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第3章 投資ロマン
第三夜 株、最初のひと買
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「もう、買ってまうか……?」
投資口座を開設して数週間。チャートをにらみながら、ワクカブは自問していた。
今夜の晩ご飯は、スーパーで買ったカット野菜と冷蔵庫の豚こまを炒めたものと、乾麺のうどん。
糖質は控えめに……のつもりが、ちょっとしたハプニングが起きていた。
⸻
株の口座は作ったものの、いざ「買う」となると、これがまた難しい。
ネット証券のアプリには、さまざまな情報が並んでいる。チャート、PER、PBR、ROE、企業情報、掲示板の声──
最初は知的好奇心で眺めていたが、情報が増えれば増えるほど、怖くなってきた。
「どれを信じてええんや……?」
そんなある日のことだった。
ドラッグストアで、いつも使ってる薬用ハンドソープが目に入った。プライベートブランドらしきその商品は、手頃で品質もいい。思わずパッケージの裏を見て、製造元の企業名を確認する。
「この会社、上場してるんちゃうか?」
帰宅後、調べてみたらビンゴだった。
安定した売上、高すぎない株価、そして何より──配当と株主優待がある。
「せやな、これくらいの価格帯やったら、初めてにはちょうどええんちゃうか」
決断の後押しになったのは、15年前のチャートだった。
もし、当時からこの銘柄を100株だけでも持ち続けていたら……?
配当も含めれば、元本はしっかりと増えている。
しかも、毎年の優待で自社製品と使える商品券もついてくるという。
⸻
「よっしゃ、注文出そか」
その時、ふと注文方法の画面で手が止まる。
「指値(さしね)か成行(なりゆき)……どっちやねん?」
指値は「この価格で買いたい」と指定する方法。
でも初めての注文、数円の値動きにこだわって機会を逃すよりは、今すぐ確定して気持ちよく株主になりたかった。
「ここは成行やな。いまの市場価格で買うやつ。初心者はこれでええやろ」
──成行注文。
値段を指定せず「今すぐ買う」「今すぐ売る」を優先するシンプルな注文方法。
多少価格がズレても、すぐに成立する安心感がある。
初めての株取引にピッタリの選択だった。
⸻
購入確定の通知がスマホに届いたとき、思わずひとりで笑ってしまった。
「わい、いま株主になったんか……!」
⸻
キッチンから湯気があがっていることに気づいて、あわてて火を止めた。
乾麺のうどんを茹でていたことを、すっかり忘れていたのだ。
「あ……タイマーかけんの忘れてたわ」
茹で時間の倍は火にかけていたかもしれない。
どろりと膨らんだうどんが、ざるの中で力なく横たわっている。
「……ま、九州のうどんはこんなもんや。やさしい味になるちゅうことで」
強がり半分、本気半分。ひとり暮らしの晩ご飯なんて、そんなものでいい。
めんつゆを薄めて、卵を入れて、どこか“釜たまうどん”みたいな懐かしさがある。
おまけにテーブルにはチューブのワサビと七味も置いていたのに、
「しょうが……あれ、ないんかいな……」
最近は飲食店でも紅しょうがが置いてないらしい。
自宅のテーブルでも“ノージンジャー”。
「わいの投資もノージンジャーやな。スパイスはこれからや、ってか……」
⸻
この最初の“ひと買い”が、ワクカブの投資人生の始まりとなる。
株式投資は、どこか遠い存在ではなく、日々の生活の中にあるものだったのだ。
このとき彼はまだ知らない。
自分が買ったこの銘柄が、十数年後に連続増配の優良企業として評価されるようになることを──
投資口座を開設して数週間。チャートをにらみながら、ワクカブは自問していた。
今夜の晩ご飯は、スーパーで買ったカット野菜と冷蔵庫の豚こまを炒めたものと、乾麺のうどん。
糖質は控えめに……のつもりが、ちょっとしたハプニングが起きていた。
⸻
株の口座は作ったものの、いざ「買う」となると、これがまた難しい。
ネット証券のアプリには、さまざまな情報が並んでいる。チャート、PER、PBR、ROE、企業情報、掲示板の声──
最初は知的好奇心で眺めていたが、情報が増えれば増えるほど、怖くなってきた。
「どれを信じてええんや……?」
そんなある日のことだった。
ドラッグストアで、いつも使ってる薬用ハンドソープが目に入った。プライベートブランドらしきその商品は、手頃で品質もいい。思わずパッケージの裏を見て、製造元の企業名を確認する。
「この会社、上場してるんちゃうか?」
帰宅後、調べてみたらビンゴだった。
安定した売上、高すぎない株価、そして何より──配当と株主優待がある。
「せやな、これくらいの価格帯やったら、初めてにはちょうどええんちゃうか」
決断の後押しになったのは、15年前のチャートだった。
もし、当時からこの銘柄を100株だけでも持ち続けていたら……?
配当も含めれば、元本はしっかりと増えている。
しかも、毎年の優待で自社製品と使える商品券もついてくるという。
⸻
「よっしゃ、注文出そか」
その時、ふと注文方法の画面で手が止まる。
「指値(さしね)か成行(なりゆき)……どっちやねん?」
指値は「この価格で買いたい」と指定する方法。
でも初めての注文、数円の値動きにこだわって機会を逃すよりは、今すぐ確定して気持ちよく株主になりたかった。
「ここは成行やな。いまの市場価格で買うやつ。初心者はこれでええやろ」
──成行注文。
値段を指定せず「今すぐ買う」「今すぐ売る」を優先するシンプルな注文方法。
多少価格がズレても、すぐに成立する安心感がある。
初めての株取引にピッタリの選択だった。
⸻
購入確定の通知がスマホに届いたとき、思わずひとりで笑ってしまった。
「わい、いま株主になったんか……!」
⸻
キッチンから湯気があがっていることに気づいて、あわてて火を止めた。
乾麺のうどんを茹でていたことを、すっかり忘れていたのだ。
「あ……タイマーかけんの忘れてたわ」
茹で時間の倍は火にかけていたかもしれない。
どろりと膨らんだうどんが、ざるの中で力なく横たわっている。
「……ま、九州のうどんはこんなもんや。やさしい味になるちゅうことで」
強がり半分、本気半分。ひとり暮らしの晩ご飯なんて、そんなものでいい。
めんつゆを薄めて、卵を入れて、どこか“釜たまうどん”みたいな懐かしさがある。
おまけにテーブルにはチューブのワサビと七味も置いていたのに、
「しょうが……あれ、ないんかいな……」
最近は飲食店でも紅しょうがが置いてないらしい。
自宅のテーブルでも“ノージンジャー”。
「わいの投資もノージンジャーやな。スパイスはこれからや、ってか……」
⸻
この最初の“ひと買い”が、ワクカブの投資人生の始まりとなる。
株式投資は、どこか遠い存在ではなく、日々の生活の中にあるものだったのだ。
このとき彼はまだ知らない。
自分が買ったこの銘柄が、十数年後に連続増配の優良企業として評価されるようになることを──
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