防備なものへと変わっていく。

最後の罰:スキンヘッド
バリカンで剃り落とされた直美の頭は、ほとんど髪のない滑らかな姿になっていた。だが、遥香はそのままの状態で手を止めることなく、さらに剃刀を取り出し、直美の目の前に冷たく光る刃を見せつけた。

「逃げた罰として、最後まで剃り上げてもらいます」

その言葉に、直美の顔が真っ青になった。バリカンだけでなく、剃刀で頭を完全に剃り上げられることが何を意味するのか、その屈辱を直感した。

「お願い…もうやめて…」

泣き叫ぶ直美を無視し、遥香は剃刀を頭皮に当て、静かに滑らせ始めた。刃が頭皮を撫でるたび、残っていたわずかな髪さえも根こそぎ剃り落とされ、滑らかな肌が露わになっていく。

直美は恐怖と絶望に震え、涙が途切れることなく流れ続けた。髪を失いたくなかった、だから逃げたのだ。それなのに、今や彼女は全てを剥ぎ取られ、無防備なスキンヘッドにされるという屈辱を受けていた。

剃刀が頭皮を往復するたびに、直美の心は砕け散るような感覚に襲われた。冷たい刃が肌を滑り、完全に髪がなくなった彼女の頭は、つるりとした青白い姿を晒していた。

すべてが終わった後、遥香は剃刀を置き、直美の手足の拘束を解いた。椅子から解放された直美は、力なくその場に座り込み、震えた手で自分の頭に触れた。滑らかな頭皮の感触が指先に伝わり、髪が一切残っていない事実を突きつけられた。

「これが、あなたが逃げた代償です」

遥香の冷たい声が響いたが、直美はそれに返事をする気力もなかった。彼女は鏡を渡され、恐る恐る自分の姿を見つめた。そこに映っていたのは、かつての自分ではなく、無防備で丸裸のスキンヘッドの自分だった。

「これが…私の…代償…」

涙が止まらず、絶望に染まったまま、直美はその場に泣き崩れた。逃げようとした結果、彼女は遥香によってさらなる屈辱を味わわされ、髪も誇りもすべて奪われた。

エピローグ:逃れられぬ運命
東京の夜は静まり返り、冷たい月明かりが街の一角を照らしていた。ビルの影が路地を覆い、不安と孤独を感じさせる静寂が漂っている。その夜、ある女性がゆっくりと歩いていた。彼女の名は直美。かつての彼女の姿はどこにもなく、今ではつるりとしたスキンヘッドの頭が月光を反射して青白く輝いていた。

彼女は無意識に頭に手を当てた。滑らかな頭皮に指が触れるたび、あの夜の屈辱と恐怖が甦り、心が冷たく凍るような感覚に襲われる。髪を失うことへの恐れから逃げようとした結果、さらに深い屈辱を味わわされ、すべてを失った。彼女の心には空虚が広がり、復讐を果たしたはずの満足感も、どこかへ消え失せていた。

街を歩く人々が、ちらりと彼女の坊主頭に目を向けては、すぐに視線を逸らした。彼女には、その視線が突き刺さるような痛みを感じさせた。誰も彼女のことなど知らないはずなのに、彼女はどこかで恥じるように頭を下げ、うつむきながら歩き続けた。

「結局、何も得られなかったのね…」

直美はそう呟き、悲しみに満ちた瞳で虚ろな夜の街を見つめた。復讐を果たしたという満足感は虚しく、かつての自分の姿はすべて失われ、ただ痛みだけが残っている。彼女は心の奥底で、あの夜に犯した過ちを悔やんでいた。由美を傷つけたことも、そして逃げようとしたことも。

その時、彼女はふと、どこからともなく視線を感じた。冷たい風が彼女の頭皮を撫で、鳥肌が立つような不気味な感覚が背筋を這い上がってくる。辺りを見回しても誰もいないはずなのに、その気配は確かに存在していた。

「…いるの?」

彼女は自分の独り言に驚き、振り返ったが、暗がりの中には何も見えなかった。しかし、その瞬間、頭の中に遥香の冷たい声が甦った。

「逃げることで、私の掟から逃れられると思いましたか?」

その言葉が静かに響き、彼女の中に恐怖が再び湧き上がった。どこにも姿はないはずの髪裁人の存在が、彼女の周りに漂っているかのように感じられる。直美は自らの無防備なスキンヘッドを両手で覆い、無意識に身を縮めた。

(髪裁人からは…逃げられない)

その言葉が彼女の頭の中でこだまし、心の奥底に冷たく響き続けた。遥香の冷たい視線と冷徹な手つきが、まるで何度も甦るかのように思い出される。いくら逃げようとしても、あの掟からは逃れられないのだと、直美は今になって初めて深く理解した。

彼女は、二度と逃れることのできない呪縛を背負ったのだ。髪を失った今、その代償の重さを背負い続けなければならない。それは、ただのスキンヘッドという見た目だけではなく、髪裁人から逃れようとしたという罪と恐怖が永遠に付きまとうという現実だった。

月明かりが彼女のスキンヘッドを照らし、静かな夜の中で直美は立ち尽くしていた。周囲の静寂に押しつぶされるような感覚の中で、彼女は涙が溢れてくるのを止められなかった。己の姿に絶望し、未来に光が見えなくなった今、彼女は唯一無二の真実を知ることになった。

髪裁人からは、決して逃げられない。
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