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第2部 名古屋編
🎵10 生き霊
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なんて好き勝手放題に妄想をぶちかましていると、いい香りがしてジュネの顔がほんとうに目の前にあった。いつのまにかジュネは目覚めていたらしい。
「それでね、お願いがあるんだけど、私と結婚してほしいって言ったらどうする?」
耳を疑った。いよいよ幻聴が聞こえてくるようになってしまったらしい。
末期なのかもしれない。
そうでないならば、もしかしてこの現前する世界はすべて、幻なのかもしれない。
そうなのだ。
そもそもジュネがうちになんか来るはずもない。
どこかで変な時間線に紛れ込んでしまったのか、あるいは、いちばん可能性大なのは、脳内で自作自演しているということだ。
ジュネもむろん、自分が演っているから思いのままだ。つまり、そうなると、まだいわゆる現実世界では、レイは眠っているということになる。
居眠りしながら白日夢を見ているのかもしれない。
すると、推しメンがこういった。
「わかる。そんな馬鹿な話があるわけない。悪い冗談はやめてくれ。でしょ? でもね、お願いを聞いてくれたら、私からジュネにレイ君のこと大プッシュするから」
「はい? どういうこと、からかってる?」
「つまり、ぶっちゃけちゃうと、私、ホンモノのジュネじゃないの」
そういって、ジュネは笑みを浮かべた。
その微笑みは、あのモナリザに匹敵するほどの複雑極まる微笑みであり、喜怒哀楽すべてを内包するような深淵な奥深さを感じさせた。
平たく言えば、かなり怖くもあった。何を意味する微笑みなのか皆目見当もつかないからだ。
人はみなわからないものや理解できないものを嫌う。だが単純そうに見えるもの、容易に出来そうなもの、夢みたいな話、そんなうまい話には必ず裏がある。
今回もその例外ではないようだ。
ジュネと結婚できるなどという天にも昇るようなまさに究極の夢みたいな話が、棚ぼた式で自分に舞い込んでくるなんて。
しかし、そうは問屋が卸さないというやつだ。絶対にできっこない条件を提示してくるに決まっている。
つまり、結婚の意思などからっきしなくとも、条件さえ厳しくすればそもそも不可能なんだから全然平気というのはあるだろう。
しかし。ジュネにしたって誰彼構わず結婚したいなどと言いふらしているわけもない。
そんなことをすれば、いまのご時世あっという間に拡散してしまう。人気商売で信頼を失ってしまったなら、もう完璧にアウトだ。
ならば、少しはヲタクの中でも抜きん出た存在として認めてくれていたのだろうか。
ジュネは、ごめんちょっとお手洗い貸してねと出ていった。狭い間取りなので教えるまでもない。
わからないのは、敵はいったい全体どんな厄介な条件を突きつけてくるのかだ。
例えばジュネは、ユリでモナコとかタイに行って性転換してこいとかは、ありだろうか? 或いは、男性性器は、十八センチ以下はお断りとかだったらどうしよう。
身長は、ほぼこれ以上は伸びないだろうし、イケメンではないが顔面にもメスは入れたくはない。
だが、そういった容姿的な条件ではないのかもしれない。
たとえば、どこでもドア的なあれで、テレポーテーションが誰にでもできるように実用化しろだとか、打ち出の小槌的なものとして、ロトナンチャラを完璧に当てられるようにしろだとか、電気を必要としない電マやらスマートフォンを開発しろだとか、雨の日も傘なしで出かけられるようにしろだとか、一夫多妻制を当たり前にとか無理難題を吹っかけられそうなのは明白だった。
そして、レイは借りてきた猫みたいな神妙な面持ちで、ジュネのその条件とやらを神から御託宣を下付されるように心静かに待った。
いうなれば諦念の境地だった。すでに波風の立ち騒ぐ余裕すらない。もうどうにでもなれという心境だ。
そしてジュネは戻ってくると、さっきと同じような事を言った。
「ここにいる私は、実はほんとうの私ではないの」
開口一番にそういったジュネの言葉に、やっぱりなとレイは小さく頷いていた。幽体離脱かよと。エぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!!!
