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第二章 ぬくもりと、うつろいと
第6話 ほうじ茶と彼岸花
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「モカ、さむくないかな」
私の足元でごろんとしているモカを見ながら、そっと声をかける。
とくに今朝のように、ふみふみもせず、木陶のすみっこで丸くなっている姿を見ると、胸の奥がきゅっとなる。
「モカ、ラテはごはんたべちゃったで」
『ふるるる』
おしりからしっぽがちょんと見えたのを確認して、ほっとしながら今朝の着替を済ませる。
ペットカメラのアプリを立ち上げて、スマホで室内を確認。
映し出されたモカは、すこしゆっくりとした動作ながらも、ラテのあとをのそのそと追いかけている。
「よし、大丈夫そうやな」
そう呟いて、家を出た。
⸻
そんなモカの様子が気がかりになったのは、先週あたりからだった。
ごはんを半分しかたべなかったり、段差をのぼる時にためらっていたり。
まだ元気そうなのに、なんとなく心に不安の穴ができてしまう。
ラテはそんなモカをちらっと見てから、こてんとわたしの膝にのって喉を鳴らす。
まるで「かーちゃん、だいじょうぶやで」と言ってくれているようで、なんとも頼もしい。
⸻
週末、ふと思い立って実家を訪れた。
母の淹れてくれた煎茶をすすりながら、少し弱ってきたモカの話をする。
「そうかぁ……そろそろ、ゆっくりの時間も大事にせなあかんね」
母はそう言って、にっこり笑う。
「たまには外、歩いてみよか」
そう言って、夕方の涼しさが混じる頃合いに、母と二人で近所の若宮八幡宮へ。
さわさわと風にゆれる彼岸花。 着物姿の観光客や、手をつないで歩く夫婦たちが、静かに歩いている。
「こういう晩さ、よう意味あんねん」と母はポツリと言う。
「いのちって、ある日突然終わるもんやけど。
その分、あるあいだを、大事にできるねん」
その言葉が、ひっそり心に浮かんだ残響にまざって、光ったような。
⸻
その後、二人で駅前の甘味処に立ち寄る。 季節限定の和菓子がずらりと並ぶ中、私は茶団子と栗が入った大福を注文。 温かいほうじ茶と一緒に口へ運ぶと、甘みがじんわり広がった。
母と肩を並べて、静かに秋の風を感じる。
「この季節、ほんま好きやわ」とつぶやく母の横顔に、やわらかい安心感を覚える。
⸻
夜。家に戻ると、モカがそろそろと近づいてくる。
「はーい、また目を覚ましたな」
ひざの上にのったモカは、ひげをひくひくとふるわせる。
私はそのひげをそっと撫でながら、ほうじ茶を全身ですする。
あの花を見たせいか、あったかいけどすこしせつない私のきもちを、モカはすっとすり抜けるような目で見つめる。
「大丈夫や」って言われてるような。
また、モカのお陰で泣きそうになりながら、「おおきに」とささやいて、その夜をしずかに進める。
私の足元でごろんとしているモカを見ながら、そっと声をかける。
とくに今朝のように、ふみふみもせず、木陶のすみっこで丸くなっている姿を見ると、胸の奥がきゅっとなる。
「モカ、ラテはごはんたべちゃったで」
『ふるるる』
おしりからしっぽがちょんと見えたのを確認して、ほっとしながら今朝の着替を済ませる。
ペットカメラのアプリを立ち上げて、スマホで室内を確認。
映し出されたモカは、すこしゆっくりとした動作ながらも、ラテのあとをのそのそと追いかけている。
「よし、大丈夫そうやな」
そう呟いて、家を出た。
⸻
そんなモカの様子が気がかりになったのは、先週あたりからだった。
ごはんを半分しかたべなかったり、段差をのぼる時にためらっていたり。
まだ元気そうなのに、なんとなく心に不安の穴ができてしまう。
ラテはそんなモカをちらっと見てから、こてんとわたしの膝にのって喉を鳴らす。
まるで「かーちゃん、だいじょうぶやで」と言ってくれているようで、なんとも頼もしい。
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週末、ふと思い立って実家を訪れた。
母の淹れてくれた煎茶をすすりながら、少し弱ってきたモカの話をする。
「そうかぁ……そろそろ、ゆっくりの時間も大事にせなあかんね」
母はそう言って、にっこり笑う。
「たまには外、歩いてみよか」
そう言って、夕方の涼しさが混じる頃合いに、母と二人で近所の若宮八幡宮へ。
さわさわと風にゆれる彼岸花。 着物姿の観光客や、手をつないで歩く夫婦たちが、静かに歩いている。
「こういう晩さ、よう意味あんねん」と母はポツリと言う。
「いのちって、ある日突然終わるもんやけど。
その分、あるあいだを、大事にできるねん」
その言葉が、ひっそり心に浮かんだ残響にまざって、光ったような。
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その後、二人で駅前の甘味処に立ち寄る。 季節限定の和菓子がずらりと並ぶ中、私は茶団子と栗が入った大福を注文。 温かいほうじ茶と一緒に口へ運ぶと、甘みがじんわり広がった。
母と肩を並べて、静かに秋の風を感じる。
「この季節、ほんま好きやわ」とつぶやく母の横顔に、やわらかい安心感を覚える。
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夜。家に戻ると、モカがそろそろと近づいてくる。
「はーい、また目を覚ましたな」
ひざの上にのったモカは、ひげをひくひくとふるわせる。
私はそのひげをそっと撫でながら、ほうじ茶を全身ですする。
あの花を見たせいか、あったかいけどすこしせつない私のきもちを、モカはすっとすり抜けるような目で見つめる。
「大丈夫や」って言われてるような。
また、モカのお陰で泣きそうになりながら、「おおきに」とささやいて、その夜をしずかに進める。
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