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魔王編
アーガス
しおりを挟む「じゃなに、そのタガを外せばいいいっていうことを言っている?」
「そうだよ。その通り」
「たしかに、そんなに自由になったら誰しもが良からぬことを考えそうだな。物理法則で自由をある程度奪っておかないと世界は大変なことになるだろうなというのは、まあオレにも容易に想像できるな」
「だろ? とにかく、人は空を飛べない、水の上を歩けない、壁を抜けれない、というのは常識だよね。だから、その常識を超えてかないとね」
「それで、崖から飛び降りてみろってことね。まあ、その箍を外せば自由になれるという理屈はなんとなくわかったけど。その箍を外すなんてことマジにできるの?」
「まあ、ふつうに考えて簡単にできるわけないよね、ケンジも知ってるだろ、仙人て?」
「あー、仙人ね。ガリガリに痩せてて、あご髭とか長く伸ばしてる老人というイメージかな」
「なんでも仙人は空を飛べるそうなんだけど、母ちゃんから聞いた話じゃ、松葉の団子を日に一個だけ食べて、さらに量を減らしていき、しまいにはカスミを食うようになるらしい。まあ、ほんとうにカスミを食うかどうかは眉唾ものだけれど、最終的には何も食べないようになるらしい。「松食水飲」という言葉通りで、つまり松の実、松葉をすり潰し松脂で団子にしたのを食べ、あとは水を飲むという生活。これを、何十年もやればさすがにケンジも仙人みたいな神通力を持てるようになるぞ?」
「かんべんしてくれよ、そんなん1週間ももつかよ、しっかり食べながらダイエットする! みたいなのないのかよ? オレは食べたい時に食べたいものを食べたいだけ食べる、そういう主義なんでね」
「なるほど。食いものはダメだとなると、バラモン行者みたく無数の釘が突き出た椅子に座り続けるだとか、逆立ちを一日中やるだとか、水滴を額で受け続けるとか、逆に休みなく食い続けるだとか、横になったまま絶対起き上がってはいけないだとか」
「なんだよそれ。何かを得るために何かを捨てるとか、諦めるとか、我慢しなきゃならないとか、そういうのは昭和的というか、古い考えだとオレは思うんだよね」
「ほうほう。つまり、つらい修行はお気に召さないというわけですか」
「そういうこと」
「ならさ、いい手がある。つらい修行がイヤなんだから、修行をつらいと思わなきゃいいだけの話じゃね?」
「あのなー、ユタカ、わけわかんねー屁理屈こいてんじゃねーぞ」
「まあまあ、落ち着いて。確かにいつモンスターが襲ってくるのかわからないんだから、死ぬか生きるかの場面で修行まだ出来てないからまた次にしてなんて一切通用しないよな」
「そうだろ、早くスキルを身につけてないとヤバいんだよ。だからさ理屈はわかったんだけど、なんとか手っ取り早く念やら魔法やら使えるようになんないかな?」
「なるよ」
「マジかよ!」
「たださ、それはケンジ次第ってことなのな」
「それは、つまり?」
「そう。おまえの覚り方次第なんだ、悟りじゃないぞ、覚りな?」
「よくわかんないけど、覚るまでどんだけかかるか個人差があるって話だろ」
「まあ、そうなるね。だから、まあケンジとりあえず、やってみようか。ダメ元でさ。ウダウダいっててもしょうがない、おまえ魔法使えるようになるんだったら頑張るんじゃなかったっけ?」
「それは、そう。けど、崖から飛び降りるのはイヤ」
「ごめんごめん、まあ、あれは言葉の綾というかさ、例えばの話でケンジに箍を外すことが重要ということを知ってほしかっただけなんだよ」
「そうなの? じゃあ」
とケンジが言い終わらないうちに、何かとてつもないパワーでふたりはその場から5、6メートル吹っ飛んで危うく崖から落ちそうになった。
どうやら洞窟の中から何か黒い影みたいなものが飛び出してきたらしい。そしてそれは、空高く飛翔し飛び去ったのではなく、急旋回すると再び凄まじいスピードでケンジとユタカめがけて急降下してくる。
急いで、ふたりは洞窟の中へと逃げ込もうと走った。しかし、間に合いそうになかった。すると、あわやというところでユタカが何かを繰り出した。
するとゴーッという音と共にまっすぐに黒いやつに向け火球が飛んでいくのと黒い影が木っ端微塵に砕け散るのが同時のように見えた。
「な、なにさ、何やったんだよ、ユタカ?」
「いやいや、俺じゃないよ、攻撃したのはゴールドの鎧と赤マントの戦士アーガス」
「アーガス?」
「見ただろ、ま、俺の守護霊みたいなもんだよ」
「そうなんだ。おまえ、ただテイマーなだけじゃないのな、マジ、リスペクト」
「照れるからやめろよ、俺がすごいわけじゃ全然ないんだからさ」
「でも、守護霊ってことはいつも一緒ってことだろ? なら、ユタカがやってるのと同じようなもんだよ」
「まあ、それはそうなんだけど、ほんとうに危ない時でないと現れてはくれないんだ」
「いいなぁ、つまりは無敵ってことだろ、アーガスだっけ、相当デカかったんですけど?」
「いや、無敵かどうかは?」
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