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壁抜け
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ナツメに声を掛けられたのは、ちょうどナオトが壁抜けの練習をしている時だった。
ナツメとは今は廃墟と化しているあのMixiで知り合った。その時彼女は薬学系大学の講師をしていたが、1年ほどで辞めてカメラマンへと華麗な転身を遂げたという話をmixiの幽霊会員になる前に聞いた。
だがむろん食えるわけもなく、今はタウン誌のしがない記者兼カメラマンをやっているらしい。それでもナツメのやると言ったら絶対にやる! という有言実行の行動力はすごいとナオトは思った。
ナオトは、オフ会で彼女と一度だけ会ったことがあったが、予想していたよりも綺麗だったのが本当に意外だった。
で、ナツメはその時に講師を辞めてカメラマンになりたいと言っていたのだった。
そんなナツメとナオトが再会したのは、昼下がりのオフィス街。薄暗がりのビルの谷間でだった。
ナツメは、久しぶりとにこやかに手を振って近づいてきた。
「で、こんなとこで何やってんの?」
「あー。そのう、実は信じてもらえないだろうけれど、壁抜けの練習してんだよ」
「なにそれ? 前からアホだと思ってたけど、さらに磨きがかかったわけか」
「ま、そういうなよ。マジなんだから」
「でもなんで? あ、わかった!どうせ女風呂とか覗くつもりでしょ」
「失礼だな、なんちゅうこというの? さては覗かれたい願望でもあるな、ナツメさんよ?」
「アホ。じゃ、ほら見ててあげるから、早くやって見せないさいよ」
「お、おう!」
とは返したものの、いっかなうまくいかない。ただ、壁に向かって相撲でいうところの鉄砲をしているだけの図。
ナツメは、不意に腕を組んだ手を解き「わかった! ナオトくん真剣さが足りないんだよ。絶対そう。じゃさ、あたし撮るよ。Youtubeにあげるから!」
「マジ?」
「はいはい。じゃ、スタンバイして。あ、てかさ、それでもきっと真剣さがまだまだ足りないと思うんだよね。そうだ! ナオトくん、反対側の壁から思い切り助走つけて壁に突撃して!」
「あ、ナツメさん、許してください」
「はいはい。男だったら四の五の言わない。やれよ?」
それで、面子もたたないので、やったはいいけど、案の定、壁にただ激突した蝿みたいな馬鹿な男が録画されただけとなったのは言うまでもない。
「あーあ。あたし少しは信じたい気持ちになってたのになぁ」
「すまん」
「やっぱあれじゃない? 心底信じてないんだよ、ナオトくん自身がね」
「いや、頭ではできると思ってんだけどさ、問題はやっぱ身体だな」
「そんなの当たり前でしょ。みんな壁くらい簡単に抜けられるって思って……ないね?」
「な? そうだろ? 壁抜けられるなんて誰も思うわけないし、だからやろうともしないんだよ」
「だから? 偉いっていいたいわけ?」
「いや、そうじゃなくて。まずはできると思わない限りできるものもできないって話だよ、頭ではわかってるつもりなんだけどな」
「わかった。じゃ、今度はあたしがやってみる! ナオトくん撮影してよ」
「えー! マジかよ?」
「はい、カメラまわして」
ナツメは、そう言うや目をつむり何やら精神統一すると、軽く息を吐き、助走をつけて壁に突っ込んでいった。
そして。
壁にぶち当たるその刹那、ナツメの姿は突如として消えた。まるで、壁の中に吸い込まれてしまったかのように。
茫然として、iphoneのビデオのストップを押すのを忘れていた。やがて、明るい大通りの方から、ナツメのシルエットが歩いてきた。
「やったね!」
満面の笑みを浮かべたナツメは、そういってピースした。
「オレっていったい? 」
ナオトは泣き笑いの表情を浮かべるしかなかった。
ナツメとは今は廃墟と化しているあのMixiで知り合った。その時彼女は薬学系大学の講師をしていたが、1年ほどで辞めてカメラマンへと華麗な転身を遂げたという話をmixiの幽霊会員になる前に聞いた。
だがむろん食えるわけもなく、今はタウン誌のしがない記者兼カメラマンをやっているらしい。それでもナツメのやると言ったら絶対にやる! という有言実行の行動力はすごいとナオトは思った。
ナオトは、オフ会で彼女と一度だけ会ったことがあったが、予想していたよりも綺麗だったのが本当に意外だった。
で、ナツメはその時に講師を辞めてカメラマンになりたいと言っていたのだった。
そんなナツメとナオトが再会したのは、昼下がりのオフィス街。薄暗がりのビルの谷間でだった。
ナツメは、久しぶりとにこやかに手を振って近づいてきた。
「で、こんなとこで何やってんの?」
「あー。そのう、実は信じてもらえないだろうけれど、壁抜けの練習してんだよ」
「なにそれ? 前からアホだと思ってたけど、さらに磨きがかかったわけか」
「ま、そういうなよ。マジなんだから」
「でもなんで? あ、わかった!どうせ女風呂とか覗くつもりでしょ」
「失礼だな、なんちゅうこというの? さては覗かれたい願望でもあるな、ナツメさんよ?」
「アホ。じゃ、ほら見ててあげるから、早くやって見せないさいよ」
「お、おう!」
とは返したものの、いっかなうまくいかない。ただ、壁に向かって相撲でいうところの鉄砲をしているだけの図。
ナツメは、不意に腕を組んだ手を解き「わかった! ナオトくん真剣さが足りないんだよ。絶対そう。じゃさ、あたし撮るよ。Youtubeにあげるから!」
「マジ?」
「はいはい。じゃ、スタンバイして。あ、てかさ、それでもきっと真剣さがまだまだ足りないと思うんだよね。そうだ! ナオトくん、反対側の壁から思い切り助走つけて壁に突撃して!」
「あ、ナツメさん、許してください」
「はいはい。男だったら四の五の言わない。やれよ?」
それで、面子もたたないので、やったはいいけど、案の定、壁にただ激突した蝿みたいな馬鹿な男が録画されただけとなったのは言うまでもない。
「あーあ。あたし少しは信じたい気持ちになってたのになぁ」
「すまん」
「やっぱあれじゃない? 心底信じてないんだよ、ナオトくん自身がね」
「いや、頭ではできると思ってんだけどさ、問題はやっぱ身体だな」
「そんなの当たり前でしょ。みんな壁くらい簡単に抜けられるって思って……ないね?」
「な? そうだろ? 壁抜けられるなんて誰も思うわけないし、だからやろうともしないんだよ」
「だから? 偉いっていいたいわけ?」
「いや、そうじゃなくて。まずはできると思わない限りできるものもできないって話だよ、頭ではわかってるつもりなんだけどな」
「わかった。じゃ、今度はあたしがやってみる! ナオトくん撮影してよ」
「えー! マジかよ?」
「はい、カメラまわして」
ナツメは、そう言うや目をつむり何やら精神統一すると、軽く息を吐き、助走をつけて壁に突っ込んでいった。
そして。
壁にぶち当たるその刹那、ナツメの姿は突如として消えた。まるで、壁の中に吸い込まれてしまったかのように。
茫然として、iphoneのビデオのストップを押すのを忘れていた。やがて、明るい大通りの方から、ナツメのシルエットが歩いてきた。
「やったね!」
満面の笑みを浮かべたナツメは、そういってピースした。
「オレっていったい? 」
ナオトは泣き笑いの表情を浮かべるしかなかった。
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