5 / 5
一章 一日目の惨劇
四話 二人組
しおりを挟む
「あら、とうとう最後のお方がいらっしゃったようね」
ステンドガラスの窓に囲まれた丸いホールのような部屋。いくつもの木製のドアがある中で最も目を引く頑丈な扉だった。中央には小さな紋章がはめられている。
白を基調とした花柄の壁に丸いカーペットが敷いてあるフローリング。
その上には四人の若い衆が立っていた。四人はどうやら2ペアで分かれているようだ。
外じゃないのか…?
ようやく再会できた俺ら二人を最初に迎えたのは黒髪の女性、いや少女だった。
「‥自己紹介も一体何回目のくだりかわからないわね」
はぁとため息をついて目を伏せながら首を降った彼女を見やる。
腰まで伸びた絹のように美しい黒髪の姫カットに頭を飾る雲色の細かい模様の入ったカチューシャ。清楚で高貴な雰囲気のある首まである純白のフリルブラウス。黒い膝ほどの長さのプリーツスカート。カチューシャから靴下まで彼女の服の至るところには細かいひらひらとしたレースがあしらわているため、彼女の高貴さをより一層際立たせる。
墨を清らかで冷たい真水で溶かしたような黒眼がはめ込まれた若干目元が上がった鋭い双眼は黒だけでなく、様々な彩りの光が目に指しているからか、まるで宝石のように感じる。長いまつげと二重のまぶたは美しい目を引き立てるようなものだとも思わせるほどだ。
スッと整った鼻筋と艶やかに潤った唇。その端は僅かに上がっているような気もする。雪のような真っ白な肌は頬に健康的なチェリーレッドが差していた。鈴のように凛とした声には深みを感じる。
俺はまるで妖精、いや女神のような美しさにすっかり見入ってしまっていた。年下なのは明確なのに、このような状況なのに。抗いようのない美しさに囚われていた。
「まあいいじゃないですか、お嬢様」
隣にいた男性がお嬢様、と呼ばれた彼女を宥める。
同じく黒色の髪の男性、のはずだ。はずと言ったのはまるで彼が女性のような顔立ちだったからだ。
襟のたった鳶服からして彼女の召使い、とかなのだろうか。
年齢は恐らく20代後半。凛々しい顔立ちのお嬢様と呼ばれた彼女とは対照的な垂れ目。その垂れ目の中には若草色の瞳が宿り、その瞳孔は深緑色に輝いていた。
髪は彼女と同じく黒色だが、よくよく見ると髪には深緑色の控え目なインナーカラーが入っている。男性にしては長めの髪を後ろでまとめて短めの三つ編みを肩に垂らしている。声も男性にしては少し高めで甘めの声だ。
彼はあまり背丈は特別高い方でないようで、160cm後半ほどだろうか。華奢な体付きも相まってやはり女性のように見えてしまう。
「…まあいいですわ、私は二条 詩生。19歳の至って普通の女子大生。特にそれ以外無し」
二条と聞いて、聞き覚えのある響きだと思い直す。そしてその核に迫ろうと脳内を駆け巡る。そしてハッとした。二条と言えばあの製薬会社二条グループではないか。
「すいません、二条ってあの二条グループの‥?」
「作用でございます。お嬢様は二条グループ会長、二条源太郎様の娘様であります」
彼女への玲の問いかけは隣の彼が答えた。その通り、というかのように小さく頷き、ほら、貴方も、と言う。
「私は英 ゆず、二条家のお嬢様、詩生様のお世話役に仕える執事でございます。皆様、遠慮なく英とお呼びください」
「ハナブサ‥珍しい名前だな」
その名前を聞いて思わず声を漏らしてしまった。
「余談でございますが英という名字は3000人ほどしかいません」
「英、余計なうんちくはよしてくださいまし。まだ彼らのことも分からないんですのよ」
へぇ、と感心している合間に鋭い二条さんの咎めの言葉が入る。
「お兄ちゃん、私達も紹介したほうが‥」
少し離れた場所にいたもう一組の男女がようやく話し始めた。
「そうだな、俺は槐 燿っす!‥そうだなぁ、エンリって言ったら聞いたことないっすか?」
エンリ‥?聞き覚えのない名前だ。若手の芸人だろうか。
目がチカチカするほどの色とりどりの蛍光色で彩られた白生地のパーカーに、チェーンのついたダメージジーンズ。真っ赤なスニーカー。全てが自分の存在を強調しているようだった。
