正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第三章 生きることの罪

神の愛と人の愛

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「ありがとうございます。では早速、短刀ダガーを抜きますね」

 そう言うと、タッシャーは細い短刀ダガーを握り締めると、そろりそろりと引き抜いた。
 と同時に、鋭い痛みが肩全体に走り、エフェルローンは苦痛に顔を歪める。
 だが、直ぐに何か暖かなものが体内に注ぎ込まれ、それが体全体に征き巡り始めると、フェルローンの口から自然とホッとしたようなため息がひとつ漏れた。
 それから次第に、体の中の気が充溢していき、力も少しずつみなぎっていくのが分かる。

「これが、癒しの力――」

 そう驚きを隠せないエフェルローンに、少年神官はクスリと笑うとこう言った。

「神の愛は元々、人々に平等なものです。貴方にも、そこに倒れている賊にもね。ですが、それがいつしか人間の欲によってねじ曲げられてしまって。気が付けば、教会は表向き、『愛と平等』を掲げてはいますが、実際、金持ちや権力を持つ者にとっての特権と成り果ててしまいました。だから僕は、神からこの力を授かった者として、そんな不平等な律法には従いたくはないんです。この力は、貧しい人や平民にこそ与えられるべきなのです。まあ、そう言うと、そこにいるクライブ神父に「背教です」って、いつも怒られてしまうのですけどね……」

そう言って苦笑するタッシャーに、エフェルローンは思いがけず感心してしまう。

(この神父、俺より十歳は若いはずだ。それなのに、自らの地位の危険も顧みず、自分の信念を貫き通すなんて。それと比べて今の俺ときたら、正義を貫くどころか世の中の流れに身を任せるだけで……ほんと、何やってるんだろうな、俺)

 心の中で、そう唇を噛むエフェルローンを尻目に。
 タッシャーは、しゃべり過ぎたとばかりに苦笑すると、首を竦めつつこう言った。

「ああ、おしゃべりが過ぎてしまいした、すみません。さ、傷口は綺麗に塞がりましたよ。どうです、体の具合と気分の方は」

 そう言って、伺うように尋ねてくるタッシャーに。
 エフェルローンは傷を負った肩を恐る恐る回しながらこう言った。

「ええ、うん……大丈夫そうです。怪我をする前の……いえ、それよりも良くなった感じがします」

 そういって、両肩を上下に動かすエフェルローン。
 そんなエフェルローンを心底嬉しそうに見つめながら。
 タッシャーは、満足げにこう言った。

「それなら良かった。でも、この後もあまり無茶はしないようにして下さいね。では、私はこの辺で。またいつか会えることを願っています。それでは、『貴方の上に神の平和と祝福がありますように』……」

 そう言って、ゆっくりと去っていく少年神父の背中から目を離すと。
 ダニーが、エフェルローンの背中の傷を見つめてこう言った。
 
「凄い……傷口なんてどこにも見当たりませんよ」
「あの小さな神父様、ずっと傷を受けて倒れた市民とか兵士とか賊を癒して回っているみたいです」

 ルイーズがそう言って、尊敬のまなざしで青年神父を見つめる。
 ユーイングも、神父の使う摩訶不思議な業に感心したようにこう言った。

「まさに、神秘というやつだな。あーあ、神父がごろごろ戦場にいてくれたら助かるのになぁ」
「教会は戦争には参加しないというのが教義ですから、それは無理でしょうね」

 ダニーが、苦笑しつつそう言う。
 そんなダニーの答えに「だよなぁー」と言ってため息を吐くと。
 ユーイングは辺りをざっと見回てこう言った。

「お、少し賊の数が引けてきたみたいだな」

 そうして、腰の長剣を抜き払うと、それを首の後ろに担いでこう言った。

「今日は、トレーニングらしいトレーニングもまだ出来ていないし、体が鈍るのもよくないしなぁ。少し動くか……」

 そう言って、軽く舌なめずりするユーイングに。
 気力体力とも充実したエフェルローンも珍しく肩を回しながらこう言った。

「ダニー、ルイーズ。アダムのことは頼む。俺は、ちょっと賊を片付けてくる」
「良いですけど。先輩、体の方は大丈夫なんですか」
 
 ダニーが、心配そうにそう尋ねる。
 そんなダニーの心配をよそに、エフェルローンは居ても立っても居られないと言うように短剣を引き抜くとこう言った。
 
「ああ、気力も体力も十分だし、体も動く。問題ない」

 そう言って、体を左右に捻るエフェルローンに。
 ルイーズが驚きつつ、且つ、心配しながらこう言った。
「神聖魔法って、滋養強壮効果もあるんでしょうかね……。でも、あまり張り切り過ぎて、またけがを負わないように気を付けて下さいね、先輩」
「ああ」

 そう言って一人、混戦の只中に駆け込んでいくエフェルローンを案外冷静に見守りながら。
 ユーイングがのんびりとした口調でこう言った。

「いやはや、ダニーもルイーズちゃんも大変だねぇ」

 そう言って、苦笑いするユーイングに。
 ダニーは、普通に笑いながらこう言った。

「はは、もう慣れましたから」
「私も、だいぶ慣れました。怒鳴られるのにも……へへ」

 頼もし気にそう言うダニーとルイースに満足すると、ユーイングは片足のつま先を地面にコツコツ打ち付けるとこう言った。

「そうかい。そんじゃ、俺もちょっくらいってくるかな」

 そう言って、ユーイングも祭りにでも参加するような勢いで混戦の中に身を躍らせる。

「結局、二人ともスポーツ感覚なんですよね。無茶しなきゃいいけど」
「そうそう。命はひとつなんだって事……もうちょっと、肝に銘じていて欲しいですよね」

 二人の血気盛んな先輩を見送りつつ、お互い困ったような笑みを浮かべて笑い合うダニーとルイーズ。

 そんな、能天気な二人を唖然と見遣ると。
 アダムは何とも言えない複雑な表情を浮かべるのであった。
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