54 / 73
魔王編
磁石
しおりを挟む「しかし」とケンジ。
「さっきのモンスターはいったいなんだったんだ?」
「わからない。ここはなんでもありの異世界だから。たぶん本人も自分がなんなのかわかってはいないと思うね」
「ミュータントってやつか」
「そう。それも個体がひとつひとつまったく違う、性格は変わらずに元のままだろうけれど、姿形が各々異なっている」
「でもなんで、この洞窟っていうかダンジョンから出てきたんだよ?」とケンジ。
「よくわからないけどね、可能性としては瞬間移動できる何か仕掛けがあるのかもしれない」
「あーだから、ここにいるはずもないモンスターが飛び出してきたってわけか?」
「だね、たぶんそうだと思う。このダンジョンにさっきみたいな見たことない奇妙なモンスターいるはずないんだよ。前にオレここ入ったことあるからさ。いったい誰が何のためにそんな仕掛けだか、仕組みを作ったのかな」
「なるほど、ちゃんとした目的があるということか。じゃ、あのモンスターのほかに誰かいるってことだね、仕掛けを作ったやつが」
「そうだと思う。もしそうではなくてダンジョンの底の方であの湖とつながっているという可能性も考えられなくもないけれど、そうだとしたらわけわからない新種のモンスターの巣窟になっているのかもしれない」
「湖につながってたらダンジョンも水浸しだよ?」
「いや、だから湖のそばの崖まで横穴があるとかだよ」
「うーん。そうなるとだよ、ダンジョンのヒエラルキーっていうの? 勢力図が変わってきていると考えた方がいいよね?」
「そこなんだよな、問題は。そうだとしたら、スキルがないケンジには危険すぎるエリアということになる」
「それを確かめるには、ダンジョンに踏み込むしかないというね、なんとも皮肉なことに」
「そう。まあ、今回は下見だし無理して入る必要もないだろ、帰ろうぜ」
というわけで、とりあえずは当初の目的を果たしたのでふたりは撤退することにした。
ユタカは、手っ取り早く小型のモンスターでも手名付けようと思って、ちょい待っててや、とケンジに言い置いてダンジョンの入り口に向かった。
ドラゴンスライムみたいなやつがいればちょうどいいんだが。空を飛んでくに限るぜと独り言しながら、ダンジョンへと入ろうとした、その刹那、ユタカは立っている土の中へとめり込みそうなくらいに、身体が重くなって立っていられなくなった。
実際、ユタカは磁石で固定されてしまったように倒れたままの格好で、指一本動かせないのだった。
ケンジはユタカに駆けよろうとしたが、すぐにユタカに止められた。
「ケンジ、こっちに来るな!」
見えない敵の攻撃に違いなかった。金縛りになったようにユタカは地面に突っ伏したまま身動きできない。
ケンジはユタカを助けようにも近づくこともできずにジリジリとした気持ちで地面に貼り付けられているユタカを見ていることしか出来ない自分が情けなくて仕方なかった。
ユタカには守護霊のアーガスがついているのだから、アーガスの発動を待つしか手立てはない、そうケンジは思った。
ただ、その頼みの綱であるアーガスが一向に出現しないのだった。ほんとうに危ない時ではないとアーガスは現れないとユタカは言っていた。
しかし、これが絶体絶命じゃなかったら、いったい何が絶体絶命なのか! まだ絶体絶命のレベルに達してないっていうのか?
その時、ケンジの脳裏に夏の日にゆらゆらと揺らめく陽炎を見た記憶がまざまざと蘇った。
今、まさにその時見た陽炎みたいな揺らめきがユタカの体全体を覆い尽くし、揺らめく炎のように揺らめいていたからだ。
強力な磁場が発生しているんだとケンジは理解した。とんでもないモンスターだ、磁石の化け物なのだろうか。磁石と何か動物が一体化したみたいな?
ケンジはそのフォルムを想像できなかったが、やがてソイツは現れるだろうと思った。
蜘蛛が自分の周りに張り巡らせた蜘蛛の糸のネットにまんまと引っかかり雁字搦めになって身動き出来ない獲物を捕食する時のように、敵はもうすでに余裕のよっちゃんなのだ。
蜘蛛の糸のネットに捕らえられたら最後、足掻けば足掻くほど糸は絡み付くばかりなのだ。
羽虫やら蝶やらに絡みついた粘着質の蜘蛛の糸は解けるわけもなく、ただあとはもう諦めて捕食される、その時を待つしかないのだった。
ユタカもこのままでは食われてしまう。アーガスはどうした? アーガスはいったいいつ現われるんだ! これが絶体絶命じゃないというのか!
ケンジは腹が立って仕方なかったが、アーガスが発動しない理由があるのかもしれないと考え直した。
つまり、その可能性大なのは、アーガスにもやはり弱点があり、それが磁石だったとか?
そのケースならば、アーガスが出現したくても出現できないということになる。たまたま、アーガスの弱点を突くモンスターが現われるなんて、タイミングが悪すぎだが、そんなこともあるのかもしれない。そういうことならば、アーガスが発動したくても発動できないことは理解できる。
となると、アーガスもユタカと同じように地面に貼り付いたままなのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる