3 / 5
一章 一日目の惨劇
二話 真偽
しおりを挟む
「…ハア、ハア……助かったよ、玲」
俺は息を切らして彼に礼の言葉をかける。
鎖で縛られていた手を思いっ切りブンブンと振り回して、その流れで伸びをする。
しかしえらい目にあった。俺が誘拐されているのも不可解だが、それ以上に俺と玲二人がわざわざ同じ部屋に閉じ込められているというのも理解し難い。
もし犯人が俺に対する逆恨みならば二人も人質に取る必要はない。ましてや相棒と呼べる存在なら尚更だ。
「緊張感がまるで抜けたようだが、気を抜くなよ」
この状況でも相変わらず冷静な玲が凛とした声で何かの予言の如く警戒を告げた。
玲は全てをわかっているかのような瞳を僕に向ける。そこで僅かな違和感をようやく掴み取った。
その瞳の色素がいつもと少し異なるような気がしたのだ。
あくまで気がしただけであってもしかしたら照明の問題かもしれない、だが、今の彼ははっきり言って怪しい。
別に信頼していない訳ではない。ただ、信頼しているからこそ感じるものがあったのだ。
『‥仕方がない、か』
その言葉、いや、声をきっかけに、縛られていた時からずっと抱えていた違和感が、まるで忘れかけていたなにかを思い出したかのように姿をあらわにした。
そうだ、彼はーーーーー
「なあ、お前ってどうやって俺を助けたんだ?」
素朴な疑問。しかし俺にとっては素朴ではない疑問。
この回答がすべての違和感の解決手口になるはずに違いない。
大丈夫、俺は駆け出しとはいえ弁護士なんだ。
周りを見渡し、これからどうするかを今まさに考えていたであろう玲はああ、と言葉を挟み、やけに手短すぎる説明を始めた。
「あそこの部屋の機械を利用したんだ」
その声は震えも緩急もなく、嘘などはついていない様子だ。
そっと玲が指さした部屋を覗き込むと白い部屋には確かにそれらしきものが鎮座している。
「…じゃああの破壊音は何だったんだ?」
最も疑問に感じる点。その謎も今は解けているのだが、玲を追い詰めるために決定的な打撃となるはずだ。
俺は確かに聞いた。
聴覚だけが生きたあの環境下で、ガラスが割れるような激しい音を確かに耳にしたのだ。
機械を使ったなら別に破壊行動をする必要性は全くないはずだ。先程覗いた部屋の機械は無事だったということは、機械絡みではない、もしくは別の機械を壊したということか。
機械絡みでは無いとなると窓や花瓶などの割れやすいものを割った可能性がある。
窓を割ったのなら脱出方法の手口となるため。花瓶ならばうっかり割ってしまったという可能性も考えられる。
つまりこれらを隠す必要は何もない。
しかし別の機械を壊したのならまた別だ。
彼はもともとそんなに感情の起伏が激しい人間ではない。感情に任せて手を動かすことなんてない。
「あれは…まあ、そんなことは今はいいだろう?」
案の定玲は茶を濁し、咳払いをする。
となるとやはり別の機械を壊したという可能性が極めて高くなる。
しかし、最も手っ取り早い方法に手をかけるため、俺はあえて話を変える。
「じゃあ、その話はなしだ。その代わりに…」
決定的な打撃となる。この一言を言えば俺は彼の正体を暴くことが容易に出来る。
その一言を玲の冷気を灯した目を見ながらぶつける。
「…なあ、早口言葉言ってみてくれよ」
文脈から考えられないその間抜けな言葉に思わず玲ははぁ?と言葉をこぼす。
確かに普通に考えればわけのわからない言葉だとしても、俺にとっては、いや、俺達にとっては親しみ深い言葉だった。
玲は戸惑いつつも仕方がない、というふうにため息を付き、口を開き、早口言葉を言い始める。
「…生麦生米生卵、赤カマキリ 青カマキリ 黄カマキリ、鹿もカモシカも鹿の仲間 しかしアシカは鹿ではない 仕方ないが叱ってやった。これでいいか?」
その流暢な言葉に確信を持った俺は思わず笑いが込み上げてきてしまい、それを音にするのに時間はいらなかった。
こみ上げてくる子供のような笑い声でいつまでもおかしそうに笑っている俺を見ている玲の目は疑念の思いを浮かべている。
「ハハハッハーハッハ‥ククッ」
「な、何だよ気味悪い。ちゃんと言えただろう?」
俺は笑いの根源を絶たせるように彼の首元のシャツの襟元をガッと鷲掴みにする。そのまま少し腕を上に上げる。
ガッと声を上げながら驚き、俺をにらみつける玲の目を負けじと俺も彼に送り返す。
ゆっくりと口を開き、ワントーン低い声を発する。
「なぁ、お前誰だ?」
俺は息を切らして彼に礼の言葉をかける。
鎖で縛られていた手を思いっ切りブンブンと振り回して、その流れで伸びをする。
しかしえらい目にあった。俺が誘拐されているのも不可解だが、それ以上に俺と玲二人がわざわざ同じ部屋に閉じ込められているというのも理解し難い。
もし犯人が俺に対する逆恨みならば二人も人質に取る必要はない。ましてや相棒と呼べる存在なら尚更だ。
「緊張感がまるで抜けたようだが、気を抜くなよ」
この状況でも相変わらず冷静な玲が凛とした声で何かの予言の如く警戒を告げた。
玲は全てをわかっているかのような瞳を僕に向ける。そこで僅かな違和感をようやく掴み取った。
その瞳の色素がいつもと少し異なるような気がしたのだ。
あくまで気がしただけであってもしかしたら照明の問題かもしれない、だが、今の彼ははっきり言って怪しい。
別に信頼していない訳ではない。ただ、信頼しているからこそ感じるものがあったのだ。
『‥仕方がない、か』
その言葉、いや、声をきっかけに、縛られていた時からずっと抱えていた違和感が、まるで忘れかけていたなにかを思い出したかのように姿をあらわにした。
そうだ、彼はーーーーー
「なあ、お前ってどうやって俺を助けたんだ?」
素朴な疑問。しかし俺にとっては素朴ではない疑問。
この回答がすべての違和感の解決手口になるはずに違いない。
大丈夫、俺は駆け出しとはいえ弁護士なんだ。
周りを見渡し、これからどうするかを今まさに考えていたであろう玲はああ、と言葉を挟み、やけに手短すぎる説明を始めた。
「あそこの部屋の機械を利用したんだ」
その声は震えも緩急もなく、嘘などはついていない様子だ。
そっと玲が指さした部屋を覗き込むと白い部屋には確かにそれらしきものが鎮座している。
「…じゃああの破壊音は何だったんだ?」
最も疑問に感じる点。その謎も今は解けているのだが、玲を追い詰めるために決定的な打撃となるはずだ。
俺は確かに聞いた。
聴覚だけが生きたあの環境下で、ガラスが割れるような激しい音を確かに耳にしたのだ。
機械を使ったなら別に破壊行動をする必要性は全くないはずだ。先程覗いた部屋の機械は無事だったということは、機械絡みではない、もしくは別の機械を壊したということか。
機械絡みでは無いとなると窓や花瓶などの割れやすいものを割った可能性がある。
窓を割ったのなら脱出方法の手口となるため。花瓶ならばうっかり割ってしまったという可能性も考えられる。
つまりこれらを隠す必要は何もない。
しかし別の機械を壊したのならまた別だ。
彼はもともとそんなに感情の起伏が激しい人間ではない。感情に任せて手を動かすことなんてない。
「あれは…まあ、そんなことは今はいいだろう?」
案の定玲は茶を濁し、咳払いをする。
となるとやはり別の機械を壊したという可能性が極めて高くなる。
しかし、最も手っ取り早い方法に手をかけるため、俺はあえて話を変える。
「じゃあ、その話はなしだ。その代わりに…」
決定的な打撃となる。この一言を言えば俺は彼の正体を暴くことが容易に出来る。
その一言を玲の冷気を灯した目を見ながらぶつける。
「…なあ、早口言葉言ってみてくれよ」
文脈から考えられないその間抜けな言葉に思わず玲ははぁ?と言葉をこぼす。
確かに普通に考えればわけのわからない言葉だとしても、俺にとっては、いや、俺達にとっては親しみ深い言葉だった。
玲は戸惑いつつも仕方がない、というふうにため息を付き、口を開き、早口言葉を言い始める。
「…生麦生米生卵、赤カマキリ 青カマキリ 黄カマキリ、鹿もカモシカも鹿の仲間 しかしアシカは鹿ではない 仕方ないが叱ってやった。これでいいか?」
その流暢な言葉に確信を持った俺は思わず笑いが込み上げてきてしまい、それを音にするのに時間はいらなかった。
こみ上げてくる子供のような笑い声でいつまでもおかしそうに笑っている俺を見ている玲の目は疑念の思いを浮かべている。
「ハハハッハーハッハ‥ククッ」
「な、何だよ気味悪い。ちゃんと言えただろう?」
俺は笑いの根源を絶たせるように彼の首元のシャツの襟元をガッと鷲掴みにする。そのまま少し腕を上に上げる。
ガッと声を上げながら驚き、俺をにらみつける玲の目を負けじと俺も彼に送り返す。
ゆっくりと口を開き、ワントーン低い声を発する。
「なぁ、お前誰だ?」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
使い捨て聖女の反乱
あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる