文系デスゲーム劇場

塩大福くん

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一章 一日目の惨劇

四話 二人組

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 「あら、とうとう最後のお方がいらっしゃったようね」

 ステンドガラスの窓に囲まれた丸いホールのような部屋。いくつもの木製のドアがある中で最も目を引く頑丈な扉だった。中央には小さな紋章がはめられている。
 白を基調とした花柄の壁に丸いカーペットが敷いてあるフローリング。
 その上には四人の若い衆が立っていた。四人はどうやら2ペアで分かれているようだ。

    外じゃないのか…?

 ようやく再会できた俺ら二人を最初に迎えたのは黒髪の女性、いや少女だった。

 「‥自己紹介も一体何回目のくだりかわからないわね」

 はぁとため息をついて目を伏せながら首を降った彼女を見やる。
 腰まで伸びた絹のように美しい黒髪の姫カットに頭を飾る雲色の細かい模様の入ったカチューシャ。清楚で高貴な雰囲気のある首まである純白のフリルブラウス。黒い膝ほどの長さのプリーツスカート。カチューシャから靴下まで彼女の服の至るところには細かいひらひらとしたレースがあしらわているため、彼女の高貴さをより一層際立たせる。

 墨を清らかで冷たい真水で溶かしたような黒眼がはめ込まれた若干目元が上がった鋭い双眼は黒だけでなく、様々な彩りの光が目に指しているからか、まるで宝石のように感じる。長いまつげと二重のまぶたは美しい目を引き立てるようなものだとも思わせるほどだ。
 スッと整った鼻筋と艶やかに潤った唇。その端は僅かに上がっているような気もする。雪のような真っ白な肌は頬に健康的なチェリーレッドが差していた。鈴のように凛とした声には深みを感じる。

    俺はまるで妖精、いや女神のような美しさにすっかり見入ってしまっていた。年下なのは明確なのに、このような状況なのに。抗いようのない美しさに囚われていた。

 「まあいいじゃないですか、お嬢様」

 隣にいた男性がお嬢様、と呼ばれた彼女を宥める。
 
 同じく黒色の髪の男性、のはずだ。はずと言ったのはまるで彼が女性のような顔立ちだったからだ。
 襟のたった鳶服からして彼女の召使い、とかなのだろうか。
  年齢は恐らく20代後半。凛々しい顔立ちのお嬢様と呼ばれた彼女とは対照的な垂れ目。その垂れ目の中には若草色の瞳が宿り、その瞳孔は深緑色に輝いていた。
 髪は彼女と同じく黒色だが、よくよく見ると髪には深緑色の控え目なインナーカラーが入っている。男性にしては長めの髪を後ろでまとめて短めの三つ編みを肩に垂らしている。声も男性にしては少し高めで甘めの声だ。
 彼はあまり背丈は特別高い方でないようで、160cm後半ほどだろうか。華奢な体付きも相まってやはり女性のように見えてしまう。
 
 「…まあいいですわ、私は二条 詩生ニジョウ シキ。19歳の至って普通の女子大生。特にそれ以外無し」

    二条と聞いて、聞き覚えのある響きだと思い直す。そしてその核に迫ろうと脳内を駆け巡る。そしてハッとした。二条と言えばあの製薬会社二条グループではないか。

 「すいません、二条ってあの二条グループの‥?」

 「作用でございます。お嬢様は二条グループ会長、二条源太郎様の娘様であります」

 彼女への玲の問いかけは隣の彼が答えた。その通り、というかのように小さく頷き、ほら、貴方も、と言う。

 「ワタクシ英 ゆずハナブサ ユズ、二条家のお嬢様、詩生様のお世話役に仕える執事でございます。皆様、遠慮なく英とお呼びください」

 「ハナブサ‥珍しい名前だな」
 
 その名前を聞いて思わず声を漏らしてしまった。

 「余談でございますが英という名字は3000人ほどしかいません」

 「英、余計なうんちくはよしてくださいまし。まだ彼らのことも分からないんですのよ」

 へぇ、と感心している合間に鋭い二条さんの咎めの言葉が入る。

 「お兄ちゃん、私達も紹介したほうが‥」

 少し離れた場所にいたもう一組の男女がようやく話し始めた。

 「そうだな、俺は槐 燿エンジ ヒカリっす!‥そうだなぁ、エンリって言ったら聞いたことないっすか?」

 エンリ‥?聞き覚えのない名前だ。若手の芸人だろうか。
 
 目がチカチカするほどの色とりどりの蛍光色で彩られた白生地のパーカーに、チェーンのついたダメージジーンズ。真っ赤なスニーカー。全てが自分の存在を強調しているようだった。
 恐らく染められているであろうスポーツ刈りの金髪に、小麦色の肌に凛々しい眉と鼻筋。目は鋭く、キラキラと輝く琥珀色の目が僕らを見つめる。
 彼の顔を一言にするならばイケメン、だろう。身長も高く、顔も爽やかでいかにも女性にモテそうな顔をしている。
  
 「‥無料動画投稿サイト、ヤーチューブで今中高生の間で人気急上昇中のヤーチューバー、エンリ。違うか?」

 彼のチャラい態度が玲にとっては気に食わなかったらしく、いつも以上に冷たい声を彼に投げかける。

 「そーそー!そっちのお兄ちゃん、博識っ!自分から言うのも恥ずかしいけど人気ヤーチューバー、エンリでっす!」

 彼はそれには気づいていないようで指をパチンと鳴らして玲に指を向けるとニコッと笑う。
 
 「ま、俺なんかより麗蘭レイラのほうがすごいんだけどさ」

 ハハッと自傷気味に笑いながらポリポリと頭を掻くと、とレイラと呼ばれたメルヘンな少女の方をチラリと見やる。

 その少女はずっと槐さんの手を頑なに掴んでいたが、パッと手を離してから一歩前に出て一呼吸すると紹介を始めだした。

 「ハロー!私は槐 麗蘭エンジ レイラ!みんなからは汐原 れいらシオハラ レイラって呼ばれてまぁす!おにーさんたち二人共、よろしくね!」

 華麗な少女は俺たちにニコッと笑いながらウインクを飛ばす。

 「も、もしかして汐原れいらってあの!?」
 
 汐原れいら。流石の俺でも知っている。
 CMやテレビ番組、週刊誌。至るところで引っ張りだこの超人気アイドル汐原れいら。
 まだ無名の頃15歳にしてこの可憐さと演技力を買われ、「中学生の芽鐘さん。」というドラマの主人公、芽鐘 地実メカネ ジミという変哲もない真面目っ子が同じクラスの人気者、池田 明太イケタ メンタに告白されることから始まる恋愛ドラマだ。
 可憐な見た目や声は瞬時で世間を虜にし、またたく間に彼女は有名になった。

 チャームポイントのオーロラのような桃色ののふわふわにカールした髪は光を吸収し、キラキラと煌めき、インパクトのあるパステルカラーのファンシーなキャラメルの飾りがついたヘアゴムでくくったツインテールにしている。

 くりっとした紅色のルビーのような瞳。滑らかで潤いのある肌には控えめのチークやアイシャドウ、マスカラやリップを塗っているであろう健康的なピンクの唇の奥は先程の二条さんとは違い、にっこりと真っ白な歯を見せて、健気に笑っている。

 服はどうやらアイドルの衣装のようで、ピンクを基調としたへそを出したノースリーブのシャツの胸元には赤とピンクのグラデーションのかかったチャーミングなリボンが目につく。孔雀のように短いふわふわと広がる大柄なチェックのスカートにはこれでもかと言わんばかりにラメやスパンコール、フリル、そして後ろにはこれまた大きなリボンがあしらわれていた。

 「うん!れいら、おにーさんたちと仲良くしたいからよろしくね!」

 そう言うと、彼女はピースをして僕の前に突きつけた。テレビの画面越しでしか見たことがないその仕草に思わず感動してしまう。
 偉いな、と槐さんに頭を撫でられたれいらはえへへと嬉しそうに自分から頭をクイッとやる。この様子を見るに、どうやら二人は兄妹らしい。
 
 

 やはり、俺らと状況は同じ、か。

 そう胸に感じたのは俺だけではないだろう。明るい自己紹介で誤魔化してはいるものの、誰もが目線が胸元のバラに向けられていた。

 「‥俺は工藤正義。一応、弁護士だ」

 「‥ポンコツだけど」

 「駆け出しと言え!」

 玲の余計な一言に一々突っかかってしまう。

 「俺は朝倉玲。同じく弁護士だ」

 「朝倉玲‥聞いたことがありますわ。それに工藤正義も」

 ぶつぶつと喋る詩生に俺ら以外がうんうんと頷く。
 それもそのはず。こいつは時々、いや頻繁にニュース番組に出ている上に容姿端麗ときた。記憶に残るだろう。

 「皆様有名なお方ばかりですね。やはり誘拐の線が濃いということですね!」

 英がぽんと手を叩いて閃いた!という顔をする。が、それが間違いというのは俺でも分かった。

 「いいえ、それはありえませんわ。私やアイドルのれいらさんや有名ヤーチューバーであるエンリさんはともかく、召使いである英や弁護士のお二方を誘拐するなんて無意味かつリスキーですもの」

 俺が思ったことを的確に抑え反駁ハンバクする。

 「ああ、俺もその意見に賛成だ」

 玲も目を伏せながらゆっくりと頷いた。

 「ここの部屋を探索しましたが、出口はありませんでしたわ。怪しいとすればどう見てもあの扉ですわね」

 彼女が目を向けた扉はあの鉄の頑丈そうな扉だった。
 俺らが近づくとほか四人もわらわらと近づく。
 冷ややかな扉はドアノブも鍵穴もなく、どこから開くのかも見当がつかない。
 細やかな彫り込みは茨のような形に成っているようだ。彫り込みを指でなぞってもみるが返ってきたのは冷ややかな無機物の感触だけだった。

 「どうすりゃいいんっすかねぇ‥開きそうにないっすし‥」
 
 ここで野垂れ死ぬ訳にはいかない。なんとかして出なければいけないと肝に命じる。

 「そういえば、詩生、先程の部屋で『ルールブック』とやらの話をされたのは覚えているか?」

 ふと、ルールブックのことを思い出し、一番まともそうな詩生に話しだす。

 「ええ、私もされましたわ。それがいかがなさいましたの?」
 
 「ルールブックがおいてあるって言われたっすけど、今のところそれらしきものはないっすねぇ‥」

 「と、いうことはつまりだ、。そしてそこに行くには俺らがこの扉を開けなければいけないというのは絶対事項。少なくともここで野垂れ死ぬことはない、いや開ける能力を持った者しかここに立てない」

 「つまり俺らはさっきの部屋で試されたんだ。知力、武力、洞察力、そしてを」
 
 「信じたくはない、ですわね‥いえしかし、それなら一体なんのために…」

 詩生が自らの唇を細い指でしきりに触る。

 「待って、よくよく見たらこの壁になんか彫られてるよ、これなんだろ?」

 背の低いれいらが彼女の言葉を遮り、若干背伸びをしながら指を指した。指を指したのは例のドアの真横を指す。

 「小さくフランス語で書いてあるんですけど‥読めますかね?」

 見ると、確かに赤い文字で何かが彫られている。しかしはっきりとは分からない上に当然のことながらフランス語なので読めもしない。

 「‥『皿』と『点』、『捧げる』だな。学生時代フランスに留学していてよかった」
  
 すると、横からサッと入ってきた玲が率先して解読する。留学していたのは知っていたが流石だ、と改めて感心した。みんなも同じようで感嘆の声を漏らしている。

 「わざわざフランス語で書くってことは貴方の学生時代を知っているってこと、かしら」

 その犯人の思惑に思わず悪寒が走る。

 「薄気味悪いな‥」

 犯人は俺らの事を熟知しているという確定的な事実。それと同時に一体犯人は誰なのかという疑念が深まる。

 「皿と、点?‥まさか」

 そして俺達の背後には再び悪寒が走ることとなった。言葉遊びにしてはあまりにも単純であまりにもたちが悪い。

 「‥『血』、とかじゃないでしょうね」

 詩生の発言に英が口に手を抑えながら目を細める。

 「まさか、そんな‥捧げるとしてどこに‥?」

 「バラは本来、赤色、ですわよね」

 数秒遅れて聞こえてきた彼女の少し震えた声に信じたくないという思いが透けて見える。点と点が繋がり、そして一つの信じたくない結論に至る。

 「‥誰かがここに血を流さないと出れない?」

 全員の思いが完全に一致した。そんな瞬間だった。

 『よぉく気づいたねぇ!流石弁護士の工藤さん!』
  
 突如としてスピーカーから音質の悪い声が聞こえてくる。

 「!!だ、誰?」

 ここにいる誰の声にも似ない女性の声が空虚に響く。
    全員が周囲を警戒する。

 『まあまあ、怖がらないでよ、今貴方達の』








 「近くにいるんだから」

    
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