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37.恋人

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「ねぇねぇ、水葵くん!
君と僕は友達…?だったのかな?」

『友達』そんなものじゃない。
俺の心に土足で入り込んで…無理やりこじ開けたくせに。
涙は忘れてしまったんだ。
俺が忘れさせてしまった。
記憶だけじゃない。
気持ちも、あの空気も。
あの時のお互いの温度も。

俺の気持ちも…。

「そう…だよ。」

またはじめから、涙と向き合おうと、
そう決めたのに。
あいつは、どうやって俺と向き合ってくれたんだっけ。


そうだった…あいつは、いつも一方的にうるさいくらいまとわりついてきて、あいつは…

きっと、俺の弱さを知っていたんだ。
俺が自分から人と関わりをもとうとしなかったこと。いや、それ以前に人から逃げていたこと。
涙は、それを知っていて俺に今度は俺に同じことをやれというのだ。

「ふっ…最低だな。」

「え?」

「ごめん、友達って言ったの嘘。
俺たちは恋人だよ。」

「!?……それは、えっと、僕は…君を好きだったてことかな。」

「そういうこと。
俺もね、涙のこと…………好きだったよ。」

今度は多分なんかじゃない。
伝えなきゃいけないんだ。

「……だったじゃないな。
記憶が無くなって、涙が俺を知らない涙になっても俺は…好きだよ。」

驚いた顔をしている。
そりゃそうだ。
男同士で、しかも、こいつは吸涙鬼だ。

「…………そう…なんだ。
え~っと、ちょっと僕もまだこの状況が整理出来てなくって…混乱してるっていうか…
とりあえず、少し時間が欲しいかなって」

苦笑い。愛想笑い。
こいつの、はじめて見る表情だった。

(やっ…ぱり、ちょっとくるな。)



しばらくして、涙に今まであったことを少しづつ話すことにした。
俺が涙の『ごはん』だったこと。
林間学校でおこったこと。
涙が記憶を失った理由も。

こうして、話してみると。
いかに、俺達が出会って短い時間しかたっていないことがわかる。
そうだ、こんな短い時間よりも長く、
一緒にいれば…きっと。

「……それって、本当に僕がやったこと?」


「え?」


「……僕はさ、餌なら誰でもいいと思ってるんだ。それには、やっぱり同じ部屋の君が
1番楽だろ?しかも、話を聞いた限りだと友達も少ない。周りに公言できないって訳だ。」

「…出会った時から全て計画してたってことか。」

俺を泣かせたのも。写真を撮って脅したのも。クラスメイトを泣かせたの…も?

「そうか、でも、公言しないように友達の少ない俺を選んだんだとしたら、なぜ、俺の周りの人間が流した俺の悪い噂とめようとしてくれたんだろうな。その時のお前は。」

「ふ~ん…信用を得るためじゃないか?
どっちにしても、僕は君を利用しただけだと思うけどなっ」

「…………そっか。」

昔の涙はこんなに冷たい人だったのだろうか。
あたたかく俺を慰めてくれたあの腕は、胸は
もうここには戻ってこないのだろうか。
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