正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第一章 呪われし者

水と油

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 時刻は午後の一刻を回ろうかという頃。
 
 エフェルローンとルイーズは、軽い昼食を済ますと、王城の敷地内にある魔術師団・団舎内の憲兵庁に足を運んでいた。
 理由は、憲兵長官から新たな任務を直接拝命する為であったが、エフェルローンとしては、出来る限り書面でのやり取りで済ませたい、というのが本音であった。

(イライアス・フォン・キースリー。憲兵庁の長官、か……)

 長官室に近づくにつれ、エフェルローンの表情は硬く、その口数も明らかに少なくなっていく。

「伯爵、なんか顔色が悪く見えるんですけど。大丈夫ですか?」

 異変に気付いたルイーズが、心配そうな面持ちでエフェルローンの顔を控えめに伺う。
 だが、エフェルローンはそんなルイーズの気遣いもよそに、イライラと舌打ちすると、「構うな」とばかりに眉間にしわを寄せ、そっぽを向いた。
 
 そんな不機嫌極まりないエフェルローンに。

 ルイーズはというと、文句の代わりに目を眇め、何かを推測するようにこう言った。

「ははーん、ひょっとして伯爵、長官のこと……嫌いなんじゃないですか? もしくは苦手とか……?」

 茶化すようなルイーズの口調に。
 エフェルローンはキッと、鋭い眼光を飛ばす。

 さすがにやり過ぎたと思ったのだろう。
 ルイーズはバツが悪そうに口元を引きつらせると、申し訳なさそうにこう言った。

「ご……めん、なさい……」

 そう言ってしょんぼりと肩を落とすルイーズを呆れたように見上げると。
 フェルローンは大きなため息をひとつ吐き、苦々しい口調でこう言った。

「キースリー……いや、長官は、俺の大学時代の同期でね。憲兵隊に所属してからは、魔法の技術や出世のスピードを競う好敵手ライバル同士だったんだけど……君も見ての通り、俺は任務の失敗でこのざま。一方、奴はというと、アルカサールのエース級魔術師としての立場を確立し、好きでもない貴族の女性を妻にして、平民から貴族にまで成り上がった。しかも、性格は嫉妬深くて粘着質で陰険で、おまけにサディスティックときてる。大学で出会った瞬間から全くそりが合わなくてさ、いつも衝突してた。あー、思い出すだけでムカムカする」

 そう言って深いため息を吐くエフェルローンに、ルイーズは気の毒そうにこう言った。

「伯爵もですけど、長官もかなり気位高いんですね。きっとお互い、自分を保つためにはけなし合うしかなかったんでしょうね。あ、それって同族嫌悪……?」

そう言って、一人納得するルイーズをムッとした表情で見上げると。
エフェルローンは、イライラと頭を掻きむしりながらこう言った。

「あー、うるさい、うるさい! 分かったような口をきくな」

 腹立たし気にそうがなるエフェルローンを半ば無視し、ルイーズはふと立ち止まる。
 そして、先導するエフェルローンの肩をむんずと掴むと、慌てたようにこう言った。
 
「伯爵、ちょっとまって!」

 いきなり、しかも女性にがっちりと肩を掴まれたエフェルローンは、その反動で後ろに仰け反る。

「うっ」

 危うく尻もちを付きそうになったエフェルローンは、ゆっくりと振り返ると、恨みがましく斜め下からルイーズを睨みつけた。

「君さ、俺になんか恨みでもあるわけ……?」
 
 小さな体から漂う異様な殺気。
 ルイーズは、困ったように眉を顰めると、右手の人差し指で頬をかきかきこう言った。

「長官室、ここです」
「あ」

 そう言って見上げた視線の先には、見慣れた両開きのドア。
 その戸口の上の壁に、[長官室]と書かれたプレートが無造作に張り付けられている。

「……ちっ」 

 ばつが悪そうにそう舌打ちすると。
 エフェルローンは気持ちを切り替えるためか、咳ばらいをひとつする。

 そしてもう一度、[長官室]の文字を見上げる。

「…………」

 それから、エフェルローンは大きく息を吸い込むと、意を決したようにドアをノックするのであった。
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