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第二章 魔王と戦争
第84話 撤退
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ヒデオの攻撃を受けて負けてしまった。ダメージで動けずに死んだフリをしていると、誰かが近付いて来る気配を感じた。静かに様子を見ていると、近付いてきたのはヒデオだった。
「まったく。手間を掛けさせやがって。お陰でMPが全部無くなっちまったじゃねぇか」
魔力回復薬を飲みながら、ヒデオは俺の傍に立ち、上から俺を見下ろす。
「ふぅ。取り敢えず邪魔者はこれで一人片付いた。後は、向こうにいる聖女と人形使いか」
どうやらまだミコトとミサオは二人で二百人規模の兵と戦っているようだ。その割には静かな気もするが。
「俺はこいつのせいで魔力切れ中だ。全軍に告ぐ。丘の向こうにいる聖女と人形使いを片付けろ」
ヒデオの号令でアゲート以外の兵がミコトとミサオのいる丘の方へと移動を開始する。
まずいな。いくら三百人程減らしたと言っても、まだ五百人はいるはず。二人でこの人数を相手にするのは厳しいと思う。
「さて、こいつの止めを刺しておかないとな。生きているだろ。お前」
ヒデオは俺がまだ生きている事に気付いていたらしい。魔銃を俺の頭に付き付ける。だが、止めを刺そうとしているヒデオをアゲートが止めた。
「ヒデオ様、少しお待ちください」
「何故止める?」
俺もそう思う。何故アゲートは止めを刺そうとするヒデオを止めた? アゲートも俺を殺そうとしていたはずだ。
「彼女との戦闘は、つい本気を出してしまい、殺しかけましたが、彼女は謎が多すぎます。調べる必要があると私は思いますが、如何でしょうか?」
「確かにレベルの割には強すぎる気もするが、だからこそセドニーの邪魔になるんじゃないのか? 殺せる時に殺しておかないと、後で後悔しても遅いぞ」
「そうなのですが、そもそも彼女は誰が召喚したのですか? ヒデオ様を含め、六人の異世界人が召喚されています。彼女は七人目。セドニー様でも未だ次の召喚をするための魔力は回復していません。他の魔王や女神も同様の筈です。そして、この世界には他に異世界人を召喚出来る程の力を持っている者などいませんよ」
アゲートはヒデオの手を掴み上げ、俺の頭から魔銃を退かす。
「それに、今は魔力を全快させるのが先です。どうやら戦場に動きがあったようですね」
「どういう事だ?」
アゲートが何を言っているのか分からなかったが、俺が生きているのがバレているのなら構わない。俺は<感知>を使って、この場の状況を確認する。
<感知>で分かった事は、まずミコトとミサオは無事だった。どうやらオークの群れと戦った時のようにセドニー軍を<ホーリーバリア>で囲み侵入出来ないようにしているみたいだ。二百人は一か所に固まってそこから動けないらしい。
後続の五百人の兵も二百人の兵に合流出来ず離れた位置で固まっている。
その中の一人がこっちへ戻ってきているようだ。それにアゲートは気付いたのか? でも、その程度じゃ戦場に動きがあったとは言わないんじゃないのか?別の何かがあるのか?
「それは……」
アゲートが言葉を発しようとしたその時、
「アスカぁ!」
<空納>からアルが飛び出して来た。それを見たヒデオとアゲートが驚く。ヒデオがアルに向けて魔銃を素早く構えると魔弾を撃った。
「何をしているんですか! これは、救世主の子竜ですよ!」
アゲートがすぐにヒデオの手を取り押さえる。放った魔弾はアルには当たらず明後日の方向へ飛んで行った。
「びっくりしたぁ。うわっ。アスカやられてるぅ。ミコトとミサオは、どこなのぉ?」
「救世主の子竜だろうが、何だろうが、モンスターだろ」
「違います。それにこの子竜が現れたという事は、彼女は救世主。尚更、殺してはいけません」
「救世主だろうが関係ねぇ。セドニーがこの世界を救おうとしているじゃないか。俺はセドニーを手伝ってこの世界を救う。つまり、俺とセドニーが救世主だ。こいつはいらない」
成程。ヒデオは自分がこの世界の救世主に選ばれたと思っているのか。そして、他の召喚者たちは自分たちの行動を邪魔する奴らという認識だから、殺して当然みたいな考えなんだな。
「セドニー様はこの世界を救うというよりは、統治するという考えですが、まぁそれによって救われる方もいるかもしれません」
「何だ? アゲート、お前自分の主人の考えを否定するのか?」
「別に否定するわけではありませんよ。ただ、救世主が現れたということは、近い将来、この世界の危機が訪れるという事です。ですから、来たるべき時のために殺さないでおいた方が良いかと思います」
「うるさい。もう俺は殺すと決めたんだ。口出しするな」
くそ。駄目か。せめて動けるようになるまで引き止めてくれていれば良かったのに。
「ねぇ。君、アスカを殺すのぉ? あいつの思うツボだけどいいのぉ? あ、それとぉ」
「うるさい子竜だな。お前から殺してやる」
ヒデオが再びアルに向けて魔銃を構えた時、一人の兵士が何かを叫びながらこっちに走って来ていた。
「ヒデオ様ぁ、アゲート様ぁっ。大変でっす! ブラッドの軍がこっちに向かって来ていまぁすっ」
アゲートがその兵士の方を見る。そして、兵士に尋ねた。
「本当か? ブラッド軍の数は?」
「三千は超えています」
「何だと!? 本隊の連中は何をしているんだ!?」
ヒデオが兵士を怒鳴りつける。だが、怒鳴りつけられた兵士も状況が分かっているわけでもなく、首を横に振り、分からないと答えた。
「ちっ。使えないな。まぁいい、こいつを片付けてからだ」
ヒデオがアルから俺に狙いを変える。俺の止めを優先したようだ。まだ体を動かせる状態じゃない。万事休すか。
「死ね」
「させない!」
ミコトの<ホーリーバリア>が俺の体を包み込む。ヒデオの放った魔弾は、障壁に弾かれてどこかへ飛んでいってしまった。
「何! くそ、邪魔をするな」
ヒデオが丘から駆け降りてくるミコトに狙いを付けた時、ヒデオの背後にFDが現れ、ヒデオを襲う。
「くっ。いつの間に」
「ブラッド達が来たからね。こっちを手伝いに来たんだよ」
丘の上からミサオがヒデオを指差している。鬱陶しいと言わんばかりにヒデオがミサオに銃口を向けた時、丘の向こうから大人数の声が聞こえ、セドニー軍が走りながら後退してきた。
「敵襲、敵襲だぁ」
「ちっ。これ以上はこちらが不利になるか。全軍、撤退するぞ」
ヒデオが大きな<ゲート>を展開すると、セドニー軍の兵士達がどんどん駆け込んでいった。
「覚えてろ。次こそは殺してやる」
最後にヒデオが<ゲート>へ入り黒い門は消えた。セドニー軍の撤退で何とか命は助かった。
「まったく。手間を掛けさせやがって。お陰でMPが全部無くなっちまったじゃねぇか」
魔力回復薬を飲みながら、ヒデオは俺の傍に立ち、上から俺を見下ろす。
「ふぅ。取り敢えず邪魔者はこれで一人片付いた。後は、向こうにいる聖女と人形使いか」
どうやらまだミコトとミサオは二人で二百人規模の兵と戦っているようだ。その割には静かな気もするが。
「俺はこいつのせいで魔力切れ中だ。全軍に告ぐ。丘の向こうにいる聖女と人形使いを片付けろ」
ヒデオの号令でアゲート以外の兵がミコトとミサオのいる丘の方へと移動を開始する。
まずいな。いくら三百人程減らしたと言っても、まだ五百人はいるはず。二人でこの人数を相手にするのは厳しいと思う。
「さて、こいつの止めを刺しておかないとな。生きているだろ。お前」
ヒデオは俺がまだ生きている事に気付いていたらしい。魔銃を俺の頭に付き付ける。だが、止めを刺そうとしているヒデオをアゲートが止めた。
「ヒデオ様、少しお待ちください」
「何故止める?」
俺もそう思う。何故アゲートは止めを刺そうとするヒデオを止めた? アゲートも俺を殺そうとしていたはずだ。
「彼女との戦闘は、つい本気を出してしまい、殺しかけましたが、彼女は謎が多すぎます。調べる必要があると私は思いますが、如何でしょうか?」
「確かにレベルの割には強すぎる気もするが、だからこそセドニーの邪魔になるんじゃないのか? 殺せる時に殺しておかないと、後で後悔しても遅いぞ」
「そうなのですが、そもそも彼女は誰が召喚したのですか? ヒデオ様を含め、六人の異世界人が召喚されています。彼女は七人目。セドニー様でも未だ次の召喚をするための魔力は回復していません。他の魔王や女神も同様の筈です。そして、この世界には他に異世界人を召喚出来る程の力を持っている者などいませんよ」
アゲートはヒデオの手を掴み上げ、俺の頭から魔銃を退かす。
「それに、今は魔力を全快させるのが先です。どうやら戦場に動きがあったようですね」
「どういう事だ?」
アゲートが何を言っているのか分からなかったが、俺が生きているのがバレているのなら構わない。俺は<感知>を使って、この場の状況を確認する。
<感知>で分かった事は、まずミコトとミサオは無事だった。どうやらオークの群れと戦った時のようにセドニー軍を<ホーリーバリア>で囲み侵入出来ないようにしているみたいだ。二百人は一か所に固まってそこから動けないらしい。
後続の五百人の兵も二百人の兵に合流出来ず離れた位置で固まっている。
その中の一人がこっちへ戻ってきているようだ。それにアゲートは気付いたのか? でも、その程度じゃ戦場に動きがあったとは言わないんじゃないのか?別の何かがあるのか?
