文系デスゲーム劇場

塩大福くん

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一章 一日目の惨劇

一話 目覚

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 「な、なんだよ、これ‥」 

 目を開けようとするが、何かが遮って見えない。 

 これは、何だ?

 この体制からすると、どうやら俺はーーーーー

 ーーーーー貼り付けられている‥?

 訳が分からない。なぜ俺が貼り付けにされているんだ?
 突然の状況に訳が分からず、俺は若干の迷いとそれと全く比べ物にならないほどの恐怖を感じた。

 これは誘拐というやつか‥?

 確かに、俺は弁護士だ。誰かの恨みを買うことなんて職業柄、当然あることだろう。ということは逆恨みでこんなことをされているのか?
 
 「う、嘘だろ‥?だ、誰かいないか!?」
 
 返事はない。つまり、ここには俺一人しかいない。幸い、誘拐犯もここにはいないというか。

 
 過呼吸になりそうになり、慌てて深呼吸をする。

 二三回ほど深呼吸をするとやけに冷静になれた。

 神経を集中させていま自分がどういう状況かを確認しよう。

 上半身から意識を向ける。
 目は、何かで隠されている。光の入り加減を見ると、どうやら包帯のようだ。あるいはガーゼのようなものかもしれない。
 手や足は椅子に貼り付けにされている。椅子は金属製のようで、背中がヒヤリとしている。

 ‥そのくらいか。軽くため息をつく。

 なぜこんなことになってしまったのか。
 この年齢で身代金目当てだなんて有り得ない。もとより俺の家庭は別に特別裕福ではないし、金目当てならわざわざ俺を誘拐するはずもない。それならば親しい友や親族を誘拐した方が効果的なはずだ。

 そもそも確か俺は泥酔した後、玲の家で寝ていたはずだ。それなのに俺は今何者かによって連れ去られている。

 いや、連れ去られている?
 どうやって犯人は玲の家のドアを開けた?当然鍵は閉まっていたはずだ。玲は今どこにいるんだ。

 「玲!いるか?いたら返事してくれ!」

 期待の声に帰ってきたのは虚空だった。なにもかえってこない。
 しかし、声の反響具合からするとそんなに部屋は広くないということが分かった。それだけでも何もない今の状況からすると、大きな収穫だ。

 「ゔ‥痛た‥‥」

 すると、あまり期待していなかったその返事は少し間を空けて返事が返って来た。

 紛れもない玲の声だが、何かが違う。少し違和感を覚えた俺はすぐに問いかけをせず、聴覚を集中させる。

 「お、おい!正義!大丈夫か?」

 しかし違和感を見抜けず、俺は慌ててすぐに返事をした。

 「玲?いるのか?助けてくれ!」

 「ま、待ってくれ!今助ける!近くに何かないか探索してみる」

 ****************

 縛られた彼を見て俺は暫くほうけていたが、我に返り、助け出す方法を見つけ出そうとしていた。

 彼を縛り付けているのはどうやら鎖のようで、後ろに南京錠がついている。
 一応、南京錠の解除部をカタカタと無理矢理開けようとして手で開かないことを確認すると部屋を見渡した。
 部屋は監視カメラに見張られた狭い部屋で、左右には2つのドアがあるだけだった。

 そこには「悪魔の扉」と書かれた白いプレートと「天使の扉」と書かれた白いプレートがドアの前に下げられていた。
 
 ここでうじうじしていても何にもならない。とりあえず俺は安全そうな、天使の扉から開けることにした。
 開けるとそこには先程から引き続き、シンプルな部屋が待ち構えていた。整えられた部屋は少し不気味さをも感じさせる。
 白いドレッサーや白いベッド、白い電灯。白、白、白に囲まれて少し眩しい。

 「ようこそ、天使の部屋へ。私に何か御用ですか?」

 と、突然テレビが付き、天使のような白い無地のワンピースの格好をした女の子が写り、ニコリと笑った金髪碧眼の彼女は俺に深くお辞儀をした。

 「っ‥!驚かせるな。お前は誰だ?」

 目を細めてじっと見つめる。何か、この子には少し違和感を感じる。
 この子は。何故かそんな気がした。生気が漂っていないのだ。

 「私はAIプログラム、天使恵アマツカイメグミです。何か御用ですか?」

 AIプログラム。ようは機械が喋っているのか。道理で生きているような感じがしなかった訳だ。
 そう考えると、彼女は人間が備え持つ、ごく僅かな体の揺れや滑らかな瞬きの動き、口が開くときの口角の上がり方。それらがなかったり、不自然な箇所があった。
 しかし、時代もなかなか進んだなといつもならば関心を持つだろうが今はそれどころではない。

 「恵、この辺りにあるかもしれない、鍵を知らないか?」 

 この部屋になければ悪魔の部屋も探索しないといけない。名前からしていかにも不運を招きそうな部屋だ。悪魔の部屋にはなるべく入りたくない。

 「はい、鎖の鍵なら、私が持っています」

 ‥今日の俺はついている、これこそ不幸中の幸運だ。思わずガッツポーズをしようとした。が。やめておいた。
 なるべく刺激せず、低姿勢で彼女に聞いてみる。

 「それを俺にくれたりしないか?」

 「‥それは、不可能です。貴方は罪人ですので」 

 は?罪人?

 「罪人‥?俺は法に背いたことなど一度もないぞ」

 思いつく限りの罪を数えてもこの指に収まる程度だ。それにその罪も比較的軽いものだ。

 -----

 「ですが悪魔の言うことを3回聞き入れるような広い心の持ち主ならば、鍵を差し上げましょう」

 悪魔、というのはこの流れからするとどうやら悪魔の部屋にいるのだろう。

 悪魔の願いを3つ叶えるだなんてーーー正義を助けたくば、それこそ身体カラダをも削って助けろという信用性を図る仕掛けなのか?

 悪魔の部屋に行く前に力づくで何とかして鍵を手に入れるというのも考えたが、野暮すぎるので流石にやめておいた。それに画面を割るなどして手を怪我してはいけない。

 「分かった。後で必ず来るからな!」

 そういえば、彼女はどうやって俺が悪魔の願いを叶えたことを知るのだろうか。
 身を削ってようやく願いを叶えてすいません見ていませんでしたなんて言われちゃこちらも多少の怒りを感じる。

 「安心してください、願いを叶えるあなたの姿は監視カメラで見させていただきます」
 
 まるで俺の心を見透かしたように彼女がニコリと笑うのを見て思わず鳥肌が立ちそうになる。身の毛がよだつ思いとはこのことかと思い知る。

 その声に俺は微笑みかける。苦笑いでさえも届いているか明瞭ではないが、それくらいしか出来なかった。

 天使の部屋のドアをガチャリと閉めて、ついでに、と正義の様子を一目見る。
 彼は、すっかりと疲れ切ったようにスースーと息を立てて寝ている。
 全く、よくこの状況で寝られるなと呆れてため息をつく。
 
 彼は放っておいても大丈夫だ。と息をつくと、気を取り直して悪魔の部屋を開ける。
 
 「いらっしゃいませ、悪魔の部屋へ。ワタクシに何か御用でございますか」

 今度は黒い執事のような格好をした黒髪の男性がテレビにパチリと映り、俺に対してペコリと頭を下げる。流石に二度目なので驚きもしない。恐らく彼もAIなのだろう。
 天使の部屋とは対照的で、全てが黒で埋め尽くされていた。部屋は少し散らかっていて、何故かプリントでごった返しになっている。
 その中でひときわ目を引くのはテレビの横に壁に書いてあった赤い文字だった。

 『君達は本当に互いを信じているのか?』

 誘拐犯からの、唯一の言葉。

 文字は明朝体で全て揃えられていて、筆跡をたどることはできず、犯人の目星すらつけられない。

 「お前の願いを3つ叶えに来た。願いを言え」

 テレビに顔を向け、出来るだけ単刀直入にいう。ここにいるということは彼は俺の目的ぐらいは察しているだろう。

 「‥では一つ目、まずドアを開けてください」

 彼はやはり俺の意図を察したらしく、一つ目の願いを述べた。
 しかし、どんな願いが来るのかとヒヤヒヤしていたが、意外と簡単な願いで肩の荷が下りた。

 「‥そんなに簡単でいいのか?」

 フッと笑いながらドアをガチャりと開ける。チラリと正義を見ると、案の定ぐっすりと寝ていた。

 「ええ、ありがとうございます。
  では次に、部屋からナイフを見つけ出して下さい。」

 部屋から、ナイフを見つけ出す。
 そのこと自体はとても楽なことだが、問題はその後のことだ。
 もし3つ目の願い事が耳を片方切り落とせ、そんな願い事だと流石の俺もためらってしまうだろう。

 「‥あった!ナイフだ!」

 ごった返しになった部屋の中から何とかナイフを見つけ出し、テレビに見せつけるように掲げる。

 「では3つ目、

 しかし、悪魔と呼ばれる彼の口から発せられる言葉は想定外の意味を持ち合わせていた。
 殺し。それは弁護士にとっては最も身近であり、程遠い言葉だった。

 だが、彼はのだ。殺しても罪にはならない。

 「‥仕方がない、か」

 ボソリと呟き、ナイフを再び手にした俺は冷酷な目でその画面にーーーーー

ーーーーー迷いのない動作でナイフを振り下ろした。

 盛大な破壊音とともに液晶画面は砕け散り、悪魔は消え去った。
 ふと手を見ると、破片が手の甲に刺さり、血が流れているのが見えた。反対の手でガラス片を抜き取り、散らかったベッドの辺りに無造作に投げる。
 割れたテレビの横にあったタブレットのような小さい液晶には紅色の文字で“congregations!”と頼んでもいない祝辞の言葉が浮き出ていた。

 「何がおめでとうだ‥馬鹿馬鹿しい」

 鼻で笑い、部屋を出て、再び天使の部屋をガチャりと開く。

 「約束の鍵です。幸運を祈ります」

 彼女は満面の笑みで深く頭を下げる。
 
 テレビの下からカランカランと音が聞こえて俺は下を覗き込む。
 そこにはまるで自動販売機の取り出し口のような場所になっていて、そこには鍵があった。

 よし、これで助けられる。と安堵のため息をついて俺は正義の元へと駆け寄る。

 「そしてさようなら、玲様」

 彼女の小さな呟きを拾うことなく玲は無情にもドアをパタンと閉めた。
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