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第6章
第6章 仲間の誓い
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第6章 仲間の誓い
砂丘を越えて歩き続けるうち、太陽は容赦なく三人を照りつけた。
半月頭となったリィナの頭皮は、まるで大地と同じように日差しを受け止め、熱と冷気を直に知っていた。
(でも、苦しくはない。むしろ……軽い)
坊主からさらに短くされたことで、紅月の欠片は静かに沈み、彼女の呼吸は以前よりも深くなっていた。
やがて三人は、岩壁に囲まれた小さなオアシスにたどり着いた。水面は鏡のように蒼く、周りには椰子の木が並ぶ。
そこでようやく腰を下ろすと、ジークが水袋を振り、砂を払った。
「……なあ、俺たち、本当に大丈夫か? 紅月の巣に向かうなんて、自殺行為じゃないか」
彼の言葉には冗談めいた響きがあったが、眼差しは真剣だった。
ミリアは水面に映る自分の姿を見つめ、指先で短くなった髪を撫でた。
「神殿で教えられたの。恐怖に向き合うときは、まず形を変える。……私も、あの場で髪を切ってもらえたから、いまこうして進めている」
リィナは二人を見渡し、言葉を探した。
「私の髪は、もう“昨日”を語らない。でも、髪だけじゃ足りない。私には――仲間がいる」
胸の刻印が、熱ではなく柔らかい脈動を返した。
ジークは笑って肩をすくめる。
「仲間か。じゃあ俺も誓おう。俺は案内人、嘘をついてでも道を開く。けど――お前が道を見失ったら、必ず隣で笑ってやる」
ミリアも頷き、リィナの手を取った。
「私は神官見習い。まだ力は弱いけれど……あなたが“名”を失いかけても、必ず呼ぶ。あなたの名前を、何度でも」
リィナは目を閉じた。
砂漠の風が半月の頭を撫で、ざらりとした毛を逆立てる。髪を短くしたことで、風の声が今までよりも鮮明に聞こえる。
(刃さんも、セラさんも言っていた。最後には“新月”になる時が来る。そのとき、私の名を呼んでくれる人がいるなら……私はきっと戻れる)
水面に三人の姿が映る。
リィナは半月、ミリアは短いショート、ジークは乱れた黒髪。三人の輪郭は違えど、映る瞳には同じ光が宿っていた。
「……誓おう」リィナは静かに言った。「紅月の魔王が復活しても、私たちは逃げない。髪を捨てても、名を失っても、必ず前に進む」
その瞬間、オアシスの風が強まり、椰子の葉がざわめいた。まるで世界そのものが彼らの誓いを聞き届けたかのように。
⸻
夜。
焚き火を囲む三人の影が揺れた。
リィナは炎に照らされる仲間の横顔を見ながら、自分の指先で再び頭を撫でた。
短い毛が押し返し、地肌が直接、夜気を吸っている。
(あと一歩、二歩。私はもっと削ぎ落とさなければならない。――紅月を止めるには)
紅月が天頂に差しかかる頃、胸の刻印が微かに疼いた。
それは恐怖ではなく、予兆。
リィナはそっと瞼を閉じ、決意を胸に刻んだ。
(いつか必ず、“新月”になる時が来る。その時を、怖れず迎えよう。私の仲間が、名を呼んでくれるのだから)
焚き火の赤が髪の残りを照らし、風が頭皮を撫でていった。
誓いの夜は、静かに更けていく――。
砂丘を越えて歩き続けるうち、太陽は容赦なく三人を照りつけた。
半月頭となったリィナの頭皮は、まるで大地と同じように日差しを受け止め、熱と冷気を直に知っていた。
(でも、苦しくはない。むしろ……軽い)
坊主からさらに短くされたことで、紅月の欠片は静かに沈み、彼女の呼吸は以前よりも深くなっていた。
やがて三人は、岩壁に囲まれた小さなオアシスにたどり着いた。水面は鏡のように蒼く、周りには椰子の木が並ぶ。
そこでようやく腰を下ろすと、ジークが水袋を振り、砂を払った。
「……なあ、俺たち、本当に大丈夫か? 紅月の巣に向かうなんて、自殺行為じゃないか」
彼の言葉には冗談めいた響きがあったが、眼差しは真剣だった。
ミリアは水面に映る自分の姿を見つめ、指先で短くなった髪を撫でた。
「神殿で教えられたの。恐怖に向き合うときは、まず形を変える。……私も、あの場で髪を切ってもらえたから、いまこうして進めている」
リィナは二人を見渡し、言葉を探した。
「私の髪は、もう“昨日”を語らない。でも、髪だけじゃ足りない。私には――仲間がいる」
胸の刻印が、熱ではなく柔らかい脈動を返した。
ジークは笑って肩をすくめる。
「仲間か。じゃあ俺も誓おう。俺は案内人、嘘をついてでも道を開く。けど――お前が道を見失ったら、必ず隣で笑ってやる」
ミリアも頷き、リィナの手を取った。
「私は神官見習い。まだ力は弱いけれど……あなたが“名”を失いかけても、必ず呼ぶ。あなたの名前を、何度でも」
リィナは目を閉じた。
砂漠の風が半月の頭を撫で、ざらりとした毛を逆立てる。髪を短くしたことで、風の声が今までよりも鮮明に聞こえる。
(刃さんも、セラさんも言っていた。最後には“新月”になる時が来る。そのとき、私の名を呼んでくれる人がいるなら……私はきっと戻れる)
水面に三人の姿が映る。
リィナは半月、ミリアは短いショート、ジークは乱れた黒髪。三人の輪郭は違えど、映る瞳には同じ光が宿っていた。
「……誓おう」リィナは静かに言った。「紅月の魔王が復活しても、私たちは逃げない。髪を捨てても、名を失っても、必ず前に進む」
その瞬間、オアシスの風が強まり、椰子の葉がざわめいた。まるで世界そのものが彼らの誓いを聞き届けたかのように。
⸻
夜。
焚き火を囲む三人の影が揺れた。
リィナは炎に照らされる仲間の横顔を見ながら、自分の指先で再び頭を撫でた。
短い毛が押し返し、地肌が直接、夜気を吸っている。
(あと一歩、二歩。私はもっと削ぎ落とさなければならない。――紅月を止めるには)
紅月が天頂に差しかかる頃、胸の刻印が微かに疼いた。
それは恐怖ではなく、予兆。
リィナはそっと瞼を閉じ、決意を胸に刻んだ。
(いつか必ず、“新月”になる時が来る。その時を、怖れず迎えよう。私の仲間が、名を呼んでくれるのだから)
焚き火の赤が髪の残りを照らし、風が頭皮を撫でていった。
誓いの夜は、静かに更けていく――。
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