恐らく染められているであろうスポーツ刈りの金髪に、小麦色の肌に凛々しい眉と鼻筋。目は鋭く、キラキラと輝く琥珀色の目が僕らを見つめる。
彼の顔を一言にするならばイケメン、だろう。身長も高く、顔も爽やかでいかにも女性にモテそうな顔をしている。
「‥無料動画投稿サイト、ヤーチューブで今中高生の間で人気急上昇中のヤーチューバー、エンリ。違うか?」
彼のチャラい態度が玲にとっては気に食わなかったらしく、いつも以上に冷たい声を彼に投げかける。
「そーそー!そっちのお兄ちゃん、博識っ!自分から言うのも恥ずかしいけど人気ヤーチューバー、エンリでっす!」
彼はそれには気づいていないようで指をパチンと鳴らして玲に指を向けるとニコッと笑う。
「ま、俺なんかより麗蘭のほうがすごいんだけどさ」
ハハッと自傷気味に笑いながらポリポリと頭を掻くと、とレイラと呼ばれたメルヘンな少女の方をチラリと見やる。
その少女はずっと槐さんの手を頑なに掴んでいたが、パッと手を離してから一歩前に出て一呼吸すると紹介を始めだした。
「ハロー!私は槐 麗蘭!みんなからは汐原 れいらって呼ばれてまぁす!おにーさんたち二人共、よろしくね!」
華麗な少女は俺たちにニコッと笑いながらウインクを飛ばす。
「も、もしかして汐原れいらってあの!?」
汐原れいら。流石の俺でも知っている。
CMやテレビ番組、週刊誌。至るところで引っ張りだこの超人気アイドル汐原れいら。
まだ無名の頃15歳にしてこの可憐さと演技力を買われ、「中学生の芽鐘さん。」というドラマの主人公、芽鐘 地実という変哲もない真面目っ子が同じクラスの人気者、池田 明太に告白されることから始まる恋愛ドラマだ。
可憐な見た目や声は瞬時で世間を虜にし、またたく間に彼女は有名になった。
チャームポイントのオーロラのような桃色ののふわふわにカールした髪は光を吸収し、キラキラと煌めき、インパクトのあるパステルカラーのファンシーなキャラメルの飾りがついたヘアゴムでくくったツインテールにしている。
くりっとした紅色のルビーのような瞳。滑らかで潤いのある肌には控えめのチークやアイシャドウ、マスカラやリップを塗っているであろう健康的なピンクの唇の奥は先程の二条さんとは違い、にっこりと真っ白な歯を見せて、健気に笑っている。
服はどうやらアイドルの衣装のようで、ピンクを基調としたへそを出したノースリーブのシャツの胸元には赤とピンクのグラデーションのかかったチャーミングなリボンが目につく。孔雀のように短いふわふわと広がる大柄なチェックのスカートにはこれでもかと言わんばかりにラメやスパンコール、フリル、そして後ろにはこれまた大きなリボンがあしらわれていた。
「うん!れいら、おにーさんたちと仲良くしたいからよろしくね!」
そう言うと、彼女はピースをして僕の前に突きつけた。テレビの画面越しでしか見たことがないその仕草に思わず感動してしまう。
偉いな、と槐さんに頭を撫でられたれいらはえへへと嬉しそうに自分から頭をクイッとやる。この様子を見るに、どうやら二人は兄妹らしい。
そして全員の胸元や髪飾りにはバラの飾りがついていた
やはり、俺らと状況は同じ、か。
そう胸に感じたのは俺だけではないだろう。明るい自己紹介で誤魔化してはいるものの、誰もが目線が胸元のバラに向けられていた。
「‥俺は工藤正義。一応、弁護士だ」
「‥ポンコツだけど」
「駆け出しと言え!」
玲の余計な一言に一々突っかかってしまう。
「俺は朝倉玲。同じく弁護士だ」
「朝倉玲‥聞いたことがありますわ。それに工藤正義も」
ぶつぶつと喋る詩生に俺ら以外がうんうんと頷く。
それもそのはず。こいつは時々、いや頻繁にニュース番組に出ている上に容姿端麗ときた。記憶に残るだろう。
「皆様有名なお方ばかりですね。やはり誘拐の線が濃いということですね!」
英がぽんと手を叩いて閃いた!という顔をする。が、それが間違いというのは俺でも分かった。
