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メルカリ編
アキヒロ
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精密板金の仕事をやりはじめてから、半年ほど経った頃、新人さんが入ってきた。
四苦八苦しながらもタロウはなんとか仕事を覚え、やり甲斐を感じられるまでには多少余裕が出てきた。
ただしかし、おっちょこちょいとまでは言わないが、かなり衝動的なところがあって、確認を怠ることがよくあった。
なので担当のレーザーカットマシンのエマージェンシーランプを何度となく点滅させていた。
マシンは、手元の操作盤にある座標にレーザー照射の起点をXYで先ず入力するのだが、タロウはとんでもない座標位置を指定しまい、消防車のサイレンのような警告音が鳴るエマージェンシーを発動させてしまうのだった。
新人はアキヒロというやつだったが、歳が近いこともあり、すぐに打ち解けて話すようになり仲良くなった。
アキヒロは、若いのに前職ではゲーセンの店長をやっていたということで、タロウは感心したのだが、やはり仕事柄お客さんはヨッパやら矢印の人やら柄の悪い人が多く、トラブルがなくならないらしく、そういったことに嫌気がさしてやめたらしい。
アキヒロは、タロウが担当するどデカいレーザーカットマシンのすぐ隣りでスタッド溶接をやっていた。
スタッド溶接とは、スタッドと呼ばれるボルトやナットを金属板に瞬時に溶接するもので、スタッド材と母材との間に電流を流すことで生じるアーク放電によりスタッドと母材を瞬時に接合する
なのでアキヒロのスタッド溶接のバチバチという放電する音がタロウの後ろからいつも聞こえていた。
タロウの受け持つマシンはさらに音が大きく、まさにインダストリアルノイズそのものだった。
ある日のこと、3時の休憩のときアキヒロに超能力とかに興味あるかと聞かれたタロウは、無論あると答えた。
するとアキヒロは、ニヤリと笑い、じゃあさ、ちょっとバイト的なことしてみないかと言うのだった。
そして、工場が休みの日にタロウはある場所に連れて行かれた。
そこは、五反田にあるなんのことはないただのマンションの一室に過ぎなかったが、そこでタロウは驚愕すべきことに遭遇する。
そこではなんと『物品引寄せ』というありえないことをやっている超能力者がいたのだ。
そいつはヴェッキオ先生と呼ばれていて、互いに自己紹介した後で、とりあえず見てもらおうと先生はいって、別室に移動するや一畳だけ敷いてある畳の上に端座瞑目した。
タロウは、その先生の正面にあるソファに座っていったいこれから何が起こるのかと固唾を呑んでヴェッキオ先生の一挙手一投足を見ていた。
すると、なにやら不思議なことが起こった。
タロウの眼前でヴェッキオ先生は5センチほど畳から浮かび上がると、ゆらゆらと揺れはじめるのだった。
やがて、音もなく静かに揺れていたヴェッキオはゆっくりと畳に着地すると、目を開けた。
そして、こともなげにこんなセリフを吐いた。
「ほら、どうです?」
いや、ほらどうですと急に言われてもと言葉に詰まってしまうタロウだったが、
「いや、アナタの横に置きましたよ?」
「はい?」とタロウは素っ頓狂に答えたが、なにげに横を見て、飛び退きそうになった。
それは、バイセクシャルなタロウの推しメンである誰もが知るグループのセンターの裏の世界で作られた、つまり著作権侵害の等身大抱き枕
だったのだ。
というのも、タロウはついさっきまでその法律違反の非正規品をネットで買おうかと軽く悩んでいたのだった。
出始めの頃は、たいした値段ではなかったが、昨今当局の取締も一段と厳しくなり、あの感染症後からジワジワと価格が上がりはじめて、いまではとんでもない値段になっていた。
目を剥いて驚きつつ、
「な、なんでコレが!」とタロウ。
「おわかりでしょ、だいぶご執心のようでしたから」
「いや、それはそうなんですが、なんでまた、さっきまでここには何もありませんでしたよね」
ヴェッキオ先生は、ニンマリと顔を綻ばせる。
立って見ていたアキヒロが説明しだした。
「つまりさ、これがヴェッキオ先生の能力なんだよ」
「能力? Amazonから急遽取り寄せたのか?」
「いや、Rakutenから。というのは冗談。先生が霊界から引き寄せたんだよ」
「はあ???」
「ま、驚かない方がおかしいよな、俺も最初は信じられなかったさ、むろん」
「じゃなに、あの先生、オレの頭の中を覗き込んで何を考えているか知った上で、霊界とやらから、てかそれ、クラウドっことか? はやりのメタバース?」
「いやいや、それデジタルの画像とかじゃないだろ、抱いてみろや」
そう言われてタロウは、倒れるようにして推しメンの抱き枕を抱いて脚を絡ませた。たしかにこれは3Dホログラムなどではない。
推しメンのいい匂いすらするようだった。推しメンのいい匂いを嗅いだことがないので知らないのだが。
まざまざと奇跡を見せつけられたタロウは、マンションからの帰り道で、アキヒロからバイトの具体的な内容を聞いた。
まあ、タロウとしては、金ほしさのために世の中の人を、それも弱者をいたぶり、なんとも思わない詐欺やら強盗の闇バイト系の話なら速攻で断るつもりだったが、霊界など存在しないというのが常識なのだから、その存在しない霊界とやらからなら誰にも迷惑はかからないわけだし、やる気になった。
