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39.光る何か

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違う。これは断じてストーカーなどというものでもない。

はずだっ……。


「角田くん?えぇと…どこにいくのかな?」

「沖水…お前もわかってんだろ?
なんでこんな所にいるか」

「?……あぁ、いや本当に意味がわかっ……」

ガンッ。

大きな音がした。
それは、角田が自動販売機をへこませるくらいに強く蹴った音だった。

(こっ……こわぁ…
あんな蹴り一発くらったら一瞬で病院おくりだっ。)

と、コソコソ隠れながら思う。


「……俺はなぁ、お前に泣かされたのが嫌だったなんてそんな幼児みたいな理由で仕返しはしねぇんだよ」

「…………そっか、じゃあ、どういう理由なのかな?」

「あの時、俺は変な感じがしたんだ。
お前、何か変な能力もってねぇか?」

「…………ははっ、嫌だなぁ
そんなのあるわけないでしょ?
少年漫画の見すぎじゃないの?」

「……お前の能力のせいでな、
俺は暴力団の連中に舐められて、組を追い出されたんだよっ」

(くっ…組!? なんじゃそりゃ……え、どゆこと)

「へぇ……だから?」

「だから、今からお前を殺さないくらいに殺すっっ……」

(殺さないくらいに殺すって……
殺すんじゃないか !!
とりあえず、証拠とか残すために写真?いや動画を撮っておこう。)


「そっかぁ……でもいいのかな?
こんな所に呼び出したはいいけど僕の他に
誰かいるみたいだよ?」

(ばれてたのかっ……しかも、俺に何も出来ないのがわかっててこいつっ……)

「……角田…たまたま通りかかってだな…
えっと…」

「たまたまぁ?こんな場所にたまたま入り込むわけねぇだろっ」

「……水葵、君は何か自惚れているんじゃないかな?」

「えっ…どういう。」

「僕は君単体には依存していないんだよ。
君はただの餌だって言っただろ?
そうやって変に探ろうとしてくる人、僕嫌いなんだよねぇ」

「…………っ、お前が嫌いでも関係ない。
俺は……」

俺は本当に元の涙に戻せるのか。
いや、これが元の涙だったのなら、
本当にこいつを変えられるのか……。

「お取り込み中悪いなぁ?
でも、俺にもそれは関係ない。」

少し暗くなってきた路地を抜けた空き地で、
それは光った。



「涙っっ!!!」



『痛い』とはおもわなかった。
蛇の毒よりはましだとさえ思った。
それよりも、何故かほっとしたような。

「…………ぇ 、水葵?
何やってっ……水葵っ!!」

「……っ、いや、さっきの殺すは…冗談だったんだ。そいつで、ちょっと脅すつもり……で」

「………………。」

涙の冷たい瞳。
はじめてみたかもしれない。
宮川優の件の時でも、まだ優しさがあった気がするほどに。

「ひぃぃっ、なっ、なんだよその目っ
やっぱり、騙してたんだなっ化け物!!」

化け物といわれた涙の瞳は
暗闇の中でも強く光っていた。
しかし、俺に向けたその瞳には
恋人同士だった時と変わらないような
優しい彼が確かにあった。

「……水葵…ばか、これじゃあ、記憶をなくす前の僕が、君を助けた意味が無いだろ。」

「…はは、ごめん。でもやっぱり嫌だなぁ。思い出して…もらえない…ままだ…なんて」

やっと、あたたかい腕の中に戻ってこれた気がしたけど。
やっぱり、まだ違うみたいだ。
涙…早く会いたいな。


視界がぼやける。
意識が飛ぶ前兆なのか、それとも、もう流さないと決めていた涙なのか。

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