クリシェ

トリヤマケイ

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魔王編

テイマー

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   そのモンスター同士の殺戮シーンを岩陰から見ていたケンジとリカは、その恐ろしさに腰を抜かし、その場から逃げる事すら出来ずにただただ震えるばかりだった。

    もう勝負の行方は見えていたので、ケンジは首を引っ込めて震えるリカをきつく抱いていた。しばらくは息を潜めてモンスターがいなくなるのを待つしかない。

    完璧に頭を喰われて死んだように見えた人類に近い容姿のモンスターは、小柄で愛嬌のある顔立ちをしていたが、ケンジの仲の良かった従兄弟に似ていた。

   なので、ケンジはとても残念だった。未知の異世界で誰にも頼る事も出来ずに途方に暮れていたケンジだったが、あのモンスターには何か親近感を覚えたからだ。希望的観測によるただの錯覚かもしれないが。

   ヒトで変身が可能なのは、ウルトラマンやら仮面ライダーくらいしか知らないが、従兄弟に似ているというだけでとにかくモンスターには違いなく、人間なんて秒で殺傷されてしまうミジンコみたいな脆弱な生物であることを改めて実感させられた。

   転移してきた途端に巨大な毒蜘蛛に襲われて、命からがら逃げ延びてきた経緯があるのに、もうあの酸鼻を極める惨殺シーンをあまり憶えていなかった。

   エビングハウスの忘却曲線が表しているようにヒトとは忘れる生き物なのであり、あんな悲劇を逐一記憶していたならば早晩気が狂ってしまうだろう。

   いまケンジにはリカがすべてだった。抱き寄せてきつく抱いているとリカの温もりが直に感じられ、心臓の鼓動さえわかるような気がした。

   すると、ケンジはまたぞろムラムラしてくる予兆を感じ取っていた。あそこがずしりと重だるくなってくる。この非常時にとは思うのだったが、非常時だからこそ本能がそうさせるのかもしれなかった。
   
   ケンジは、リカの髪のいい匂いを嗅ぎ、髪をモシャモシャにしながら甘い甘いキスをした。ケンジは、リカの豊かな胸を揉みしだき、薔薇の花弁のような唇を吸い舌を挿し入れて...

   と、そこでケンジのリカしか見えていないはずの目にも否が応でも何かの影が見えたような気がした。気がしただけであり、実際には見えてはいないが視線を感じたと言えばいいだろうか。ふたりは巨きな岩に隠れるようにして愛しあっていた。

   つまり、いつからなのかわからないが、それは巨きな岩の上からふたりの愛の行為をしげしげとのぞきこんでいたのだ。

  気づかれたといちはやく察知したのか、その影が少し揺らぎながら喋った。笑っているのかもしれない。

「わるいわるい、お楽しみ中お邪魔しちゃって。えへへ」

  逆光線ではっきりとはわからなかったかが、まちがいなくさっきの小柄な少年みたいなヤツが、人懐っこい笑顔を浮かべているようにケンジには思えた。

「えー!!   さっき化け物に喰われたんじゃなかった?  てか、ヒトの言葉喋ってる?」

「あー。俺には相手に幻想を見させたりすることができるからさ。それに、オレ、母ちゃんはヒトだぜ」

   ケンジはよくわからなかった。さっきの愛嬌のあるモンスターにはちがいないらしいけれど、あの子は自分と同じくらいかもっと小柄だった筈だが、と思っていると不意に彼は横移動して、そのわけがわかった。

   実際には彼は巨人だった。というんじゃなくて、テイマーだったのだ。伸び放題伸ばした長髪の赤毛の男の子は、見たこともないような恐竜的なものの背中に乗っていたのだった。
 
「このごろやけにヒト属を見るけど、死体ばかりで生きている人間と話すのは本当に久しぶりだよ」

「そうなんだ。で、いったいここはどこなの?  ゲームの中の世界とか?」

「なにゲームって?  ここはどこって聞かれてもなぁ。ここはここだよ」

「じゃ、キミはここで生まれたの?  別な世界から転移してきたとかじゃない?」

「てんい?  むずかしいことはわからないけど、ここで生まれてずっと住んでるよ」

「お父さんとお母さんは?」

「ふたりとももういない」

「何かあったの?  天変地異とか流行り病とか?」

「それ聞いちゃう?   ふたりとも殺されたんだよ」

「さっきみたいな化け物にやられたとか?」

「まあね、もっと最凶なやつだよ」

「あれ以上に最凶っていったいどんな化け物なんだよ」

「いやいや、ここはあんなのがウジャウジャいる。てかさ、あんたらこれからどうするの?   行くところあるわけ?」

「いや、まったくあてがない。俺ら通りすがりの高校生って感じで、ここもまた社会見学の一環としてカリキュラムの中に入ってたらよかったんだけど。そんなわけないか」

「なにさ、カリキュラム?  恐竜の名前か?」

「いや。とにかくなんか食べるものない?  俺らずっと食べてないんだよ」

「あー。じゃ、ついてきなよ。てか、一緒に乗るか?」

  恐竜がラクダみたいに脚を折り、登りやすくしてくれた。ケンジとリカは背中にいくつもある縦長のコブみたいなものの間に座った。

「オレは、ユタカ。母ちゃんが名づけてくれたらしい」

「ユタカくんか。俺はケンジ。この子はリカだよ、よろしくね」

「おー」

「またひょんなことから元の世界に戻れたらいいんだけど」とリカがボソッと喋った。






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