店にきた剣を買い取ったら、事件に巻き込まれました

Salvia

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第25話 学長室

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「もうこんな時間か」


 アレスは図書館で借りた魔道具の本を閉じた。外を見ると太陽が完全に落ちきり、夜間用のライトがぼうと光っている。周りを見渡すと、ほとんどの教務員はもうすでに帰宅した後だった。


 久しぶりにこんな集中して読んだ気がする。アレスは斜めがけの鞄に魔道具の本をつめこむと教務員室をでた。


 学園の廊下を出る。完全に消灯しきった廊下は薄暗く、昼間の喧騒とうって変わって、別世界に迷い込んだようだ。


 アレスは歩きながらふと、今日図書館出会った謎の少女を思い浮かべる。


 アレスが本を探していた時に現れた不思議な子。あの子は結局誰だったのだろうか?この学園の制服を着ていたから多分、学園の生徒なんだろとは思う。


 彼女は自分に対して何かを言っていた。確か「今日の夜学長の学務室に行け」だったか。その言葉が不思議と頭の中を反響する。


 アレスはふと横をみると、そこは何の因果か、ちょうど今思い浮かべていた学長の学務室の前だった。木でできた。頑丈そうな扉が、ここは特別な場所だと、知らせている。


 アレスはしばらく逡巡した後にドアノブに手をかけた。普段なら絶対にしないだろう。ただアレスはあの少女の言葉はなんだったのか、それを確かめたくなった。何もなかったらそのまま帰ろう。そう思った。


 アレスは緊張したおもむきで学長室をゆっくり開けると、ギイと少し鈍い音を鳴らせながら扉が開く。

 
 中に入り、扉を閉める。この学園に訪れた時に来た学長室のそのままだ。


 一つ違うとすれば学長室の上にあった書類がいくつか減っているそれだけだ。


 アレスはなんだ、やっぱりあの少女の言葉は杞憂だったかと思い、少しの残念さと内心ホッとしながらも学長室を出ようとした。その時、外から声が聞こえる。


 コツコツと複数人の靴の音をたてこちらに近づいてくるのがわかった。どうやら自分が今いる学長室に近づいてきているようだった。


 アレスは全身から冷たい汗吹き出し、頭が真っ白になる。心臓がうるさいほどバクバクと激しく鳴り響いているのがわかった。周りを見渡す。応接用のソファーにいくつかの本棚、学長室の机があるみだ。


 アレスはとっさに得意の魔道具を使い部屋の隅で隠れた。タッチの差でアレスが隠れるのと同じタイミングで学長室のドアがガチャっと開いた。


 背丈が低い男が二人、一人は大きな戦斧、ハルバートと呼ばれる武器を背負っている。もう一人はモノクルをつけたいかにも学者然とした男だ。最後にもう一人あれは……学長だ。


「まあ、とりあえずここ座ってくれ」


 学長がそう促すと、男二人はどかっと応接用のソファーに座った。


「どうだい。この国の空気にも慣れたかな?」


「そうですね。幾分かこの国にいますが、だいぶ慣れてきました」


「そうか、それはよかった」


「はい、ご飯も美味しいですし、何といってもこの国の技術者は研究熱心だ。私も教えがいがある」


「そうか、そうかそれは我が国としても貴公のドワーフの国と技術協定を結んだだけある」


 ドワーフ?アレスは背の低い男たち二人をよく見る。言われてみれば、確かにドワーフの特徴を揃えているなと、思った。始め見た時は背が低い男くらいの印象としか思えなかったが厚底のブーツやたっぷりとした服でうまく隠しているのだろう。よく見ると確かにドワーフの特徴があった。


「ははは、この国は興味深いものが多い」


 学長とモノクルの男が話し込んでいると、突然隣の斧をもった男がとんとんと体を揺らし、怒気の声を上げた。


「何をグダグダと話している。さっさと本筋に入れ!」


「すみません、仲間は堪え性がないもので。では、石の話、しましょうか」


「石とは?」


「ええ、本来ならあの石はドワーフ属の所有物。今深紅の石はこの学園にあると伺っている」


「ふむ、それをどこで知ったか伺っても」


「それは、教えられない」


「……確かに、その深紅と石やらはこの学園に存在する」


 そう学長が重々しく呟くとドワーフの二人は目を輝かせた。


「本当か!」


 斧の男が身を乗り出す。


「ただ」


「ただ?」


「今はまだ、内の教務員が契約しておる。だから渡すことはできぬのだ」


「……」


「無論、石は渡す。あと数日もすればロイ君の研究も終わる。そうすれば、契約解除だろう」


「ふむ」


「それまで待ってくれないかな?」


 ドワーフの二人は黙り、モノクルの男が声をあげた。


「貴国とは、我が国としも良好な関係を続けたいと思っている。しかし、深紅の石は我が国の秘宝。引き下がれと言って簡単に引き下がる事はできない」


「数日間待つ事は、できぬか?」


 そこで斧を持った男が立ち上がり、学長に斧を突きつけた。


「何をぬるい事を言っている。今すぐにでもその教務員を殺して奪い取ればいいじゃねえか」


 ビリビリとした緊張感が走る。斧のドワーフのあまりの気迫についアレスも圧倒される。


「其方たちにもメリットがある。深紅の石、原初の石は魔力の源だ、もしその所有者が危機に落ち入り、能力を使ったらどうなると思う?」


 そこで学長は杖を取り出す。


「それに、その教員は我が学園の教師でな。もし危害が及ぶ場合は学園の全戦力でもって反撃させてもらう」


 学長の体から魔力が溢れ出し、密室の部屋に暴風が巻き起こる。


 学長の机に置いてあった書類がバサバサと落ち、ドワーフたちの衣服をはためかせた。凄まじい魔力量だ。緑色の魔力の旋風が学長を中心にはじけた。


「……争いが起きなければ、それに越したことはないでしょう。ドーラ」


 ふん、とドーラ呼ばれた男は鼻を鳴らすと学長に向けていた斧をおろし、それを見た学長も杖を下げた。


「では、石の契約解除が終わりしだいこちらドワーフ側に返還するということでよろしいかな?」


「はい、それで大丈夫です。この関係が、長く続きますように」


「こちらこそ」


 モノクルの男がそう言うと、学長と握手を交わし、踵を返した。


「それでは当日は、よろしくお願いします」


モノクルの男は部屋の扉の前でお辞儀をする。
そのお辞儀の先は、学長ではなく見えないはずのアレスの場所に一礼すると斧の男を連れ部屋を出て行った。




「アレスくん、でてきたまえ」


「……いつから気づいてました?」


「初めから。幻惑魔法は完全には隠せない、術者が動けば、その空間の魔力が揺らぐ。ある程度魔法を習熟してるものなら、簡単に見破れる魔道具だよ」


学長はふうと大きなため息をつくと、どかっと学長室の椅子に座る。


「もしかして、あの者たちにも?」


「斧を持ってる奴はわからんが、モノクルの男は恐らく気づいていたであろうな」


「そう、ですか」


「先程の、言葉を聞いてどう思う?」


「自分としては、この赤い石を手放すことは、問題ありません」


「そうか」


「ただ本当にこの石を渡してよいか不安になります。それにガロン様にどう説明するか……」


「彼奴とは旧友だ。わしから説明しよう。ただドワーフに渡すべきかどうか。それはわしに判断しかねる。最後はアレス君が判断するが良い。どのような選択肢になってもわしがアレス君を守ろう。教務員でいる間はな」


 アーロンはウインクした。


「わかりました。しばらく考えさせてください」


「うむ、まだ数日ある。自分の正しいと思った選択を選ぶのだ」


 ふと、図書館の少女がいったあの、まじないの言葉を思い出す。「選択肢を間違えないで」アレスは懐に入れた赤い石がいつも以上に重たく感じた。
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