「わけわかんないこと言ってるって思うだろうけど、私の心はもぬけの殻なの。私、心を盗まれちゃってるの」
そう言われてみると、そんな気もするけれど、気のせいじゃなく? なんてとても言えない。
「なんていうのかなぁ、ある日、突然何に対しても無気力になってる自分に気づいて、どんな音楽聴いても、全然楽しくなくて、それは私にすれば致命的で、はっきり何かおかしいとわかった」
なるほど。何も言えない不甲斐ない自分に嫌気がさす。頷くだけなら、キツツキにもできる。
実は、友達のアイドルの子も魂を盗まれてしまっているらしい。
その子の話をきいてみると夢の中に突然現われた男、たぶん悪魔にほんの一瞬の隙をつかれて魂を奪われてしまったという、わかりやすくいうと、心を失ってしまったのではなく、呪いをかけられているという感じなのかもしれない。
「だから、どうにかしてジュネの魂を化け物から取り返してほしいの。呪いを解いてほしい。そのことは、むろんジュネ本人は、知らないわ。本人には以前とは違うという自覚はないの。だから仕方なく彼女を眠らせて、私が出張ってきたというわけ」
なんかとってもあっけなかった。
というと不謹慎な感じに響くかもしれないが。
べ、べ、べつに期待していたわけでもなかったけれど、もう少しハラハラドキドキするような、ワンチャン的色っぽいことがあってもよさそうなものだった。
だが、完璧に肩透かしを食らってしまった。本人ではない? クリソツなのに本人ではない?
いや、待てよ? もしかしてこれって所謂アイコラみたいな事なのかとレイは思った。根本的に首だけすげ替えたアイコラと、ほんのちょっとだけ透けて見える感じだけれど、本人そのものの姿かたちをしている生き霊は、まったく別モノにはちがいないけれど、それでも、2次元のアイコラとは雲泥の差だ、ジュネの生き霊でも全然いいからラブソファに座ってイチャつくというのは、無理でも一緒にごはんを食べたり、映画を観たりしたかった。
そんなヲタクの願いが叶うはずもなく、ジュネは、もといジュネの生霊さんは、ビジネスライクにただ用件だけを告げ、また手の届かないアイドル、ジュネの元へと還っていった。
「それでね、お願いがあるんだけど、私と結婚してほしいって言ったらどうする?」
耳を疑った。いよいよ幻聴が聞こえてくるようになってしまったらしい。
末期なのかもしれない。
そうでないならば、もしかしてこの現前する世界はすべて、幻なのかもしれない。
そうなのだ。
そもそもジュネがうちになんか来るはずもない。
どこかで変な時間線に紛れ込んでしまったのか、あるいは、いちばん可能性大なのは、脳内で自作自演しているということだ。
ジュネもむろん、自分が演っているから思いのままだ。つまり、そうなると、まだいわゆる現実世界では、レイは眠っているということになる。
居眠りしながら白日夢を見ているのかもしれない。
すると、推しメンがこういった。
「わかる。そんな馬鹿な話があるわけない。悪い冗談はやめてくれ。でしょ? でもね、お願いを聞いてくれたら、私からジュネにレイ君のこと大プッシュするから」
「はい? どういうこと、からかってる?」
「つまり、ぶっちゃけちゃうと、私、ホンモノのジュネじゃないの」
そういって、ジュネは笑みを浮かべた。
その微笑みは、あのモナリザに匹敵するほどの複雑極まる微笑みであり、喜怒哀楽すべてを内包するような深淵な奥深さを感じさせた。
平たく言えば、かなり怖くもあった。何を意味する微笑みなのか皆目見当もつかないからだ。
人はみなわからないものや理解できないものを嫌う。だが単純そうに見えるもの、容易に出来そうなもの、夢みたいな話、そんなうまい話には必ず裏がある。
今回もその例外ではないようだ。
ジュネと結婚できるなどという天にも昇るようなまさに究極の夢みたいな話が、棚ぼた式で自分に舞い込んでくるなんて。
しかし、そうは問屋が卸さないというやつだ。絶対にできっこない条件を提示してくるに決まっている。
つまり、結婚の意思などからっきしなくとも、条件さえ厳しくすればそもそも不可能なんだから全然平気というのはあるだろう。
しかし。ジュネにしたって誰彼構わず結婚したいなどと言いふらしているわけもない。
そんなことをすれば、いまのご時世あっという間に拡散してしまう。人気商売で信頼を失ってしまったなら、もう完璧にアウトだ。
ならば、少しはヲタクの中でも抜きん出た存在として認めてくれていたのだろうか。
ジュネは、ごめんちょっとお手洗い貸してねと出ていった。狭い間取りなので教えるまでもない。
わからないのは、敵はいったい全体どんな厄介な条件を突きつけてくるのかだ。
例えばジュネは、ユリでモナコとかタイに行って性転換してこいとかは、ありだろうか? 或いは、男性性器は、十八センチ以下はお断りとかだったらどうしよう。
身長は、ほぼこれ以上は伸びないだろうし、イケメンではないが顔面にもメスは入れたくはない。
だが、そういった容姿的な条件ではないのかもしれない。
たとえば、どこでもドア的なあれで、テレポーテーションが誰にでもできるように実用化しろだとか、打ち出の小槌的なものとして、ロトナンチャラを完璧に当てられるようにしろだとか、電気を必要としない電マやらスマートフォンを開発しろだとか、雨の日も傘なしで出かけられるようにしろだとか、一夫多妻制を当たり前にとか無理難題を吹っかけられそうなのは明白だった。
そして、レイは借りてきた猫みたいな神妙な面持ちで、ジュネのその条件とやらを神から御託宣を下付されるように心静かに待った。
いうなれば諦念の境地だった。すでに波風の立ち騒ぐ余裕すらない。もうどうにでもなれという心境だ。
そしてジュネは戻ってくると、さっきと同じような事を言った。
「ここにいる私は、実はほんとうの私ではないの」
開口一番にそういったジュネの言葉に、やっぱりなとレイは小さく頷いていた。幽体離脱かよと。エぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!!!
「わけわかんないこと言ってるって思うだろうけど、私の心はもぬけの殻なの。私、心を盗まれちゃってるの」
そう言われてみると、そんな気もするけれど、気のせいじゃなく? なんてとても言えない。
「なんていうのかなぁ、ある日、突然何に対しても無気力になってる自分に気づいて、どんな音楽聴いても、全然楽しくなくて、それは私にすれば致命的で、はっきり何かおかしいとわかった」
なるほど。何も言えない不甲斐ない自分に嫌気がさす。頷くだけなら、キツツキにもできる。
実は、友達のアイドルの子も魂を盗まれてしまっているらしい。
その子の話をきいてみると夢の中に突然現われた男、たぶん悪魔にほんの一瞬の隙をつかれて魂を奪われてしまったという、わかりやすくいうと、心を失ってしまったのではなく、呪いをかけられているという感じなのかもしれない。
「だから、どうにかしてジュネの魂を化け物から取り返してほしいの。呪いを解いてほしい。そのことは、むろんジュネ本人は、知らないわ。本人には以前とは違うという自覚はないの。だから仕方なく彼女を眠らせて、私が出張ってきたというわけ」
なんかとってもあっけなかった。
というと不謹慎な感じに響くかもしれないが。
べ、べ、べつに期待していたわけでもなかったけれど、もう少しハラハラドキドキするような、ワンチャン的色っぽいことがあってもよさそうなものだった。
だが、完璧に肩透かしを食らってしまった。本人ではない? クリソツなのに本人ではない?
いや、待てよ? もしかしてこれって所謂アイコラみたいな事なのかとレイは思った。根本的に首だけすげ替えたアイコラと、ほんのちょっとだけ透けて見える感じだけれど、本人そのものの姿かたちをしている生き霊は、まったく別モノにはちがいないけれど、それでも、2次元のアイコラとは雲泥の差だ、ジュネの生き霊でも全然いいからラブソファに座ってイチャつくというのは、無理でも一緒にごはんを食べたり、映画を観たりしたかった。
そんなヲタクの願いが叶うはずもなく、ジュネは、もといジュネの生霊さんは、ビジネスライクにただ用件だけを告げ、また手の届かないアイドル、ジュネの元へと還っていった。
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