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月明かりで本を読む会
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今夜は、月明かりで本を読む会に出席する日だった。
ナオトは、未だにダメ元でわけわからない読書会に参加していた。
天気予報では、夜半から明日にかけて雨か若しくは雪らしく、野外で本を読むことなど出来そうになかった。
今にも降り出しそうな気配に心配になって中目黒から電車に乗る前にLINEで確認する。だが、いつもどおりに読書会を開くということだった。
雨模様だし、集まりはあまり芳しくないだろうなと思うものの、綺麗なおねいさんとの、いや、ケット・シーとの出会いに期待して、ナオトは傘を用意して行くことにした。
場所は、いつも異なるが今夜は、また青山霊園だった。まるで、真冬の肝だめしだ。
今夜の本は、何かというとアンドレ・ブルトンの『ナジャ』らしい。全員が輪になって、ひとりひとり読んでいくのが習わしだった。
輪の真ん中にある丸テーブルには、マジシャンが使うような白いロープがテーブルの円の中心で交差するようにして、何本か垂らしてある。
これは、本を読んだ後のお楽しみ……。当たりを引いたものは指名できるのだ。そうそう。以前のルールが少し変更され、ロープの先に当たりのマークが付いていたら、好きな人を指名できるようになっていた。
まあ、こんな会だからセクシュアルマイノリティに理解のある人たちばかりなのかもしれない。BLが当たり前のようにテレビドラマになっている時代なのだから驚きだが、ちょっと前には信じられないことだった。
渋谷でタクシーを拾ったときには本格的に降り出しはじめ、やがて土砂降りになったが、霊園につく頃には、嘘みたいに雨はあがっていた。
ゲリラ豪雨というやつか。雨に洗われた霊園には、靄が立ちこめ、エデンの園さながら穢れなき清浄なアトモスフィアにすっぽりと包まれていた。
定時である22時きっかりに読書会はスタートした。
飲み物を各自持ち寄ることになっていて、読んでは飲み、飲んでは読みしながら――むろん、飲み物とはアルコールの類もOKなので――呑兵衛の人は最後の方になるとべろんべろんになって、呂律が回らなくなる人もいた。
ありがたいことに、雨に祟られることなく24時すぎに読書会は、無事終了。
ナオトは千鳥足でテーブルに近づき、ロープの一本を引いたら、今夜は、当たりだった。
なんでこんなふざけた会に人が集まるのか、いまだによくわからないが、出会いの機会が全然ない人は確かにたくさんいるだろうなとナオトは思った。
で。ナオトは当たりだったので、アラフォーなおばさまの隣りに隠れるように佇む大人しそうなうら若き美少年を指名。
自分でもよくわからないのだけれど、酔いの力も借りて、ほんとうの自分の欲望を解放したのかもしれないとナオトは思った。そして、酔いのせいばかりではなく、これからの展開を考えてクラクラした。
タクシーを拾って、即ラブホへ直行。部屋に入るなり、思い切り抱きしめ唇を吸う———こんな段取りでは嫌われてしまうだろうか。
しかし。強制ではなく、あくまでもフィーリングが合えばの話であって、ナオトは、彼とのアイコンタクトでOKを取り付けたはずだった。
映画『ベニスに死す』のタジオのような美少年の彼はナオトの腕の中で急に脱力して軟体動物みたいにグンニャリとなる。
はじめは、触れるか触れないかのギリギリのところでふたりの唇は、互いの唇を求めて蝶が舞うように宙を彷徨う。
そして、やっと互いの唇を探り当てると、はじめは、おずおずとそこはかとなく他人行儀の挨拶程度のキスだったのに、やがてじょじょにきつく唇を吸い合いながら獣になったみたいに抱擁し、舌を挿し入れてめくるめく官能に我を忘れていく。
そして……。
嫌なことも、つらいことも、何もかも忘れて、時も、ところさえも遥かに超えて、ナオトは美少年とHした。
一時間後。シャワーを浴びて、出てきたナオトは、まるで別人のようだった。いや、ナオトではなく世界が変わってしまったのだ。
それは、Hしたことよって美少年タジオと自分との人間関係に変化が生じたことは確かで、なんかうまくいえないけれど、タジオが恋人のように見えてきたのかもしれない。
美少年タジオには、中学生の妹がいるということだった。カワイイのかと聞くと、ボクに似てとってもカワイイといった。
「じゃ、今度紹介してくんない?」といったら、頭をはたかれた。
有線のスイッチを入れたら、コルトレーンの『Say it』がかかってた。
するとなんかセンチな気持ちになっちゃって、タジオに背を向けて少しだけ泣いた。ケンの顔が浮かんでは消え浮かんでは消えしたが、気のせいだろう。
おかしい。あまりにもおかしすぎると思った。誰にも恋なんてしてないのに、なんだろうこの切なさは。
ま、酒のせいにしておこうということにした。ナオトはお酒が強い方ではないから、いくらなんでも今夜は飲み過ぎたなと少し後悔した。
別れ際、タジオ曰く「ボクと似た顔の女のこ見かけても、声掛けないでね」だって。
ナオトは、未だにダメ元でわけわからない読書会に参加していた。
天気予報では、夜半から明日にかけて雨か若しくは雪らしく、野外で本を読むことなど出来そうになかった。
今にも降り出しそうな気配に心配になって中目黒から電車に乗る前にLINEで確認する。だが、いつもどおりに読書会を開くということだった。
雨模様だし、集まりはあまり芳しくないだろうなと思うものの、綺麗なおねいさんとの、いや、ケット・シーとの出会いに期待して、ナオトは傘を用意して行くことにした。
場所は、いつも異なるが今夜は、また青山霊園だった。まるで、真冬の肝だめしだ。
今夜の本は、何かというとアンドレ・ブルトンの『ナジャ』らしい。全員が輪になって、ひとりひとり読んでいくのが習わしだった。
輪の真ん中にある丸テーブルには、マジシャンが使うような白いロープがテーブルの円の中心で交差するようにして、何本か垂らしてある。
これは、本を読んだ後のお楽しみ……。当たりを引いたものは指名できるのだ。そうそう。以前のルールが少し変更され、ロープの先に当たりのマークが付いていたら、好きな人を指名できるようになっていた。
まあ、こんな会だからセクシュアルマイノリティに理解のある人たちばかりなのかもしれない。BLが当たり前のようにテレビドラマになっている時代なのだから驚きだが、ちょっと前には信じられないことだった。
渋谷でタクシーを拾ったときには本格的に降り出しはじめ、やがて土砂降りになったが、霊園につく頃には、嘘みたいに雨はあがっていた。
ゲリラ豪雨というやつか。雨に洗われた霊園には、靄が立ちこめ、エデンの園さながら穢れなき清浄なアトモスフィアにすっぽりと包まれていた。
定時である22時きっかりに読書会はスタートした。
飲み物を各自持ち寄ることになっていて、読んでは飲み、飲んでは読みしながら――むろん、飲み物とはアルコールの類もOKなので――呑兵衛の人は最後の方になるとべろんべろんになって、呂律が回らなくなる人もいた。
ありがたいことに、雨に祟られることなく24時すぎに読書会は、無事終了。
ナオトは千鳥足でテーブルに近づき、ロープの一本を引いたら、今夜は、当たりだった。
なんでこんなふざけた会に人が集まるのか、いまだによくわからないが、出会いの機会が全然ない人は確かにたくさんいるだろうなとナオトは思った。
で。ナオトは当たりだったので、アラフォーなおばさまの隣りに隠れるように佇む大人しそうなうら若き美少年を指名。
自分でもよくわからないのだけれど、酔いの力も借りて、ほんとうの自分の欲望を解放したのかもしれないとナオトは思った。そして、酔いのせいばかりではなく、これからの展開を考えてクラクラした。
タクシーを拾って、即ラブホへ直行。部屋に入るなり、思い切り抱きしめ唇を吸う———こんな段取りでは嫌われてしまうだろうか。
しかし。強制ではなく、あくまでもフィーリングが合えばの話であって、ナオトは、彼とのアイコンタクトでOKを取り付けたはずだった。
映画『ベニスに死す』のタジオのような美少年の彼はナオトの腕の中で急に脱力して軟体動物みたいにグンニャリとなる。
はじめは、触れるか触れないかのギリギリのところでふたりの唇は、互いの唇を求めて蝶が舞うように宙を彷徨う。
そして、やっと互いの唇を探り当てると、はじめは、おずおずとそこはかとなく他人行儀の挨拶程度のキスだったのに、やがてじょじょにきつく唇を吸い合いながら獣になったみたいに抱擁し、舌を挿し入れてめくるめく官能に我を忘れていく。
そして……。
嫌なことも、つらいことも、何もかも忘れて、時も、ところさえも遥かに超えて、ナオトは美少年とHした。
一時間後。シャワーを浴びて、出てきたナオトは、まるで別人のようだった。いや、ナオトではなく世界が変わってしまったのだ。
それは、Hしたことよって美少年タジオと自分との人間関係に変化が生じたことは確かで、なんかうまくいえないけれど、タジオが恋人のように見えてきたのかもしれない。
美少年タジオには、中学生の妹がいるということだった。カワイイのかと聞くと、ボクに似てとってもカワイイといった。
「じゃ、今度紹介してくんない?」といったら、頭をはたかれた。
有線のスイッチを入れたら、コルトレーンの『Say it』がかかってた。
するとなんかセンチな気持ちになっちゃって、タジオに背を向けて少しだけ泣いた。ケンの顔が浮かんでは消え浮かんでは消えしたが、気のせいだろう。
おかしい。あまりにもおかしすぎると思った。誰にも恋なんてしてないのに、なんだろうこの切なさは。
ま、酒のせいにしておこうということにした。ナオトはお酒が強い方ではないから、いくらなんでも今夜は飲み過ぎたなと少し後悔した。
別れ際、タジオ曰く「ボクと似た顔の女のこ見かけても、声掛けないでね」だって。
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