異世界呪われた救世主~異世界召喚されたら呪いで女に。呪った奴はぶっ飛ばす~

陽月純

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第二章 魔王と戦争

第75話 祠の守護獣

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 祠の前まで漸く辿り着いた俺たちだったが、最後まで簡単には魔器を手に入れる事はさせてもらえないらしい。現れたのはさっきの熊モンスターより一回りは小さいが、獅子と山羊の頭、尻尾が竜蛇の頭。所謂ファンタジーでは有名なキマイラだ。

「キマイラだな。あれがここのボスだな」
「祠が目の前にあるっていうのに。ブラッド、試練が多過ぎよ!」
「ミサオ、そんなことより大丈夫?戦える?」
「うん? ああ、人形なら大丈夫。まだあるよ。<召喚>」

 ミサオが新しい人形を呼び出す。

「アスカが近接だから、遠距離のMDマジックドールにしたよ」
「よし、キマイラといえば炎を吐いて、竜蛇の頭は毒を使うかもしれない。気をつけよう」
「OK」
「うん」

 俺がキマイラに向かって走り出すと同時に、ミサオはMDに<ダークアロー>を使わせる。一呼吸あけてミコトも<ウォーターアロー>を放った。

「ガォォオオオ!」

 獅子の頭が雄叫びを上げると口から炎が漏れ出るのが見えた。

「来るぞ!」

 俺が横に飛ぶのと同時に獅子の頭が炎を吐く。炎は俺の横を通り過ぎ、闇の矢と水の矢を飲み込んでしまった。

「うわ。あれ喰らったらひとたまりもないぞ」
「メェェエエ!」

 山羊の頭が雄叫びを上げると、急に眠気が襲ってくる。

「な、なんだ。急に眠たく……」
「<リカバリー>!」

 ミコトの声で目が覚めると、目の前にキマイラが前足を振り上げていた。

「うぉっ!」

 慌てて後ろへと飛び退く。ギリギリでキマイラの攻撃を躱すことが出来た。

「山羊の頭を先に倒さないと! そいつの鳴き声、睡眠効果があるよ!」

 ミコトが叫ぶ。成程。山羊の鳴き声で俺は眠気を通り越して眠らされてしまっていたのか。距離を取れば大丈夫ならMDに任せつつ、ヒットアンドアウェイで攻めるのがベストかな。

「ミサオ!」
「分かってるわよ!」

 MDは既に<ダークアロー>を放っていた。獅子の頭がファイアブレスで相殺しようとしている所を、俺は頭の下に素早く潜り込み、下から突き上げる。

「この感触……。ダメージが少ない」

 獅子の頭は殴られた衝撃で開けた口が閉じ、ファイアブレスを吐く事が出来ずに、山羊の頭に闇の矢が刺さる。

「メェェエエエ!」

 闇の矢のダメージで山羊の頭が叫び声を上げる。魔術の方がダメージが入るようだ。追撃でミコトの放った水の矢も刺さった。それを確認した俺は山羊の頭の方へと回り込み左拳を叩き込んだ時、竜蛇の目が赤く光った。

「なん……」

 俺たちの胸の当たりが赤く光り、その光を目指して雷が迸る。

「「「うわぁぁぁっ」」」

 雷が避ける間もなく到達し、直撃した。電撃で体が痺れてしまった所で、竜蛇の目が今度は青く光ると山羊の頭の傷が癒えていく。

「う、そ……」
「り、<リカバリー>」

 ミコトの魔術で皆の麻痺が治ると、

「アスカ、こっち」

 ミコトに呼ばれ、一旦後退する。

「<クイックヒール>」
「<ドールリカバー>」

 ミコトとミサオが雷で受けたダメージを癒す。

「尻尾、山羊頭、獅子頭の順番だな。それにしてもあの雷攻撃は面倒だな」

 赤く光る目で、ターゲットを選択し、回避不能の雷を放つ。死ぬようなダメージは無いけど、体は痺れるし厄介だ。

「アスカ、ちょっと待ってよ」

 ミサオがMDを帰還させ、FDを召喚する。

「あの尻尾に魔術を当てるのは難しそうだからチェンジするわ」
「分かった。よし、行くぞ」
 
 俺とFDは距離を詰め、尻尾の付け根、竜蛇の頭を各々が攻撃する。竜蛇の頭がFDを睨む。単純な火力の差で、俺よりFDの方が脅威と見做されたか。

 だけど、それは俺に取って都合が良い。気絶しない程度の全力で<衝波>を叩き込んでやる。竜蛇頭が俺とFDを振り払うように暴れながら、本体が向きを反転させる。竜蛇頭の攻撃を躱しながらだったため、キマイラの方向転換に対応が追い付かず、正面を取られた。

「メェェエエエ!」
「しまっ……」

 山羊頭の睡眠の効果で意識が飛んでしまった。

「<リカバリー>!」

 ミコトの<リカバリー>で眠りから目覚めるとキマイラの獅子頭がFDの胴をがっちりと咥えていた。咥えられたFDはだらんとしていて、動く気配がない。

「ミサオ! 何してるんだ!」
「<リカバリー>!」

 ミサオの方を見てみれば、なんとミサオが寝ており、ミコトの<リカバリー>で目を覚ます。

「え!? 何で???」
「ミサオ、あなたも山羊の睡眠攻撃で寝ちゃったの。早く、人形を!」

 ミコトの呼び掛けにミサオは慌ててFDを帰還させる。もう少し遅かったらきっと真っ二つに噛み千切られていただろう。

「何で離れているあたしが睡眠攻撃の対象に」
「たぶんだけど、FDを介して攻撃が通ったんじゃないかな?」

 成程。ミコトの言う通りかもしれない。ミサオは全く立ち位置は変えていない。キマイラとの距離は伸びこそはすれ、睡眠効果の範囲には決して入っていないにも関わらず、寝てしまったというのならそうなのだろう。

 人形そのものは状態異常にならなくても、本体に影響するとか微妙な能力だな……。獅子頭が咥えていた人形が消えてキョロキョロと周りを見ている。

「今がチャンス! MD!」

 ミサオがMDを召喚すると、キマイラがそっちに向かって駆け出し始めた。

「これでも喰らえ!」

 MDが放ったのは黒い槍。<ダークランス>。その槍は獅子の顔を貫き胴体まで到達した。

「ざまあみろ!」

 ミサオが威勢よくキマイラに向かって中指を立てている。

「あいつ、絶対忘れているだろ。倒す順番……」

 キマイラの動きが止まると竜蛇頭の目が青く光り、黒い槍は消え、傷が一瞬で回復する。尻尾に与えていた傷も癒えてしまったな。更に目が赤く光る。ミサオとMDの胸の辺りに赤い光が灯る。

 そして再びキマイラが駆け出し、MDに向かって飛び上がった。同時に雷がミサオとMDに落ちる。

「きゃぁあああ!」

 雷で動けなくなったMDにキマイラは伸し掛かると、獅子頭がMDの頭部をガブりと噛み付いた。

「くっ……」

 MDが光の粒子となって消えていく。やられてしまったか。そして、痺れて動けないミサオの方へと歩き始める。

「注意が疎かだぞ!」

 キマイラがミサオとMDに気を取られている間に、素早く背後から近付いた俺は、竜蛇頭に<衝波>を当てた。

「ジャァァァ」

 竜蛇頭の目、口から青い血がドロリと流れ落ちると、尻尾がダラリと垂れて動かなくなった。

「まずは頭一つだっ!」

 注意がミサオから俺に切り替わり、俺は直ぐに後退する。キマイラが俺を追いかけ始めた隙にミコトがミサオの治療を始めた。治療を受け、ミサオは立ち上がると、FDを召喚する。

「ミコトありがとう。最後の人形。もう後が無いけど、やるわよ!」

 キマイラは俺に追いつけず、獅子頭が炎を吐き出すが、俺は余裕で炎を躱す。

「ミコト、山羊頭を頼む」
「分かった」

 山羊頭をどうにかすれば、あとはどうとでもなる。もうひと踏ん張りだ。
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