猛獣・災害なんのその! 平和な離島出の田舎娘は、危険な王都で土いじり&スローライフ! 新品種のジャガイモ(父・作)拡散します!

花邑 肴

文字の大きさ
41 / 90
第六章 勝利を目指して

信頼の証

しおりを挟む
「あ、エマさん! 遅れちゃってごめんなさい!」
 
 すり鉢状の訓練場の、その斜面に敷き詰められた長椅子の上に荷物を置くと。
 ミリアは急いでエマの隣に腰を下ろした。
 
 息を切らせ、額の汗を拭うミリアに。
 エマは少し驚いたような顔をしてこう言った。

「どうしたの、ミリア。時間に遅れて来るなんて。なんかトラブル?」

 心配そうに尋ねるエマに。
 ミリアは首を竦めてこう言った。

「いえ……お弁当作ってたらちょっと遅くなっちゃって。あと、昨日バケットを買い忘れちゃってて、市場まで買いに行ったりしてたから……」

 そう言って、申し訳なさそうに下を向くミリアに。
 エマは、別段気にする様子も無くこう言った。

「そっか。あ、そろそろ始まるみたいよ」

 その言葉に、ミリアは会場の中央に目をやる。
 すると、そこには審判を務める騎士と、大会に出場する選手たちが一堂に集められており、選手たちは、審判から試合に関する何かの指示を受けているようであった。

「あの……エマさん。試合って、どういった感じで行われるんですか」

 ミリアのその問いに。
 エマは、少し首を捻りながらも答えて言った。

「訓練場の入り口に簡単に書いてあったけど、確か……予選を勝ち抜いた八人による勝ち抜き戦みたいね。ちなみに、グレックは予選は通過したみたい」
「そうだったんですね! 良かった……」

 そう言って、無邪気に喜ぶミリアを微笑まし気に見遣ると、エマはうる覚えの記憶を手繰るようにこう言った。

「で。グレックの初戦の相手は、確か……バーナード? っていう人らしいわ」
「バーナードさん、ですか。どんな人なんでしょう」

 そう言って、首を捻るミリアに。
 エマも肩を竦めると、口をへの字にしてこう言った。

「私も良く分からないんだけど。まあ、試合が始まれば分かるでしょ」

 エマの言うとおり、試合が始まれば会場の中央にはグレックとバーナードしかいないので、相手がどんな顔をしているのかぐらいは何となく分かるだろう。
 ミリアはエマのいう事に納得すると、素直にこくりと頷いた。

「うん、そうですね」

 と、その時――。

「お、エマにミリアちゃん! おはよー」

 約束の時間から数十分遅れて、皮のバッグを斜め掛けしたアキが、ミリアたちの前にふらりと現れた。

「アキさん!」
「アキ、遅いじゃない。何してたの?」

 そう問い詰めるエマに。
 アキは、ムッとしたようにこう言った。

「何って、情報収集だよ」
「情報収集?」

 そんなエマの疑うような眼差しを完全にスルーし。
 アキは、額の前に手をかざすと、会場を見下ろしながらこう言った。

「ねぇ、グレックは?」
「あそこ」

 憮然とした顔でそう指さすエマの指先を目で追うと。
 アキは、少し興奮したようにこう言った。

「おー、ほんとだ。でも、ちょっと緊張してるっぽいねー」

 そんなアキの視線の先、グレックが背筋をピン張ってきびきびと動いている。
 そんなグレックを何気なく見ていたエマは、ふと思い出したようにアキに尋ねてこう言った。

「そう言えば、グレックの対戦相手のバーナードって、どういう奴なの?」

 その問いに、アキは待ってましたとばかりに口を開いてこう説明する。

「バーナードは、力に秀でた攻撃型タイプの男だねー。スピードもそこそこあるみたいだから、ちょっと面倒くさいかも。でも、タラ島のロブナントと比べると、一回り劣るって感じらしいよ」
「ふーん。つまり、こいつに勝てないようなら、優勝は無理って事ね」

 そう簡潔にまとめるエマに、アキは苦笑気味にこう言った。

「ま、そういうこと」
「あ、グレックが出て来たわよ」

 エマのその言葉に、ミリアも会場の中央を見つめる。

 グレックが、練習用の木剣を手に持って、リラックスした様子で自分の立ち位置に立つ。
 続いて、対戦相手のバーナードが会場の中央に姿を現した。
 
 と、次の瞬間――。

 会場の至る所から、グレックに同情するような声が上がる。
 ミリアも思わず口元を抑え、食い入る様に対戦相手に見入ってしまう。

(本当に、こんな人と……?)

「あの……」
「どうしたの、ミリアちゃん」

 会場の中央を注視したままそう答えるアキに。
 ミリアは顔色を青くし、こう尋ねる。

「あんな強そうな人と、本当に戦うんですか?」

 小ぶりだが、がっしりした岩のような体に、木の幹のように太い腕。
 グレックより太いその腕で木剣を握ると、それをおもちゃのように軽々と振り回して見せるバーナード。

 そのたびに会場は、悲鳴とも歓声ともつかない声が上がる。

(こんな人を相手にしたら、グレックさん、怪我だけじゃ済まないんじゃ……)

 そう深刻に眉を顰めるミリアに、アキは困ったように眉を顰めるとこう言った。

「心配?」

 その問い掛けに、ミリアは涙目でこくりと正直に頷く。
 そんな今にも泣きだしそうなミリアを前に。
 アキは、静かな笑みを浮かべると、力強くこう言った。

「でもさー、信じるしかないよね。信じよう、ミリアちゃん」

 そう言って、真面目な顔で会場の中央をじっと見つめるアキの、グレックに対する揺るぎない信頼を前に。
 ミリアは、恥ずかしさの余り思わず下を向いた。

(そうか、アキさんはグレックさんのこと心の底から信じてるから。だからあんな風に平然としていられるんだ)

 そう思い至ったミリアは、膝の上の両拳をグッと握り締める。

(私も、そうありたい。アキさんのように強く……!)
 
 ミリアは勇気を振り絞って顔を上げると、会場の中央に立つグレックを力強く見つめた。

 そして――。

「構え!」

 訓練場に騎士の号令が響く。

 と、同時に。

 グレック、バーナード、両者が素早く木剣を構える。
 
 会場が、水を打ったようにしん、と静まり返り、ミリアはその張りつめた緊張感に、思わずはっと息を飲む。

 と、次の瞬間――。

「始め――!」

 その号令を合図に。

 木剣と木剣が激しくぶつかり合う音と共に、地面から吹き上げるような大きな歓声が、会場全体に沸き上がるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

処理中です...