クリシェ

トリヤマケイ

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ナオト魔法の書を見つける

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   棚からぼた餅というのは、ほんとうにあるらしい。実は、あの超絶美少年にあのあとナオトは何回か会ったのだけれど、冗談めかせてケット・シーを捜してんだよねと言ったら、笑われるどころか、ああとタジオ少年は頷くのだった。

   いや、高校生だから少年というのは失礼にあたるのかもしれないのだが、ゴリラみたいな筋骨隆々で髭を生やし鋲ジャンの袖をぶった切ったハードゲイのおっさんなどではなく、たやすく手折れてしまう一輪のヒヤシンスみたいな雰囲気なのだから仕方ない。

   で、そのタジオ少年がいうには、彼の家に家宝でもないのだけれど、古ぼけた分厚い本があるのだという。


「それが、シュメール文字だかなんだかわからない古代文字っていうの?   さっぱりわからないんだけど、魔法陣が描かれてあるのでたぶん、間違いなく魔法の書だと思う」

「それ、マジ?」

「マジだよ。うちのじいちゃんが古書とか骨董品が趣味で集めてるんだよ。で、蔵に今も眠ってるはずだよ」

   ナオトは、快哉を叫んだ。だとしたらケット・シーなんて見つけださなくてもいいじゃん。

   出来れば無職転生みたいに無詠唱でやることにしたいが、そんなわけにはいかなかった。詠唱しなくても心の中で呪文だかおまじないをとなえるわけなのだから、そもそも文字だけでは駄目なのだ。

   文字には無論、それに相応しい音が内包されている。やはりケット・シーを何がなんでも見つけださなければならないようだ。

   ただ、そんな魔法を信じない人にはなんの役にも立たないけれど、ほんとうに魔法の書があるならば持っていて損はない。

   ナオトはタジオにおねだりしてみた。

「よかったらさ、研究したいからしばらくその本、貸してくんない?」

「いいよ、べつに。どうせ蔵の中で埃かぶってるだけだし」

「マジ、サンキュー!   でもおじいちゃんに断らないとまずいんじゃない?」

「いや、全然だいじょうぶ。とりあえずなんかのオマケで付いてただけのやつだから。おじいちゃんは、竹内栖鳳とか川合玉堂、菱田春草、俵屋宗達やら本阿弥光悦、尾形光琳とかの日本画が好きだから」

「そうなのか。誰ひとりとして知らんけど、じゃ、わけのわからん魔法陣の描いてある本なんかに興味はないんだね」

「そういうこと。だから、あげるよ。でも、その代わりと言っちゃあなんだけど、また会ってくれない?」

「もちろん。受け渡しの時会うしさ」

「いや、そういうことじゃなく」

   そう言って、タジオ少年はすねるしぐさをするのだった。

「あ、え?   ああ、マアね。なんかお礼しなきゃだしね」

「お礼なんていい。ただ、また会ってほしいだけ」

「わかった。わかりました」

   さすがに鈍いナオトでもタジオ少年が何を言わんとしているのか、理解できた。まあ、減るもんじゃなし、また会ってもいいけどタジオ少年にこのままずぶずぶとハマってしまっていいものなのか、何か不安な気もするナオトなのだった。  

   というのは、タジオ少年は確かに超絶美少年なのだが、それだけでナオトは特段彼が好きというわけではなく、ちょっと火遊びしてみたかったというくらいなのだ。

    はじめてする火遊びに、タジオ少年はちょうどよかったのだけれど、つまりそれは肉体関係の上の事だけであり、ナオトには別に恋愛感情はないのだった。

    なので、タジオ少年がどうナオトの事を考えているのか、ただのセフレくらいならいいけれど、真面目なタジオ少年の熱い情熱をまっすぐに自分は受け止められるのかをナオトは心配しているのだ。

    しかし、実際はナオト自身が火遊びなどと言っておきながら、二進も三進もいかなくなるような、ずぶずぶな関係になってしまうのを恐れているのかもしれなかった。

    今はまだ肉体関係だけだが、肉から始まる恋もあるのだ。どうしたって肌を合わせていたら情が移るのは当たり前の話で、むしろ若いタジオ少年の方は、若い故にドライなアバンチュールを楽しんでいるだけなのかもしれない。

   自分自身これからどう変化していくのか皆目見当もつかないけれど、ナオトがいざ本気になってタジオを愛しはじめているのだと気づいてからでは、もう取り返しがつかない。

  だからナオトはすでに自分の気持ちにセーブをかけているのかもしれない、敵は超絶美少年なのだ、映画『ベニスに死す』のタジオ少年そのままに、いやそれ以上の美形の持ち主なのだ。

   他の男が彼を放っておくはずはない。通りを歩けば華やかな雰囲気とその美貌に皆、振り向かずにはいられない。

   そんな恋人を持ってしまったら、四六時中悪いウイルスが寄って来ないか心配しなくてはならないし、常に今どこにいる?   だとか、何してた?   と監視するLINEを送りつける嫉妬に狂った腐った女みたいなモンスターになりそうで、イヤだった。

   ナオトは自分でも取り越し苦労だなとは思うのだけれど、タジオ少年をマジに好きになってしまってからやっぱり同世代の若い子の方がいい、なんて袖にされてはたまらない。

    そのことが一点と、あとまだモヤモヤしてはっきりとわからないのだけれど、もしかしたなら自分はケンのことがずっと好きだったのかもしれない。

    ケンはまるっきりノーマルだから、ナオトがそんなそぶりを見せたなら、友達としても終わってしまう、それが怖くてずっと自分のほんとうの気持ちに蓋をしてきたのではないか。

   今回のタジオ少年とのアバンチュールで、ケンへの恋心が自分の中で徐々にではあるけれど、くっきりと輪郭を帯びてきたのかもしれなかった。

   
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