そして、タロウはヴェッキオ先生の『物品引き寄せ』の能力を用いて引き寄せたものをメルカリやらebayなんかにアップする仕事を任されたのだった。
四苦八苦しながらもタロウはなんとか仕事を覚え、やり甲斐を感じられるまでには多少余裕が出てきた。
ただしかし、おっちょこちょいとまでは言わないが、かなり衝動的なところがあって、確認を怠ることがよくあった。
なので担当のレーザーカットマシンのエマージェンシーランプを何度となく点滅させていた。
マシンは、手元の操作盤にある座標にレーザー照射の起点をXYで先ず入力するのだが、タロウはとんでもない座標位置を指定しまい、消防車のサイレンのような警告音が鳴るエマージェンシーを発動させてしまうのだった。
新人はアキヒロというやつだったが、歳が近いこともあり、すぐに打ち解けて話すようになり仲良くなった。
アキヒロは、若いのに前職ではゲーセンの店長をやっていたということで、タロウは感心したのだが、やはり仕事柄お客さんはヨッパやら矢印の人やら柄の悪い人が多く、トラブルがなくならないらしく、そういったことに嫌気がさしてやめたらしい。
アキヒロは、タロウが担当するどデカいレーザーカットマシンのすぐ隣りでスタッド溶接をやっていた。
スタッド溶接とは、スタッドと呼ばれるボルトやナットを金属板に瞬時に溶接するもので、スタッド材と母材との間に電流を流すことで生じるアーク放電によりスタッドと母材を瞬時に接合する
なのでアキヒロのスタッド溶接のバチバチという放電する音がタロウの後ろからいつも聞こえていた。
タロウの受け持つマシンはさらに音が大きく、まさにインダストリアルノイズそのものだった。
ある日のこと、3時の休憩のときアキヒロに超能力とかに興味あるかと聞かれたタロウは、無論あると答えた。
するとアキヒロは、ニヤリと笑い、じゃあさ、ちょっとバイト的なことしてみないかと言うのだった。
そして、工場が休みの日にタロウはある場所に連れて行かれた。
そこは、五反田にあるなんのことはないただのマンションの一室に過ぎなかったが、そこでタロウは驚愕すべきことに遭遇する。
そこではなんと『物品引寄せ』というありえないことをやっている超能力者がいたのだ。
そいつはヴェッキオ先生と呼ばれていて、互いに自己紹介した後で、とりあえず見てもらおうと先生はいって、別室に移動するや一畳だけ敷いてある畳の上に端座瞑目した。
タロウは、その先生の正面にあるソファに座っていったいこれから何が起こるのかと固唾を呑んでヴェッキオ先生の一挙手一投足を見ていた。
すると、なにやら不思議なことが起こった。
タロウの眼前でヴェッキオ先生は5センチほど畳から浮かび上がると、ゆらゆらと揺れはじめるのだった。
やがて、音もなく静かに揺れていたヴェッキオはゆっくりと畳に着地すると、目を開けた。
そして、こともなげにこんなセリフを吐いた。
「ほら、どうです?」
いや、ほらどうですと急に言われてもと言葉に詰まってしまうタロウだったが、
「いや、アナタの横に置きましたよ?」
「はい?」とタロウは素っ頓狂に答えたが、なにげに横を見て、飛び退きそうになった。
それは、バイセクシャルなタロウの推しメンである誰もが知るグループのセンターの裏の世界で作られた、つまり著作権侵害の等身大抱き枕
だったのだ。
というのも、タロウはついさっきまでその法律違反の非正規品をネットで買おうかと軽く悩んでいたのだった。
出始めの頃は、たいした値段ではなかったが、昨今当局の取締も一段と厳しくなり、あの感染症後からジワジワと価格が上がりはじめて、いまではとんでもない値段になっていた。
目を剥いて驚きつつ、
「な、なんでコレが!」とタロウ。
「おわかりでしょ、だいぶご執心のようでしたから」
「いや、それはそうなんですが、なんでまた、さっきまでここには何もありませんでしたよね」
ヴェッキオ先生は、ニンマリと顔を綻ばせる。
立って見ていたアキヒロが説明しだした。
「つまりさ、これがヴェッキオ先生の能力なんだよ」
「能力? Amazonから急遽取り寄せたのか?」
「いや、Rakutenから。というのは冗談。先生が霊界から引き寄せたんだよ」
「はあ???」
「ま、驚かない方がおかしいよな、俺も最初は信じられなかったさ、むろん」
「じゃなに、あの先生、オレの頭の中を覗き込んで何を考えているか知った上で、霊界とやらから、てかそれ、クラウドっことか? はやりのメタバース?」
「いやいや、それデジタルの画像とかじゃないだろ、抱いてみろや」
そう言われてタロウは、倒れるようにして推しメンの抱き枕を抱いて脚を絡ませた。たしかにこれは3Dホログラムなどではない。
推しメンのいい匂いすらするようだった。推しメンのいい匂いを嗅いだことがないので知らないのだが。
まざまざと奇跡を見せつけられたタロウは、マンションからの帰り道で、アキヒロからバイトの具体的な内容を聞いた。
まあ、タロウとしては、金ほしさのために世の中の人を、それも弱者をいたぶり、なんとも思わない詐欺やら強盗の闇バイト系の話なら速攻で断るつもりだったが、霊界など存在しないというのが常識なのだから、その存在しない霊界とやらからなら誰にも迷惑はかからないわけだし、やる気になった。
そして、タロウはヴェッキオ先生の『物品引き寄せ』の能力を用いて引き寄せたものをメルカリやらebayなんかにアップする仕事を任されたのだった。
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