異世界呪われた救世主~異世界召喚されたら呪いで女に。呪った奴はぶっ飛ばす~

陽月純

文字の大きさ
8 / 105
第一章 救世主と聖女

第8話 初バトル

しおりを挟む
 ポーラと戦闘訓練を始め三日が経った。初日と比べてもはっきりと分かる位、俺の動きは良くなっていた。もう外に出てモンスターと戦っても大丈夫だと自分でも思う。

「アスカ、だいぶ動きが良くなったね。そろそろ実戦に出てみようか」
「ああ。俺もそろそろ大丈夫な気がしていたからな。行ってみよう」

 この村の周辺にはスライムが少々出没する程度らしい。俺が初めてこの世界に来た時に現れたのもスライムだったな。

 腕が鳴るぜ。とは言っても、俺のレベルは一のまま。しかも、武器は使えない素手での戦闘だ。気を抜けないのは間違いない。

「ちょっと待っていて。宿から装備を取ってくるわ」

 ポーラが宿に装備を取りに行っている間も俺は戦闘のイメージトレーニングを兼ねて、一人シャドーをしながら待っていた。暫くしてポーラが戻ってくると、シャドーをしている俺を見てクスクスと笑っていた。

「お待たせ。そんなに張り切らなくてもいいわよ。相手はスライムなんだから」
「そんなこと言ってもなぁ。俺はモンスターと戦うのは初めてなんだぞ。緊張して当然だろ」

 ゲームなんかじゃスライムと言えば、序盤に出てくる雑魚中の雑魚が常識。やっぱりこっちの世界でも同様の扱いなのかポーラは余裕といった感じだ。

「まあ、初めての生死に係わる戦闘になるだろうから、緊張するなというのも無理か」

 うん? 生死に係わる?

「おい、ちょっと待った。今、命に係わるって言ったか? スライムなんだろ?」
「あら、アスカ、あなたひょっとしてスライムが雑魚とか想像していたのかしら?」
「お前の言い方だとそう感じたんだけど、違うのか?」
「確かにスライムは弱いわよ。でも、舐めてかかったら死ぬわよ。スライムの体当たり程度じゃ、ダメージなんて受けないわ。でも、あれが出す消化液は何でも溶かしてしまう。肌に触れたら、骨まで溶けてしまうわよ。それに、あのゼリー状の体で口や鼻を覆われたら、窒息して死んでしまうわ」

 おいおい、そんな事言われたら、ビビッてしまうじゃないか……。

「まあ、でも動きはそれほど早くないし、消化液にさえ気を付けていれば死なないわよ。私も付いているしね」
「頼むよ。本当に」
「任せなさい!」

 俺たちは、村を出て暫く平野を歩いていたが、思ったよりモンスターがうろうろしている訳でもなく、スライムに出会えなかった。
一時間ほど歩いていくと、俺の背丈ほどある草が群生している場所に辿り着いた。

「気を付けて。こういう所にスライムはよく現れるわよ」

 ポーラが俺に注意を促す。すると、それがあたかもゲームのフラグだったかのように、草の中からガサガサと音がして、何かがこっちにやってくるようだ。俺は、すぐに戦闘態勢に入り待ち構える。

 ガサガサッ。ガサガサガサッ!

 草の中からピョコっと何かが飛び出てきた。俺はそれに殴りかかろうとすると、ポーラが静止する。

「待って。スライムじゃないわよ」

 そう言われ、よく見るとそれは兎に似た小動物だった。その小動物が俺たちの方をじっと見ている。

「兎?」
「あれは、ラビね。人前にこんなに堂々と出てくるなんて、珍しいわね」
「ラビ?」
「ええ、臆病で大人しい動物よ。あのお肉が美味しいの。昨日の宿の食事にも出ていたわよ」

 あのシチューみたいな食べ物に入っていた肉がそうか。でも、そんな臆病なラビがどうして? すると更に草の中から別の生き物が出てきて、ラビを取り込んだ。

「スライム!」
「あのスライムから逃げていたのね。アスカ、さあ、今度こそあなたの出番よ」

 俺は構えるとスライムの目の前に出る。ラビがスライムの青い体の中で溶かされていく。俺も下手をすればあのラビと同じ目に合うのかもしれないと思うと、最初の一歩が動き出せなかった。

「落ち着いて。あなたなら出来るわ」
「よし、いくぞ!」

 ガサ、ガサガサ……、ガサガサガサ……

 スライムに突撃しようとしたその時、草の中から更にスライムが出てきた。ざっと見て十体はいる。

「嘘だろ! こんな数相手に出来る訳ないじゃないか!」
「大丈夫よ。新たに現れたスライムは私が相手するから、あなたは目の前の一体に集中して」

 ポーラが剣を抜き、新たに現れたスライム達の中へ向かっていく。スパッ。あっという間に一体のスライムがポーラの剣によって真っ二つに割れ、消えていった。

 俺も負けていられないな。よし、気を取り直していくぞ。目の前のスライムに向かって駆け出す。くっ、走ると胸が弾んで邪魔だ……。だが、もうスライムは目の前。

「おらぁっ!」

 俺はスライムを思いっきり右手の拳に力を込め殴った。俺の拳は見事にスライムに命中。よし、クリーンヒット?

 ぷるん。

 ぷるん? あれ、何、この感触。全く手応えが無い。もう一度! すかさず、左拳で反対から殴る。

 ぷるん。

 また……。くそ、こうなったらやけくそだ。右、左、右。連続で俺の攻撃はスライムに命中するが、ゼリー状のスライムのボディーが右に左にぷるんと流れるだけでダメージを受けている気配が全くない。

「アスカ! 何を遊んでいるの!」
「遊んでなんかいないさ。俺の攻撃が全く効かないんだ! やっぱり素手でモンスターと戦うなんて無理なんだよ」

 俺が叫ぶのと同時にそれまでただサンドバック状態になっていたスライムが俺に体当たりをして来た。

 ぽよん……

 スライムの体当たりは俺の胸を揺らしただけで、痛みも何も感じない。

「……。お互いにノーダメージ……。不毛な戦いだ……」

 するとスライムの体の前面が窄んで、俺に向けて何かを吐き出す。俺はその吐き出された物をさっと避ける。スライムが吐いた物が地面にべちゃっと当たると、その地面が数センチの深さで穴が空いた。

「危ねぇ。これが消化液か。当たったら服どころか体も溶けてしまいそうだ」

 俺が苦戦をしている間に、ポーラは他のスライム達を全て倒してしまったみたいだ。俺の傍へと駈け寄ってきた。

「どうやら、スライムのゼリーボディに素手は不利みたいね。もっと力が無いとダメージを与えられないみたい。ごめんなさい。私の判断ミスだわ。こいつは任せて」

 すかさず、ポーラがスライムの体を真っ二つに切り裂いた。

「戻りましょうか。ここに居たらまたスライムが出てくるかもしれないわ」
「ああ。しょうがないよな……」

 俺たちは村へと戻るとそのまま宿に戻っていった。

「あなたの素手でも倒せそうな雑魚モンスターか……」

 ポーラが部屋に着くなり考え込んでいた。素手の俺でもダメージを与えられそうな雑魚モンスターに心当たりがないか思い出そうとしてくれている。

「とりあえず、お風呂にでも入ってゆっくり考えましょうか」

 俺とポーラは風呂に行くと、湯船に浸かる。当然、俺は目を瞑ったままだ。

「あぁぁ。生き返る。気持ちいい」

 ポーラの声が浴室に反響し、自分の反響した声を聴いたポーラが突然湯船から立ち上がった。

「あ! あった。あなたでも戦える場所!」
「本当か!」

 思わず俺も声に出し、そして目を開けてしまった。
 俺の目に入ったのは、俺よりも小さいが立派な二つのこぶ……。ポーラのあられもない姿。

「ちょっ、何で目を開けているのよ!」

 俺はポーラの一撃で気を失い、気が付けばベッドの上でもう夜が明けていた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...