「いいえ、それはありえませんわ。私やアイドルのれいらさんや有名ヤーチューバーであるエンリさんはともかく、召使いである英や弁護士のお二方を誘拐するなんて無意味かつリスキーですもの」
俺が思ったことを的確に抑え反駁する。
「ああ、俺もその意見に賛成だ」
玲も目を伏せながらゆっくりと頷いた。
「ここの部屋を探索しましたが、出口はありませんでしたわ。怪しいとすればどう見てもあの扉ですわね」
彼女が目を向けた扉はあの鉄の頑丈そうな扉だった。
俺らが近づくとほか四人もわらわらと近づく。
冷ややかな扉はドアノブも鍵穴もなく、どこから開くのかも見当がつかない。
細やかな彫り込みは茨のような形に成っているようだ。彫り込みを指でなぞってもみるが返ってきたのは冷ややかな無機物の感触だけだった。
「どうすりゃいいんっすかねぇ‥開きそうにないっすし‥」
ここで野垂れ死ぬ訳にはいかない。なんとかして出なければいけないと肝に命じる。
「そういえば、詩生、先程の部屋で『ルールブック』とやらの話をされたのは覚えているか?」
ふと、ルールブックのことを思い出し、一番まともそうな詩生に話しだす。
「ええ、私もされましたわ。それがいかがなさいましたの?」
「ルールブックがおいてあるって言われたっすけど、今のところそれらしきものはないっすねぇ‥」
「と、いうことはつまりだ、まだこの先にも部屋がある。そしてそこに行くには俺らがこの扉を開けなければいけないというのは絶対事項。少なくともここで野垂れ死ぬことはない、いや開ける能力を持った者しかここに立てない」
「つまり俺らはさっきの部屋で試されたんだ。知力、武力、洞察力、そしてペアとの信頼を」
「信じたくはない、ですわね‥いえしかし、それなら一体なんのために…」
詩生が自らの唇を細い指でしきりに触る。
「待って、よくよく見たらこの壁になんか彫られてるよ、これなんだろ?」
背の低いれいらが彼女の言葉を遮り、若干背伸びをしながら指を指した。指を指したのは例のドアの真横を指す。
「小さくフランス語で書いてあるんですけど‥読めますかね?」
見ると、確かに赤い文字で何かが彫られている。しかしはっきりとは分からない上に当然のことながらフランス語なので読めもしない。
「‥『皿』と『点』、『捧げる』だな。学生時代フランスに留学していてよかった」
すると、横からサッと入ってきた玲が率先して解読する。留学していたのは知っていたが流石だ、と改めて感心した。みんなも同じようで感嘆の声を漏らしている。
「わざわざフランス語で書くってことは貴方の学生時代を知っているってこと、かしら」
その犯人の思惑に思わず悪寒が走る。
「薄気味悪いな‥」
犯人は俺らの事を熟知しているという確定的な事実。それと同時に一体犯人は誰なのかという疑念が深まる。
「皿と、点?‥まさか」
そして俺達の背後には再び悪寒が走ることとなった。言葉遊びにしてはあまりにも単純であまりにもたちが悪い。
「‥『血』、とかじゃないでしょうね」
詩生の発言に英が口に手を抑えながら目を細める。
「まさか、そんな‥捧げるとしてどこに‥?」
「バラは本来、赤色、ですわよね」
数秒遅れて聞こえてきた彼女の少し震えた声に信じたくないという思いが透けて見える。点と点が繋がり、そして一つの信じたくない結論に至る。
「‥誰かがここに血を流さないと出れない?」
全員の思いが完全に一致した。そんな瞬間だった。
『よぉく気づいたねぇ!流石弁護士の工藤さん!』
突如としてスピーカーから音質の悪い声が聞こえてくる。
「!!だ、誰?」
ここにいる誰の声にも似ない女性の声が空虚に響く。
全員が周囲を警戒する。
『まあまあ、怖がらないでよ、今貴方達の』
「近くにいるんだから」
ステンドガラスの窓に囲まれた丸いホールのような部屋。いくつもの木製のドアがある中で最も目を引く頑丈な扉だった。中央には小さな紋章がはめられている。
白を基調とした花柄の壁に丸いカーペットが敷いてあるフローリング。
その上には四人の若い衆が立っていた。四人はどうやら2ペアで分かれているようだ。
外じゃないのか…?
