文系デスゲーム劇場

塩大福くん

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一章 一日目の惨劇

二話 真偽

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 「…ハア、ハア……助かったよ、玲」

 俺は息を切らして彼に礼の言葉をかける。
 鎖で縛られていた手を思いっ切りブンブンと振り回して、その流れで伸びをする。
 しかしえらい目にあった。俺が誘拐されているのも不可解だが、それ以上に俺と玲二人がわざわざ同じ部屋に閉じ込められているというのも理解し難い。
 もし犯人が俺に対する逆恨みならば二人も人質に取る必要はない。ましてや相棒と呼べる存在なら尚更だ。

 「緊張感がまるで抜けたようだが、気を抜くなよ」

 この状況でも相変わらず冷静な玲が凛とした声で何かの予言の如く警戒を告げた。
 玲は全てをわかっているかのような瞳を僕に向ける。そこで僅かな違和感をようやく掴み取った。
 その瞳の色素がいつもと少し異なるような気がしたのだ。
 あくまで気がしただけであってもしかしたら照明の問題かもしれない、だが、今の彼ははっきり言って怪しい。
 別に信頼していない訳ではない。ただ、信頼しているからこそ感じるものがあったのだ。

 『‥仕方がない、か』

 その言葉、いや、をきっかけに、縛られていた時からずっと抱えていた違和感が、まるで忘れかけていたなにかを思い出したかのように姿をあらわにした。
 そうだ、彼はーーーーー

 「なあ、お前ってどうやって俺を助けたんだ?」

 素朴な疑問。しかし俺にとっては素朴ではない疑問。 
 この回答がすべての違和感の解決手口になるはずに違いない。

 大丈夫、俺は駆け出しとはいえ弁護士なんだ。

 周りを見渡し、これからどうするかを今まさに考えていたであろう玲はああ、と言葉を挟み、やけに手短すぎる説明を始めた。

 「あそこの部屋の機械を利用したんだ」
 
 その声は震えも緩急もなく、嘘などはついていない様子だ。
 そっと玲が指さした部屋を覗き込むと白い部屋には確かにそれらしきものが鎮座している。

 「…じゃああの破壊音は何だったんだ?」

 最も疑問に感じる点。その謎も今は解けているのだが、玲を追い詰めるために決定的な打撃となるはずだ。

 俺は確かに聞いた。
 聴覚だけが生きたあの環境下で、ガラスが割れるような激しい音を確かに耳にしたのだ。

 機械を使ったなら別に破壊行動をする必要性は全くないはずだ。先程覗いた部屋の機械は無事だったということは、機械絡みではない、もしくは別の機械を壊したということか。
 機械絡みでは無いとなると窓や花瓶などの割れやすいものを割った可能性がある。

 窓を割ったのなら脱出方法の手口となるため。花瓶ならばうっかり割ってしまったという可能性も考えられる。
 つまりこれらを隠す必要は何もない。

 しかし別の機械を壊したのならまた別だ。
 彼はもともとそんなに感情の起伏が激しい人間ではない。感情に任せて手を動かすことなんてない。
 
 「あれは…まあ、そんなことは今はいいだろう?」

 案の定玲は茶を濁し、咳払いをする。

 となるとやはり別の機械を壊したという可能性が極めて高くなる。
 しかし、最も手っ取り早い方法に手をかけるため、俺はあえて話を変える。

 「じゃあ、その話はなしだ。その代わりに…」

 決定的な打撃となる。この一言を言えば俺は彼の正体を暴くことが容易に出来る。
 その一言を玲の冷気を灯した目を見ながらぶつける。


 「…なあ、早口言葉言ってみてくれよ」


 文脈から考えられないその間抜けな言葉に思わず玲ははぁ?と言葉をこぼす。
 確かに普通に考えればわけのわからない言葉だとしても、俺にとっては、いや、俺達にとっては親しみ深い言葉だった。

 玲は戸惑いつつも仕方がない、というふうにため息を付き、口を開き、早口言葉を言い始める。

 「…生麦生米生卵、赤カマキリ 青カマキリ 黄カマキリ、鹿もカモシカも鹿の仲間 しかしアシカは鹿ではない 仕方ないが叱ってやった。これでいいか?」

 その流暢な言葉に確信を持った俺は思わず笑いが込み上げてきてしまい、それを音にするのに時間はいらなかった。
 こみ上げてくる子供のような笑い声でいつまでもおかしそうに笑っている俺を見ている玲の目は疑念の思いを浮かべている。

 「ハハハッハーハッハ‥ククッ」

 「な、何だよ気味悪い。ちゃんと言えただろう?」

 俺は笑いの根源を絶たせるように彼の首元のシャツの襟元をガッと鷲掴みにする。そのまま少し腕を上に上げる。
 ガッと声を上げながら驚き、俺をにらみつける玲の目を負けじと俺も彼に送り返す。
 ゆっくりと口を開き、ワントーン低い声を発する。

     
 「なぁ、お前誰だ?」
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