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召喚主
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「ケット・シーを捜してたって、どういうこと?」と、ナツメになじられナオトは、いや、ちょっと言葉を濁すのが精一杯だった。
あのナツメが捜していたケット・シーだと知って興奮が収まらないナオトは、いろいろなことが一度に起こりすぎてキャパオーバーなのだった。
あれだけ血眼になって? 捜して見つからなかったのに、灯台下暗しとはまさにこのことだとナオトは感慨深く何度も頷いた。
しかし。
事ここに至っては、ケット・シーを見つけられてもあまり意味はないようにも思われるのだった。
つまり、このわけのわからない場所とシチュエーションから抜け出せない限り、実はケット・シーだったナツメちゃんから魔法だか魔術を伝授してもらっても使い道がよくわからない。
そんな事をナオトは思考していると、そもそも自分はなぜまた魔法なんて途方もない荒唐無稽なお伽話のようなマネをしたいのかと今さらながらそう思った。
もちろんハンスという人にスカウトされたということはあるけれど、そのずっと前からナオトは、壁抜けをやりたい思い、そして実際にやっていたのだ。
むろん、出来るわけもなかったのだけれど、壁抜けが出来たらいいのになぁと想うやつが仮にいたとしても、街中で人目も憚らず実際に練習したことがあるというナチュラルにバカなやつはたぶんいないだろう。
無駄だとわかっているにもかかわらず、とりあえずやらないことにはどうなるかわからないのだから、やってみないことには気が済まない、そんな風に考えてしまう自分という存在が信じられなかった。
まるで、その後になってそういう魔法だか超能力といった、潜在的に持っていた特別な才能を開花させる時が来ることを予期していたかのようなのだ。
誰にも自分の潜在能力なんてわからない。文字通り潜在していて、隠れており顕在していないからだ。
まあ、兎にも角にもすべてはここから脱出できたらの話であるのだけれど、こんな夢を見ているような摩訶不思議な展開になってくると、ナオトがあの夏の日だったか、オフィス街の裏通りで壁抜けなどというアホなことをやっていた時にナツメがちょうど現われたこと、そしてナオトが魔法の書を手に入れたこと、さらには猫の妖精であるナツメが、その魔法の書を開いて見たこと、そのすべては偶然ではないように思えてくるのだった。
ナツメはまた黙り込んでしまったが、その瞳に宿る光は、さっきとは異なった確信を得たような落ち着いた光を放っていた。
ナオトは、それで少しだけ安心した。とにかくナツメはケット・シーなのだから、 ナツメがどうにかしてくれるのを祈るほかないのだ。
「どうしたら、ここから抜け出せるのかな? って、ここいったいどこなんだよ」
「どこなのかはわからない。わかっていることは、誰かがたぶん罰を受けたかで結界だか呪いで封印されている」
「じゃ、その呪いを解いてくれってことで、召喚されたってことか」
「たぶんね」
「でも、それってケット・シーであるナツメちゃんだけでよくね? 俺は結局巻き添えなのね」
「うーん。そうなんだけど、一緒に居たからというだけじゃないかもしれない」
「どういうことさ?」
「つまり。ナオトくんの知り合いとか? 或いは知り合いじゃなくても何かかなり縁がある人とか」
「もしそう仮定するならば、確実に狙ってきてるわけだよね? 事故的なアレじゃなく」
「そうだと思う。まったくの縁がない人だとそういうことはむろん出来ないはずで、つまり、ナオトくんをむしろピンポイントで狙ったんだと私は思う」
「そうなの? マジそうなら怖ろしいヤツだなぁ、そいつ。あ、やっぱ魔術師だか魔道士とか、そっち系の人ね。てか人間じゃなく、魔族とか?」
「たぶん、魔王よ。それも最悪最強の」
「そんな魔王でも封じ込められてしまったということは、やったヤツは相当なもんだね」
「そうね。とんでもない魔力の持主か、或いは神かもしれない」
「なるほど。まあ、そう考えると自分も召喚されたという辻褄は合うけれど、肝心のその召喚主はどこにいるのさ?」
「ほら、そこにいるわよ」
そう言われてナオトが後ろを振り返って壁の方を見ると、さっきまで何も見えなかったはずなのに、そこにホログラムの映像のように、誰かがいた。
それは、円筒形の水槽の中に音もなく浮かぶ芸術的なオブジェのように見えた。
しかし、それはたしかに人であり、金色の長い髪がゆるやかに水の中でたゆたっていた。
それがあまりにも優雅な光景でナオトはその場に釘付けになって見つめていた。
「なに、なんなのこれ。アート作品とか? 生きて呼吸しているようにはとても思えないんだけど」
「むろん、生きてるわよ。魔力のパワーはこの水のような流体で封じ込められているみたい」