「それは……」
アゲートが言葉を発しようとしたその時、
「アスカぁ!」
<空納>からアルが飛び出して来た。それを見たヒデオとアゲートが驚く。ヒデオがアルに向けて魔銃を素早く構えると魔弾を撃った。
「何をしているんですか! これは、救世主の子竜ですよ!」
アゲートがすぐにヒデオの手を取り押さえる。放った魔弾はアルには当たらず明後日の方向へ飛んで行った。
「びっくりしたぁ。うわっ。アスカやられてるぅ。ミコトとミサオは、どこなのぉ?」
「救世主の子竜だろうが、何だろうが、モンスターだろ」
「違います。それにこの子竜が現れたという事は、彼女は救世主。尚更、殺してはいけません」
「救世主だろうが関係ねぇ。セドニーがこの世界を救おうとしているじゃないか。俺はセドニーを手伝ってこの世界を救う。つまり、俺とセドニーが救世主だ。こいつはいらない」
成程。ヒデオは自分がこの世界の救世主に選ばれたと思っているのか。そして、他の召喚者たちは自分たちの行動を邪魔する奴らという認識だから、殺して当然みたいな考えなんだな。
「セドニー様はこの世界を救うというよりは、統治するという考えですが、まぁそれによって救われる方もいるかもしれません」
「何だ? アゲート、お前自分の主人の考えを否定するのか?」
「別に否定するわけではありませんよ。ただ、救世主が現れたということは、近い将来、この世界の危機が訪れるという事です。ですから、来たるべき時のために殺さないでおいた方が良いかと思います」
「うるさい。もう俺は殺すと決めたんだ。口出しするな」
くそ。駄目か。せめて動けるようになるまで引き止めてくれていれば良かったのに。
「ねぇ。君、アスカを殺すのぉ? あいつの思うツボだけどいいのぉ? あ、それとぉ」
「うるさい子竜だな。お前から殺してやる」
ヒデオが再びアルに向けて魔銃を構えた時、一人の兵士が何かを叫びながらこっちに走って来ていた。
「ヒデオ様ぁ、アゲート様ぁっ。大変でっす! ブラッドの軍がこっちに向かって来ていまぁすっ」
アゲートがその兵士の方を見る。そして、兵士に尋ねた。
「本当か? ブラッド軍の数は?」
「三千は超えています」
「何だと!? 本隊の連中は何をしているんだ!?」
ヒデオが兵士を怒鳴りつける。だが、怒鳴りつけられた兵士も状況が分かっているわけでもなく、首を横に振り、分からないと答えた。
「ちっ。使えないな。まぁいい、こいつを片付けてからだ」
ヒデオがアルから俺に狙いを変える。俺の止めを優先したようだ。まだ体を動かせる状態じゃない。万事休すか。
「死ね」
「させない!」
ミコトの<ホーリーバリア>が俺の体を包み込む。ヒデオの放った魔弾は、障壁に弾かれてどこかへ飛んでいってしまった。
「何! くそ、邪魔をするな」
ヒデオが丘から駆け降りてくるミコトに狙いを付けた時、ヒデオの背後にFDが現れ、ヒデオを襲う。
「くっ。いつの間に」
「ブラッド達が来たからね。こっちを手伝いに来たんだよ」
丘の上からミサオがヒデオを指差している。鬱陶しいと言わんばかりにヒデオがミサオに銃口を向けた時、丘の向こうから大人数の声が聞こえ、セドニー軍が走りながら後退してきた。
「敵襲、敵襲だぁ」
「ちっ。これ以上はこちらが不利になるか。全軍、撤退するぞ」
ヒデオが大きな<ゲート>を展開すると、セドニー軍の兵士達がどんどん駆け込んでいった。
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