文系デスゲーム劇場

塩大福くん

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一章 一日目の惨劇

三話 恐怖

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 『いやぁ、お見事お見事。流石だよ』

 突如部屋に響いたノイズ混じりの声に思わず驚き、僅かに手を緩めた俺は音の発生源であろうスピーカーに鋭い目を向ける。その拍子に玲は反射的にその場にヘタリと座り込み、ゴホゴホと咳き込み始めた。

 彼は明らかに『朝倉玲』ではない。信じがたいが、これは玲に変装した別人だ。 

 「‥ゲホッ‥‥何を‥急、に‥」

 俺に襟元を掴まれたことに納得できず、絶望のような見開かれた目で俺を見つめる。それすらも演技だと思うと、急に馬鹿らしく思えてきた。
 そのとぼけた目を負けじと睨みつけ、そして標的を赤目玉がギョロリと光る監視カメラへと向ける。無機質なカメラは俺を見返した。

 『ご名答。彼は君の思う朝倉玲ではない。そいつは偽物さ』

 声は今まで聞いたことがないような清らかな声だ。凛としていて、透き通るような弾性の声。その声に心当たりはなく、俺は疑問に思う。
 心当たりがないということは逆恨みではないのだろうか?

 未だ分からない声の正体を探りつつ、俺は彼の声に反応した。

 「だろうな‥滑舌が良すぎる」

 全ての決め手はあの異常な滑舌の良さだった。
 
 毎週恒例となりかけている、司会俺、参加者俺、主役玲による『朝倉玲滑舌を良くする会』に置いて彼はまず早口言葉を早口で言えたことがない。
 早口でなくとも二分の一の確率で噛み、その第一ラウンドを突破しても第二ラウンドの早口チャレンジで今までもれなく脱落済みである。
 完全無欠の彼の唯一の欠点。それが滑舌の悪さだった。
 いつもはハキハキと喋れるようになってきたのに‥というのは俺しか知らない。

 だが、偽物の玲はそれにまんまと引っかかり、滑舌よく言ってしまった、という訳だ。

 「で、お前は誰だ?誘拐犯ってとこか?」 

 監視カメラに目を向け、ぶっきらぼうに尋ね、指を指し、いつもよりも荒い態度で接する。ここで決して弱気になってしまってはいけない。もしそうなったら犯人の思う壺だ。
   
 『流石弁護士とでも言おうか。そう、私は君達をさらった張本人さ』

 「ふーん、あっさり認めんじゃねぇか。俺のことも玲のことも知ってて君達って言ってるってことはやっぱ本物の玲もいんのか」

 やけに正直に話す誘拐犯に俺は鼻で笑い、質問を投げかける。

 俺に怖いという感情はなく、むしろ滑稽に思えた。彼が俺を誘拐した愚かな考えに思わず失笑してしまいそうである。
 仮にも俺は弁護士だ。そんな人間を誘拐するなんて。
 
 『その通り。朝倉玲は同じく君の偽物に翻弄されることもなく君より一足先にこの部屋を出たよ』

 「あー、どーでもいーけどこんな下らねー奴使ってないで早く帰らせろ」

 無理難題であろう意見を押し付け、俺は足元に転がっている偽物を軽く蹴る。彼は、ぐふっという声を漏らしたが、どうやら抵抗する気は無いらしい。もう偽れないとでも思ったのだろうか。
 正直、俺が助かるなら多少の金は渡すつもりだった。命に変えられるものはないとよく言ったものである。

 『とんでもないことを言うじゃないか。ゲームはここからだ』

 「‥は?ゲーム?」

 俺はその言葉に一瞬耳を疑った。

 ゲーム。

 それは金でもなく、命でもない、誘拐とは程遠い言葉だった。

 『まあゲームの説明はルールブックを読んでくれ』

 俺を置き去りにして彼は淡々と説明を続ける。

 「意味の分からないゲームになんて参加するかよ、略取誘拐罪って知ってるかお前?」

 若干声が震え始めた俺は威勢を落とすことなく、強気に尋ねる。

 『君はまだ気づいていないようだが‥その胸にある白いバラのバッチには小型爆弾が内蔵されている。無理に外そうとすれば爆発する設定になっている』

 ふとそんなことを言われ、慌てて胸元のスーツのポケットを手で鷲掴みにする。
 あるはずのない冷たい金属の感触に俺はさっきまでの態度とは一変し、顔を真っ青にしながら胸元に目を向けた。

 ある。バッチが。

 いつからあった?なんであるんだ?
 そんな疑問符が飛び交う。

 「な、なんのためにこんなことを‥!」 

 半ば叫ぶような声でカメラを睨みつける。
 
 『自分の胸に手を当てて考えるんだな』

 俺の心臓は既に壊れそうなほどにバクバクと鳴っていた。恐怖。今更になってそんなものを感じていた。
 爆弾。ゲーム。偽物。

 何が、どうなってやがる‥?

 『さあ、悪魔の部屋から続くドアの鍵を開けておいた。早く出て合流しろ』

 最後にこの部屋に響いたのはそんな残酷な声だった。
 そして、俺は偽物の彼に目を向けたあと、数秒の間何も言わず悪魔の部屋と書かれた部屋へと向かった。
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