108 / 222
#108 ヒトガタ
しおりを挟む
*月*日
ある日、玄関のところで青竹踏みしていると、愛と熱とミョウバンで出来ている人型が、はしごを上ってきて、少年を喰いにきたといった。
四郎ダロワイヨは、人型のことはほっといて、青竹をしまうと、アディダスのトラックジャケットをはおり、ジョギングに出かけた。
ジョギングなんてやったこともなかったのにもかかわらずにだ。走りながら、なぜまた走っているのか自分でも気になった。
それに、あの人型が、なぜまた愛と熱とミョウバンで出来ているなんてわかったのだろうか。
まあ、そういったものだけに限らず、人生とはわからないことばかりなのだ。
バス道路からわき道にそれ、公園をめざして走った。公園にはフィールドアスレチックがあって、土日ともなると親子連れでけっこう賑わっていた。
きょうは、三連休のど真ん中で、天気も上々だから、子供たちの元気な声が公園に入る前から四郎の耳にも聞こえてきたほどだった。
四郎は、根性で長い橋を渡りきり、公園へと入っていった。
橋といえば先月、日本へ帰国する前々日にタロウは、再びサンフランシスコへ戻り二泊したが、その際、ホテルのコンシェルジュにゴールデンゲートブリッジは、歩いて行ける距離だということを聞いていた。
そして、翌日、ポテトとバゲットが付いたボリューム満点なオムレツのランチを食べてから、四郎は、橋に向かった。
憧れの全長二千七百三十七メートルにも及ぶこの吊り橋は、suicideの名所でもあるという。
ゆうべ、ホテルで[SF Gate:Suicide by location]というページを見て四郎は、愕然とした。こんな分布図がなんの役に立つというのだろうか。抑止どころか逆効果ではないのか。
Golden Gate Bridge is the most popular suicide location in the world!! という悲しい文句を、一日も早く返上してほしいと四郎は思った。
公園に入ると子供たちの楽しげな声のする方へと四郎は走った。
そして、アスレチック用に掘られた池に落ちて全身ずぶ濡れになっている親子を見た。
着替えを持ってないということなのに、お花見でのヨッパの大学生のような後先考えないそのノリ。
子連れの三十歳前後の女性だったけれど、近くのドンキにでもいって下着やらズボンやらを買うつもりなのだろうか。
だが、そんな人の心配をしている余裕など四郎にはないことに気づいた。
人型が、ぴたりと後をつけてきていた。
人型は、タロウの影の真似をして足から地面へと平らに伸びている。少年を喰いにきたと人型はいっていたが、もう四郎の影は、喰らってしまったらしい。
ほんとうの自分の影を失ってしまった四郎は、急に覇気がなくなり、ヒッチハイクしたくなって、親指を立てた。
が、停まってくれたのは、なんのことはないただの個人タクシー。
タロウは、タクシー独特の匂いを嗅ぎながら、首都高にのって赤坂に向かってくださいとだけ告げる。
あの『惑星ソラリス』の撮影のロケーションとして使われた千九百七十年前後の赤坂周辺の首都高の風景を想い出しながら、現在の首都高と頭のなかで重ね合わせてみたかったのだ。
ローバート・ジョンソンが四辻で悪魔と取引したといわれているように、人型と取引してみようかな、などと四郎は考える。
果たして人型は、魂とひきかえに何を要求してくるのだろうか。すると四郎には、首都高がソラリスでなく、ゴールデンゲートブリッジに見えてくるのだった。
ある日、玄関のところで青竹踏みしていると、愛と熱とミョウバンで出来ている人型が、はしごを上ってきて、少年を喰いにきたといった。
四郎ダロワイヨは、人型のことはほっといて、青竹をしまうと、アディダスのトラックジャケットをはおり、ジョギングに出かけた。
ジョギングなんてやったこともなかったのにもかかわらずにだ。走りながら、なぜまた走っているのか自分でも気になった。
それに、あの人型が、なぜまた愛と熱とミョウバンで出来ているなんてわかったのだろうか。
まあ、そういったものだけに限らず、人生とはわからないことばかりなのだ。
バス道路からわき道にそれ、公園をめざして走った。公園にはフィールドアスレチックがあって、土日ともなると親子連れでけっこう賑わっていた。
きょうは、三連休のど真ん中で、天気も上々だから、子供たちの元気な声が公園に入る前から四郎の耳にも聞こえてきたほどだった。
四郎は、根性で長い橋を渡りきり、公園へと入っていった。
橋といえば先月、日本へ帰国する前々日にタロウは、再びサンフランシスコへ戻り二泊したが、その際、ホテルのコンシェルジュにゴールデンゲートブリッジは、歩いて行ける距離だということを聞いていた。
そして、翌日、ポテトとバゲットが付いたボリューム満点なオムレツのランチを食べてから、四郎は、橋に向かった。
憧れの全長二千七百三十七メートルにも及ぶこの吊り橋は、suicideの名所でもあるという。
ゆうべ、ホテルで[SF Gate:Suicide by location]というページを見て四郎は、愕然とした。こんな分布図がなんの役に立つというのだろうか。抑止どころか逆効果ではないのか。
Golden Gate Bridge is the most popular suicide location in the world!! という悲しい文句を、一日も早く返上してほしいと四郎は思った。
公園に入ると子供たちの楽しげな声のする方へと四郎は走った。
そして、アスレチック用に掘られた池に落ちて全身ずぶ濡れになっている親子を見た。
着替えを持ってないということなのに、お花見でのヨッパの大学生のような後先考えないそのノリ。
子連れの三十歳前後の女性だったけれど、近くのドンキにでもいって下着やらズボンやらを買うつもりなのだろうか。
だが、そんな人の心配をしている余裕など四郎にはないことに気づいた。
人型が、ぴたりと後をつけてきていた。
人型は、タロウの影の真似をして足から地面へと平らに伸びている。少年を喰いにきたと人型はいっていたが、もう四郎の影は、喰らってしまったらしい。
ほんとうの自分の影を失ってしまった四郎は、急に覇気がなくなり、ヒッチハイクしたくなって、親指を立てた。
が、停まってくれたのは、なんのことはないただの個人タクシー。
タロウは、タクシー独特の匂いを嗅ぎながら、首都高にのって赤坂に向かってくださいとだけ告げる。
あの『惑星ソラリス』の撮影のロケーションとして使われた千九百七十年前後の赤坂周辺の首都高の風景を想い出しながら、現在の首都高と頭のなかで重ね合わせてみたかったのだ。
ローバート・ジョンソンが四辻で悪魔と取引したといわれているように、人型と取引してみようかな、などと四郎は考える。
果たして人型は、魂とひきかえに何を要求してくるのだろうか。すると四郎には、首都高がソラリスでなく、ゴールデンゲートブリッジに見えてくるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる