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シネ! ゴブリン野郎
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ケンは、ナオトにアイコンタクトし再び撮影に戻っていった。
ケンの相変わらず期待を裏切らないヘンタイぶりに、ナオトは空を仰いだ。東京にしては珍しいほどの青空が広がっている。
『空がこんなに青いわけがない』という映画があったが、内容はまったく憶えていないけれども、たしかに尋常ではない青さは、世界の異常性やら狂気を訴えているように思える。
ナオトは、中学生の頃に月暈という大気現象を見たことがあり、つい最近にも昼日中のお天気雨の際に日暈を見たのだった。月暈は月の周りに、日暈は、太陽の周りに光の輪が現れる現象で、かなり神秘的な様相を呈することから、スピリチュアルな意味があったり、何かの前兆ではないかと思えるのだった。
なんとなれば、365日どころか永遠に昼と夜がループするこの世界に生きていても、いい意味なのか不吉なものなのかわからないが、とにかく見た人は限られているのだから、何かしらの意味はあるのではないかとナオトは思うのだ。
星座と人生の因果関係を証明することなど出来はしないけれど、ナオトは自分がかなりスピリチュアルな人間だと思っている。
例えば次にハレー彗星が地球に接近するのは、2061年の夏らしいから、ちょうど40年後だ。ナオトは、その時まだ生きているだろうかと思ったりするのだった。
やがて、ケンが戻ってきた。
白塗りのケンは、ナオトにウインクするとニヤッと笑った。それは、推しメンの尊い、えもいわれぬ微笑みの真逆の効果を発揮する。
八つ墓村のコスチュームで笑いかけられても、身体が硬直し襟足のあたりがゾワっとするだけだった。トラウマになりそうだとナオトは思った。
当然ナオトは、ケンにその白塗り八つ墓村コスは、いったいなんなんなんだと訊いてみた。
「いや、俺さマジでスカウトされたんだよ」とケン。
「ということは、ギャラ発生してんかい」
「そういうこと。いちおうお仕事ですから」
「ふざけんな。おまえほんとうに映画『八つ墓村』知ってんのか?」
「知ってるよ、観たから」
「じゃ、あの映画のモデルになった津山三十人殺し、わかってんやろな?」
「な、なにそれ?」
「だから、あれはただのフィクションじゃないんだよ、実際に83年前かな、岡山であった事件をモチーフにしてるんだ」
「そうなんだ、知らなかった」
「それで、犯人は無差別に村人たちを殺戮したあげく、猟銃で自殺している」
「ヒェ~」
「まあ、はなから自分の命なんて惜しくないから、手当たり次第に皆殺しにしたんだろうけど、ケン、おまえにそんな覚悟あんのかよ?」
「あるわけねーだろ。これはあくまでコスプレなんだからさ。わけわかんないこというなや」
「で、いったい誰にスカウトされたんだ?」
「わかんない。えなこたちがモスから出てったら、入れ替わるようにして、えなこのソックリさんたちが来たんだよ。そしたら、いきなり俺んとこ来て、ドタキャンされちゃったから、ちょっと代役頼まれてくれないとか言い出したってわけさ」
「なんか怪しいな。それ特定してきてないか?」
「特定って? 俺のこと知っててわざとやらせたってか?」
「ああ、ありえるな」
「それを言うなら、アリエールでしょ」
「ケン、おまえそんな冗談言ってられるのも今だけかもしれないぞ」
「なんだよ、怖がらせようってのかよ」
「いやいや、なんかキナ臭いんだよな、事件の匂いがする」
「どんな匂いなんだよ?」
「うるせー、スケキヨみたいな顔しやがって」
「あ、ナオトくんてば、ひっどーい。ケンちゃん泣いちゃうんだからァ」
「あー、アホがうつるから一刻も早く異世界にでも転生してくれ」
「それをいうなら、はい、メゾン一刻!」
「シネ! ゴブリン野郎」
◇
アホなやりとりは、果てしなく続いていく。アホウイルスが皆さんにも感染してはいけないので、このくらいにしておくが、それからふたりは、お昼に美味しい味噌ラーメンを食べた後、ナオトの提案で動物園に行くことにした。
「なんかさ、急にシマウマ見たくなるってことない?」とナオト。
「あるわきゃねーだろ」
「そう。俺なんかシマウマしばらく見ないと禁断症状でちゃうけどな」
「いってろや」
「おい。ケン、あれ?」そういってナオトが指差した先にはコスプレの一団がいて、そこらじゅうでなりきってカメラの前で決めポーズをとっていた。
ビッグサイトのコミケ以外でもこんなコスプレのイベントがあるらしい。だから、モスにゾンビランドサガの連中がいたのだと、ナオトは合点する。
そして、「俺、YouTube にあげるからさ。ケンまだ拘束されてんのか?」
「いや、さっきのカットで終了した。衣装も一回こっきりだから、もう要らないって」
「よし。じゃあ、臨場感を出すのために他のコスプレーヤーさんたちを写り込ませつつ、動画撮るぞ」
そして、小一時間ほどいろいろなパターンでアホケンを撮りまくり、撤収となって公園の出口に向かっていたところで、ふたりは暴漢に襲われた。
公園というパブリックな場所でも樹の陰とか、いくらでも人の目から逃れられる死角はあるのだ。
ケンの相変わらず期待を裏切らないヘンタイぶりに、ナオトは空を仰いだ。東京にしては珍しいほどの青空が広がっている。
『空がこんなに青いわけがない』という映画があったが、内容はまったく憶えていないけれども、たしかに尋常ではない青さは、世界の異常性やら狂気を訴えているように思える。
ナオトは、中学生の頃に月暈という大気現象を見たことがあり、つい最近にも昼日中のお天気雨の際に日暈を見たのだった。月暈は月の周りに、日暈は、太陽の周りに光の輪が現れる現象で、かなり神秘的な様相を呈することから、スピリチュアルな意味があったり、何かの前兆ではないかと思えるのだった。
なんとなれば、365日どころか永遠に昼と夜がループするこの世界に生きていても、いい意味なのか不吉なものなのかわからないが、とにかく見た人は限られているのだから、何かしらの意味はあるのではないかとナオトは思うのだ。
星座と人生の因果関係を証明することなど出来はしないけれど、ナオトは自分がかなりスピリチュアルな人間だと思っている。
例えば次にハレー彗星が地球に接近するのは、2061年の夏らしいから、ちょうど40年後だ。ナオトは、その時まだ生きているだろうかと思ったりするのだった。
やがて、ケンが戻ってきた。
白塗りのケンは、ナオトにウインクするとニヤッと笑った。それは、推しメンの尊い、えもいわれぬ微笑みの真逆の効果を発揮する。
八つ墓村のコスチュームで笑いかけられても、身体が硬直し襟足のあたりがゾワっとするだけだった。トラウマになりそうだとナオトは思った。
当然ナオトは、ケンにその白塗り八つ墓村コスは、いったいなんなんなんだと訊いてみた。
「いや、俺さマジでスカウトされたんだよ」とケン。
「ということは、ギャラ発生してんかい」
「そういうこと。いちおうお仕事ですから」
「ふざけんな。おまえほんとうに映画『八つ墓村』知ってんのか?」
「知ってるよ、観たから」
「じゃ、あの映画のモデルになった津山三十人殺し、わかってんやろな?」
「な、なにそれ?」
「だから、あれはただのフィクションじゃないんだよ、実際に83年前かな、岡山であった事件をモチーフにしてるんだ」
「そうなんだ、知らなかった」
「それで、犯人は無差別に村人たちを殺戮したあげく、猟銃で自殺している」
「ヒェ~」
「まあ、はなから自分の命なんて惜しくないから、手当たり次第に皆殺しにしたんだろうけど、ケン、おまえにそんな覚悟あんのかよ?」
「あるわけねーだろ。これはあくまでコスプレなんだからさ。わけわかんないこというなや」
「で、いったい誰にスカウトされたんだ?」
「わかんない。えなこたちがモスから出てったら、入れ替わるようにして、えなこのソックリさんたちが来たんだよ。そしたら、いきなり俺んとこ来て、ドタキャンされちゃったから、ちょっと代役頼まれてくれないとか言い出したってわけさ」
「なんか怪しいな。それ特定してきてないか?」
「特定って? 俺のこと知っててわざとやらせたってか?」
「ああ、ありえるな」
「それを言うなら、アリエールでしょ」
「ケン、おまえそんな冗談言ってられるのも今だけかもしれないぞ」
「なんだよ、怖がらせようってのかよ」
「いやいや、なんかキナ臭いんだよな、事件の匂いがする」
「どんな匂いなんだよ?」
「うるせー、スケキヨみたいな顔しやがって」
「あ、ナオトくんてば、ひっどーい。ケンちゃん泣いちゃうんだからァ」
「あー、アホがうつるから一刻も早く異世界にでも転生してくれ」
「それをいうなら、はい、メゾン一刻!」
「シネ! ゴブリン野郎」
◇
アホなやりとりは、果てしなく続いていく。アホウイルスが皆さんにも感染してはいけないので、このくらいにしておくが、それからふたりは、お昼に美味しい味噌ラーメンを食べた後、ナオトの提案で動物園に行くことにした。
「なんかさ、急にシマウマ見たくなるってことない?」とナオト。
「あるわきゃねーだろ」
「そう。俺なんかシマウマしばらく見ないと禁断症状でちゃうけどな」
「いってろや」
「おい。ケン、あれ?」そういってナオトが指差した先にはコスプレの一団がいて、そこらじゅうでなりきってカメラの前で決めポーズをとっていた。
ビッグサイトのコミケ以外でもこんなコスプレのイベントがあるらしい。だから、モスにゾンビランドサガの連中がいたのだと、ナオトは合点する。
そして、「俺、YouTube にあげるからさ。ケンまだ拘束されてんのか?」
「いや、さっきのカットで終了した。衣装も一回こっきりだから、もう要らないって」
「よし。じゃあ、臨場感を出すのために他のコスプレーヤーさんたちを写り込ませつつ、動画撮るぞ」
そして、小一時間ほどいろいろなパターンでアホケンを撮りまくり、撤収となって公園の出口に向かっていたところで、ふたりは暴漢に襲われた。
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