「水じゃなかったの? てかさ、なんでこんな生きてるのかどうかさえわからない状況の真っ只中で、それもここじゃないリアルな世界でいろいろ用意周到に準備できたね? ナツメちゃんの予想が当たってたらだけど」
あのナツメが捜していたケット・シーだと知って興奮が収まらないナオトは、いろいろなことが一度に起こりすぎてキャパオーバーなのだった。
あれだけ血眼になって? 捜して見つからなかったのに、灯台下暗しとはまさにこのことだとナオトは感慨深く何度も頷いた。
しかし。
事ここに至っては、ケット・シーを見つけられてもあまり意味はないようにも思われるのだった。
つまり、このわけのわからない場所とシチュエーションから抜け出せない限り、実はケット・シーだったナツメちゃんから魔法だか魔術を伝授してもらっても使い道がよくわからない。
そんな事をナオトは思考していると、そもそも自分はなぜまた魔法なんて途方もない荒唐無稽なお伽話のようなマネをしたいのかと今さらながらそう思った。
もちろんハンスという人にスカウトされたということはあるけれど、そのずっと前からナオトは、壁抜けをやりたい思い、そして実際にやっていたのだ。
むろん、出来るわけもなかったのだけれど、壁抜けが出来たらいいのになぁと想うやつが仮にいたとしても、街中で人目も憚らず実際に練習したことがあるというナチュラルにバカなやつはたぶんいないだろう。
無駄だとわかっているにもかかわらず、とりあえずやらないことにはどうなるかわからないのだから、やってみないことには気が済まない、そんな風に考えてしまう自分という存在が信じられなかった。
まるで、その後になってそういう魔法だか超能力といった、潜在的に持っていた特別な才能を開花させる時が来ることを予期していたかのようなのだ。
誰にも自分の潜在能力なんてわからない。文字通り潜在していて、隠れており顕在していないからだ。
まあ、兎にも角にもすべてはここから脱出できたらの話であるのだけれど、こんな夢を見ているような摩訶不思議な展開になってくると、ナオトがあの夏の日だったか、オフィス街の裏通りで壁抜けなどというアホなことをやっていた時にナツメがちょうど現われたこと、そしてナオトが魔法の書を手に入れたこと、さらには猫の妖精であるナツメが、その魔法の書を開いて見たこと、そのすべては偶然ではないように思えてくるのだった。
ナツメはまた黙り込んでしまったが、その瞳に宿る光は、さっきとは異なった確信を得たような落ち着いた光を放っていた。
ナオトは、それで少しだけ安心した。とにかくナツメはケット・シーなのだから、 ナツメがどうにかしてくれるのを祈るほかないのだ。
「どうしたら、ここから抜け出せるのかな? って、ここいったいどこなんだよ」
「どこなのかはわからない。わかっていることは、誰かがたぶん罰を受けたかで結界だか呪いで封印されている」
「じゃ、その呪いを解いてくれってことで、召喚されたってことか」
「たぶんね」
「でも、それってケット・シーであるナツメちゃんだけでよくね? 俺は結局巻き添えなのね」
「うーん。そうなんだけど、一緒に居たからというだけじゃないかもしれない」
「どういうことさ?」
「つまり。ナオトくんの知り合いとか? 或いは知り合いじゃなくても何かかなり縁がある人とか」
「もしそう仮定するならば、確実に狙ってきてるわけだよね? 事故的なアレじゃなく」
「そうだと思う。まったくの縁がない人だとそういうことはむろん出来ないはずで、つまり、ナオトくんをむしろピンポイントで狙ったんだと私は思う」
「そうなの? マジそうなら怖ろしいヤツだなぁ、そいつ。あ、やっぱ魔術師だか魔道士とか、そっち系の人ね。てか人間じゃなく、魔族とか?」
「たぶん、魔王よ。それも最悪最強の」
「そんな魔王でも封じ込められてしまったということは、やったヤツは相当なもんだね」
「そうね。とんでもない魔力の持主か、或いは神かもしれない」
「なるほど。まあ、そう考えると自分も召喚されたという辻褄は合うけれど、肝心のその召喚主はどこにいるのさ?」
「ほら、そこにいるわよ」
そう言われてナオトが後ろを振り返って壁の方を見ると、さっきまで何も見えなかったはずなのに、そこにホログラムの映像のように、誰かがいた。
それは、円筒形の水槽の中に音もなく浮かぶ芸術的なオブジェのように見えた。
しかし、それはたしかに人であり、金色の長い髪がゆるやかに水の中でたゆたっていた。
それがあまりにも優雅な光景でナオトはその場に釘付けになって見つめていた。
「なに、なんなのこれ。アート作品とか? 生きて呼吸しているようにはとても思えないんだけど」
「むろん、生きてるわよ。魔力のパワーはこの水のような流体で封じ込められているみたい」
「水じゃなかったの? てかさ、なんでこんな生きてるのかどうかさえわからない状況の真っ只中で、それもここじゃないリアルな世界でいろいろ用意周到に準備できたね? ナツメちゃんの予想が当たってたらだけど」
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