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第2章 現存十二天守
第五夜 彦根城と近江牛
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ワクカブが今回訪れたのは、琵琶湖の東、近江の国・彦根。
朝の光が白亜の壁に反射し、天守がまぶしく浮かび上がる。かつて井伊家が築いたこの城は、戦のためというよりも、治めるための城。重厚な石垣と格式ある佇まいが、どこか優しさを感じさせる。
「……ええ城やな」
その姿を見上げながら、ワクカブはひとつ深呼吸をした。旅のスイッチが、ゆっくりと入っていく。
⸻
天守前の広場に、何やら人だかり。近づいてみると、そこにいたのは──
「……ひこにゃんやん」
彦根市の公式キャラクター、“おもてなし武将”として全国に名を馳せるひこにゃんが、ちょこんと登場していた。大きな頭と、ちょっと眠たげな表情。どこか憎めない佇まいに、大人も子どもも笑顔になる。
「……思ったより、ずんぐりむっくりやな」
列には並ばず、少し離れてスマホを構えるワクカブ。ひこにゃんの一挙手一投足に歓声があがる様子を、どこか微笑ましく見守っていた。
「こういう存在があるって、ええよな……場が和む」
そのひとことに、彼自身もまた、心をほどいていた。
⸻
城下町を散策していると、なにやら賑やかなエリアに出る。広場には、アニメキャラでラッピングされた車たちがズラリ。
「痛車フェス……ってか」
ワクカブは思わず口元を緩める。彦根という歴史の町で、こんなサブカルチャーイベントが開かれているとは。
「まぁ、ひこにゃんがOKなら、何でもありやな」
文化は多様でいい。伝統と現代、硬派と軟派。すべてを包み込んでこそ、町の魅力は広がる。そんなことを思いながら、彼はまた歩き出す。
⸻
昼食には、彦根の誇る味──近江牛の炭火焼き定食を奮発。目の前の鉄板でじゅうじゅうと焼かれる赤身に、美しいサシが映える。
「いやぁ……贅沢やな」
口に運べば、ふんわりとろけるような食感と、濃厚な旨みが広がる。
が、ふと冷や奴の小鉢に目をやると──
「あれ、生姜……ないな」
いつものように薬味として乗っているはずの生姜が、今日は見当たらない。
「……まぁ、今日はノージンジャーってことで」
苦笑しつつ箸を進めるワクカブ。肉の旨味を噛みしめながら、旅はまだまだ続くと感じる瞬間だった。
⸻
商店街の一角。ふと足を止めた雑貨屋の前に、信楽焼の狸たちがずらりと並ぶ。
大きな目、ぽってりしたお腹、そしてニッコリとした笑顔。
「なんやろな……狸の表情って、ほっとするわ」
ワクカブはひとつひとつを眺めながら、ひときわ気に入った狸のぐい呑みを手に取る。
「狸は他人を化かすけど、投資で自分を化かしたらあかん、か」
誰に向けるでもない独り言をつぶやき、そっと購入カゴへ。
⸻
土産物屋では、ふと目を引く日本酒のラベルがあった。
「……七本槍」
戦国時代、賤ヶ岳の戦いで名を馳せた加藤嘉明ら七人の若武者──「賤ヶ岳の七本槍」にちなんだ銘柄だ。
「一本筋が通ってる、そんな名やな」
ラベルを眺めながら、ワクカブはふと思う。
「投資も戦も、ぶれたらあかん。自分のスタンス、大事にせなな」
瓶を手に取り、旅の思い出とともに、それを持ち帰ることにした。
⸻
湖のほとりにたたずむ井伊家の居城・彦根城。笑顔を呼ぶキャラクターと、サブカルと、歴史の重みと。多彩な要素を味わいながら、ワクカブは心から満たされた表情で車に乗り込んだ。
次なる現存天守は──あの白鷺が羽ばたく城へ。
朝の光が白亜の壁に反射し、天守がまぶしく浮かび上がる。かつて井伊家が築いたこの城は、戦のためというよりも、治めるための城。重厚な石垣と格式ある佇まいが、どこか優しさを感じさせる。
「……ええ城やな」
その姿を見上げながら、ワクカブはひとつ深呼吸をした。旅のスイッチが、ゆっくりと入っていく。
⸻
天守前の広場に、何やら人だかり。近づいてみると、そこにいたのは──
「……ひこにゃんやん」
彦根市の公式キャラクター、“おもてなし武将”として全国に名を馳せるひこにゃんが、ちょこんと登場していた。大きな頭と、ちょっと眠たげな表情。どこか憎めない佇まいに、大人も子どもも笑顔になる。
「……思ったより、ずんぐりむっくりやな」
列には並ばず、少し離れてスマホを構えるワクカブ。ひこにゃんの一挙手一投足に歓声があがる様子を、どこか微笑ましく見守っていた。
「こういう存在があるって、ええよな……場が和む」
そのひとことに、彼自身もまた、心をほどいていた。
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城下町を散策していると、なにやら賑やかなエリアに出る。広場には、アニメキャラでラッピングされた車たちがズラリ。
「痛車フェス……ってか」
ワクカブは思わず口元を緩める。彦根という歴史の町で、こんなサブカルチャーイベントが開かれているとは。
「まぁ、ひこにゃんがOKなら、何でもありやな」
文化は多様でいい。伝統と現代、硬派と軟派。すべてを包み込んでこそ、町の魅力は広がる。そんなことを思いながら、彼はまた歩き出す。
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昼食には、彦根の誇る味──近江牛の炭火焼き定食を奮発。目の前の鉄板でじゅうじゅうと焼かれる赤身に、美しいサシが映える。
「いやぁ……贅沢やな」
口に運べば、ふんわりとろけるような食感と、濃厚な旨みが広がる。
が、ふと冷や奴の小鉢に目をやると──
「あれ、生姜……ないな」
いつものように薬味として乗っているはずの生姜が、今日は見当たらない。
「……まぁ、今日はノージンジャーってことで」
苦笑しつつ箸を進めるワクカブ。肉の旨味を噛みしめながら、旅はまだまだ続くと感じる瞬間だった。
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商店街の一角。ふと足を止めた雑貨屋の前に、信楽焼の狸たちがずらりと並ぶ。
大きな目、ぽってりしたお腹、そしてニッコリとした笑顔。
「なんやろな……狸の表情って、ほっとするわ」
ワクカブはひとつひとつを眺めながら、ひときわ気に入った狸のぐい呑みを手に取る。
「狸は他人を化かすけど、投資で自分を化かしたらあかん、か」
誰に向けるでもない独り言をつぶやき、そっと購入カゴへ。
⸻
土産物屋では、ふと目を引く日本酒のラベルがあった。
「……七本槍」
戦国時代、賤ヶ岳の戦いで名を馳せた加藤嘉明ら七人の若武者──「賤ヶ岳の七本槍」にちなんだ銘柄だ。
「一本筋が通ってる、そんな名やな」
ラベルを眺めながら、ワクカブはふと思う。
「投資も戦も、ぶれたらあかん。自分のスタンス、大事にせなな」
瓶を手に取り、旅の思い出とともに、それを持ち帰ることにした。
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湖のほとりにたたずむ井伊家の居城・彦根城。笑顔を呼ぶキャラクターと、サブカルと、歴史の重みと。多彩な要素を味わいながら、ワクカブは心から満たされた表情で車に乗り込んだ。
次なる現存天守は──あの白鷺が羽ばたく城へ。
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