異世界呪われた救世主~異世界召喚されたら呪いで女に。呪った奴はぶっ飛ばす~

陽月純

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第一章 救世主と聖女

第36話 再出発

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 ポーラとミコトの意思を尊重するための俺の実力を測るビリーとの勝負は俺の勝ちで終わった。ポーラとミコト以外、俺の勝利という結果に驚き、気を失って倒れ込んでいるビリーを起き上がらせる。セイラがビリーに<ヒール>を掛けようと傷の具合を確認するが、ビリーには大した傷が無かった。

「あれ? ビリーさん、怪我は特にないみたいですよ?」
「一体、何が起きたんだ。ビリーが負けるとは全く予想していなかったぞ」

 トーマ達からはビリーの体が影になって、俺の攻撃が見えていなかったみたいだ。すると、セレスが俺に尋ねてきた。

「アスカ、ビリーに放ったさっきの一撃。何をしたの? 剣が当たる前にあなたの掌底がビリーの顎に当たったのは見えたけど、ビリーが気絶するほどの一撃には見えなかったわよ」

 セレスには見えていたのか。

「俺のとっておきだよ」

 ビリーが俺の足を封じ、勝ち誇った事で止めの一撃、<パワースラッシュ>が大振りになっていた。その攻撃が当たる直前、俺はビリーの顎に<衝波>を当てた。<衝波>は、ビリーの脳を揺らし脳震盪を起こした事で、攻撃は逸れ、床を叩き付けるだけに終わり、ビリーは気を失った。

「ビリーはそっとしておいた方が良いよ。脳を揺らしているから」
「「アスカ!」」

 ポーラとミコトが俺の手を握る。俺の勝利を祈っていた二人の手は、緊張で汗が滲んでいた。俺は二人に微笑みかけると、トーマの方を向いて話しかける。

「ポーラのお父さん、これでポーラとミコトは自由って事で良いかのかな」

 トーマは未だに信じられないと放心したまま、気を失ったビリーの方を見ている。

「聞いているの、父さん!」

 ポーラが大きな声で呼びかけた事で、トーマは正気に戻った。

「す、済まない。まさか、冒険者に成りたてのレベル十一程度の者が、上級冒険者のビリーを倒すなど思ってもいなかったから」
「それで、俺が勝ったんだから、ポーラとミコトは自由にして良いんですよね?」

 俺が再び質問すると、まだ納得していないといった表情ではあったが、

「やむを得ない……。約束をしたからにはな。だが、本当に君はビリーに何をしたんだ。大体、拳で戦う者など初めて見たぞ」

 エスティの冒険者ギルドマスターでも拳士は知らないみたいだ。俺は、ステータスプレートをトーマに見せた。

「見ての通り、俺の職業は拳士。剣なんかの武器は使えないんだよ」
「拳士……。聞いたこともない。だが、そうか。そういう事なのか。君もミコトと同じ異世界人なのだね。ならば、レベルと強さが合っていないのも頷け……ん?」

 トーマは気が付く。ステータスの数字が異常に低い事を。ミコトは聖女というだけの事はあり、INT、MNDが異常に高い。マリーやセイラに匹敵する数値だ。だが、アスカはそんな突出した数値では無かった。

「馬鹿な。何故、こんなステータスでビリーを倒せる。脳を揺らすにしても、この数値ではそんな芸当は出来ないぞ」
「それは、内緒だ」

 トーマがスキル欄を見る前にステータスプレートを取り返す。それよりも俺の性別は気にならないのか?

「見せなかったスキルに秘密があるのか。まあいい。では、ポーラ、ミコト。君たちは自由だ。このアスカと共にどこへなりと行くといい」
「ありがとうございます」

 ミコトが礼を言うと、ポーラは何も言わずにアスカの元へと近付き、宿屋に戻ろうと促した。

「それじゃあ、今日はこれで。明日は、俺達あの試練の塔に挑みますけど、何か許可とか必要が?」
「そんなものは要らない。挑むのは個人の自由だ。パーティで挑もうが、ソロで挑もうが、それも自由だ」

 だったら、ポーラが俺達とまた挑むと言い出したのも自由なのだから、最初から許可すれば良かったじゃないか。俺の心の声が聞こえたのかどうか分からないが、ポーラは俺の手を引きギルドからさっさと出ていく。その後をミコトが慌てて追いかける。

「待ってください」

 ミコトが追いつき、俺達は宿屋へと向かった。

「ポーラ、良かったのか? お父さんに何も言わなくて」
「良いのよ。何か言って、また振り出しに戻っても面倒だわ」
「まあ、ポーラが良いのならこれ以上は何も言わないけどさ」
「それにしても、アスカ、凄いね。ビリーに勝てるなんて」
「気絶させれば良かったからね。脳震盪を起こせば何とかなると思っていたし、何よりビリーが俺の事を舐めていたから、勝てたんだよ」
「それでも、凄い事よ。ああ見えてビリーはギルドの中でもかなりの実力者なのだから。例えアスカが今回負けても、戦いの内容次第で父さんを説得するつもりだったから」

 二人が褒めて、何だか照れくさい……。

 宿屋に帰り着いたら、丁度食事の用意が出来たと言われ、部屋に運んでもらうことにした。

「それじゃあ、今日のアスカの勝利と私たちパーティの再出発を祝して」
「「「かんぱーい!」」」
「いただきまぁす」

 アルがひょっこり出て来てテーブルに並んでいる料理を見て喜んだ。
 それにしても、料理を奮発してくれると言ってはいたが、これは中々。予想以上の量だ。アルが居なかったら食べきれないだろう。肉に魚、野菜、デザートまで。

「この宿、こんなに料理出して大丈夫なのか?美味いから客は有難いけどさ」
「美味しい!」
「良かったわ。他の宿だとこうはいかないわよ。新規の旅人は大概、店の外観で他の宿に行く人が多いけれど、ここは常連がいつも居るから大丈夫」

 食べ始めたら、皆夢中になって食べていた。すごい。どんどん無くなっていく。気が付けば、もうデザートだけだ。

「食べた。食べたぁ。僕、デザートはいいやぁ。果物もいっぱい食べたしぃ」
「そうか。じゃあ、俺達で食べてしまうぞ」

 ミコトが、デザートを三等分にカットする。ホールケーキを三等分食べるなんて初めてだぞ。
 ペロリとポーラとミコトが平らげる。女子の胃袋侮れないな……。

「あら、アスカ、そのケーキ食べないの?」

 二人に見とれて、手が止まっていたのだが、もう俺が食べないと思ったのかポーラが尋ねてきた。

「いや、食べるよ」

 ケーキを食べ終え、一息ついた所で、風呂に行くことにした。

「なあ、二人にお願いがあるんだけど……」
「裸は見せないわよ」

 ミコトが恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「違うよ。もし、他に客が居なかったらでいいんだけど、少しだけ、俺を一人で入らせてくれないか。久しぶりの風呂だから、ゆっくりしてみたいんだ」

 ポーラが少し悩むが、誰も居なければ自分たちが上がった後なら目を開けてゆっくりしていいと言われた。有難い。俺達は風呂に入ると、運が良い事に他の女性客は居なかった。早速、入ると二人が上がるまでは目を瞑って我慢する。浴室もなかなかのようで、ミコトが嬉しそうな声で湯船に浸かっていた。

「じゃあ、私たちは上がるから、アスカゆっくり浸かっていいわよ」
「人が来たら声を掛けて、迎えに行きますね」
「ああ。ありがとう」

 二人が出ていったのを確認すると目を開ける。おお、これは中々素晴らしい。室内だというのに露天風呂のような作りで、湯が滝のように落ちている。お湯に浸かれば、魔術が働き体中を清潔にしてくれる。ああ。気持ちいい。

 湯船に浮いて暫くボーっとしていると、胸が冷えて寒くなった。浮くのを止めて、湯に浸かると、ミコトが慌てて中に入って来た。

「アスカ、上がって! 人が来たよ」
「分かった」

 俺が振り向くと、まだ服を着ていなかったらしい。ミコトの綺麗な裸が目に入った。ミコトは自分が裸だったのを忘れていたようで、俺の手を取り、外へと連れ出す。体を早々に拭き上げ、俺達は部屋へと戻って行った。

「さあ、明日は頑張るわよ。おやすみなさい」
「「おやすみ」」

 俺はビリーとの戦闘、腹いっぱいという事もあって、すぐ眠りに着いた。

(恥ずかしい……。またアスカに見られちゃった……。でも、嫌な気持ちにならないのは何でだろう……)
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