ようやく再会できた俺ら二人を最初に迎えたのは黒髪の女性、いや少女だった。
「‥自己紹介も一体何回目のくだりかわからないわね」
はぁとため息をついて目を伏せながら首を降った彼女を見やる。
腰まで伸びた絹のように美しい黒髪の姫カットに頭を飾る雲色の細かい模様の入ったカチューシャ。清楚で高貴な雰囲気のある首まである純白のフリルブラウス。黒い膝ほどの長さのプリーツスカート。カチューシャから靴下まで彼女の服の至るところには細かいひらひらとしたレースがあしらわているため、彼女の高貴さをより一層際立たせる。
墨を清らかで冷たい真水で溶かしたような黒眼がはめ込まれた若干目元が上がった鋭い双眼は黒だけでなく、様々な彩りの光が目に指しているからか、まるで宝石のように感じる。長いまつげと二重のまぶたは美しい目を引き立てるようなものだとも思わせるほどだ。
スッと整った鼻筋と艶やかに潤った唇。その端は僅かに上がっているような気もする。雪のような真っ白な肌は頬に健康的なチェリーレッドが差していた。鈴のように凛とした声には深みを感じる。
俺はまるで妖精、いや女神のような美しさにすっかり見入ってしまっていた。年下なのは明確なのに、このような状況なのに。抗いようのない美しさに囚われていた。
「まあいいじゃないですか、お嬢様」
隣にいた男性がお嬢様、と呼ばれた彼女を宥める。
同じく黒色の髪の男性、のはずだ。はずと言ったのはまるで彼が女性のような顔立ちだったからだ。
襟のたった鳶服からして彼女の召使い、とかなのだろうか。
年齢は恐らく20代後半。凛々しい顔立ちのお嬢様と呼ばれた彼女とは対照的な垂れ目。その垂れ目の中には若草色の瞳が宿り、その瞳孔は深緑色に輝いていた。
髪は彼女と同じく黒色だが、よくよく見ると髪には深緑色の控え目なインナーカラーが入っている。男性にしては長めの髪を後ろでまとめて短めの三つ編みを肩に垂らしている。声も男性にしては少し高めで甘めの声だ。
彼はあまり背丈は特別高い方でないようで、160cm後半ほどだろうか。華奢な体付きも相まってやはり女性のように見えてしまう。
「…まあいいですわ、私は二条 詩生。19歳の至って普通の女子大生。特にそれ以外無し」
二条と聞いて、聞き覚えのある響きだと思い直す。そしてその核に迫ろうと脳内を駆け巡る。そしてハッとした。二条と言えばあの製薬会社二条グループではないか。
「すいません、二条ってあの二条グループの‥?」
「作用でございます。お嬢様は二条グループ会長、二条源太郎様の娘様であります」
彼女への玲の問いかけは隣の彼が答えた。その通り、というかのように小さく頷き、ほら、貴方も、と言う。
「私は英 ゆず、二条家のお嬢様、詩生様のお世話役に仕える執事でございます。皆様、遠慮なく英とお呼びください」
「ハナブサ‥珍しい名前だな」
その名前を聞いて思わず声を漏らしてしまった。
「余談でございますが英という名字は3000人ほどしかいません」
「英、余計なうんちくはよしてくださいまし。まだ彼らのことも分からないんですのよ」
へぇ、と感心している合間に鋭い二条さんの咎めの言葉が入る。
「お兄ちゃん、私達も紹介したほうが‥」
少し離れた場所にいたもう一組の男女がようやく話し始めた。
「そうだな、俺は槐 燿っす!‥そうだなぁ、エンリって言ったら聞いたことないっすか?」
エンリ‥?聞き覚えのない名前だ。若手の芸人だろうか。
目がチカチカするほどの色とりどりの蛍光色で彩られた白生地のパーカーに、チェーンのついたダメージジーンズ。真っ赤なスニーカー。全てが自分の存在を強調しているようだった。
恐らく染められているであろうスポーツ刈りの金髪に、小麦色の肌に凛々しい眉と鼻筋。目は鋭く、キラキラと輝く琥珀色の目が僕らを見つめる。
彼の顔を一言にするならばイケメン、だろう。身長も高く、顔も爽やかでいかにも女性にモテそうな顔をしている。
「‥無料動画投稿サイト、ヤーチューブで今中高生の間で人気急上昇中のヤーチューバー、エンリ。違うか?」
彼のチャラい態度が玲にとっては気に食わなかったらしく、いつも以上に冷たい声を彼に投げかける。
「そーそー!そっちのお兄ちゃん、博識っ!自分から言うのも恥ずかしいけど人気ヤーチューバー、エンリでっす!」
彼はそれには気づいていないようで指をパチンと鳴らして玲に指を向けるとニコッと笑う。
「ま、俺なんかより麗蘭のほうがすごいんだけどさ」
ハハッと自傷気味に笑いながらポリポリと頭を掻くと、とレイラと呼ばれたメルヘンな少女の方をチラリと見やる。
その少女はずっと槐さんの手を頑なに掴んでいたが、パッと手を離してから一歩前に出て一呼吸すると紹介を始めだした。
「ハロー!私は槐 麗蘭!みんなからは汐原 れいらって呼ばれてまぁす!おにーさんたち二人共、よろしくね!」
華麗な少女は俺たちにニコッと笑いながらウインクを飛ばす。
「も、もしかして汐原れいらってあの!?」
汐原れいら。流石の俺でも知っている。
CMやテレビ番組、週刊誌。至るところで引っ張りだこの超人気アイドル汐原れいら。
まだ無名の頃15歳にしてこの可憐さと演技力を買われ、「中学生の芽鐘さん。」というドラマの主人公、芽鐘 地実という変哲もない真面目っ子が同じクラスの人気者、池田 明太に告白されることから始まる恋愛ドラマだ。
可憐な見た目や声は瞬時で世間を虜にし、またたく間に彼女は有名になった。
チャームポイントのオーロラのような桃色ののふわふわにカールした髪は光を吸収し、キラキラと煌めき、インパクトのあるパステルカラーのファンシーなキャラメルの飾りがついたヘアゴムでくくったツインテールにしている。
くりっとした紅色のルビーのような瞳。滑らかで潤いのある肌には控えめのチークやアイシャドウ、マスカラやリップを塗っているであろう健康的なピンクの唇の奥は先程の二条さんとは違い、にっこりと真っ白な歯を見せて、健気に笑っている。
服はどうやらアイドルの衣装のようで、ピンクを基調としたへそを出したノースリーブのシャツの胸元には赤とピンクのグラデーションのかかったチャーミングなリボンが目につく。孔雀のように短いふわふわと広がる大柄なチェックのスカートにはこれでもかと言わんばかりにラメやスパンコール、フリル、そして後ろにはこれまた大きなリボンがあしらわれていた。
「うん!れいら、おにーさんたちと仲良くしたいからよろしくね!」
そう言うと、彼女はピースをして僕の前に突きつけた。テレビの画面越しでしか見たことがないその仕草に思わず感動してしまう。
偉いな、と槐さんに頭を撫でられたれいらはえへへと嬉しそうに自分から頭をクイッとやる。この様子を見るに、どうやら二人は兄妹らしい。
そして全員の胸元や髪飾りにはバラの飾りがついていた
やはり、俺らと状況は同じ、か。
そう胸に感じたのは俺だけではないだろう。明るい自己紹介で誤魔化してはいるものの、誰もが目線が胸元のバラに向けられていた。
「‥俺は工藤正義。一応、弁護士だ」
「‥ポンコツだけど」
「駆け出しと言え!」
玲の余計な一言に一々突っかかってしまう。
「俺は朝倉玲。同じく弁護士だ」
「朝倉玲‥聞いたことがありますわ。それに工藤正義も」
ぶつぶつと喋る詩生に俺ら以外がうんうんと頷く。
それもそのはず。こいつは時々、いや頻繁にニュース番組に出ている上に容姿端麗ときた。記憶に残るだろう。
「皆様有名なお方ばかりですね。やはり誘拐の線が濃いということですね!」
英がぽんと手を叩いて閃いた!という顔をする。が、それが間違いというのは俺でも分かった。
「いいえ、それはありえませんわ。私やアイドルのれいらさんや有名ヤーチューバーであるエンリさんはともかく、召使いである英や弁護士のお二方を誘拐するなんて無意味かつリスキーですもの」
俺が思ったことを的確に抑え反駁する。
「ああ、俺もその意見に賛成だ」
玲も目を伏せながらゆっくりと頷いた。
「ここの部屋を探索しましたが、出口はありませんでしたわ。怪しいとすればどう見てもあの扉ですわね」
彼女が目を向けた扉はあの鉄の頑丈そうな扉だった。
俺らが近づくとほか四人もわらわらと近づく。
冷ややかな扉はドアノブも鍵穴もなく、どこから開くのかも見当がつかない。
細やかな彫り込みは茨のような形に成っているようだ。彫り込みを指でなぞってもみるが返ってきたのは冷ややかな無機物の感触だけだった。
「どうすりゃいいんっすかねぇ‥開きそうにないっすし‥」
ここで野垂れ死ぬ訳にはいかない。なんとかして出なければいけないと肝に命じる。
「そういえば、詩生、先程の部屋で『ルールブック』とやらの話をされたのは覚えているか?」
ふと、ルールブックのことを思い出し、一番まともそうな詩生に話しだす。
「ええ、私もされましたわ。それがいかがなさいましたの?」
「ルールブックがおいてあるって言われたっすけど、今のところそれらしきものはないっすねぇ‥」
「と、いうことはつまりだ、まだこの先にも部屋がある。そしてそこに行くには俺らがこの扉を開けなければいけないというのは絶対事項。少なくともここで野垂れ死ぬことはない、いや開ける能力を持った者しかここに立てない」
「つまり俺らはさっきの部屋で試されたんだ。知力、武力、洞察力、そしてペアとの信頼を」
「信じたくはない、ですわね‥いえしかし、それなら一体なんのために…」
詩生が自らの唇を細い指でしきりに触る。
「待って、よくよく見たらこの壁になんか彫られてるよ、これなんだろ?」
背の低いれいらが彼女の言葉を遮り、若干背伸びをしながら指を指した。指を指したのは例のドアの真横を指す。
「小さくフランス語で書いてあるんですけど‥読めますかね?」
見ると、確かに赤い文字で何かが彫られている。しかしはっきりとは分からない上に当然のことながらフランス語なので読めもしない。
「‥『皿』と『点』、『捧げる』だな。学生時代フランスに留学していてよかった」
すると、横からサッと入ってきた玲が率先して解読する。留学していたのは知っていたが流石だ、と改めて感心した。みんなも同じようで感嘆の声を漏らしている。
「わざわざフランス語で書くってことは貴方の学生時代を知っているってこと、かしら」
その犯人の思惑に思わず悪寒が走る。
「薄気味悪いな‥」
犯人は俺らの事を熟知しているという確定的な事実。それと同時に一体犯人は誰なのかという疑念が深まる。
「皿と、点?‥まさか」
そして俺達の背後には再び悪寒が走ることとなった。言葉遊びにしてはあまりにも単純であまりにもたちが悪い。
「‥『血』、とかじゃないでしょうね」
詩生の発言に英が口に手を抑えながら目を細める。
「まさか、そんな‥捧げるとしてどこに‥?」
「バラは本来、赤色、ですわよね」
数秒遅れて聞こえてきた彼女の少し震えた声に信じたくないという思いが透けて見える。点と点が繋がり、そして一つの信じたくない結論に至る。
「‥誰かがここに血を流さないと出れない?」
全員の思いが完全に一致した。そんな瞬間だった。
『よぉく気づいたねぇ!流石弁護士の工藤さん!』
突如としてスピーカーから音質の悪い声が聞こえてくる。
「!!だ、誰?」
ここにいる誰の声にも似ない女性の声が空虚に響く。
全員が周囲を警戒する。
『まあまあ、怖がらないでよ、今貴方達の』
「近くにいるんだから」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
使い捨て聖女の反乱
あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる