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第3章 投資ロマン
第十二夜 いつかの老後に乾杯を
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人生に“正解”はない。けれど、乾杯のタイミングなら、なんとなくわかる気がする。
週末の夕方、仕事を終えてスーパーのバックヤードから出ると、空はうっすら茜色。蒸し暑さの中に少しだけ風が通り抜けて、季節の変わり目を感じさせる。
「今日は……餃子、焼くか」
理由はない。けれど、ふとそんな気分になった。
きっかけは、ふと耳にしたラジオの話題だった。
──老後資金、いくら必要か。
3000万円だの、2000万円問題だのと、数字だけが独り歩きしている。けれど、僕にとってそれは、投資を始めるずっと前からぼんやりとした“不安”として存在していたものだ。
今はNISAやiDeCoといった制度も整い、積立投資も当たり前になった。だが、何よりも大事なのは「時間」だったんだな、と最近ようやくわかってきた。
投資は、待つ力だ。
急ぐな、焦るな。続ければいい。
餃子の餡をこねながら、僕はふと冷蔵庫を開ける。先日、半額で買ったマグロの刺身。残った分は漬けにしておいた。それを取り出し、明日の昼に焼くための下準備をして、ジップ袋に戻す。
「あれも、未来の自分へのプレゼントだな」
そんなことを呟いて、一人キッチンに立つ。
きゅうりの辛子漬けも皿に出しておく。ピリリとした辛みが、餃子の脂を中和してくれる。瓶ビールは冷蔵庫の奥で、いい感じに冷えていた。
餃子を焼き始めると、音が心地よい。ジュウジュウという油の跳ねる音。羽根が香ばしく焼き上がっていく。
1人の食卓に、今日も静かに火が灯る。
老後のことを考えるたびに、孤独という言葉が脳裏をかすめる。でも、寂しいからといって、誰かと一緒になればそれでいいというわけでもない。
「でも……まあ、時々くらい、誰かと乾杯したいよな」
ふと、スマホを手に取る。
指が、うっかり「出会い」系の広告をタップしてしまう。
──『まずはメッセージから、あなたにぴったりの相手を』──
「……まさか、な」
笑いながら画面を閉じるが、その背中には、どこか灯りのようなものが見えた気がした。
いつか、もう少し歳を重ねたとき。誰かと漬けマグロを焼いて、きゅうりの辛子漬けをつまみながら、瓶ビールで乾杯する日が来たなら。
その時は、今日の僕に「よくやった」と言ってやりたい。
ビールを口に運ぶ。
──投資って、浪漫だ。
そう思えた今夜に、乾杯。
【投資ロマン編・完】
週末の夕方、仕事を終えてスーパーのバックヤードから出ると、空はうっすら茜色。蒸し暑さの中に少しだけ風が通り抜けて、季節の変わり目を感じさせる。
「今日は……餃子、焼くか」
理由はない。けれど、ふとそんな気分になった。
きっかけは、ふと耳にしたラジオの話題だった。
──老後資金、いくら必要か。
3000万円だの、2000万円問題だのと、数字だけが独り歩きしている。けれど、僕にとってそれは、投資を始めるずっと前からぼんやりとした“不安”として存在していたものだ。
今はNISAやiDeCoといった制度も整い、積立投資も当たり前になった。だが、何よりも大事なのは「時間」だったんだな、と最近ようやくわかってきた。
投資は、待つ力だ。
急ぐな、焦るな。続ければいい。
餃子の餡をこねながら、僕はふと冷蔵庫を開ける。先日、半額で買ったマグロの刺身。残った分は漬けにしておいた。それを取り出し、明日の昼に焼くための下準備をして、ジップ袋に戻す。
「あれも、未来の自分へのプレゼントだな」
そんなことを呟いて、一人キッチンに立つ。
きゅうりの辛子漬けも皿に出しておく。ピリリとした辛みが、餃子の脂を中和してくれる。瓶ビールは冷蔵庫の奥で、いい感じに冷えていた。
餃子を焼き始めると、音が心地よい。ジュウジュウという油の跳ねる音。羽根が香ばしく焼き上がっていく。
1人の食卓に、今日も静かに火が灯る。
老後のことを考えるたびに、孤独という言葉が脳裏をかすめる。でも、寂しいからといって、誰かと一緒になればそれでいいというわけでもない。
「でも……まあ、時々くらい、誰かと乾杯したいよな」
ふと、スマホを手に取る。
指が、うっかり「出会い」系の広告をタップしてしまう。
──『まずはメッセージから、あなたにぴったりの相手を』──
「……まさか、な」
笑いながら画面を閉じるが、その背中には、どこか灯りのようなものが見えた気がした。
いつか、もう少し歳を重ねたとき。誰かと漬けマグロを焼いて、きゅうりの辛子漬けをつまみながら、瓶ビールで乾杯する日が来たなら。
その時は、今日の僕に「よくやった」と言ってやりたい。
ビールを口に運ぶ。
──投資って、浪漫だ。
そう思えた今夜に、乾杯。
【投資ロマン編・完】
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