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#180 まいやん
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オレはその日、気合いを入れてあの伝説のロックバンドKISSみたいな25cmは高くなる厚底のスニーカーを履いて出かけた。
気分は、もうポール・スタンレー。いや、冗談じゃなく、25センチも高くなるとまるで世界を睥睨しているようで、自分じゃないみたいだった。
待ち合わせ場所は、トー横はやめて歌舞伎町タワーが望める某コンビニにした。
歌舞伎町タワーの展望台から眺める夜景が素晴らしいと聞いた俺は、今日もしうまくいったなら、夜景を観にいくつもりでいた。
というわけで、俺は威風堂々、向かう所敵なしといった、まったく根拠のない全能感に包まれながら、新宿東口の改札を出た。
マッチングアプリで知り合った彼女との話題作りのため舌は、青青としている。
朝から舌が青くなるガムをしこたま噛んでいるからだ。
マジに未成年だったらヤバいよなと思わないでもなかった。
だが、そんな心配は杞憂に終わった。
彼女は経歴も年齢も詐称、顔写真は若い頃のスナップだった。
まあ、百歩譲って白石麻衣を思いっきりフケさせて45kgくらい太らせたら或いは似ていなくもなかった。
実年齢は50歳前後といったところか、でも贅沢など言っていられるわけもない。
俺は自称麻衣やんと付き合うことにした。
映画はもちろんカラオケや、動物園、植物園、ディズニー、東京スカイツリー、プラネタリウムなんかのデートを重ねてから、交際するにあたり、俺が母親みたいな年齢の彼女に約束してもらったことは
・マッチングアプリはもうやらないこと
・若作りをやめること
・安い香水はやめて、ハリー・ウィンストンやらブルガリのバッタもんも、絶対身につけないこと
だった。
彼女のマッチングアプリへの依存は相当なもので、どうやらその根本にあるのは、異常なほどの孤独感ではないかと俺は考えた。
真剣に結婚を考えている独身者と、ただ遊びだけで女性を物色している、或いは結婚詐欺等が、マッチングアプリの主なユーザーだと思うが、どのタイプのユーザーも彼女には危険だった。
とりあえず、自分と交際しはじめたのだから、真剣交際を望んでいる真面目な人との接触は御法度だろう、不誠実だ。
ヤリモクの輩や、詐欺師に至っては言語道断だ。
兎にも角にも何度もやるなと注意しているけれど、彼女は息をするように自然にアプリを開いてしまう。
個人が自由に取捨選択できるスマホのアプリケーションに対して云々するのは大人げないし、そこまで束縛していいものなのかとは思うけれど、彼女は度を超していた。
そこで、自分が見ている目の前で、アプリ自体をデリートさせるのだが、いつの間にか、またダウンロードされているのだった。
だから、彼女は病気なのだ、アルコール中毒みたいにマッチングアプリに完全に依存しているのだった。
アプリを開いて眺めているだけで、孤独感が癒やされるのだと彼女はいった。
まあ、考えようによっては、孤独に苛まれ、オーバードーズして生死を彷徨う、なんてことよりは、よっぽどいいのかもしれない。
若作りに関しては、結構実年齢よりは若く見えるにしても、ツインテールはきついかなと思う。
ファッションも、地雷系だかゴスロリだか知らないけれど、アイラッシュレースのヘアバンド、ハートのアイコンが付いた革チョーカー、レースフリルブラウスに黒基調のミニスカートやら、セーラー的なレースフリルワンピ、推しメンの缶バッジをずらりと並べた痛バなどなど、とても一緒に歩けたシロモノではなかった。
しかし、本人のファッションを頭ごなしに否定し、一緒に歩くのを拒否る、というのも大人げないと思い直した。
ファッションは、自己表現なのだし、それを否定してしまうことは、その人自身を否定することにもなりかねない。
香水やらオーデコロンに関しては、はじめて会った頃は、安い化粧の匂いがたまらなかったし、どこで手に入れたのか、偽物のブランド品をゴテゴテ身につけていた。
いまでも、あのムッとするような化粧の匂いが鼻腔にふと甦ることがある。
結局、母親みたいな彼女とは、長くは続かなかった、みたいなことには絶対したくない、そう思っていた。
だが、誰にも人生は思い通りにはならない。
もしかしたら彼女は、こっそりとマッチングアプリをまたはじめたのかもしれない。
ある日突然、一緒に生活していた部屋から彼女が連れてきたアメショのレオと共に音もなく消えてしまった。
自分は、彼女をそんなに束縛していただろうか、あるいは、彼女はそれほど年の差を負担に感じ、苦しんでいたのだろうか。
虚々実々、わからないことだらけだった。
そして。
あれから、3年が経った。
自分でも不思議で仕方ないが、ある地下アイドルのスキャンダルがきっかけとなり、某アイドルグループに興味を持った。
子どもの頃から、ピアノをやっていて中学生でロックにハマり、大学からジャズをやりはじめた、そんな自分は、いわゆる歌謡曲やjpopには一切興味がなかった。
そんな自分がアイドルに興味を覚えるなんてありえないと思っていた。
地下アイドルの現場でヲタ芸する自分を、3年前に想像できるはずもなかった。
ほんとうに人生は、わからないものだ。
そんな、推しメンを応援する充実した日々のなか、あるとき、対バンのメンバー推しのおっちゃんが、チェキ会で推しメンから結婚の確約を貰ったとうれしそうに話していた。
痛々しすぎて愛おしくすらあったが、気づいたら自分もまったくおっちゃんと同様であり、存在自体が痛かった。
しかし、勘違いしていないと生きるモチベを見失ってしまう。
いつの日にか会えると信じていたかった。
人生は糾える縄の如しで、いろいろあるけれど、捨てたものでもない。いつかきっと愛する人と出会う奇跡が起こるよ。
アイドルグループのそんな歌を思い出した。
気分は、もうポール・スタンレー。いや、冗談じゃなく、25センチも高くなるとまるで世界を睥睨しているようで、自分じゃないみたいだった。
待ち合わせ場所は、トー横はやめて歌舞伎町タワーが望める某コンビニにした。
歌舞伎町タワーの展望台から眺める夜景が素晴らしいと聞いた俺は、今日もしうまくいったなら、夜景を観にいくつもりでいた。
というわけで、俺は威風堂々、向かう所敵なしといった、まったく根拠のない全能感に包まれながら、新宿東口の改札を出た。
マッチングアプリで知り合った彼女との話題作りのため舌は、青青としている。
朝から舌が青くなるガムをしこたま噛んでいるからだ。
マジに未成年だったらヤバいよなと思わないでもなかった。
だが、そんな心配は杞憂に終わった。
彼女は経歴も年齢も詐称、顔写真は若い頃のスナップだった。
まあ、百歩譲って白石麻衣を思いっきりフケさせて45kgくらい太らせたら或いは似ていなくもなかった。
実年齢は50歳前後といったところか、でも贅沢など言っていられるわけもない。
俺は自称麻衣やんと付き合うことにした。
映画はもちろんカラオケや、動物園、植物園、ディズニー、東京スカイツリー、プラネタリウムなんかのデートを重ねてから、交際するにあたり、俺が母親みたいな年齢の彼女に約束してもらったことは
・マッチングアプリはもうやらないこと
・若作りをやめること
・安い香水はやめて、ハリー・ウィンストンやらブルガリのバッタもんも、絶対身につけないこと
だった。
彼女のマッチングアプリへの依存は相当なもので、どうやらその根本にあるのは、異常なほどの孤独感ではないかと俺は考えた。
真剣に結婚を考えている独身者と、ただ遊びだけで女性を物色している、或いは結婚詐欺等が、マッチングアプリの主なユーザーだと思うが、どのタイプのユーザーも彼女には危険だった。
とりあえず、自分と交際しはじめたのだから、真剣交際を望んでいる真面目な人との接触は御法度だろう、不誠実だ。
ヤリモクの輩や、詐欺師に至っては言語道断だ。
兎にも角にも何度もやるなと注意しているけれど、彼女は息をするように自然にアプリを開いてしまう。
個人が自由に取捨選択できるスマホのアプリケーションに対して云々するのは大人げないし、そこまで束縛していいものなのかとは思うけれど、彼女は度を超していた。
そこで、自分が見ている目の前で、アプリ自体をデリートさせるのだが、いつの間にか、またダウンロードされているのだった。
だから、彼女は病気なのだ、アルコール中毒みたいにマッチングアプリに完全に依存しているのだった。
アプリを開いて眺めているだけで、孤独感が癒やされるのだと彼女はいった。
まあ、考えようによっては、孤独に苛まれ、オーバードーズして生死を彷徨う、なんてことよりは、よっぽどいいのかもしれない。
若作りに関しては、結構実年齢よりは若く見えるにしても、ツインテールはきついかなと思う。
ファッションも、地雷系だかゴスロリだか知らないけれど、アイラッシュレースのヘアバンド、ハートのアイコンが付いた革チョーカー、レースフリルブラウスに黒基調のミニスカートやら、セーラー的なレースフリルワンピ、推しメンの缶バッジをずらりと並べた痛バなどなど、とても一緒に歩けたシロモノではなかった。
しかし、本人のファッションを頭ごなしに否定し、一緒に歩くのを拒否る、というのも大人げないと思い直した。
ファッションは、自己表現なのだし、それを否定してしまうことは、その人自身を否定することにもなりかねない。
香水やらオーデコロンに関しては、はじめて会った頃は、安い化粧の匂いがたまらなかったし、どこで手に入れたのか、偽物のブランド品をゴテゴテ身につけていた。
いまでも、あのムッとするような化粧の匂いが鼻腔にふと甦ることがある。
結局、母親みたいな彼女とは、長くは続かなかった、みたいなことには絶対したくない、そう思っていた。
だが、誰にも人生は思い通りにはならない。
もしかしたら彼女は、こっそりとマッチングアプリをまたはじめたのかもしれない。
ある日突然、一緒に生活していた部屋から彼女が連れてきたアメショのレオと共に音もなく消えてしまった。
自分は、彼女をそんなに束縛していただろうか、あるいは、彼女はそれほど年の差を負担に感じ、苦しんでいたのだろうか。
虚々実々、わからないことだらけだった。
そして。
あれから、3年が経った。
自分でも不思議で仕方ないが、ある地下アイドルのスキャンダルがきっかけとなり、某アイドルグループに興味を持った。
子どもの頃から、ピアノをやっていて中学生でロックにハマり、大学からジャズをやりはじめた、そんな自分は、いわゆる歌謡曲やjpopには一切興味がなかった。
そんな自分がアイドルに興味を覚えるなんてありえないと思っていた。
地下アイドルの現場でヲタ芸する自分を、3年前に想像できるはずもなかった。
ほんとうに人生は、わからないものだ。
そんな、推しメンを応援する充実した日々のなか、あるとき、対バンのメンバー推しのおっちゃんが、チェキ会で推しメンから結婚の確約を貰ったとうれしそうに話していた。
痛々しすぎて愛おしくすらあったが、気づいたら自分もまったくおっちゃんと同様であり、存在自体が痛かった。
しかし、勘違いしていないと生きるモチベを見失ってしまう。
いつの日にか会えると信じていたかった。
人生は糾える縄の如しで、いろいろあるけれど、捨てたものでもない。いつかきっと愛する人と出会う奇跡が起こるよ。
アイドルグループのそんな歌を思い出した。
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