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第10章 勝利の果てに
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第10章 勝利の果てに
試合開始時刻が迫り、スタンドには続々と観客が詰めかけていた。対戦相手は昨年の優勝校。スター選手が揃う強豪で、メディアの注目も高い。その一方で本校の女子野球部は“坊主軍団”として急速に話題を呼んでおり、カメラマンや記者が大勢詰めかけている。
試合序盤——相手の猛攻
プレーボールの合図とともに立ち上がった先発投手・城田(しろた)が鋭い直球を投じる。しかし相手打線はさすがに強力で、初回から二点を先制される。スタンドで声援を送る日下部沙耶や市川綾乃、マネージャーの北沢玲菜はハラハラしながら背中を汗でびっしょりにしていた。
「大丈夫、まだ始まったばかり!」藤崎志穂はベンチ前で必死に声を張り上げる。短く刈った頭に汗が一筋伝うたび、自分も選手と同じくらい熱くなっているのを感じた。
中盤——坊主頭の反撃
三回裏、本校の攻撃で九番打者の佐々木日向が内野安打で出塁すると、一番・桐原沙季キャプテンが初球を思い切り引っ張った。打球は三塁線を抜け、外野を転がる。
「いける……! 走れっ!」
白川真緒の大声が響く中、日向が一気にホームインし、まずは一点を返す。スタンドに陣取る市川や沙耶、玲菜たちの歓声がグラウンドに届いたのだろう。ベンチに戻った桐原が力強く拳を突き上げ、「まだまだ、ここから!」と叫ぶ。
四回・五回と互いに無得点が続く中、中村理沙がファインプレーでピンチを凌ぎ、白川真緒が好投手相手に粘りのバッティングを見せる。坊主頭の選手たちが泥くさく、必死に繋いでいく野球に、スタンドも熱気を帯びていた。
終盤——覚悟を繋ぐ
迎えた七回裏、2-3の一点ビハインド。打席には桐原沙季。ベンチには緊張が走り、顧問の藤崎志穂も思わず奥歯を噛む。「ここで追いつかなければ……」そんな重苦しいムードが漂った瞬間、桐原は迷いなく初球を打ちにいった。
カキーン——響き渡る快音。打球は高々と舞い上がり、左中間のフェンスを越えてスタンドに突き刺さる。まさかの同点ホームランだ。金属バットの余韻が残る中、球場全体が大歓声で揺れる。
「よっしゃーっ!!」
桐原は全力でダイヤモンドを駆ける。ヘルメットを取ったその頭は、日差しを受けて眩しく光っていた。ベンチに戻った彼女を出迎える部員たちの姿は、坊主頭でありながらも誰よりも華やかだった。
試合は最終回まで縺れ込み、3-3のまま延長戦に突入。迎えた十回表、相手の猛打が再び襲いかかり、一死一、二塁のピンチを迎える。スタンドで見つめる沙耶は拳を握りしめたまま動けずにいる。かつて自分がマウンドで投げていたあの頃を思い出し、悔しさがこみ上げる。それでも今は、チームメイトを信じて声援を送るしかない。
「頑張れ……粘れ……!」彼女の叫びは、かすかに震えていた。
しかしこの危機を救ったのは、一塁手として守備に就いていた中村理沙だった。鋭いゴロを素早くダイビングキャッチし、素早く二塁に送球、ダブルプレー成立——スタンドが沸き、藤崎志穂の目にも涙が浮かんだ。理沙は坊主になってからとびきりの笑顔を見せるようになったが、今もその表情は熱く、輝いている。
決着——そして新たな道へ
十回裏、一死満塁のサヨナラチャンスを迎えた本校。打席には白川真緒が入る。相手投手の球威はまだ衰えていない。追い込まれたカウント2ストライク。静まり返る球場で、白川は強く息を吐いた。
(絶対に繋ぐ……!)
打球は三遊間を抜け、レフト線へ転がる。サヨナラのランナーがホームに返り、本校が劇的な逆転勝利を収めた。あまりの劇的展開に、チームメイトもスタンドも大歓声で湧き上がる。
白川は一塁ベース上でヘルメットを取り、涙ぐみながら頭を撫でる。そのざらりとした感触が、自分がここまでやってきた覚悟の証だった。
試合終了のサイレンが鳴り響き、仲間たちが次々に白川に抱きつく。桐原も中村も日向も、皆が汗と涙でぐしゃぐしゃの顔。スタンドの沙耶は声を上げて泣き、玲菜はマネージャー仲間と抱き合って喜ぶ。顧問の藤崎志穂はベンチを飛び出し、一人ひとりを抱きしめながら「おめでとう!」を繰り返す。その丸刈り頭を見て驚く人も少なくなかったが、そんな周囲の視線などどうでもいいほど、喜びの渦がチームを包んでいた。
閉会式の後、表彰状を手にしたキャプテン桐原はマイクの前に立ち、坊主頭をぺこりと下げた。
「私たちは、いろいろな思いを抱えてここへ来ました。髪を剃るという行為は、ただの形かもしれません。でも、その形に込めた覚悟があったからこそ、今こうして勝利を掴めたと信じています。これから全国大会でも、私たちは私たちらしく、全力で戦います!」
万雷の拍手の中、桐原は胸を張ってマイクを置く。その横で藤崎志穂も誇らしげに頷いた。お互いの坊主頭を見合い、何度も握手を交わす。
やがて夕暮れ。球場を出るころには取材陣に取り囲まれたり、他校の選手たちから「おめでとう! そしてすごい勇気だね」と声をかけられたりと、忙しない中でも笑顔が絶えなかった。仲間と共にバスへ乗り込み、日の沈む道路を進んでいく。
窓の外を眺めながら桐原はそっと頭を撫でる。夏の陽射しをたっぷり浴びて、少しだけ伸びてきた短い毛がそこにある。それはあの日、迷いを断ち切るために切り落とした髪の“その先”だ。
(私たちは、まだまだ強くなれる。だって、この頭が教えてくれたから)
やわらかな風が車内に吹き込み、彼女の額を撫でて通り過ぎた。新たな舞台へ踏み出す準備は、もうできている。丸刈りの少女たちの夏は、これからが本番だ。
試合開始時刻が迫り、スタンドには続々と観客が詰めかけていた。対戦相手は昨年の優勝校。スター選手が揃う強豪で、メディアの注目も高い。その一方で本校の女子野球部は“坊主軍団”として急速に話題を呼んでおり、カメラマンや記者が大勢詰めかけている。
試合序盤——相手の猛攻
プレーボールの合図とともに立ち上がった先発投手・城田(しろた)が鋭い直球を投じる。しかし相手打線はさすがに強力で、初回から二点を先制される。スタンドで声援を送る日下部沙耶や市川綾乃、マネージャーの北沢玲菜はハラハラしながら背中を汗でびっしょりにしていた。
「大丈夫、まだ始まったばかり!」藤崎志穂はベンチ前で必死に声を張り上げる。短く刈った頭に汗が一筋伝うたび、自分も選手と同じくらい熱くなっているのを感じた。
中盤——坊主頭の反撃
三回裏、本校の攻撃で九番打者の佐々木日向が内野安打で出塁すると、一番・桐原沙季キャプテンが初球を思い切り引っ張った。打球は三塁線を抜け、外野を転がる。
「いける……! 走れっ!」
白川真緒の大声が響く中、日向が一気にホームインし、まずは一点を返す。スタンドに陣取る市川や沙耶、玲菜たちの歓声がグラウンドに届いたのだろう。ベンチに戻った桐原が力強く拳を突き上げ、「まだまだ、ここから!」と叫ぶ。
四回・五回と互いに無得点が続く中、中村理沙がファインプレーでピンチを凌ぎ、白川真緒が好投手相手に粘りのバッティングを見せる。坊主頭の選手たちが泥くさく、必死に繋いでいく野球に、スタンドも熱気を帯びていた。
終盤——覚悟を繋ぐ
迎えた七回裏、2-3の一点ビハインド。打席には桐原沙季。ベンチには緊張が走り、顧問の藤崎志穂も思わず奥歯を噛む。「ここで追いつかなければ……」そんな重苦しいムードが漂った瞬間、桐原は迷いなく初球を打ちにいった。
