クリシェ

トリヤマケイ

文字の大きさ
29 / 73

Side:ナオト7 ドロドロドンツェ ドロドンツェ2

しおりを挟む
   そしてそう。とにかくゴヤゴヤいっているのだ。講演会に来た人たち全員で。ゴンザレス親父も、机の上に端座瞑目して、合掌しつつ一心不乱にゴヤゴヤゴヤゴヤ唱えている。

   しかし、なにかが違うとナオトは思った。居眠りする前、ゴンザレスのおやっさんは、立って喋っていたはずで、そのことにはすぐ気づいたのだが、まだなにか違和感が残っている、残尿感みたいな。

   と、ナオトは、ゴンザレスのおやっさんの、脂ぎった鬢のあたりを見ていて、ハッと思った。

   なんか、女性の下着みたいなのだった。いや、あまりにも女性のパンティに酷似していた。

そしてそれは、捻じりハチマキならぬ捻じりパンティにすらなっていなかった。つまり、はなからハチマキ路線ではないのだ。

    ハチマキをしたいけれども、手元には手ごろなそれらしきファブリックがないものだから、なぜかポケットを探ってみたらたまたま出てきた女性もののパンティを、仕方なくハチマキの代用として用いてみました、みたいなことでは全然ない。

   それは、水色で、フルバックのショーツだった。お尻の部分は、細かいあみあみになったシースルーなやつ。

   それを、頭を怪我した人がするネットみたいなようにして、頭からショーツをかぶっているのだった。

   しかし、なぜまた気づかなかったのだろうか。こんなにわかりやすいのに。いや、たぶん。わかりやすすぎたので、わからなかったのだろう。

    もしくは、まがりなりにも講演会と銘打ってあるのだから、そんな風俗店まがいなバカげたことはしないだろうという、常識が邪魔したのではないか。

   だって、まだ外は真っ昼間なわけなのだし、シラフでないならまだしも、白昼堂々このザマはなんザマす、てなもんだ。

    あるいは、ゴンザレスは、ジャンキーなのか。幻覚世界の住人なのか? しかし、それにしてもこいつらはうるせーとナオトは思った。

    なにがゴヤゴヤだ、たまたまゴンザレスが、ゴヤゴヤいいだしたからまねしているだけであって、ベレンベレンベレンでも、ジュルンジュルンジュルンでもなんでもいいにきまってる。

    ただ、こいつらは、おれを、講演会に紛れこんだ招かれざる客のこのおれのことを知っていてこんな嫌がらせをしているのだ。

    ゴヤゴヤゴヤで、おれを炙り出そうとしているのだ。ならば、おれにも考えがある。こんな変態ゴンザレスオヤジに、おれは負けない。

ナオトは、そんな風に思ってオヤジの机に転がっていたハンドスピーカーを手にするや、やおら産気づいたガチョウみたいにがなり立てた。

どるんどるんどるんどるん
べべべべんーべべべべべんべべんんべべモフモフズボズへろペロひーひ

   とそこまで、喚きちらして恥ずかしくなってやめた。恥ずかしくなってというか、流れに棹さすのではなく、流れに身を任せてみるのも面白いのではないか。一緒にゴヤゴヤいうことによって見えてくるものもあるだろう、そう思ったのだ。

   というわけで、ナオトもゴヤゴヤゴヤゴーヤゴヤゴヤと、無念無想で繰り返し繰り返し唱えはじめた。

    すると、十分か十五分たった頃だろうか、不思議なことが起こりはじめた。身体が、椅子に座っていた身体が、なんと宙に浮きはじめたのだった。


   身体が、ゆなゆなと海藻みたいにゆったり揺れたと思ったら、次いで身体が少しずつ浮きはじめたのだから驚いた。

   見ればゴンザレスのオヤジも五六センチは浮いている。そして、それを境にナオトは、幻想の森のなかへと彷徨いこんでいったのだった。






   森の中でナオトはなぜかカバに乗っていた。そのカバは、一歩ごとにアスファルトにめり込んでゆくのも構わずに、のんびりと欠伸するが、欠伸するカバほど素敵なものもないし、ナオトもまねして大きな欠伸をひとつすると、肩になにかが舞い降りてくる感じがして、その天使のようなメロディ、といおうか天の羽衣のような優しい感触に、思わずうっとりと目を閉じて初夏の風に頬をなぶらせながら、街であるとか、海、川、船、無数の顔、風景、花、メタリックなものなどに思いを馳せた。

   そして見るともなしに肩を見遣ると舞い落ちたのは、ただの包帯で、手を遣れば頭はターバンのようにぐるぐる巻きだったから、ためしに頭を右に少しだけ傾げると脳内に蓄積された表象が、おざなりに巻かれた包帯の間からだだ漏れして、床に水たまりを作った。

   なので、掃除機で吸い取ってしまおうかと思って覗きこんだら、ぎゃくに吸い込まれそうになって、浴槽がぬるりぬるりとぬめり足を滑らせ、危く後頭部を打ち付けそうになったときのように、水たまりの縁でナオトは、つるりと滑ってしまった。

    透明なガラスの小皿にぽってりとした恥丘みたいにもりあがるようにして盛られたジャムから抜け出せなくなった蝿のようにナオトは、もがけばもがくほど全身にゼラチン状のねばねばが絡み流線形となって、あたかもシールド工法みたいに深く深く迷宮へとのめりこんでいくばかりの笑えない悲劇を生きているのだった。

    蝿として終えなければならないこの生を呪いたくなったが、なんのことはない比喩としての蝿なのだから大丈夫である、とナオトは自分が想像したことを思い出し、一笑に付したのはいいのだけれど、どうやらそうではないらしい。

   この無様さ、みじめさはヒトに戻ろうとも同様なのであり、ナオトは、なぜか中学生のときに恋した女の子のことを思い出しさめざめと泣くことによって、自分を慰めようと考え、下駄箱の靴のなかに互いに入れあったラブレターのことを記憶の井戸から掬いあげたりしたが、ちっとも泣けなかった。

   それよりも、たわわに実った果実のような未だ誰の手にも触れらてはいない、いい匂いのするやわらかなおっぱいに顔をうずめたり、Kissしたり一度でもいいからしてみたかったと後悔するばかりなのである。



   フォドゥロドゥロドゥエ・ドゥロロロロン・フォドゥロドゥロドゥエ・ドゥロロロロン

 ドゥロドゥロドゥンツェ・ドゥロドゥンツェ・ドゥロドゥロドゥンツェ・ドゥロドゥンツェ

 フォドゥロドゥロドゥエ・ドゥロロロロン・フォドゥロドゥロドゥエ・ドゥロロロロン
 
 ゲジージーゼ・ジーゼツカ・ズミペローパオ・ザンデウ・キャフェヴォリグゥワッホ・ピャガルッハ

 ジージージー・ザザザーゼ
 
 ドゥロドゥロドゥンツェ・ドゥロドゥンツェ
 ドゥロドゥロドゥンツェ・ドゥロドゥンツェ……

 気づけば、会議室には、人っ子一人いなくなっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...