カキーン——響き渡る快音。打球は高々と舞い上がり、左中間のフェンスを越えてスタンドに突き刺さる。まさかの同点ホームランだ。金属バットの余韻が残る中、球場全体が大歓声で揺れる。
「よっしゃーっ!!」
桐原は全力でダイヤモンドを駆ける。ヘルメットを取ったその頭は、日差しを受けて眩しく光っていた。ベンチに戻った彼女を出迎える部員たちの姿は、坊主頭でありながらも誰よりも華やかだった。
試合は最終回まで縺れ込み、3-3のまま延長戦に突入。迎えた十回表、相手の猛打が再び襲いかかり、一死一、二塁のピンチを迎える。スタンドで見つめる沙耶は拳を握りしめたまま動けずにいる。かつて自分がマウンドで投げていたあの頃を思い出し、悔しさがこみ上げる。それでも今は、チームメイトを信じて声援を送るしかない。
「頑張れ……粘れ……!」彼女の叫びは、かすかに震えていた。
しかしこの危機を救ったのは、一塁手として守備に就いていた中村理沙だった。鋭いゴロを素早くダイビングキャッチし、素早く二塁に送球、ダブルプレー成立——スタンドが沸き、藤崎志穂の目にも涙が浮かんだ。理沙は坊主になってからとびきりの笑顔を見せるようになったが、今もその表情は熱く、輝いている。
決着——そして新たな道へ
十回裏、一死満塁のサヨナラチャンスを迎えた本校。打席には白川真緒が入る。相手投手の球威はまだ衰えていない。追い込まれたカウント2ストライク。静まり返る球場で、白川は強く息を吐いた。
(絶対に繋ぐ……!)
打球は三遊間を抜け、レフト線へ転がる。サヨナラのランナーがホームに返り、本校が劇的な逆転勝利を収めた。あまりの劇的展開に、チームメイトもスタンドも大歓声で湧き上がる。
白川は一塁ベース上でヘルメットを取り、涙ぐみながら頭を撫でる。そのざらりとした感触が、自分がここまでやってきた覚悟の証だった。
試合終了のサイレンが鳴り響き、仲間たちが次々に白川に抱きつく。桐原も中村も日向も、皆が汗と涙でぐしゃぐしゃの顔。スタンドの沙耶は声を上げて泣き、玲菜はマネージャー仲間と抱き合って喜ぶ。顧問の藤崎志穂はベンチを飛び出し、一人ひとりを抱きしめながら「おめでとう!」を繰り返す。その丸刈り頭を見て驚く人も少なくなかったが、そんな周囲の視線などどうでもいいほど、喜びの渦がチームを包んでいた。
閉会式の後、表彰状を手にしたキャプテン桐原はマイクの前に立ち、坊主頭をぺこりと下げた。
「私たちは、いろいろな思いを抱えてここへ来ました。髪を剃るという行為は、ただの形かもしれません。でも、その形に込めた覚悟があったからこそ、今こうして勝利を掴めたと信じています。これから全国大会でも、私たちは私たちらしく、全力で戦います!」
万雷の拍手の中、桐原は胸を張ってマイクを置く。その横で藤崎志穂も誇らしげに頷いた。お互いの坊主頭を見合い、何度も握手を交わす。
やがて夕暮れ。球場を出るころには取材陣に取り囲まれたり、他校の選手たちから「おめでとう! そしてすごい勇気だね」と声をかけられたりと、忙しない中でも笑顔が絶えなかった。仲間と共にバスへ乗り込み、日の沈む道路を進んでいく。
窓の外を眺めながら桐原はそっと頭を撫でる。夏の陽射しをたっぷり浴びて、少しだけ伸びてきた短い毛がそこにある。それはあの日、迷いを断ち切るために切り落とした髪の“その先”だ。
(私たちは、まだまだ強くなれる。だって、この頭が教えてくれたから)
やわらかな風が車内に吹き込み、彼女の額を撫でて通り過ぎた。新たな舞台へ踏み出す準備は、もうできている。丸刈りの少女たちの夏は、これからが本番だ。
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